概要
原作者:蝸牛くも
イラスト:伊藤悠
漫画:湯野由之
事の経緯は、蝸牛くも氏が自身のやる夫スレ作品『ゴブリンスレイヤー』を小説にリファインし、富士見ファンタジア文庫大賞に応募した事から始まる。
三次選考落ちしたものの、わりと行けると創作意欲が湧いた作者は様々な小説を執筆・投稿を繰り返していた作者はふと、近頃のラノベの事を考え、
- 一発でわかりやすいタイトル
- 主人公は強い
- でも世間からは認められていない
- 信じた己の道を行く
- ヒロインとラブラブ
これらの要素が『売れる』『面白い』の条件だという結論に至った作者は、今川氏真が嫁さんの早川姫とイチャイチャしながら、織田信長と蹴鞠しに行くついでに京都へ旅行し、同時に徳川家康から頼まれた密命を何とかしつつ、道中襲いかかってくる甲賀忍者とチャンバラするという内容の本作をGA文庫大賞に投稿した。
友人氏「時代小説だこれ!?」
作者「似たようなタイトルの作品は無いだろうという自信だけはあった!」
友人氏「残当!」
結果は最終選考まで残ったものの『面白いけど、流石に時代劇ハンデは覆せない』という理由で落選。しかし、作者の投稿履歴を見ていた編集部が『ゴブリンスレイヤー』に目が留まり、声がかかってゴブリンスレイヤーが出版された。
そして2019年8月に本作品がコミカライズが決定され、遅れて書籍版も出版決定された。
漫画版は2019年11月から連載開始され、書籍版は2020年1月に刊行。
あらすじ
第六天魔王・織田信長が桶狭間で討った今川義元。その義元の佩刀、「義元左文字」は「それを持つ者は天下を取る運命にある」という。
信長のいる京までその刀を届ける密命を徳川家康より授かったのは、義元の息子―――大名として今川家を滅ぼしたとされる天下御免の無用者、今川氏真であった。
「己は駿河彦五郎。飛鳥井流と、新当流を少々」
今は彦五郎と名乗っている氏真は、和歌と蹴鞠を愛し、その妻、蔵春とともには京へと向かう。
その旅路を阻むのは「甲賀金烏衆」。
剣風吹きすさぶ京への街道に剣聖直伝の彦五郎の剣が、鍔鳴る!
登場人物
本作の登場人物は、室町時代後期から安土桃山時代までの実在の人物がモデルとなっている。
駿河彦五郎
今作の主人公。今川氏真その人。蹴鞠の達人。
歴史上では暗愚、凡夫、天下一の無用者と蔑まれている。
子供の様な無邪気な性格であり、事あるごとに和歌を詠む。家康とは幼なじみであり、彼からの危険を伴う密命を蹴鞠を報酬に引き受ける程のお人好し且つ、蹴鞠大好きな蹴鞠馬鹿。
しかしその実、剣豪塚原ト伝より『新当流』の免許皆伝を許されるほどの剣腕を持ち、『飛鳥井流』なる技にて砂や石、瓦などを軽々と蹴り上げるほどの実力を持つ。しかし、作中に襲いかかった敵はほぼ全て峰打ちで撃退しており、殺すことを良しとしない。
今川が滅んだのを自分を含めた全員の咎と考え、部下の離反も自分の因果だと思っている。そのため今川への悪口も道理だと思っている。
なお、作中の登場人物のほとんどが『飛鳥井流』の事を知らないのは、『飛鳥井流』が体術でも忍術でも武芸でもなく、蹴鞠の秘技だからである。そのため、飛鳥井流を剣術ではないと知っていた草深甚四郎を警戒した。
蔵春
今作のヒロイン。北条氏康の娘『早川姫』にして、彦五郎の妻。膝を露出させた派手な着物を好む婆娑羅者であり、寝る時は長襦袢を着る(天正の頃、婆娑羅者は非常識とされる事が多かった)。
気が強く、何かと馬鹿を仕出かす夫へのツッコミ役を勤めている。それと同時に彦五郎を深く愛し、周囲から中傷される彼を見て心を痛めている。
風間出羽守主水正から忍びの技を習っており、何里も先から自分達を狙う者の気配を察したり、僅かな隙間から隠れた敵を注視したりできる。騙し討ちも行う。
柏餅や白玉、キジ麺など旅の最中によく食べており、漫画版おまけの『ゆるゆる一蹴』では彦五郎にその様子をリスに例えられた。
徳川家康
彦五郎の幼なじみ。彦五郎がため口で接しても怒るどころか、逆に親しげに会話を楽しむほど。
彦五郎に、信長の元へ義元左文字を届ける密命を与える。真の目的は義元左文字を餌に信長に敵対する者達を釣り上げ、それを彦五郎に討たせるためである。
『ゆるゆる一蹴』では、密命と言う名のおつかいを彦五郎にやらせる(流石の彦五郎も戸惑っていた。しかもメモの内容からして献立はカレーライス)。
万千代
十七歳という若年ながら、家康の小姓を務める美少年。一介の牢人でありながら殿と親しく会話し、密命を受けた彦五郎に反感を抱いている。義元左文字は、元々は彼が主君から預かっていたものである。
しかし、その心を利用され、鈴蘭の術にかかり密命の内容を漏らしてしまう。
後の徳川四天王の一人にして、井伊の赤染で有名な井伊直政である。
漫画版おまけの『ゆるゆる一蹴』では、嫉妬から上記のおつかいを自分がやると進言するが、家康から『はりきりすぎて毎分転んでそう』と一蹴されてしまった。
甲賀金烏衆
今作の敵。義元左文字と彦五郎の命を狙う。
黒式尉
甲賀金烏衆を率いる、翁の面を被った謎の人物。
家康を『焼き味噌垂れ』と呼び、同時に部下に殺害を念押しするほど彦五郎に対して激しい憎悪を抱いている。
乾壁蝨丸
甲賀金烏衆の最初の刺客。常人の三倍もある長い手足『八束脛』で蜘蛛のように壁や天井を移動し、口から五寸ほどの仕込み針を飛ばして攻撃する。ただし、これは小手先の技であり、彼の真価は長い手足を駆使した体術である。
本作では珍しい架空の人物。漫画版の原作者のコメントから、おそらくモデルは甲賀忍法帖の風待将監。
『ゆるゆる一蹴』では仲間からダニーという渾名で呼ばれている。
杉谷善住坊
甲賀金烏衆の刺客。火縄銃の名手であり、織田信長を狙撃するが南蛮鎧に阻まれて失敗し、捕らえられて処刑されたはずの男。深編笠を被った虚無僧の様な姿をしている。
女好きで特に少女を好み、更にリョナ好きの変態であり、蔵春を狙う。
金瓢箪が吊られた奇妙なほどに細い杖を持つが、正体は気砲であり、圧縮した気を膨らませて風を起こして弾丸を飛ばす武器である。これにより、熱もなく、光もなく、風切り音だけを残して相手を狙撃する術『天狗礫』を得意とする。
『ゆるゆる一蹴』では笠の下のヘアスタイルまでデザインされていたらしいが、リテイクされても公開されなかった事に不満を抱いていた。
鈴蘭
甲賀金烏衆の刺客。肌けた着物を着る妖美な女。
彼女の吐息『時砂』には相手の意識を朦朧とさせ、幻を見せる効果を持つ。また、それによって周囲から認識されずに動くこともできる。
草深甚四郎
甲賀金烏衆の刺客で、鈴蘭の夫。笠を被り、背中に『快刀乱麻』と書かれた陣羽織を着た、無精髭の侍。
自分の剣術の腕を見せるために理由なく座頭達の首を斬り落とすほどの危険人物。彦五郎の飛鳥井流を、名前を聞いただけで剣術ではなく蹴鞠の技と看破する。
鍔鳴によって生じる超音波で相手を両断する、不可視の剣閃を得意とする。
なお、史実においては深甚流の開祖であり、塚原ト伝を相手に引き分けに持ち込んだり、盥の水をぶった切ったら遠くの敵が両断されてたりと、本作以上の超人的逸話を持つ剣豪。事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。
関連作品
ゴブリンスレイヤー:今作がきっかけで書籍として刊行された作品