概説
刀工並びに刀匠不詳の名刀。
近江国の戦国武将・浅井長政が愛刀としていたことからこの名を拝した。
元は織田信長の所蔵品だったが、織田家が浅井家と誼を交わす際に信長から長政へと贈られた。
浅井家滅亡の折りは、長女の茶々(淀殿)に託され、のちに豊臣家の下に収まる。
そして大坂の陣によって豊臣家が滅んだことで、一文字も運命を共にしたかに思われたが、尾張徳川家が一文字の回収に成功し、刀剣鑑定士の名家である本阿弥家の折紙を付けられ、徳川家康へと献上された。
その後、2代将軍の秀忠によって加賀前田家へと下賜され、時代が下って5代将軍・家綱の頃に威勢を振るった柳沢吉保に渡って、以後は柳沢家の重宝として保管される。
明治維新で柳沢家の家財が散逸したとき、一文字も華族の競売にかけられそうになる。
これを山県有朋が差し止め、これを預かる。
有朋氏の死後は、息子の山縣伊三郎氏が管理していたが、関東大震災の火災で消失してしまい、残念ながら現存はしていない。
紅蓮の刀剣
数々の名士の手に渡った一文字だが、同時に炎とも縁深い刀剣でもある。
浅井・豊臣滅亡に関東大震災と、大きな炎と関わる事件に三度関わっており、また渡り歩いた氏族の多くは最終的に没役や消滅の憂き目に遭っている。
ただの偶然でしかないが、浅井一文字にはこうした曰くと繋がる縁を引き寄せる何かがあったのかもしれない……。
