銀河帝国(銀河英雄伝説)
ぎんがていこく
銀河連邦(USG)の軍人であったルドルフ・フォン・ゴールデンバウム(ゴールデンバウム王朝)により宇宙暦310年(帝国暦1年)、宇宙暦1年成立の銀河連邦(USG)を簒奪して建国、ヴァルハラ星系惑星オーディンを首都として成立。
帝国暦9年に「劣悪遺伝子排除法」を発布し、身体・精神障害者、労働意欲に劣ると「当局が主観的に判断したもの」、貧困層、反体制派へ圧倒的な弾圧を加え、議会は永久解散、憲法は停止し、完全なルドルフ個人の独裁国家となった。
一方、帝国に弾圧されていた共和主義者たちの一部が辺境惑星でアーレ・ハイネセン指揮のもと、その惑星に無尽蔵にある唯一の資源・氷で宇宙船を建造、「長征1万光年」という苦難の旅を経て銀河の未開拓エリアに進出。たどりついた惑星をハイネセンと名付けて首星とし、自由惑星同盟を建国、帝国に廃されていた宇宙暦を復活させた。
自由惑星同盟はその後も、帝国から逃れてきた共和主義者を受け入れ、勢力を拡大させていく。
しかし、亡命者のなかには政争に敗れて帝国を追われた貴族や犯罪者も含まれており、量の上では問題なくとも、質の上では問題となった。
急速に台頭していく同盟に銀河は帝国と同盟、フェザーン自治領に分割され、帝国:5、同盟:4、フェザーン:1という勢力比がほぼ変わらずに続いていくこととなった。
約500年間のゴールデンバウム朝の歴史において、帝国の権力は皇帝と一握りの門閥貴族によってのみ継承されたが、もちろん彼らの末裔すべてが有能というわけではなく、閣僚や高級官僚、果ては最前線に立つ艦隊司令官に至るまで能力ではなく血脈で選ばれていくこととなった。
それらの人事によって生まれた弊害は自由惑星同盟との戦いによって顕著になっていくが、当初は清新だった同盟も膠着した戦いの末に腐敗が進んだことによって、いずれにとっても致命的なものにはならなかった。
結果、銀河は『図体がデカイだけで統制を失った帝国』と、『当初の理念を見失い、反帝国に硬直した同盟』による消耗戦が延々と続く事になった。
しかし、長く続いた膠着も「戦争の天才」と呼ばれるラインハルト・フォン・ローエングラムが帝国に登場したことによって変わっていくこととなる。
皇帝・フリードリヒ4世に取り立てられたラインハルトはもともと「寵姫の弟」であり、下級貴族の出でもあることから門閥貴族が上官を務める軍上層部の受けが悪く、ラインハルト自身も皇帝の威光によって物事が決められることを快く思ってはおらず、いつしかゴールデンバウム王朝を倒して銀河を統一する野望を持つに至った。
軍事的才能に恵まれたラインハルトは同盟軍の艦隊を幾度も破り頭角を現していく。それらの武勲を帝国軍上層部は苦々しく思いながらも、武勲は武勲として認めないわけにもいかず、ラインハルトは20歳の若さで帝国軍宇宙艦隊司令長官に就任した。
門閥貴族側もラインハルトの台頭に危惧を覚えるようになっていた。権限が大きくなるしたがってラインハルトの政治的野心が鮮明になっていたからであり、彼の部下たちも能力によって選ばれた平民や下級貴族の出身のものが多くなっていたからであった。
ことが起きたのは皇帝・フリードリヒ4世の崩御後であった。門閥貴族たちが帝政を壟断することを望まない国務尚書リヒテンラーデ公爵はラインハルトと手を組んで門閥貴族連合軍を殲滅、その直後、宇宙艦隊副司令長官ジークフリード・キルヒアイス上級大将がアンスバッハ准将に暗殺されたことを機に(オーベルシュタインの策略を基にして)ラインハルトは黒幕にリヒテンラーデ公がいるとして公爵を処刑、帝国の実権を握った。
その後、幼帝・エルウィン・ヨーゼフ2世の自由惑星同盟への亡命が皇帝の意思によるものではなく、門閥貴族の残党と同盟政府の策略によるものとして、宇宙暦799年にフェザーンと自由惑星同盟を実質的に制圧、ラインハルトはゴールデンバウム王朝最後の皇帝・カーザリン・ケートヘン1世からの譲位を受けて即位、新銀河帝国(ローエングラム王朝)を開き、新帝国暦を発布した。
更に宇宙暦799年(新帝国暦1年)銀河帝国領フェザーンへ首都が遷された。
ラインハルトの基本的な政治姿勢としては、「新たな貴族階級」を作らない、徹底した「実力優先主義」であることから、新たに登用された閣僚・官僚は実務的な人材が中心となった。
宇宙歴800年(新帝国歴2年)、同盟の首都星ハイネセンに駐留していた高等弁務官・ヘルムート・レンネンカンプ上級大将が同盟軍・ヤン・ウェンリー元帥の逆襲にあって拉致されたのを機に帝国は同盟を併呑、ローエングラム朝銀河帝国は銀河をほぼ手中に収めた。その一方で民主共和制の復興を目指したヤン・ウェンリーは地球教のテロにあい死亡、ヤンの同志一党が籠るイゼルローン要塞は民主共和制最後の拠点となった。
宇宙暦801年(新帝国暦3年)、不治の病に倒れた皇帝・ラインハルトを前にイゼルローン軍の軍事指導者ユリアン・ミンツは帝国にも憲法と議会を作る必要があると力説、しかし、ラインハルトはそれらの政策を受け入れるとは確約せず、皇妃・ヒルダに提案を説明するよう話すにとどまった。その後、同様の政策を元自由惑星同盟最高評議会議長・ヨブ・トリューニヒトが帝国側の政治家・官僚と進めており、それが実現間近であったことが発覚した。
皇帝・ラインハルトの崩御後、ローエングラム王朝に憲法が制定され、議会が創設されたかは描かれておらず、どのような政治形態になったかは明らかにされていない。
主な政治形態は皇帝を頂点とする専制政治体制。
ゴールデンバウム王朝時代では立憲君主制からの独裁政治を辿り、後のローエングラム王朝では専制政治体制を敷いているがラインハルトに権限が集中していた為、軍事独裁性が強い。(読者からは勿論、作中においてさえラインハルトに戦争狂的な一面があることは批判の対象になっている)
専制政治体制ではあるものの、ラインハルトは民衆が為政者に何を求めているか(公平な裁判と公平な税制)を理解しており、かつ直近のゴールデンバウム王朝時代からすれば考えられないほど平民に対して充実した社会福祉政策を施行している為、国民からは絶大な支持を得ている。それをヤン・ウェンリーは「理想の専制君主(であるがゆえに民主主義にとっては最大の敵)」と評している。
元をたどれば自由惑星同盟は銀河帝国から逃亡した政治犯が建国した国であるため、初接触時から戦争状態にある。
「人類社会唯一の正統政権」「宇宙は広大無辺なれど、その全ては皇帝が統治するところ」というのがルドルフ大帝以来の国是であり、それがゴールデンバウム王家による人類社会の支配の正統化と結び付けられてきた政治的理念の背景もあり、同盟を対等な国家とは見做さず「自由惑星同盟を僭称する辺境部の叛乱勢力」。あるいは単に「叛徒」「叛乱軍」と呼称しており、あくまで国内の賊の類として扱っており、戦争で得た捕虜は政治犯罪者・思想犯罪者であるとして強制収容所に放り込み、「思想・道徳の再教育」と称して過酷な強制労働を強いる蛮行を働いている。
これが帝国の基本であるため、当然同盟との対話というのはコルネリアス征服帝がしたように同盟の帝国への臣従を前提としてというのが帝国視点での最大限寛大な姿勢となっており、それが全ての民衆を主権者と考える同盟としては論外であるために拒絶されている構図となっている。
唯一の例外は幼少期に政争を避けて同盟へ亡命していたマンフレート2世である。その経歴から同盟に融和姿勢をとり対等外交も叶うと思われたが在位1年後に暗殺され頓挫している。
しかしながら戦争の長期化に伴って帝国の基本姿勢も崩れがちで、フェザーン自治領を間に挟んでの交流を皮切り、あくまで軍同士という建前の下で行われる捕虜交換等の交渉、また秘密裏にではあるが同盟警察と帝国憲兵隊がサイオキシン麻薬の取り締まりでの協力があったことさえある。
またイゼルローン要塞陥落の際には、同盟のことを「外敵」と表現されており、末期には事実上の国家と認めていた節もあった。
ローエングラム朝の世では「同盟」と公式に呼称されるようにはなったが、その根拠となっているバーラトの和約では「自由惑星同盟の名称と主権の存続については、銀河帝国の同意によってこれを保障する」というおおよそ国に対して用いるべきではない扱いをされており、実際同盟を滅ぼしたあとの冬バラ園の勅令でようやく「自由惑星同盟は国家だった」と認められる始末であった。
つまりゴールデンバウム朝帝国は自由惑星同盟のことをその存続期間中は正式に国家と認めることは終ぞなかったのである。
コメント
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