概要
原作漫画はてんとう虫コミックス第14巻に収録されているほか、のぶドラ版(1979年9月2日放送)にてアニメ化され、わさドラ版でも2005年の年末スペシャルにてリメイクされた。
ラジコンに乗り込んで戦うというストーリーは大長編『のび太の宇宙小戦争』にも見られるように、「ドラえもん」という作品のメインテーマ、そして「ドラえもんのうた」の歌詞にもある「こんなこといいな、できたらいいな」の具現化の例の一つであり、他にもラジコンのエピソードはいくつか存在する。その中でもこのエピソードは特にテンポのいい進行や、ラジコンとはいえ戦艦大和に対し零戦部隊が雷撃を仕掛けるというF先生の趣味全開のスペクタクルな展開があるためか、一部では「神回」「一度見たら忘れられない回」との評価がある。
なぜ、子供向け作品でこんな難解な内容なのかというと、この作品は週刊少年サンデー増刊号掲載の特別読み切り作品だから(F先生は、同じ作品でも掲載雑誌によって作風や作品内容を変幻自在に変えていた)である。ほかに『のび太の恐竜(原作)』『ゆうれい城へひっこし』『ハロー宇宙人』も少年サンデー増刊号の掲載作品である。
ストーリー
のび太は周りから「ケチンボ」と笑われたりと爪に火を灯すような苦労を重ねて、コツコツと小遣いを貯め念願のラジコンボートを買ったのだが、ドラえもんと一緒に公園の池で進水式をしていたらちょうど居合わせたスネ夫のラジコンの戦艦大和(スネ夫の話によると1/150スケールで全長175cm)にぶつけられ、あっけなく沈んでしまった。
2人は当然怒るが、スネ夫は「カリカリするなって。弁償してやるよ、あんな安物」と悪びれもせず、自分のラジコン大和の自慢や蘊蓄を語り出す始末だが、2人は既に姿を消していた。一方で「スネ夫を殺して僕も死ぬ!」と怒り狂うのび太に対して、ドラえもんは仕返しにスモールライトで小さくなってラジコン大和を乗っ取り、弁償を迫ることを提案。ラジコン大和の機器を改造して自分たちが操縦できるようにするとスネ夫に対してラジコン大和を乗っ取ったことを宣言し、池での航海を始める。
ラジコン大和を鹵獲されたスネ夫は、血相を変えてラジコン大和の製作者である従兄弟のスネ吉にラジコン大和を取り返したいと連絡。するとスネ吉は「そりゃあ面白い!」「こういうチャンスを待っていた」と俄然興味を示して、ラジコンの零戦用の魚雷の威力を試す絶好の機会として「あのラジコン大和を沈めよう」と持ちかける。ラジコン大和を壊すと聞かされて怒るスネ夫を「もっといいの作ってやるから」と宥めつつ4機の魚雷発射装置つきラジコン零戦部隊を用意し、火薬入りの魚雷を搭載して出撃する。
ドラえもんとのび太の操縦で悠々と池の上を進むラジコン大和だったが、そこへ貸しボートに乗ったスネ夫とスネ吉のラジコン零戦の雷撃部隊が来襲し、ここに公園の池を舞台にしたドラえもん陣営vsスネ夫陣営のラジコン大海戦の幕が切って落とされた。
スネ吉の操るラジコン零戦部隊は「12チャンネルで4機バラバラに動かせる(※①)」優れ物で、その機動力により武装のないラジコン大和を翻弄し、魚雷を発射。ラジコン大和は回避行動を行うも間に合わず命中・爆発、真っ二つになって轟沈してしまい、ドラえもんとのび太は命からがら脱出する(※②)。
このようなスネ夫とスネ吉の所業に、ついに「重ね重ねの乱暴!もう許せぬ!」とドラえもんの怒りが大爆発。報復としてミサイルつき原子力潜水艦(ラジコンながら搭乗も可能。さすが未来のおもちゃである)を出すが、それを見たのび太は「そんな物を持ってるならなんでくれなかったんだ、意地悪!ケチ!」と怒り出す。「自分の今までの苦労はなんだったんだ」と言わんばかりののび太をドラえもんは「おい、誰と喧嘩してるんだ。自分で苦労して買う方が喜びも大きいんだよ」と宥めた後、「スネ夫のボートを撃沈してやるんだ」と息巻き、2人は再びスモールライトで小さくなってラジコン潜水艦に乗り込んだ。
一方スネ夫はスネ吉から操縦機を借りてラジコン零戦の操縦の練習をしていたが、突如背後の水面から飛び出したミサイルでラジコン零戦は全て撃墜されてしまう。それはドラえもんとのび太が乗るラジコン潜水艦が放った対空ミサイルだった。ドラえもんは驚く2人に「次はそのボートを沈める。覚悟したまえ」と宣告した後、池の中に潜航する。
スネ吉はボートのパドルでラジコン潜水艦を叩こうとするも回避され、大慌てでボートを漕いで逃げつつポケットの中に持っていたラジコン零戦用の魚雷を投下して応戦するが、「模型といっても本物並みの強度がある」ドラえもんのラジコン潜水艦はビクともしなかった。そして治まったところでボートの底をロックオンし魚雷を発射。その魚雷はラジコン零戦用の魚雷とは比べ物にならない威力であり、ボートは大爆発して轟沈する。池に放り出され、ずぶ濡れで岸へ這い上がったスネ吉とスネ夫は貸しボート屋の店主から壊したボートの弁償を求められる形で戦争賠償をする羽目になり、スネ吉は「戦争は金ばっかりかかって虚しいものだなぁ」と言いながらその場を後にした。ドラえもんは「武勲艦」となったラジコン潜水艦を「やむを得ん、せっかくのボートを壊されたことだし」とのび太に譲ったのだった(※③)。
- ※①:「12チャンネル」とはプロポから12種類の操作信号が出せることを意味する。飛行機のラジコンであれば基本的に操縦桿の上下操作(ピッチング)、左右操作(ローリング)、加減速の3チャンネルで最低限の操縦が可能なので、恐らくこれら3チャンネルの操作を4機別々の計12チャンネルで行っているものと思われる。…が、同じプロポで魚雷発射操作を行っている描写があるため、12チャンネルのうち最低1つは魚雷発射操作に充てられている可能性があり、そうなるとチャンネルが足りない。なんにせよ「どうだい僕の操縦ぶりは」と自慢したくなるのも頷ける操縦技術である。
- ※②:ちなみに史実の戦艦大和の沈没原因は魚雷が片舷に集中して命中したことによる転覆(誘爆)だが、後に実際の海底調査で船体が真っ二つに破断しているのが明らかになった。
- ※③:貸しボートが使用不能になったことによる遺失利益、減価償却による相殺は割愛。なおのび太はこれに続けてラジコン飛行機もねだってきたが、ドラえもんは「やらないぞ!まず、自分で作るなり買うなり、努力してみろ」と諭している。
なお、「スネ夫を殺して僕も死ぬ!」というのび太の迷言(わさドラ版アニメではカットされている)や、スネ吉の「戦争は金ばかりかかって虚しい物だなあ」という、風刺めいたオチのセリフも本作の劇中の物である。
その後…
「せっかく苦心して作った飛行機をパパに壊された!」とドラえもんに泣きつき、「新しいのを出して」とせがむのび太だったが、それは実は折り紙で作った紙飛行機で、直後にパパが「僕が壊したというのは、この鼻をかんだ折り紙のことかね」と言ってきて、ドラえもんに呆れられていた。
余談
- 実際の零戦こと零式艦上戦闘機は、62型などであれば250kg爆弾程度の爆装は可能だったが、エンジンの馬力や機体の強度の問題など様々な理由から雷装は不可能である(航空魚雷の重量は800kg以上あり、軽快な戦闘機である零戦に積むには重すぎるため)。
- ラジコン大和が撃沈され、代わりに出したラジコン潜水艦だが、ラジコン零戦の魚雷にもビクともしなかった。前述の通り「模型といっても本物並みの強度がある」からという。実際の潜水艦に防御装甲はないに等しいのだが、仮に「本物並み」が「水深700mまで潜航可能」という意味だったらおもちゃ程度の魚雷では歯が立たなかったのも当然だろう(耐圧殻の防御性能については不明)。
- 一応、潜水艦のラジコンは実在しており愛好家がいる。しかも潜水・浮上までも可能なレベルの物もある。ただし、実物の潜水艦と同じ機構を内蔵するため、製作だけでもかなり費用がかかる物である。
- のぶドラ版アニメではラジコン零戦部隊の機数が増えているのに加えて、魚雷を上空からの急降下爆撃に使用して艦橋などの上部構造物を破壊しているが、本来魚雷は喫水線下の構造物の破壊を目的とした兵器である。まさにラジコンでなければ実現できないシチュエーションといえよう。
- わさドラ版アニメでは原作に準じて低空からの雷撃に変更され、実際の航空魚雷の運用に即した物となった(一方で原作及びのぶドラ版アニメではラジコン大和の航行中に軍艦行進曲が流れているが、わさドラ版アニメではカットされた)。またラジコン潜水艦の名称も「原子力」という表現がまずかったのか、「高性能ミニ潜水艦」に変更されていた。