CV:大塚周夫
概要
ゴールデンバウム朝銀河帝国初代皇帝。ルドルフ大帝とも呼ばれる。
銀河帝国の前身である銀河連邦時代に生まれたルドルフは士官学校を首席で卒業後に軍属になり、数々の功績をあげた。銀河連邦軍内部の腐敗や不正の糾弾にも乗り出したが上層部に疎まれ、宇宙海賊の巣窟に飛ばされるもその苛烈な手腕で海賊勢力を殲滅。降伏を宣言し、裁判を望んだ海賊艦も皆殺しにした事は批判も受けたが、賞賛の方が遥かに多く、一躍英雄としてたたえられた。
退廃に呑まれ閉塞しきった銀河連邦において、健全で活力に満ちたルドルフは正に清風の英雄であり、民衆から歓呼の声で迎え入れられたのである。
その後、27歳で連邦軍少将だったルドルフは軍を退役して政界入りし、政治的にも非凡な手腕を発揮しますます声望を高めた。無論、彼の独善的で強引な改革を批判する者はあったが、称える者はそれ以上に多かった。
やがてルドルフは首相と国家元首を兼任することで独裁政権を確立するまでに至った。
政治的に並ぶもののなくなったルドルフは自らを終生執政官となりおおせたが、それでもなお権力を追い求め、銀河連邦政府を銀河帝国に再編し、人類統一政体における最初の君主制国家に作り替えた。当初は議会制が残されていたが、帝国暦9年の劣悪遺伝子排除法(身体障害者や貧困層、精神障害者への弾圧・断種を容認する法)に対して全面的に反対した共和派議員達の対抗措置として議会を永久解散し、次々に反対者の拘束を始め、そのまま専制君主に変貌した。
その強大な指導力と政治力によって綱紀を粛正し、銀河連邦時代の腐敗物を一掃、人類に活力を取り戻したのもルドルフであるが、やがて反対勢力への弾圧と粛清に奔走することになり多くの人命が無為に奪われることと成った。
彼の興した銀河帝国はその強固な政治体制によって生きながらえ、ラインハルト・フォン・ローエングラムの台頭までの約500年に渡って銀河に君臨し続けた。
193cmの99kgと大柄だが、晩年までまったく贅肉はなかったと伝えられる。
しかし晩年は美食がたたって痛風を患っていたとされているため、上記の贅肉話は自己神格により美化が含まれている可能性がある。
旧OVAアニメの40話では、ユリアン・ミンツが銀河連邦誕生と滅亡、銀河帝国初期の歴史を映像資料で再勉強するという名目で歴史が語られるが、若い頃は美丈夫だが、晩年期は威厳を失った老人の様な風貌となっている。ただし、敵対勢力の自由惑星同盟側の資料であるため、こちらは敢えて蔑める意図のある逆フィルターの可能性もある。
自体制を支える特権階級として貴族制度を、民衆を制御するための秘密警察として社会秩序維持局などを設立。貴族・軍部・官僚の磐石な統治機構を設立し、83歳で死去した。
人物
銀河英雄伝説という作品世界の根幹部分を生み出したキーパーソン、舞台装置と呼べる存在である。
彼は独裁政治の光と闇を分かりやすく読者に伝える役割も担った。腐敗した民主主義を苗床に、絶対的な権力を手中に収めたくだりはかのアドルフ・ヒトラーに通ずるモノがあるが、田中氏いわくイメージ的にはフリードリヒ大王やピョートル大帝が近いとのこと。
彼は一概に”絶対悪”とは言い切れない姦雄である。中世的停滞によって民衆レベルに至るまで精神的腐敗が蔓延っていた銀河連邦に秩序と活力を吹き込んだのも彼なら、後に優生学思想を下敷きにした劣悪遺伝子排除法といった極端な悪法による弾圧によって40億以上の人間を虐殺したのもまた彼なのである。
最初の頃こそやり方が強引な辣腕政治家以上のモノではなかった彼が自己神聖化に走り、銀河帝国という専制君主国家を生み出すまでに暴走した背景には、当時の民衆が自分たちの期待に応えてくれるルドルフを手法を含めて称賛したことが挙げられる。言ってしまえば民衆の無責任さがルドルフを暴走させたのだ。彼は暴力で政権を強奪したのではなく、合法的且つ民主的に国民に推されて独裁者になったのである。
こういった背景から、ルドルフは作品世界において主人公達が乗り越えるべき指標であり、また民主共和政治も政治の一形態に過ぎず完璧なモノではないという事実を読者に伝えるキャラクターなのである。
性格
真面目で自他共に厳しい性格であったと思われる。強引な社会改革を推し進めたのも「活力に満ちた健全な社会を創造したい」という純粋な思いがあったからだろう。彼自身は演説でも「人類の永続」を望んでいた。
しかし、それは同時に自らが正しいと信じて疑わない人間であるという証明でもあった。
先述の劣悪遺伝子排除法を始めとする民衆への弾圧や、貴族制度の復活といった歴史の逆行ともいえる反動政治を行えたのも、それが人類社会に繁栄にもたらすものであると信じて疑わなかったからである。
ただし、彼が政治・軍事両面に非凡な才能を有していたのも事実である。覇気と活力に富んだ希代の傑物であったのは間違いない。ただ、積極的な自己神格化には周囲も辟易していたとされる逸話が残っており、ルドルフが自身の身長と体重を新たな長さと重さの単位にする通称「カイゼル単位」を導入しようとしたが、財務尚書クレーフェが提出した切り替えの費用はルドルフをして「引く」ほどの額だったため、断念された。この時のクレーフェは実は費用を水増ししており、際限なく増長したルドルフへの無言の抗議だったとの説があり、当時のルドルフの増長ぶりを窺えるエピソードとなっている。
彼は確かに才気溢れる英雄ではあったが、何事も強者の論理で推し量る傲慢な人間であったために、ルドルフにとって社会的弱者とは唾棄すべき”悪”であり、国を蝕む寄生虫に見えていたのであろう。独裁者として君臨したルドルフは数々の社会福祉政策を打ち切り、挙げ句の果てに身体障害者や貧困層に断種を強要する劣悪遺伝子排除法を発令してしまった。
劣悪遺伝子排除法を施行した背景には遺伝子を妄信し、同時に自身の遺伝子の優位性を確信していたからとされている。しかし、晩年期に寵姫マグダレーナが男児を出産したが、先天性の白痴であったため、男児は抹殺され、マグダレーナやその親族、出産に立ち会った医師と看護師まで死を賜った事から一般的にこの話は事実であるとされる。
この事件は自らの遺伝子を絶対視したルドルフを大いに苦しめたとされている。
ルドルフに対する劇中の評価
ルドルフが建国したゴールデンバウム朝銀河帝国では神君として崇められているものの、時代錯誤で理不尽な貴族制度と悪法を作った者として、ラインハルトのような開明的な人物達からは一貫して批判されている。帝国に対する反発として発足した自由惑星同盟においては、共和制を裏切った大罪人として忌み嫌われているが、”民主主義の主人公たる民衆がその責任を放棄して独裁政権を選んだ”という救いがたい事実から目を背けている節もある。
(ルドルフが独裁政治を行えた背景についてのコメント)
「閉塞した時代の状況に窒息するような思いを味わっていた銀河連邦の市民たちは、この若い鋭気に富んだあたらしい英雄を、歓呼とともに迎えた。ルドルフは、いわば濃霧のたちこめる世界に登場した輝ける超新星であったのだ。」
「ルドルフの登場は、民衆が根本的に、自主的な思考とそれに伴う責任よりも、命令と従属とそれにともなう責任免除のほうを好むという、歴史上の顕著な例証である。」
(ルドルフの台頭に疑問を持ったヤン・ウェンリーに対する父・ヤン・タイロンの返答)
「民衆が楽をしたがったからさ。自分たちの努力で問題を解決せず、どこからか超人なり聖者なりが現れて、彼らの苦労を全部一人で背負い込んでくれるのを待っていたんだ。そこをルドルフにつけ込まれた。いいか、おぼえておくんだ。独裁者は出現させる側により多くの責任がある。積極的に支持しなくても黙って見ていれば同罪だ。」
(スタジアムの虐殺発生直前の平和集会におけるジェシカ・エドワーズのクリスチアン大佐の集会参加者への非道な行いに対する糾弾)
「暴力によって自分の信じる正義を他人に強制する人間は後を絶たないわ。銀河帝国を作ったルドルフも、そして大佐、あなたも!あなたはルドルフの同類よ。それを自覚しなさい!」
(救国軍事会議によるクーデター勢力を鎮圧したことを祝う式典でヨブ・トリューニヒトと握手した後に抱いたヤンの感慨)
「トリューニヒトに会ったとき、嫌悪感がますばかりだったが、ふと思ったんだ。こんな男に正当な権力をあたえる民主主義とはなんのか、こんな男を支持しつづける民衆とはなんなのか、とね。」
「我に返って、ぞっとした。昔のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムや、この前クーデターを起こした連中は、そう思いつづけて、あげくにこれを救うのは自分しかいないと確信したにちがいない。まったく、逆説的だが、ルドルフを悪逆な専制者にしたのは、全人類にたいする彼の責任感と使命感なんだ。」
(ルドルフという人物に対するジョアン・レベロの考察)
「人間とは変わるものだ。私は、五〇〇年前、ルドルフ大帝が最初から専制者となる野望をいだいていたのかどうか、うたがっている。権力を手に入れるまでの彼は、いささか独善的ではあっても理想と信念に燃える改革志向者、それ以上ではなかったかもしれない。それが権力をえて一変した。全面的な自己肯定から自己神格化のハイウェイを暴走したのだ。」
(ヤン・ウェンリーとの会見の際、ルドルフが民主国家から誕生した背景を端的に言い表したラインハルトのコメント)
「銀河連邦の民主共和制は、行き着くところルドルフによる銀河帝国を生み出す苗床となったではないか。民主共和制とは人民が自由意志によって、自分たちの制度と精神を貶める政体のことか?」