概要
てんとう虫コミックス34巻及び、藤子・F・不二雄大全集10巻に収録されている、「のび太もたまには考える」(初出は「小学六年生」1983年3月号)に登場。
色々な人の能力がインプットされたカセット。これを胸に近づけると自動的に体内に入っていき、それに書かれた人の能力を1時間だけ使うことができる。
また水田版のうち2009年版では、時代を考慮してか「能力ディスク」というディスク型のものに変更されていたが、後の2019年版では原作通りになっている。
ストーリー
算数のテストを明日に控えて慌てるのび太に、ドラえもんは「頑張ってちょ〜だい。それだけ?」とつれない態度を取る。「ぼくがこんなに悩んでいるのに」とうろたえるのび太に、ドラえもんは強い口調でこう言い放った。
「悩んでる…? いや、悩んでなんかいないね。たんに甘ったれてるだけだ。
いっぺんでいいから本気で悩んでみろ!!
自分というものをしっかりみつめろ。悩んで悩んで悩んで悩みぬくのだ。
そうすれば…、そこに新しい道がひらけるだろう。」
のび太が諦めて机に向かうと、ママが来て電球が切れたから買ってくるように言う。そこでドラえもんは「能力カセット」のセットを出し、マラソン選手のカセットをのび太の体の中にはめこむ。このカセットを使うと、1時間の間マラソン選手並みの力を出すことができるのだ。
のび太が速く走って電球を買ってくると、ドラえもんはカセットを取り出して勉強するように言う。しかしのび太は、すでに他にも「数学者」をはじめとするさまざまなカセットがあるのを見逃さなかった。
「はじめからこれをかしてくれればいいのに、ケチ!
そんなものにたよらずに、勉強しろなんていうんだろうけど、ぼくは使うからね。」
それに対してドラえもんも、半ば諦めたように「使えば」と背を向けるのみだった。
カセットを使って宿題をすらすらと終らせたのび太は、翌日学校にカセットのセットを持っていき、そこでいろいろな科目で能力を発揮し先生を驚かせる。のび太はすっかりいい気分になったが、それを見たドラえもんは「ぼくなんかいなかったほうが……きみのためにはよかったかもしれない」と言い残してこの場を立ち去った。
のび太の様子に腹を立てたジャイアンとスネ夫はのび太を野球でしごこうとするが、それに対してものび太は「野球選手」のカセットでファインプレーを見せ、ジャイアンとスネ夫を困惑させる。さらにのび太は「奇術士」「歌手」のカセットで皆の注目を集め、ジャイアンとスネ夫は気に食わない様子で見ていたが、「ジャイアンの歌なんか問題じゃないぞ」という言葉にジャイアンが「おれの歌なんかだと!?」と激怒。スネ夫と共に襲いかかるが、「強い人」のカセットで撃退され、退散する。
「このカセットがあるかぎり、ぼくはなにをしても超一流なんだ!」と有頂天になったのび太は、そこでケースの奥にあった「考える人」というカセットを身につける。
そこでのび太は土管に座って考え始めると、先ほどまでの自分の活躍も全てカセットの力によるもので、自分自身は相変わらずダメなままだとむなしさを感じるようになる。そしてのび太は、ドラえもんのことを思い出して、いつまでも子どものままじゃいられないからドラえもんともいつかは別れる日が来ることを感じる。
「わかってるんだよ、このままじゃいけないってことは……。
しかし、何度決心しても、ズルズルと元へもどっちゃうんだよな……。
でも、やっぱり努力はしなくちゃいけないんだよな。あきらめずにな。」
そしてのび太は、ドラえもんに自ら能力カセットのセットを返すことを決めた。
アニメにおける原作との主な相違点
大山版は1983年10月14日に、水田版は2009年11月20日及び、2019年6月7日にそれぞれ放送している。
1983年版
- サブタイトルが「能力カセット」に変更
- ドラえもんはのび太からどら焼きをもらい、聞くだけならと、のび太の話を聞いた。そしてこれに対しドラえもんは「もう一度幼稚園からやり直してみるのも悪くないとおもうけど」と答えていた。
- お使いを頼んできたママにドラえもんが自分が行くと言ったり、ママがお使いをさせるのも教育の一つと言ったりする下りはカットされている。
- マラソン選手のカセットでお使いに行ったのび太は誰ともすれちがっていない。
- 「そんなもんに頼らずに勉強しろっていうんだろ」と言った時、のび太の顔は一瞬ドラえもんになっていた。
- ドラえもんやママがのび太を送り出す下りはカットされている。
- のび太を強引に誘いに来た際、ジャイアンとスネ夫は私服だった。またのび太も部屋の窓から挨拶していて、玄関には出ていない。
- 手品をした際、花を受け取ったのはしずかになっている。また、ジャイアンとスネ夫をやっつけた際に使ったカセットはプロレスラーのものだった。
- 考えに浸った際、のび太が自分が相変わらずでのろまで弱虫でと思うシーンはカットされていて、カセットを返してもらったドラえもんは終始訳が分からず、驚いた表情もしていなかった。
2009年版
- 冒頭でドラえもんはどら焼きを舐めるように食べていて、のび太が悩みは回想シーンで説明されている。
- 1983年版と同じく、ドラえもんがお使いを引き受けると言ったり、ママがお使いをさせるのも教育の一つと言ったりする下りはカットされている。ちなみに電球はトイレのものだった。
- テストの際中、のび太が居眠りを始めたので先生はそれを注意したが、答案を見たところすでに終わっていて、しかも満点だった。更にこの後ものび太は美術の授業で写実的なフルーツのクロッキーをしたり、音楽の時間でも見事にピアノを演奏したりして、皆の注目の的だった。
- のび太を強引に誘いに来た際のジャイアンとスネ夫は、1983年版と同じく私服だった。
- のび太がやった手品は黒い布から一凛のバラを出し、それをボール、3束のバラの順に変化させ、もう一度布で覆って外すと、今度はハトになっているというものだった。更にのび太はダンサーのディスクでしずから女子達とダンスをしたりして、歌手のディスクで歌ったのはオペラだった。
- 強い人のディスクは少し効果が現れるのが遅かったため、最初はジャイアンに殴られてしまった、その後すぐに発動してジャイアンとスネ夫をやっつけた。ちなみに戦いのシーンは少し長めに描かれていて、ジャイアンも一回起き上がって再び殴りかかっている。
- ドラえもんはのび太からディスクを返してもらって、「黙ってみていた甲斐があったよ」と感動して涙をながしている。
2019年版
- ドラえもんはのび太がハ話すたびに「いいって言ってるのに」「今に始まったことじゃないでしょ」「そりゃ面白い。せいぜい頑張りな」と愛想なく答えている。
- のび太が「簡単すぎてあくびがでるよ」と言ったり昼寝をした際に言ったセリフは「これさえあればテスト勉強なんか必要ないや」に変更されている。
- 先生が社会の時間に先週のレポートを集める描写は、のび太がゴッホの『星月夜』に似た絵画を描き、皆がそれに感動する描写に変更され、帰り道でしずかから褒められる下りも追加されている。
- ドラえもんは部屋を出て窓を見つめながら、自分がいなかった方がよかったのかもとつぶやいている。
- 野球をしていた時、ジャイアンとスネ夫は私服だった。
- ジャイアンとスネ夫を打ち負かした後、のび太は小型の土管も拳で砕いている。
- のび太は考えこんだ際、ドラえもんが一片でも本気で悩んでみるよう一喝する様子を思い出していて、ラストではドラえもんから一緒にどら焼きを食べようと誘われるが、先に宿題をやることにした。
備考
『小学六年生』3月号の『ドラえもん』には、小学校を卒業する読者に向けて、のび太の将来や人間的な成長をテーマにした話が掲載されることが多かった。他にも「りっぱなパパになるぞ!」「あの日あの時あのダルマ」などの例があるが、この話もこの典型といえるだろう。
関連タグ
おまかせディスク:大山版に登場したオリジナルの秘密道具で、類似した効果をもつ。たただしこちらはディスクに行いたい情報を事前にインプットしておく必要がある。
ステカセキング:対応するカセットを入れる事でその能力を使うことが出来るキャラ。彼が登場したのは1981年頃であり、「のび太もたまには考える」が雑誌に掲載されたのが1983年であるほかキン肉マンのパロディとして『ゼイ肉マン』が登場したりするのでF先生がオマージュした可能性は高い。