概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』のエピソードの一つ。初出は『小学六年生』1978年3月号。TC18巻収録。
TC4巻収録「おばあちゃんのおもいで」と同様に、のび太とおばあちゃんの関係性を示すエピソードであり、のび太が何度くじけても必ず立ち直る強い心を持っている理由が描かれたエピソードでもある。
ストーリー
ドラえもんが帰宅すると、のび太が部屋でうつ伏せで倒れていた。慌てたドラえもんがのび太に事情を尋ねたところ、明日にはテストがあるのだが、ママの指輪をしずかに見せびらかしている途中で失くしてしまい、叱られるのが怖くて勉強どころではなくなって落ち込んでいたらしい。
その話を聞いたドラえもんは「なくし物とりよせ機」を取り出す。この道具を使用すると、過去に失った物を取り戻すことが出来るのだ。ドラえもんは早速この道具をのび太に使用し、ママの指輪を取り寄せた。ドラえもんは「これで安心して勉強出来るでしょ?」と微笑んだが、のび太は続けてこの道具を使用し、今度は失くした10円を取り戻す。その後は自分で使ってしまった1000円を取り戻そうとするも出来なかった為、その様子を見ていたドラえもんは「早く勉強しろ!」と言う。
だが、のび太はすっかりテストのことを諦めてしまい、「僕の頭じゃ勉強してもしなくても同じだよ」と言う。それを聞いたドラえもんは呆れ果ててしまい、部屋から出て行ってしまう。
のび太は引き続きこの道具を使用し続け、過去に失った漫画や玩具を取り戻す。最終的には幼稚園児の頃に使っていた哺乳瓶を取り戻し、昔を懐かしんだのび太は幼児退行を引き起こしてしまう。
ドラえもんが部屋に戻ると、のび太が「あの頃は良かった。勉強しろと言われることもなかったし…」と言いながら、哺乳瓶で牛乳(らしき飲み物)を飲んでいた。ドラえもんは「過ぎ去った日を懐かしむのも良いけど、未来へ目を向けなくちゃ。振り返ってばかりいないで、前を見て進まなくちゃ」と言いながらのび太を諭そうとする。
しかしのび太は「どうせろくな未来じゃない。僕は頭も悪いし、何をやっても失敗ばかり…」と言い、ドラえもんの話を聞こうとしない。ドラえもんは、そんな様子ののび太を見て悲しげな表情を浮かべながら再び部屋から出て行ってしまう。
その後、のび太はおばあちゃんから貰ったダルマを見つける。のび太はそのダルマを見て、自分がまだ幼かった頃を思い出す。
幼い頃ののび太が庭で転んで泣いていると、病気で体調を崩しているおばあちゃんがダルマを持ってのび太の元へ駆け付けた。のび太は「病気だから寝てなきゃ!」と言うが、おばあちゃんは「のびちゃんが泣いていたら、心配で寝てなんかいられないよ」と言う。
そのままおばあちゃんは話を続ける。ダルマをのび太に見せながら「ダルマさんは偉いね。何度転んでも、すぐに起き上がるんだもの。のびちゃんもダルマさんのようになってくれると嬉しいな」と言い、そして「転んでも転んでも、1人で起き上がれる強い子になってくれると、おばあちゃんとっても安心なんだけどな」と語り掛ける。
その話を聞いたのび太は「僕、ダルマになる。約束するよ、おばあちゃん」と言い、おばあちゃんと約束する。
その後、おばあちゃんはすぐに亡くなってしまった。そのことを思い出したのび太は立ち上がると、そのまま勉強机に向かい、心の中で「僕、1人で起きるよ。これから何度も転ぶだろうけど、必ず起き上がるから。安心してね、おばあちゃん」と、おばあちゃんへの想いを呟いた。そして部屋に戻ったドラえもんは、ダルマを机に置いて勉強するのび太を静かに見守るのだった。
ひみつ道具
- なくし物とりよせ機
調理用のミキサーのような外観のひみつ道具。
この装置に搭載された端末を頭に取り付け、過去に失くしてしまった物や盗まれてしまった物、捨てられてしまった物等を思い浮かべると、それらを全て目の前に出現させることが出来る。
ただし、他人が失くした物を出現させることが出来るかは不明(自分以外の家族が所有していた物は出現させることが可能。上記の通り、作中ではのび太がママの指輪を誤って失くしてしまったのだが、この道具で指輪を出現させている)。
また、自分の意志で消費した物も出現させることが出来ない(上記の通り、作中ではのび太が自分で使用した1000円を取り戻そうとしたが不可能だった)。
ちなみに、ドラえもんによると「形さえ覚えていれば」とのことなので、もし細かい模様などを覚えていない、ブランドを覚えていない場合でも大丈夫。
なくし物取り寄せ機で取り寄せたものの中には、「小さい頃に谷底に落とした麦わら帽子」「今までにママに捨てられた漫画の本」「ジャイアンに取り上げられた買ったばかりの模型飛行機」などがあったが、これらのように過去にとっくに処分されたり腐りきってしまったであろう物であっても、紛失した当時そのままの姿で出てきている。
この機械が時空を超えて作動するのかどうかは不明だが、とりよせバッグのことを考えれば十分にあり得る話である。
もしそうだとすると、この記事を見ているあなたが過去に突然なくしてしまい、心当たりのある場所を何度探しても交番や警察署に立ち寄っても見つからなかったものがあった場合、もしかしたら未来のあなたに取り寄せられているかもしれない。
テレビアニメ版
このエピソードは大山のぶ代版及び水田わさび版アニメで映像化されており、特に後者は非常に力の入ったアレンジが施されている。
大山版では指輪を紛失した原因が静香に見せた後でのび太に絡んできたジャイアンとスネ夫の2人が原因になっており面白がって2人が指輪を投げ合いっこした際に通りがかった軽トラックの荷台に指輪が乗っかってしまい紛失した形になっている。
最後には2人がのび太に謝ろうと野比家を訪れるが、のび太に呆れていたドラえもんは「あんなやつに謝る必要なんかない!」と言いながらのび太の体たらくを2人に見せようとしたらのび太は机に向かって勉強を始めており、「のび太が勉強?そんなバカな」とスネ夫が呟きながらもドラえもん、ジャイアン、スネ夫はその様子を見守るという締めになっている。
のび太が幼児退行を起こす際、原作版ではドラえもんが優しく諭すだけだったのだが、2009年版ではドラえもんが諭した後にママも加担してのび太を厳しく叱り、その後のび太が「そうやってママが頭ごなしに僕を叱るから…どうせ僕はやる気のないダメ人間なんだ!もう放っておいてよ!」と叫び、そのまま部屋から立ち去る展開になっている。
また、原作版ではドラえもんやのび太が過ごす現在の季節、及び幼い頃ののび太が庭で転んだ日の季節は不明だったが、2009年版ではどちらも雪が降る寒い季節になっている。それだけでなく、おばあちゃんがのび太にダルマのことを話し終えた後、部屋に置かれていたストーブの炎が消えるという、おばあちゃんの死を連想させる演出になっている。
更に、ドラえもんがママからおばあちゃんのことを聞く展開が追加されており、その際ママはのび太に対して言い過ぎてしまったことを反省し、かつておばあちゃんから「子供を叱らなきゃいけない時はきちんと叱ること。甘い顔をするのは誰でも出来るし、いつでも出来る」と言われていたことが、ママの口から語られた。
また、映画『南海大冒険』の同時上映として制作された『帰ってきたドラえもん』の作中でも、のび太がダルマを見ておばあちゃんから言われたことを思い出すシーンが存在する。
余談
「小学六年生」3月号の「ドラえもん」には、小学校を卒業する読者に向けて、のび太の将来や人間的な成長をテーマにした話が掲載されることが多かった。他にも「りっぱなパパになるぞ!」「のび太もたまには考える」などの例があるが、この話もこの典型といえるだろう。