概要
浮遊ゲートMOSFETと呼ばれるトランジスタに電子を蓄えることによって書き込み/消去のできる不揮発メモリ。
NAND型とNOR型があり、いずれも1980年代に東芝(当時)の舛岡富士雄が発明した。NOR型は主にBIOSなどのファームウェア(機器制御用ソフトウェア)の格納用に、NAND型はFlash_SSDやUSBメモリやメモリーカードなどの大容量記録媒体として広く用いられる。
特徴
一つ一つの記憶素子が電荷を蓄えられるように作られた特殊な電界効果トランジスタでできており、電荷を蓄える・蓄えないという形で情報を記憶する。データを沢山入れるために電荷を蓄える量を何段階かに分けることもある。この構造はEEPROMと同じであり、フラッシュメモリもEEPROMの一種であるが、フラッシュメモリは書き込みや消去がEEPROMと違い、ある単位で一まとめになっている。蓄えられた電荷は残念ながらごく僅かずつ漏れてゆくので数十年以上たつと記憶内容が消えてしまう。特に、高い温度や強い放射線にさらされる環境下では過酷であればあるほどその現象が顕著になる。
また、書き込み・消去時に(メモリICとしては)高電圧をかけるので、書き込みを繰り返してゆくと徐々に電荷を蓄えにくくなってしまい、最終的に寿命を迎えてしまう。初期のフラッシュメモリ製品、例えばプレイステーションのメモリカードではこの問題が顕著であった。しかし、大容量化と書き込みドライバの改良により、一般的な実用途には差し支えないレベルになった。なお、同様にフラッシュメモリを使っていたセガサターンのメモリーカードもセーブデータ消失が問題となったが、こちらは(ROMカセットでもゲームを供給できるようにしたという)無茶な設計に起因する接触不良のためという要因が大きい。
マスクROMと異なり、製造・出荷後にプログラムのアップデートや不具合修正が容易なためパソコンのBIOSプログラム用ROMから組み込み機器用ROMの置き換えとしても使われる。ただし、書き換えを全く行わない(又は行ってはいけない)用途については従来どおりマスクROMやワンタイムROMが使用される事が今でもよくある。(大量生産時の価格が安く、動作中の意図しない動作による書き換えが行われないため)
フラッシュメモリには素子間の配線によってNOR型とNAND型の2種類があり、どちらも1980年代に東芝が開発したが、それぞれ異なる特徴があり使い分けられている。
種類 | NOR | NAND |
---|---|---|
読み込み速度 | 早 | 遅 |
集積度 | 低 | 高 |
向いている用途 | プログラムROM | ストレージ |
1990年代には出荷額の9割がNOR型でNAND型は1割ほどに過ぎなかったが、2000年代以降逆転しNAND型が9割以上を占めている。
また、概要で述べたとおり1つのセルに蓄える電荷による違いもある。
種類 | SLC | MLC | TLC |
---|---|---|---|
1セルのあたりの蓄積量 | 2値 | 4値 | 8値 |
1セルのあたりのビット数 | 1 | 2 | 3 |
アクセス速度 | 早 | 中 | 遅 |
信頼性 | 優 | 秀 | 劣 |
集積度 | 低 | 中 | 高 |
SLC:Single Level Cell (単一レベルセル)
MLC:Multi Level Cell (複数レベルセル)
TLC:TripleLevelCell (多数レベルセル)
余談
- 主に安物にて生ずる現象であるが、多数の少量データ書き込みの際(起動時のログや設定データ書き込みなど)に素子劣化を均一にさせるためのデータ分散に時間がかかってしまい、一時的にフリーズしたかのような現象が起こることがある(俗に言うプチフリーズ)ので素子へのアクセスそのものはHDDより高速とはいえど注意が必要である。 またこれはSSD全般に言えることであるが、書き込みの仕組み上、素子へ最初に書き込むときは書き込みのみ行われるが、2回目以降は一旦消去しないと素子へ書き込みが行えないので、初回は書き込みが速く、それ以降は初回に比べ遅くなるという現象が起こる。その点も注意が必要である。
- 過去にフラッシュメモリメディアの規格として存在していたスマートメディアは他のフラッシュメモリメディアと異なり、フラッシュメモリチップそのものにデータメディアとしての電極に取り付けプラスチックで封止しただけという驚くべき単純な構造をしていた。そのため、部品点数が非常に少なく故障のリスクは少ないものの、メモリチップの仕様変更の影響をモロにうけるため使用機器側がこれらを対処しなければならず、著作権管理機能も仕様機器側に依存するなど使用機器側からの管理が面倒なため姿を消した。
- 昔のコンピュータ機器に使われていた俗に言う「窓付きROM」というものがあり、これはUV-EPROMといって電気的な書き込みを行い、紫外線を照射して消去を行うものである。これは、素子のその構造からフラッシュメモリ(≒EEPROM)のご先祖様に当たる。しかし、書き込みの際にフラッシュメモリと同様に素子へ負担がかかることと使用用途などから分散書き込みをしないため書き込みは数十回程度しかなかった。運用時は外来光による誤作動や紫外線によるデータ消失を防ぐため、窓に専用のシールを貼って目隠しをする。 ちなみに、フラッシュメモリでも書き込み寿命はどんどん長くなっているとはいえ、頻繁な書き込みを想定していないもの(マイコン内蔵プログラムROM用フラッシュメモリなど)は書き込み寿命が大体数百回程度しかないものもある。