CV:井上真樹夫(石黒版) 東地宏樹(Die Neue These)
オットー・フォン・ブラウンシュバイク公爵の臣。帝国軍での階級は准将。
経歴
帝国暦486年、縁者のコルプト大尉を軍紀違反として処刑したウォルフガング・ミッターマイヤー少将をフレーゲル男爵が謀殺しようとした折、ミッターマイヤーに挑発されその両手を自由にしての素手での一対一の決闘で手酷く男爵が彼に殴られた後に現れ、男爵に対してブラウンシュバイク公爵からの伝言として自重を求めた。
その折にオスカー・フォン・ロイエンタール少将によりミッターマイヤー救命の助力を求められ、その場に居合わせたラインハルト・フォン・ミューゼル大将に「(フレーゲルがミッターマイヤーに殴られるままにした事と侯爵の伝言は)卿の独断ではないか」と問われるも、穏やかに否定。ラインハルトもそれ以上は詮索しなかったが、その立ち振る舞いを内心で評価した。
帝国暦488年、皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁するクラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵、宇宙艦隊司令長官・ラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵とブラウンシュバイク公爵、ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世侯爵等の門閥貴族連合が対立するなか、ブラウンシュバイクの臣・アントン・フェルナー大佐による独断のラインハルト襲撃が失敗、リップシュタット戦役が勃発。
身の危険を感じたブランシュバイク公はオーディンを脱出するが、その折にアンスバッハはパーティーを開催するとの招待状を各方面に出し、ブラウンシュバイクの脱出をカモフラージュした。
ガイエスブルグ要塞を本拠地としたブラウンシュバイク達門閥貴族連合であったが、戦況は不利でありレンテンベルク要塞が陥落。その折に捕虜となり、同じく捕虜となった部下が銃殺されたにもかかわらず一人だけ釈放されたオフレッサー上級大将がブラウンシュバイクに裏切りを疑われ激昂・錯乱して掴みかかった折にブラウンシュバイクを守る為に彼を射殺。
アンスバッハは反ラインハルトの急先鋒であったオフレッサーの死は病死とでもした方が良いと考えたが、激怒したブラウンシュバイクは裏切りに対する処刑と発表させ、自陣営に動揺を走らせる事となる。
袂を分かったリッテンハイム侯爵が敗死し、ガイエスブルグでの総力をあげて臨んだ会戦もラインハルトの前に惨敗し、孤立を深めるブラウンシュバイク陣営にブラウンシュバイクの領地ヴェスターラントで反乱が起こり、甥のシャイド男爵が殺害される事態が発生。
ブラウンシュバイクは報復としてタブー視されていた核による攻撃を指示。アンスバッハはそれを翻意させようとしたが受け入れられず、その折に洩らした民衆の支持を喪ってのゴールデンバウム朝の崩壊を予言した言葉を密告され投獄される事となる。
自暴自棄に挑んだ決戦にも破れ、兵士の反乱も発生し、無秩序となったガイエスブルグ要塞でアンスバッハも部下によって牢を出されたが、逃げるでもなく、恐らく臣下の義務として主君の最期を見届ける為にブラウンシュバイクの元に赴く。
この期に及んでも皇帝の血を引く娘のエリザベートをラインハルトに娶らせ和睦しようと言うブラウンシュバイクに、ラインハルトはそのようなものは今となっては必要なく、それどころかヴェスターラントへの非道を行ったブラウンシュバイクを民衆から支持される為にも殺さねばならないと諭してアンスバッハは自決を勧め、ブラウンシュバイクもこれを了承した。
これに対する代償はラインハルト殺害という、アンスバッハに暗殺者、それも収まりかけた帝国の治世に更なる混乱を起す汚れ役になれというものであったが、アンスバッハはこれを承諾。最期の瞬間に錯乱して毒を飲む事を拒絶するブラウンシュバイクに無理矢理服毒させることで彼の名誉を守った。
ルビーの指輪に擬したブラスターを己が指にはめ、内臓を取り出した腹部にハンドキャノンを入れたブラウンシュバイクの死体を手土産としてラインハルトに降伏。
ラインハルトとの謁見時に死体からハンドキャノンを取り出して放つもジークフリード・キルヒアイス上級大将により失敗。だが、取り押さえられるなか指輪のブラスターでキルヒアイスに瀕死の重傷を負わせた。
暗殺の失敗を悟ったアンスバッハは誓約を果たせなかった事をブラウンシュバイクに詫び、その代りラインハルトの半身を奪ったと述べ、口腔に仕込んだ毒入りのカプセルを噛み破り、自決した。
人物
理不尽な扱いを受けようとブラウンシュバイク公爵に最後まで忠誠を貫いた忠臣。
僚友・アルツール・フォン・シュトライトとともにブラウンシュバイク公爵に長く仕えていたが、公爵の欠点を熟知し狂信的な忠誠心はない。良識人でもあった彼の台詞を聞くと忠誠心はブラウンシュバイク公爵個人というよりはブラウンシュバイク家、ひいてはゴールデンバウム王朝に対するものだったとも捉えられる。
ラインハルトからは初対面での対応で評価されていた。
彼がガイエスブルグでの謁見時に同席する部下達のアンスバッハへの嘲笑の言葉を止め様ともしなかったのは、能力・人格を評価していた彼が期待はずれの行動をとった事への失望感があったのかも知れない。
その為か、無二の親友であったキルヒアイスを殺害したにも関らず、アンスバッハをラインハルトは恨む事無くその忠誠心を評価し、それよりも有能な彼を活かさなかったブラウンシュバイク公爵への侮蔑の度合いを増している。
白兵戦だけで上級大将まで登り詰めたオフレッサー、ワルター・フォン・シェーンコップも評価する白兵戦能力を見せたキルヒアイスの両名を相手が素手だったとはいえ殺害している事から、一部では白兵戦最強という声もある。
暗殺事件についての疑問点
銀英伝は刊行されてから数十年も経つ作品なので読み始めた当初は疑問に思わなくても、現在になっては疑問に思うことが多々ある。
事件についてまず、思うのは「ラインハルトの謁見前に保安検査を行ってハンドキャノンを発見できれば未然に防ぐことができたのでは?」ということである。要人が降将によって殺害されるというのはイベントの一つであるが、飛行機に乗ろうとすれば実感できるように、事前に検査をすれば武器などを発見して防ぐことも可能。警護側としては非常事態が起こることも想定しているはずなのに不可解だとしか思えない。
可能性があるとすれば、武器を保安検査から完全に隠し通すことに成功した事。禁制品を発見する技術も発達すれば、隠し通す技術も技術も発達していると思われるので秘匿できたとしても不思議ではない。あるいは「保安検査の責任者がリヒテンラーデのスパイだったので、独断で見逃した」「自決した主人の死体を手土産にラインハルトに媚びを売ろうとする下種が、媚びを売ろうとしている相手にそのような大それた事をする筈が無いという先入観に警備員が囚われ見過ごした」「保安検査の概念がない」という可能性もある。ちなみに、この事件の前にはクロプシュットックの爆発事件、後にはシルヴァーベルヒの暗殺という事件があるので、帝国のテロ対策はザルだとしか思えないところがある。
もう一つの疑問は、ブラウンシュバイクの死体にハンドキャノンを隠すのではなく、爆弾を仕込んで起爆させたほうがラインハルトを殺せたのではないかという事である。成否にかかわらず必ず死ぬのだから、自爆のほうが確実である。狙いをつけるという手間を省けるので、それだけ失敗する可能性は低く、キルヒアイスがブラスターを持っていたとしても逆効果になる。この世界には指向性ゼッフル粒子という白兵戦を強制するアイテムがあるからである。
自爆テロで問題になるのは射程。爆弾の範囲によってはギリギリ逃げられる可能性もなくはない。原作での謁見場所の状況は不明だが、石黒版、Neue版ではアンスバッハから近距離にラインハルトがいて、しかも解放空間なのである。量によってはラインハルトはおろか部下たちもまとめて殺せていた。
その手段をアンスバッハを選ばなかったのは単純に思いつかなかったから、あるいはラインハルト以外の帝国にとって有為な人物達をも殺す事でラインハルト亡き後に必然的に大混乱に陥る帝国の混乱が更に助長される事を防ぎたかった、もしくは主君の遺命に従ってラインハルトを狙うも、その後の帝国の混乱を考えればラインハルト殺害を深層心理の中では躊躇し、知らず知らずのうちに確実な殺害方法を選択しなかったという可能性もある。メタ的にいえば、ここでラインハルトが死んでしまえば、銀英伝は週刊少年漫画の打ち切りエンドのように終わっていたので、ここで終わらせられるはずがない。
逆にIFで、アンスバッハの自爆でラインハルト達が全滅していたとしたら、生き残っているネームドのキャラはリヒテンラーデ、マーリンドルフ父子という事になる。二次創作のネタになるかもしれない。
台詞
「ゴールデンバウム王朝もこれで終わった。自らの手足を切って、どうして立っていることが出来るだろう」