A-12を迎撃せよ!
MiG-25開発の契機はA-12の開発計画を察知した事から始まった。
1960年5月にはU-2偵察機がソ連領内に侵入し、撃墜される事件があったため、スパイ機への対抗は急務であった。
その上、最大速度マッハ3の偵察機が登場するのだからたまらない。
かくして、MiG-25は時速3000km(マッハ2.83)の防空戦闘機として、開発が急がれる事となった。
もちろんA-12専用、というわけではない。
当時すでにB-70の開発は中止されていたが、B-58やA-5のようなマッハ2級の爆撃機が続々と登場していたため、高速の迎撃機は必要だったのだ。
A-12とは
CIAがロッキードの秘密開発部門「スカンクワークス」に開発させたスパイ偵察機。
「A」の符号が付いているが、これは攻撃機ではない。
Aはスパイ機の極秘開発計画「アークエンジェル」のコードネームを意味し、
A-12とは、この計画で12番目の開発プランという意味である。
迎撃機YF-12を経て、後にSR-71となる。
総生産数はA-12、SR-71を合わせて48機。
最大速度は高度24000mでマッハ3.2。
初めての時速3000km、そして困難。
1961年2月に開発が開始されたが、簡単な話では無かった。
なにしろ時速3000km(マッハ2.83)など、ソビエトで初めてなのだ。
その苦悩を表すように、試作型MiG-25であるYe-155(E-155)は形態を何度も変えている。
列挙すると、
・翼端チップタンクの廃止
・主翼に下半角の付与
などなど、空力でも苦労した事がうかがえる。
また、マッハ3に近い飛行には熱も問題となる。
空気との摩擦熱やエンジンの熱だけではない、機体の前縁で発生する圧縮熱も問題である。
非常な高温となるため、アルミでは融点に近づいて強度を維持できない。
そこで熱や伸びに強く、なおかつ軽いチタンで製造されているとの観測がなされた。
実態は後述のとおり、機体の殆どはスチール(つまり鉄)であり、
チタンの使用はエンジンノズルなど、わずか6%に留まった。
これをエンジンのパワーで、半ば強引に加速しているのである。
凄いのはむしろ、エンジンの方ではないだろうか。
脅威のレコードブレイカー
1967年7月9日ソビエト、ドモデドヴォ空港の航空ショーでの事。
この航空ショーではMiG-23やSu-17など、ソビエトの新型戦闘機が多く公開された。
しかし、その中で最も注目されたのはMiG-25(Ye-155)である。
上空を高速で通過するだけであったが、そのインパクトは絶大であった。
参加したのは戦闘機型3機に偵察機型1機。
ベトナム戦争でミグに苦戦させられていた西側では、大騒ぎとなった。
見るからに先進的で、高性能な戦闘機だったからだ。
その後もMiG-25は飛行記録を次々に塗り替え、高性能のイメージを決定付けた。
不安を解消した、とある飛行士の憂鬱。
イスラエル軍のレーダーでマッハ3.2のMiG-25が確認され、NATO軍はコードネーム「フォックスバット」と呼んでその性能を探り続けた。
また米軍も対抗できる機体の開発を急いだ。その完成形がF-15である。
しかし、謎のベールに包まれた最高機密は、誰もが予想だにしない事態で明るみになった。
1976年9月6日、日本の領空に突如MiG-25が出現し、空自のレーダー網とスクランブル発進したF4EJの追跡をかい潜って、北海道の函館空港に強行着陸したのだ。
パイロットのソ連防空軍中尉、ヴィクトル・イワノヴィッチ・ベレンコは祖国の生活(エリートではあったが、生活は何かと窮屈で、夫婦間も冷え切っていた)に見切りをつけ、墜落を装ってMiG-25でアメリカ亡命を目的に日本にやってきたのだった。
ベレンコの亡命は受理され、Mig-25も米軍によって解体分析された。
チタン製と思われた機体は一般的なスチール製(機体のなんと80%!!)で、マッハ3以上での飛行には制限が課せられていた。
また機首に搭載された巨大なレーダーにも、当時既に旧式となった真空管が使用されていた。(真空管は核爆発の影響を受けにくく、核戦争の想定では当然という意見もある)
調査から、MiG-25はドッグファイトを目的とした戦闘機ではなく、一撃離脱を極めた迎撃機だと判明した。
MiG-25の脅威とは、単なる過大評価だったのだ。
その後、いくつもの派生機が生まれたが、ソビエトが実戦に使用することなく冷戦終結と共に役目を終えた。
デザート・カモの蝙蝠
非常な機密、また高価なので、MiG-25の輸出は極めて限られたものとなった。
数少ない輸出国(ワルシャワ条約機構を除く)は、
イラン・イラク・アルジェリア・リビア・インド・ブルガリア
がある。
迎撃・偵察を目的とした機体であるので、戦果についてはあまり聞かれない。
有名どころでは湾岸戦争の折に、F/A-18を撃墜した事が知られている。
またインドでは、偵察型のMiG-25RBがパキスタン奥地を強行偵察している。(インド政府は否定している)
迎撃機と偵察型
MiG-25には、大きく分けて2つのバリエーションがある。
一つはMiG-25Pをはじめとする迎撃機、
もう一つはMiG-25Rに始まる偵察機である。
MiG-25P
MiG-25Rと共に、最初に開発された迎撃機がMiG-25Pである。