ジークフリード・キルヒアイス
じーくふりーどきるひあいす
「ラインハルトさま・・・宇宙を、お手に入れ下さい・・・。」
cv:広中雅志、子安武人(劇場版「黄金の翼」)、梅原裕一郎、藍原ことみ(少年期) (Die Neue These)
ジークフリード・キルヒアイス(Siegfried Kircheis)とは、小説『銀河英雄伝説』の登場人物である。pixivではフルネームよりも『キルヒアイス』というタグが使用されていることが多い。
ルビーを溶かしたような赤毛とサーベルのような均整の取れた190cmの長身が特徴の好青年。
10歳の時にラインハルトとその姉アンネローゼに出会い、のち彼女を奪われたラインハルトの決意に共感し忠誠を誓う。ラインハルトの無二の親友かつ殆どの思考や時間を共有する「半身」的存在であり、彼に諫言できる唯一の存在でもあった。性格はラインハルトと好対照で、温和で人当たりが良く、敵が多く突っ走り気味のラインハルトを常に傍らでフォローした。人格だけでなく戦闘能力、軍事的指揮力にも大変優れている。
アンネローゼに一途な想いを寄せており、「弟をお願い」という彼女の望みを生涯に渡って聞き届けた。
しかしリップシュタット戦役終結後の捕虜謁見で起こった事件により、ラインハルトを庇いアンスバッハ准将の手で命を落とす。
主要人物であるが物語序盤で命を落としてしまうため、彼の死に対しては「早すぎた」との論議が再三起こり、原作者・田中芳樹氏も「早く死なせすぎた」と後悔の言葉を述べている。
彼の死後は、ラインハルトを始めとする銀河帝国の主要人物のみならず、敵側であるヤン・ウェンリーさえも「あのジークフリード・キルヒアイスが生きていたら・・・」と決まり文句のように口にする。
本編第一期(OVA版1~26話)、外伝シリーズ、劇場作で彼の活躍を観る事ができる。
乗艦はバルバロッサ。
ラインハルト曰く「ゴミ溜めの中にも美点を見出す」タイプの人物で、温厚で公明正大な人格者であり、皮肉交じりにラインハルトから「優秀な教師になっただろう」と言われている。
帝国外の人物からも好感を寄せられており、ヤン・ウェンリーはキルヒアイスの訃報に触れた際、「古くからの友人を亡くしたような感覚に襲われた」と語っている。
また、キルヒアイスの人柄に触れたボリス・コーネフは「いい人間は長生きしない」とキルヒアイスの早逝を予見するような発言を残している。
誰に対しても礼儀正しく接する温和な人間であるが、オーベルシュタインにだけは初対面の時から警戒心を抱いており、ラインハルトが彼を登用することを決めた際には不快感を示していた。キルヒアイスとは正反対の方法でラインハルトの覇業を支えるオーベルシュタインの存在は、やがてオーベルシュタインの言を重用するようになっていくラインハルトとキルヒアイスの仲にすれ違いを生じさせ、取り返しのつかない破局へと繋がっていくことになる。
また、いつもは怒るラインハルトを諌める役割を担う事が多いキルヒアイスであるが、想いを寄せているアンネローゼに対する悪口に対してはラインハルトの怒りに同調する場面もあることから、本来持ちあわせていた性格は激情的なものであり、現在の性格は短気なラインハルトをフォローするため後天的に培われたものである。と作中でほのめかされている。
アンネローゼを奪った皇帝フリードリヒ4世に対する憎しみも強いようで、皇帝が病死した際に「あの男には勿体ない。あと数年長生きすれば犯した罪に相応しい死に様を与えてやったものを」と吐露するラインハルトの言葉に静かに頷く様子も見せた。
キルヒアイスは能力的にも非常に恵まれており、艦隊運用、白兵戦能力、射撃技術等あらゆる面で高い技能を有しているだけでなく、政治面・軍政面でもラインハルトの代理人となることを期待されていた。
艦隊戦においてはカストロプ動乱においてマリーンドルフ伯爵領を攻略中のマクシミリアン・フォン・カストロプ公爵軍に本国を直接叩く動きを見せて彼を後退させたばかりか、後退する彼の艦隊をそのまま追撃する形で無防備な後背から襲い掛かり鮮やかな勝利を得、アムリッツァ会戦では原作では同盟軍第7艦隊を撃破、石黒版アニメではそれを降伏させ、盟友・ラインハルトさえ一敗地にまみれたヤン・ウェンリーにも取り逃がしたものの決定的な敗北を味わわされておらず、リップシュタット戦役では5万にのぼるウィリアム・フォン・リッテンハイム侯爵の大軍と戦い、自らは800隻の小艦隊を率いて麾下のコルネリアス・ルッツ、アウグスト・ザムエル・ワーレンが相手と交戦を始めた絶妙なタイミングでの側面攻撃をかけ、リッテンハイム軍を大敗させるなど物語上では事実上不敗であった。
リップシュタット戦役では帝国領の平定を一任され、辺境に至るまでの帝国領のほぼ全域を平らげ巨大過ぎる武勲を立てた。キルヒアイスの行動によりラインハルトは門閥貴族連合軍の本拠地を攻略するのに専念でき、漫画版では「ローエングラム侯が2か所に同時に存在しているようなもの」と表現された。
格闘能力は同盟最強のワルター・フォン・シェーンコップ相手に息を切らせながらだが張り合える程の実力を持つ。
射撃の腕も幼年学校在籍時代に金メダルを獲得するほどの腕前。ラインハルトの御前で唯一ブラスターの携行を許されたのは、その射撃の腕を信頼されていたのも一つの要因である(しかしラインハルト暗殺未遂の際にはブラスターの所持が認められなくなっており、結果としてこれが彼の死に繋がってしまう)。
ラインハルトが即位し新帝国となった際には、キルヒアイスの名を冠した「ジークフリード・キルヒアイス武勲賞」が設けられた(劇中最初の受賞者はミュラー)。
ラインハルトにとっては人事面での良きアドバイザーであり、ラインハルトと他提督達との橋渡しをつとめていた。(同時に二箇所にラインハルトがいると言われることもある。)そのため彼の死はラインハルト陣営にとって大きな痛手となった。ラインハルトは彼が担っていた分野の仕事まで引き継がなくてはならなくなり、必然的に軍事・人事面でミスが目立つようになってしまった。
メタ的に言ってしまえば常に不測の事態に対応出来るだけの余力を残しつつ万全の態勢を整える(ヤンも「地味だが手堅い分隙を突く余地が無く厄介だ」と評している)彼が居なくなった事で、ヤンがラインハルトとの隙を突く余地が出来どうにか渡り合えていたともいえる。
常に真面目で礼儀正しく、温和なキルヒアイスである。しかし、OVA外伝の『決闘者』では本編では聞けない様な、少し変わった心中の本音が聞ける。アンネローゼの友人であるシャフハウゼンが、ヘルクスハイマー伯爵からの因縁を付けられて決闘沙汰に持ち込まれた時の話である。
姉の友人を助けるためにラインハルトが決闘の代理人として申し出た。しかし友人を助けたいが弟を危ない事に巻き込みたくない、というアンネローゼの複雑な心境を察したキルヒアイスが「ここは私が・・・」と代わりに出ることを提案するが・・・。
ラインハルト「くどいぞキルヒアイス。たまには俺に譲れ」
キルヒアイス(”たまには”って・・・・・・いつも良い所持っていくじゃないですか)
と不満を漏らしたり・・・。アンネローゼの友人ヴェストパーレ男爵夫人からも・・・。
ヴェストパーレ「大丈夫よ”ジーク”」
キルヒアイス(”ジーク”って呼んでいいのはアンネローゼ様だけなんだが)
上記のように早すぎる死はファンからも問題視されることがあり、徳間書店版の本編完結前後には『銀河英雄伝説は「二巻(キルヒアイスの死)」で終わり』とまで言う熱狂的なファンもいた。
だが、普段は他人のせいにしない田中芳樹が一度だけ
「銀河英雄伝説はもっと早く終わらせる予定だったが、二巻発売後に編集部から全十巻まで伸ばして欲しいと言われ、慌てて全体を再構成することになった」
と言う趣旨の事を述べたことがある。当初の予定が半分以下の長さの作品だったとすればキルヒアイスの死は早すぎるとは言えず、大人の事情のために早すぎる死と言う評価を受けることになったキャラクターであるのかもしれない。
2000年代、アニメージュ誌上でのインタビューでは「キルヒアイスは、原作者が頑張れば多少は延命できたかもしれない。けど、あの人はどうあっても物語の途中で死んじゃうんですよ」と語っており、最初から死亡フラグは避けられないキャラだったようである。
更にいえば、ラインハルトは最初から宇宙征服を狙っていたわけではない。軍隊に入ったのも姉を取り戻すために必要不可欠な武力を手に入れるためであり、宇宙征服よりも姉とキルヒアイスと一緒に暮らした日々を取り戻す方が遥かに重要だった。門閥貴族を殲滅して帝国を支配し、姉の安全が確保できれば、敵意もない同盟などどうでもよく、その後の軍事行動よりも内政や自身の幸せを優先させたかもしれない。しかし、ラインハルトの行動によってキルヒアイスを失ったことによって「三人で楽しく暮らす」という夢を永久に奪われ、心に空いた巨大な空虚を満たすためにラインハルトは戦わざるおえなくなった。その意味では死ぬのは必然だったのかもしれない。
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