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概要編集

原子力潜水艦(げんしりょくせんすいかん、英語:Nuclear Submarine)は、動力に原子炉を使用する潜水艦で、原潜(げんせん)と略される。対となるのがディーゼル機関による通常動力潜水艦であり、どちらも外見は同じでも中身が大きく異なっている。当然原子力を扱うので原子力技術を有する国だけが保有しており、2023年3月時点で以下の6カ国が保有している。


インド以外の5カ国は戦略ミサイル原子力潜水艦を保有している。その動力源が原子炉である為、酸素を使わずに莫大なエネルギーを長期に渡って得る事が可能であり、その分通常動力型より速い速度を長時間発揮する事が可能となっている。燃料補給は数年から数十年に一度で済む上、ディーゼルエンジンのような複雑な機構を持たない事から点検が通常動力型より少なく済む。


潜る原子力発電所である事から、潜ったまま電気を潤沢に使用する事が可能である。その為海水の電気分解から酸素・濾過機の運転で真水を得る事が可能であり、通常動力の潜水艦では成し得ない長期間の連続かつ高速の潜水巡航が可能になっている。しかし艦が平気でも艦内の人員・食料などはそうはいかないので、最長でも約2ヶ月が目安になっているという。


システム編集

動力のタイプ編集

原子力潜水艦には大きく分けて以下の2タイプが存在する。どちらも一長一短があるが、エネルギーロスの少ない前者の方が多く使われている。現在のアメリカの原子力潜水艦は全て前者・フランスの原子力潜水艦は全て後者の方式である。近年は技術の向上でこの2タイプの差も埋まりつつあり、今後の主流は変わっていく可能性もある。

  • 水蒸気によって蒸気タービンを作動させ、それによってスクリューを回転させるタイプ
  • 水蒸気によって駆動したタービンで発電し、その電力を電動機に供給してスクリューを回転させるタイプ

弱点編集

主な弱点としては騒音が通常動力の潜水艦より大きく、潜水艦の命とも言える隠密性が大きく削がれる・メルトダウンや放射能が漏れる危険が存在する事などが挙げられるが、騒音についてはアンブッシュ(待ち伏せ)で完全に停止している場合という但し書きがつく。これは機関が停止すればほぼ無音になれる通常動力の潜水艦と違い、原子力潜水艦は艦は停止していても原子炉の冷却水の循環を完全に停止できないからである。


つまり艦そのものを動かす・魚雷の発射管を展開するような行動を取れば、どちらでも同じように騒音は発生する。その為一旦交戦してしまうと通常動力の潜水艦の強みは殆ど消え、潜ったまま好きなだけ高速で動き回れる原子力潜水艦が有利な場面が多くなる。前述の騒音問題は技術が向上した事で原子力潜水艦の静粛性は年々高くなっており、通常動力の潜水艦との差は徐々に埋まっているとも言われている。


逆に停止した時の音以外の秘匿性要素については船体が大きくなりがちである点を除けば、母港から作戦海域に至るまで深々度を25ノットから40ノットにも及ぶ最高速で移動できる原子力潜水艦の圧勝で、速度が遅い上に頻繁にシュノーケル深度まで浮上する必要がある通常動力の潜水艦とは次元が違う隠密性がある。放射性物質に起因する後者の問題は割と深刻で、長年の運用から当初多発した原子力事故の発生自体は大幅に減っているものの、建造にも廃棄にも莫大な予算を必要とする特性は変わっておらず、保有していない国が保有を考える場合の最大のネックとなっている。


利点編集

月単位で潜ったままで身を潜めていられる為、戦略原子力潜水艦(対象国を核弾頭などの弾道ミサイルで狙う原子力潜水艦)と非常に相性が良く、原子力潜水艦保有国は全て核保有国である。外洋ではいつまでも潜ったまま高速で行動できるという魅力は大きく、停止しての待ち伏せ時における騒音では通常動力の潜水艦に比して不利という要素があっても、そもそも通常動力の潜水艦とは次元の違う待ち伏せ能力を持つ為、原子力潜水艦保有国の多くは前述の戦略原子力潜水艦とは別に敵の戦略原子力潜水艦を狩る存在である攻撃原子力潜水艦を保有する場合が多い。


役割編集

敵の攻撃原子力潜水艦から味方の戦略原子力潜水艦を護衛するのも、攻撃原子力潜水艦の重要な役割である。現在の先進国の対潜水艦能力を持つ水上艦艇に対して直接勝負を仕掛けるのは分が悪いとされているものの、ずっと潜ったまま追跡できるというのは敵艦隊に対して物心両面で大きな負担を強いる為、アメリカの攻撃原子力潜水艦は中国・ロシアなどの艦隊行動に対して常に追跡して目を光らせていると言われている。もちろんその逆もまた然りであり、中国・ロシアの潜水艦も西側諸国の艦隊には張り付いていると言われている。


歴史編集

1939年3月にアメリカの物理学者であるロス・ガンによって最初に提案された。1940年代には既にナチス・ドイツや日本などでも次世代エネルギーとして原子力が注目され、それを搭載した潜水艦についての構想が考えられていたという。その後はアメリカ軍内で研究が推し進められ、1954年9月に世界初の原子力潜水艦である「ノーチラス」が就役した。このノーチラス号は世界で初めて北極の下を潜航して横断した事で有名である。その後戦略ミサイル原子力潜水艦も開発され、冷戦時代から現代に至るまで世界中の各海域に潜航して報復用ミサイルが世界中どこへでも発射出来るシステムになっているという。


有名な原子力潜水艦編集

アメリカ合衆国編集

攻撃型原子力潜水艦。動力源として3万5000馬力の『S6G型原子炉』を1基搭載しており、最大潜航深度は457メートル。原子力潜水艦の中で運用・配備数・建造艦数ともに最多・最長で、改同型艦を含めると62隻である。現在では順次退役しているが、実質的な後継艦であるバージニア級原子力潜水艦が就役する2015年8月までは主力艦として保持される予定である。


  • オハイオ級原子力潜水艦

戦略ミサイル原子力潜水艦。その巨体は現存する潜水艦のシリーズでは最大クラスであり、搭載可能ミサイル数も世界最多。動力源として6万馬力の『S8G型原子炉』を1基搭載。最大潜航深度は300メートル。


ロサンゼルス級の後継艦として開発された世界最強の攻撃型原子力潜水艦。動力源として5万2000馬力の『S6W型原子炉』を1基搭載。最大潜航深度は610メートル。実際、世界最強クラスのスペックを得たがアメリカ海軍が泣きつくほどのコストと冷戦の終結によって活躍が薄れてしまったため、最初の1隻とつなぎの2隻の計3隻のみ建造・運用された。


  • バージニア級原子力潜水艦

シーウルフ級の後継艦として開発された攻撃型原子力潜水艦だが、実質的にはロサンゼルス級の後継艦である(詳細はバージニア級原子力潜水艦の項目にて)。


ロシア連邦ソビエト連邦編集

  • デルタ級原子力潜水艦

ソ連の戦略ミサイル原子力潜水艦。魚雷発射管4門およびミサイル発射管16門を備え、動力源として5万9900馬力の『VM-4SG型原子炉(2基一組構成)』を搭載。最大潜航深度は450メートル。なお、デルタ級原子力潜水艦「スヴャトイ・ゲオルギー・ポベドノーセツ」は2021年末までに解体予定。


出航~ラミウス達の旅立ち~

デルタ級の後継艦として開発された世界最大の戦略ミサイル原子力潜水艦。動力源として4万9600馬力の『OK-650VV型原子炉』を2基搭載、最大出力は9万9200馬力に達する。最大潜航深度は400メートル。ミサイル発射管を20門も備える桁外れの潜水艦だが、維持費の方も桁違いであり、本級で唯一就役中の「ドミトリー・ドンスコイ」(ネームシップ)も2020年度をもって運用終了予定である。


  • ユーリイ・ドルゴルーキイ級原子力潜水艦

ドミトリー・ドンスコイ級の後継艦として開発された戦略ミサイル原子力潜水艦だが、実質的にはデルタ級の後継艦である。魚雷発射管6門およびミサイル発射管16門を備え、動力源として4万9600馬力の『OK-650V型原子炉』を1基搭載。最大潜航深度は450メートル。


  • ヤーセン級原子力潜水艦

多目的原子力潜水艦。ロシア連邦が保有している。魚雷発射管10門及びミサイル発射管8門を備え、動力源として4万3000馬力の『OK-650KPM型原子炉』を1基搭載。通常潜航深度は520メートル、最大潜航深度は600メートル。


イギリス編集

  • チャーチル級原子力潜水艦コンカラー

HMS S48 コンカラー

フォークランド紛争において戦闘艦と交戦して魚雷で撃沈するという戦果を上げた。


日本の原子力潜水艦保有編集

現在日本は原子力潜水艦を保有しておらず、また保有する計画も無い。維持コストがかかりすぎる事が一因であるが、原子力潜水艦が海上自衛隊の政策に適合せず、要は現在の日本では原子力潜水艦の使い道が無いからである。本来原子力潜水艦が得意とするのは、長大な航続距離・深々度潜航・潜航時間を活かした敵艦攻撃・巡航ミサイルの発射といった外洋における攻撃的な任務であり、沿岸哨戒には通常動力型の方が向いていると言われてきた。しかし海上自衛隊も本心では原子力潜水艦の取得に割と積極的であり、過去に数度保有を検討している。


実は能力的に劣る・防衛ドクトリンを合わない事を理由に必要は無いとした事は無く、あくまで原子力潜水艦1隻で通常動力の潜水艦5隻から10隻分になるとされる莫大な予算・日本における核アレルギーがネックとなっており、戦闘能力的には凄く欲しいけど色々な要因で時期尚早としている。特に後者の要因が大きく、海上自衛隊が原子力潜水艦を保有するキーは、原子力動力船舶の普遍化とされている。


実際に過去のRIMPAC演習において派遣された海上自衛隊の潜水艦の足が遅すぎて艦隊行動についていけないなどの問題が発生しており、これを解消する為にスウェーデンからAIP機関を購入してみる・バッテリーを丸々リチウムイオン電池にするなど涙ぐましい努力を重ねている。そしてそれらは成功とされてはいるものの、現在でも原子力潜水艦との戦闘力の差は如何ともし難いのも事実である。


当初は低レベルだった中国の原子力潜水艦も発展していく一方であり、空母機動艦隊まで保有する中国人民解放軍海軍から東シナ海・南シナ海・インド洋にかけてシーレーンを防衛するため、海上自衛隊潜水艦も日本沿岸に潜んでいれば良いという時代では無くなりつつある為、今後も海上自衛隊の原子力潜水艦取得は検討され、そしてこの先しばらくは予算と核動力に対する拒否感を理由に却下されるであろう。


関連タグ編集

潜水艦 海軍 冷戦 沈黙の艦隊 レッド・オクトーバーを追え!

ゴジラシリーズゴジラの餌が放射能である為よくソ連やアメリカの原子力潜水艦がよく登場し、沈められている。

MUTO…映画『GODZILLA-ゴジラ-』に登場した怪獣。劇中ロシアのアクラ級原子力潜水艦を襲撃し、放射性物質を捕食していた。

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