概要
ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス(With Heart and Voice)とは、アメリカの作曲家デイヴィッド・R・ギリングハム(David R. Gillingham)の作曲による吹奏楽曲。
アメリカ合衆国ミネソタ州にあるアップル・ヴァレー高校の創立25周年を記念して、同校のスクールバンド(吹奏楽部)の指揮者であるスコット・A・ジョーンズの委嘱(いしょく)により2000年に作曲された(出版は2001年、C・アラン・パブリケーションズより)。楽曲のグレードは4。
委嘱先のアップル・ヴァレー高校の校歌には、古いスペインの讃美歌である『Come Christians, Join to Sing(来たれ信徒よ、ともに歌わん)』が用いられており、作曲者のギリングハムはその讃美歌の最初の一節から曲のタイトルを取り上げるとともに、その讃美歌からインスピレーションを受けた主題を曲中に用いている。
作曲者をして「”声”とは音楽そのものであり、”心”とは祝典において音楽がもたらす感動である。この偉大な高校の創立25周年を祝うにおいては、我々の心と声をもって祝福するに、ほかのいかなる方法も勝るまい」(※)と述べるこの曲は、アップル・ヴァレー高校の創立時の不安や、使命への覚悟とそれに対する挑戦、そして輝かしい栄光を手にするまでの軌跡を描いた祝典音楽であり、荘厳さやきらびやかさ、躍動感や力強さなど、鮮やかに切り替わる多彩な印象を含んでいるのが特徴である。
(※)作曲者自身によるプログラム・ノートより抜粋
曲の構成
冒頭~前半部
With apprehension ♩=60 4分の3拍子(4分の6拍子、4分の4拍子)
静かに、そして不安げにたなびくフルートのトリル、ピアノとグロッケンらの打楽器群の繊細な散らばりにより幕を開けた曲は、ファゴットやトロンボーンによる4音のモチーフからなる主題の断片を挟みながらゆっくりと歩み始める。
ティンパニのリズムの後押し、連符を添える木管楽器らを加えながら緩やかに厚みを増していく音楽は、アッチェレランドによる急速な巻き上げを経ながらトランペットの重厚なファンファーレで頂点を迎える。
この強烈な響きが過ぎ去ると、新たに訪れた優しい雰囲気のなかで、フルートとユーフォニアムがそれぞれの旋律を互いに歌い継いでいく。ほどなくしてきらびやかな連符を伴ったホルンの伸びやかなフレーズが現れ、その流れを迎えるようにしてティンパニとトランペットの確固としたリズムが合流を見せる。
やがて音楽は一転して不協和音と烈しいリズムを見せつけながら突き進み、その果てに晴れ渡ったファンファーレを奏でる金管楽器が讃美歌の主題を堂々と提示する。
変奏部(展開部)
金管楽器によるファンファーレが過ぎ去ると、合間を縫って入ってきた打楽器の躍動的なリズムに乗って流れるように展開部へと移行し、アップル・ヴァレー高校の担う”使命”や”挑戦”、”献身”といったさまざまな要素を音楽によって表していく。
第1変奏は、活発なリズムを刻むシンバルとタムの先導を受けながらクラリネットが短調でテーマを奏するシーンで、随所でテンプルブロックをはじめとする打楽器が彩りを添えていく。
次いで現れる第2変奏は、ピッコロやフルートらの細かいリズムによる変奏となり、トランペットやホルンらが主題を示しつつ、ピアノの伴奏に従うようにしてテンポを緩めて静まっていく。
続く第3変奏では、緩やかになったテンポの上でフルートやサックスが清らかに歌い、それを受けたトランペットがテンポを速めながらメロディを継ぎ、大らかな安寧(あんねい)を描写する。
そして打ち鳴らされるチャイムやトロンボーン、それらを受けた木管楽器による3連のリズムを契機として第4変奏に移り、ティンパニを筆頭とする各種打楽器が変拍子のリズムを強調しながら活躍を見せていく。
再現部
木管・金管・打楽器が三位一体となって立ち回るリズミカルな導入を経て、トランペットが讃美歌の主題によるクライマックスを創り上げると、そこへきらめくリズムの木管楽器やホルンのオブリガードが加勢し、アップル・ヴァレー高校の輝かしい栄光を祝する。
そして、その余韻に浸る間もないまま曲は目まぐるしい変拍子に乗せて主題の断片を組み立てていき、Prestoの華麗でドラマティックな展開のもとに圧倒的な終幕を迎える。
主な演奏団体(関連動画)
ノーステキサス大学シンフォニックバンド(University of North Texas Symphonic Band)
シンガポール・コレクティブ・オーケストラ(Orchestra Collective Singapore)
大阪市音楽団(Osaka Municipal Symphonic Band)
フィルハーモニック・ウインズ 大阪(Osakan Philharmonic Winds)
ブルー・タイ ウインドアンサンブル(Blue Tie Wind Ensemble)
コンコルディア大学ウインドシンフォニー(Concoridia University Chicago Wind Symphony)
関連タグ
たんさんすいぶ - LAST TRACK「丹波第三高等学校吹奏楽部」に登場。
丹波第三高校吹奏楽部の定期演奏会における1曲目として演奏される。
外部リンク
参考文献
- 秋山紀夫『吹奏楽曲プログラム・ノート2』 株式会社ミュージックエイト 2014年5月14日発行 88ページ