概要
地下帝国ヨミ編とはサイボーグ009の話の一部であり、連載開始当初はメンバー間の軋轢など重苦しい展開故か、以前ほどの評価を得られなかったが、シリーズ最終作として執筆した作者の気迫あふれる物語の展開、そして悲壮でありながら美しいその結末から009シリーズの真の最終回として高く評価する声も多い。
そのためか映画サイボーグ009怪獣戦争のベースにされ、TVアニメ第一作の最終回に翻案(ただしこちらはハッピーエンド)、メガドライブ版では「ミュートス・サイボーグ編」と物語を融合させた上で忠実に再現、平成アニメ版でも実質的な最終エピソードに選ばれるなど、屈指の人気作でもある。
サイボーグ009VSデビルマンでのエンディングの後に009パートにて001が本作のことを示唆して警告している。
あらすじ
命知らずのレーサーとしてレースで次々に勝利する島村ジョー。
そのジョーの下に、鑑別所時代の仲間である、
茨木、小山田、メリーが訪ねて来た。
再開を喜ぶジョー。
しかし、3人はブラックゴーストの刺客だった。
最後はジョーが勝利するものの、009は謎の少女・ヘレンを助け出す。
その頃、ギルモア博士はブラックゴーストの影を感じて水陸空地底用の万能メカ、ドルフィン号を築き上げていた。
おりもおり、世界中に超音波を発する怪獣が出現、大暴れを始め、ゼロゼロナンバーに再び召集がかけられることになる。008が敵に襲われ、身体がバラバラに砕かれてしまうといったトラブルが起きたが、ギルモアによって蘇生手術が成功したが、ギルモア博士の思考で肌は銀色の光る鱗に変えられてしまい、落ち込むが004の皮肉じみた励ましで立ち直り008は新しい体を受け入れることとなった。
しかしそんな彼らを嘲笑うかのように、ブラックゴーストはテレビ電波をジャックして出現。
超音波怪獣による都市破壊と世界征服を宣言する。
あまりにもタイミングよく怪獣を倒す兵器を売り出し始めた三友工学を怪しんだ009たちは、その社長バン・ボグートを追う。自宅に巨大両生類や変身獣を飼うバン・ボグートの正体はブラックゴーストの一員で、ヘレンの双子の妹・ビーナのテレパシー能力を利用して009たちの手の内を探っていたのだ。しかも、ヘレン、ビーナたちは地底人であるという。
彼女たちの案内で、地底世界へと潜入するドルフィン号。
地底大陸は原人のようなルタール人、翼竜のような姿と人間並みの知性を持ったザッタンなどが跋扈する恐るべき世界であった。
ヘレンたちブワワーク人は、驚くべきことにザッタンの食用として飼育されていたのだ。
ブラックゴーストはそこへ攻め入ってザッタンを追いやって地下帝国ヨミを支配し、プワワーク人を戦力として取り込んでいたのである。
超音波怪獣たちもまた、彼らが地下から見つけ出してきた生物兵器だったのだ。
しかし004と心を通わせたビーナはブラックゴーストを裏切り、ヘレンや他の姉妹、 ダイナ、アフロ、ダフネたちとともに死んでいく。
004が仇のバン・ボグートを倒したが、総統はヨミの国を爆破すると最終兵器である魔神像で地上へと脱出、そのまま宇宙へと飛び出した。魔神像の中に 決死の潜入を果たしたジョーに、ブラックゴーストの総統=三つの脳髄は、自分を破壊しても人間に醜い欲望がある限り「ブラックゴースト」は何度でも蘇るとうそぶく。
自らの生命と引き替えに彼を倒す道を選ぶ009。
ブラックゴーストは宇宙の塵と消えたが、009は彼を助けに来た002とともにひとつの流れ星と化したのだった・・・・・・。
キャラクター
ゼロゼロナンバー
他のゼロゼロナンバーのノウハウを結集した万能型で、加速装置を駆使した超高速戦闘を得意とする。
「ハリケーン・ジョー」の異名を持つレーサーとして社会的成功を収めており、独身貴族として優雅な生活を送っていたが、内心では満たされないものを感じており、ギルモア博士に誘われるや進んでブラックゴーストとの戦いに復帰した。
本作ではヘレンをめぐる004との対立や、嫉妬を隠し切れない003との三角関係など、これまでのエピソードでは見られなかった展開を見せている。
ヨミへの道中でザッタンに催眠術をかけられ、彼らの忠実な下僕に仕立てられるが、この際は敵に対して一切容赦しない冷酷な戦闘マシンへと変貌しており、004も戦慄を覚えた程。
最終決戦では大気圏外へと脱出を図る魔神像の中に、001の超能力で切り札として単身送り込まれる。
間一髪駆けつけた002に救われ爆発する魔神像から脱出できたものの、燃料が切れてしまい彼と共に宇宙の星となったが、その後の話では大気圏に燃える前に001に助けられてギルモア博士の手により修復・蘇生を果たしている。
半径4キロの音が聞こえる聴覚、周囲50kmを見渡せる遠視力・透視能力の持ち主。
パリスバレェホールでソロで踊れる実力を持つバレリーナになっており、009の誘いに強い拒絶を示していたが、彼への想いを抑えられず戦線に復帰。
何かとヘレンを気遣う009に対して嫉妬心を露わにするなど、これまでと違い恋する乙女の側面が強調されている。
また今回のブラックゴーストとの戦いに関して、他のメンバーが他人事としか捉えていないことを指摘する鋭く冷静な一面を見せている。
001が009を魔神像破壊のための捨て駒として送り込んだことを知るや、人目をはばからず号泣、そして秘めていた009への想いを認めるのだった。
右手にマシンガン、左手に電磁ナイフ、両膝にミサイル、体内に広島型原爆を内蔵した全身これ武器のサイボーグ。
故郷に戻るもそこで嫌な思いをしたらしく、ギルモア博士の誘いに乗って真っ先に戦線に復帰。
ヘレンをブラックゴーストのスパイだと疑っており、彼女を庇う009と真っ向から対立するなど、憎まれ役も担当しておりこれまで以上にニヒルなキャラとして描かれている。
戦いの中でヘレンの妹のビーナと惹かれ合うようになるが、バン・ボグートによって彼女を殺害されるという悲劇的結末を迎え、聴覚と勘を頼りにその仇を討つ。
本作の実質的なもう一人の主人公。
能力は自身の細胞の分子配列を変化させることで、生物・無機物を問わないあらゆるものに変身すること。
故郷英国の小さな芝居小屋で変身能力を活かした小演劇で人気を博しており、ブラックゴーストの活動再開にも無関心だったが、009の挑発に乗せられ戦線に復帰した。
だが戦いには今一つ本気になれず、くだらない戦争を止めてアメリカがブラックゴーストと戦うべきだと主張したり、006共々勝手な行動の末に捕虜になってしまうなど仲間の和を乱すような言動や行動が目立つ。
能力は口から超高熱火炎を吐くことと、それを利用した地中活動。
故郷中国で料理店の店主をやっていたが、004に誘われ戦線に復帰。
007同様今回の戦いには消極的。
能力は脚部に埋め込まれた飛行ユニットにより、マッハ5で空中を自在に滑空(飛翔)する能力の持ち主。
その気になれば成層圏まで自力で飛行可能である。
故郷アメリカでアメフトプレイヤーをしていたが、007の誘いを受けて戦線復帰。
総統により宇宙空間にいる009を助けるため、一人で向かい009を助けたが燃料が切れてしまい009とともに宇宙の星となったがその後の話では大気圏に燃える前に001に助けられてギルモア博士の手により生存している。
ゼロゼロナンバー中最大の怪力と頑強な体を併せ持つ。
アメリカでカウボーイをしていたが、007に誘われて戦線に復帰した。
今回の戦いで仲間達の足並みが揃わない理由を、各々がそれぞれの幸せを手に入れたからだと鋭く指摘する。
深海や宇宙空間でも戦闘可能な水陸両用サイボーグ。
アフリカで密猟監視に従事していたが、ワニ型の超音波怪獣の襲撃を受け、五体バラバラになる重傷を負ってしまい、ギルモア博士によって銀色の鱗で覆われたより人間離れした体に再改造されてしまった。
そのことに深く苦悩していたが、004の励ましを受けて何とか立ち直る(なお後の作品ではこの設定は忘れられる)。
天才的頭脳と多彩な超能力を併せ持つ超能力ベイビー。
009にテレパシーで003の気持ちを伝えたり、009達にかけられたザッタンの催眠術を解くなど要所で活躍、終盤ではブラックゴーストを壊滅させるため、魔神像の中に009のみを送り込むという非情の決断を下す。
今作では008を銀色の鱗の姿に蘇生改造してしまったことで他のゼロゼロナンバーから反感を買ってしまう。
ブラックゴースト
声 - 塩屋翼(メガドライブ版ゲーム)、若本規夫(TVアニメ第3作、パチンコ『RE:CYBORG』)
ブラックゴーストの表向きの首領であり、全世界への宣戦布告も総統に代わって行っている。
脳細胞を含む大部分の体内組織を大幅に改造しており、着脱可能な腕には伸縮自在のヤリ、腹部には熱戦砲を内蔵し、口からは溶解液を吐き、脳は胴体に内蔵されている。この身体構造により頭部を破壊されても009を圧倒した。
平成版アニメでは複数の爪牙を展開し、プラズマボールを発生させ009を攻撃している。
総統の体である魔神像内部に潜入した009と一対一の死闘を繰り広げるが、内部を破壊しすぎたため総統に処刑された。
声 - 掛川裕彦(メガドライブ版ゲーム)、石塚運昇(TVアニメ第3作)
ブラックゴーストの幹部の一人で、表向きは三友工学の社長を装っている。
超音波怪獣対策の商品として対超音波砲を売り出そうとしていたが、これはそれ自体が殺人音波を発生させて周囲の人間を殺害するという代物だった。
加速装置・エネルギー吸収能力・保護色を利用した透明化など、高い戦闘力を持つサイボーグであり、009達に対して終始優勢だった。
ジョーの旧友たち
- 茨木(いばらき) / 茨木進一(いばらき しんいち)
声 - 千葉一伸(TVアニメ第3作)、小池亜希子(TVアニメ第3作・幼少期)
009=ジョーと一緒に脱走を試みた青年。サイボーグ態では体中からマシンガンを発射する。自分たちが改造される原因となった009=ジョーを恨んでいた。
平成版アニメではフルネームになり、設定も009=ジョーの孤児院仲間に変更されている。
ジョーを恨んでいたが、ジョーへの友情も忘れた訳ではなく、爆発の際はジョーを巻き込ませないために体当たりして遠ざけた。
- 小山田(おやまだ) / 小山田勝(おやまだ まさる)
声 - 小伏伸之(TVアニメ第3作)、伊藤亜矢子(TVアニメ第3作・幼少期)
茨木と同じく鑑別所で世話になった青年。サイボーグ態では肩と腹部に牙のようなトゲを付けている。茨木と違い、ジョーを恨んではいなかった。
平成版アニメではフルネームになり、茨木と同じく孤児院仲間に設定変更された。さらに鉄道模型が趣味という設定が付加された。
- メリー / メリー・小野寺(メリー・おのでら)
混血児の少女で、ジョーと一緒に孤児院で育った。サイボーグ態は獣のように四足歩行になり、手から電撃を放出したり、喉の特殊音波発生装置で動物を操る。ジョーを恨んでおらず、むしろジョーに好意を抱いていた。
平成版アニメではフルネームになり、有色人種とのハーフらしく色黒になっている。サイボーグ態になると人間態より肌の色が薄くなる。幼い頃から泣き虫の傾向がある。
※実際の映像とは異なりますが、だいたい合ってます。
声-佐藤佑暉(メガドライブ版ゲーム)、上村祐翔、来宮良子、内海賢二(3名ともTVアニメ第3作)
『地下帝国ヨミ編』に登場。
魔神像(アレス神像)を象った巨大ロボットで、3つの人間の脳髄によりコントロールされている。
魔神像の表面からは高熱の熱線を放ち、脳の周囲には先端から熱線を放つ触手が装備されている。
平成版アニメでは姿は原作と同様でそれぞれ壮年男性・女性・子供とおぼしき口調で話している。
最期は009によって魔神像事破壊され宇宙の藻屑と化すが、総統が自身を組織の細胞の1つであると仄めかしていたように、ブラックゴーストの本質は組織にはなく「決して消えることのない人間の欲望」こそが本質であった。
脳の状態で顔や素性もいっさいわからない彼らの姿は、人間も誰もがブラックゴーストになりうることも意味していたのだろう。
それを裏付けるかのように、彼らの亡き後も組織の残党が暗躍し続け、新たな争いの種を巻き起こし、さらに組織を再編成した“ネオ・ブラックゴースト”が誕生する事となる。
地底世界ヨミ
「地下帝国ヨミ編」の舞台。
プワ・ワーク人は元々はザッタンの食用として飼育された種族で、ヘレン達に限らず多胎児として生まれてくるのが特徴。ブラックゴーストはザッタンを追い払いプワ・ワーク人をその支配から解放、彼らの信頼を得てヨミを征服し、戦力として取り込んでいたのである。
超音波怪獣たちもまた、彼らが地下から見つけ出してきた生物兵器だったのだ。
『地下帝国ヨミ編』に登場する、地底世界の人間プワ・ワーク人の姉妹。
実は五つ子で、下にダイナ、アフロ、ダフネの3人の妹がいる。
お互いの見聞きしたことをテレパシーで感じ取れる。長女ヘレンは記憶を消されて送信専用になり、本人も知らぬままジョーたちの元へスパイとして送り込まれた。
自由を得るため5人でバン・ボグートを裏切ってゼロゼロナンバーに協力するが、裏切りが発覚し、バン・ボグートに5人とも撃ち殺された。
ヘレンはジョーに好意を持っていたことでフランソワーズから逆に嫉妬された。
これが瀕死のヘレンの行動や妹のビーナの死で004=ハインリヒの復讐心を呼び、バン・ボグートと対決したジョーとハインリヒの勝利に繋がった。
その後、原作では亡骸は006=張々湖によって火葬されるが、アニメでは死体が地割れに飲み込まれる描写がなされていた。
なお下の3姉妹は原作では目立っていなかったが、平成版アニメでは五女ダフネが失敗を恐れるがあまりにボグートに密告するという行動が追加されている。
サイボーグ009怪獣戦争やメガドライブ版ではヘレンのポジションがミュートスサイボーグのヘレナに変更されている。
『地下帝国ヨミ編』に登場する、地底世界の人間プワ・ワーク人の姉妹。
ヘレンの次女である。
実は五つ子で、下にダイナ、アフロ、ダフネの3人の妹がいる。
お互いの見聞きしたことをテレパシーで感じ取れる。
次女ビーナはヘレンを監視していたが、後にゼロゼロナンバーと接触した。自由を得るため5人でバン・ボグートを裏切ってゼロゼロナンバーに協力するが、裏切りが発覚し、バン・ボグートに5人とも撃ち殺された。
ビーナはハインリヒと互いに心を通わせた。
これが瀕死のヘレンの行動と004=ハインリヒの復讐心を呼び、バン・ボグートと対決したジョーとハインリヒの勝利に繋がった。
『地下帝国ヨミ編』に登場する、地底世界を支配し、プワ・ワーク人を捕食する種族。
『地下帝国ヨミ編』での第三勢力。
直立二足歩行のドラゴンといった外見で、高い知性を持ち、目を合わせるだけで催眠術をかける能力を持つ巨大爬虫類。地底世界の支配権を巡ってブラックゴーストと対立している。催眠術は機械相手には通用せず、最後は魔神像の放った熱線により全滅した。
ペルシダー・シリーズのマハールに近い存在。
『ザ・ディープ・スペース編』における003=フランソワーズの夢の世界では「人間を動物や植物に変える魔法使い」としてザッタンを大きくしたような爬虫類型知的生命体が登場している。
その他
- カズちゃんとカズちゃんの姉
「地下帝国ヨミ編」のラストで天空から燃え落ちる009と002を流星と認め、カズちゃんはモデルガン(媒体ではおもちゃのライフル)が欲しいと願い、カズちゃんの姉は戦争がなく平和を願った。
カズちゃんの姉はおそらく日本の全漫画史上、名も無きヒロインとしては最も多くの読者が涙を絞った少女。
余談
『サイボーグ009』を象徴するシーンの一つだが、意外にもメディアミックスで描写されたことは稀である。
テレビアニメでは3作目となる平成版のラストで初めて「地下帝国ヨミ編」のシナリオと共に完全再現された。
昭和第1シリーズの最終話ではこのシーンを踏襲したラストはあるもののプロットが大きく異なり(そもそも「地下帝国ヨミ編」のシナリオではない)、昭和第2シリーズは時系列が「地下帝国ヨミ編」の後である。
また、メガCD版のエンディングでもこのシーンが再現されており、昭和第2シリーズの声優である井上和彦と野田圭一によるやり取りを聞くことができる。