プロフィール
生年月日 | 2018年3月14日 |
---|---|
欧字表記 | Flightline |
性別 | 牡 |
毛色 | 鹿毛 |
父 | Tapit |
母 | Feathered |
母の父 | Indian Charlie |
生産者 | Summer Wind Equine |
馬主 | Hronis Racing LLC, Siena Farm LLC Et Al |
管理調教師 | J.Sadlar |
父TapitはウッドメモリアルSを勝利し、種牡馬としてテスタマッタ、クリエイターⅡ、Essential Qualityなど活躍馬を多数輩出した名種牡馬。グランアレグリアの母父としても知られる。
母FeatheredはG3・エッジウッドSを勝利し、アメリカンオークス、スターレットSで2着。
母の父Indian Charlieはサンタアニタダービーを勝利している。
経歴
デビュー前
2018年3月14日、アメリカの名門牧場・サマーウインドファームに生まれる。
それからしばらく経ったある日、ブラッドストックエージェント(注)のデビッド・インゴードがサマーウインドファームを訪れる。
お目当ては37年ぶりのアメリカクラシック三冠馬・アメリカンファラオの半弟であるタピット産駒の栗毛の牡馬。しかし、彼はそれとは別の、同じタピット産駒の鹿毛の牡馬に一目惚れする。この馬こそ、後のフライトラインだった(一方、タピット産駒の栗毛の牡馬はトリプルタップとしてデビュー。)。
その後も数度見る機会があったものの自身の直感が揺らぐことはなかったインゴードは、高額になることが予想されたため5つの馬主グループを纏めてその代理人となると、2019年のファシグティプトン8月セールにてこの馬を100万ドルで落札した。
落札されたフライトラインはアメリカの名調教師ジョン・サドラーの元に預けられると、デビューに向けて調教が積んでいたが、2020年1月の調教準備中、何らかの原因で驚いて故障を発生。治療が行われたものの、不幸にもCOVID-19の世界的大流行による社会的混乱も相まって育成が大幅に遅れてしまい、デビューが3歳の4月という遅い時期までもつれ込むこととなった。この時の掻き傷は生涯右臀部に残り続けることになった。
- 注:馬主から一定の手数料と引き換えに依頼を受け、代理人として競走馬の購買に当たる職業。正確には購買のみならず、競馬業界についてのアドバイスや目標レースの確定、繫殖機会の確保など様々なサービスを馬主に提供する一種のコンサルタントである。
3歳時(2021年)
4月、サンタアニタ競馬場6f(約1206m)の未勝利戦でデビューを迎える。スタート直後すんなり先頭を奪うと直線に入る頃には5馬身ほどのリード。さらに直線持ったまま差が開く一方。13.1/4馬身という圧倒的な着差を付けて初勝利を飾る。
続いて、9月にデルマー競馬場6fのアローワンス(条件戦)に出走。3,4コーナー中間で先頭を奪うと、またもや持ったままで12.3/4馬身差を付けて大圧勝。
デビュー2戦があまりに衝撃的な勝ちっぷりであったため、厩舎側はBCスプリントへの出走を提案する。しかし馬主がこれを拒否したため、年末の3歳スプリントG1・マリブSに出走することになった。
マリブステークス
マリブSにはG1を既に2勝し、その年のBCスプリントでハナ差の2着ドクターシーヴェルも出走しておりメンバーのレベルは決して低くなかったが、その中でも圧倒的1番人気に推された。
スタートするとすんなり先手を奪い、やはり今度も馬なりで、しかも鞍上が大きく振り返って後続馬の様子を確認するほどの余裕を見せつけながら他馬を一切寄せ付けず11.1/2馬身という驚愕の着差をつけてG1初勝利。
ロンジンワールドベストレースホースランキング(以下LWBRR)では124というレーティングを獲得し、ダートスプリントにおいてトップの評価を得た(芝まで入れてもネイチャーストリップと同値)。また、競走馬のパフォーマンスを表す指標の一つであるベイヤー指数では118という数値を叩き出した。これは2021年のアメリカ競馬全レース全競走馬の中で最高値であった。
4歳時(2022年)
当初はサンカルロS(G2)での復帰を予定していたが、2月の調教後に飛節を痛めたためこれを回避し、当初の目標であったメットマイルことメトロポリタンH(G1)に直行した。
メトロポリタンハンデキャップ
フライトラインにとって初のマイル戦。ここでは出走馬5頭中フライトライン含め4頭がG1馬、しかも前年BCスプリント勝ち馬アロハウエストや前走カーターH(G1)を圧勝したスピーカーズコーナー、2着続きではあるもののG1で好走を続けるハッピーセイバーなど好メンバーが出走する中、圧倒的な1番人気に推される。
大きく出遅れながら、3,4コーナー中間で先頭に立つとあとは独走。今回は馬なりではなかったが、残り数十mで鞍上が完全に追うのをやめる余裕を見せつけノーステッキ6馬身差でG1・2勝目とした。
この勝利を受けたレーティングは126と発表されたのち、127に上方修正された。この時点で既にダートでは2022年度トップ、芝を合わせてもバーイードと1ポイント差の2番目の評価であった。
パシフィッククラシックステークス-競馬史に残る大圧勝劇
大目標BCクラシックに向け、ダート10fのパシフィッククラシックS(G1)に参戦。2ハロンの距離延長が不安視されたが、その年のドバイワールドカップ勝ち馬カントリーグラマーを抑えて単勝1/5(1.2倍)の圧倒的1番人気に推される。
五分のスタートから2番手を追走。道中抑えきれんばかりの手応えで進出していき、3コーナーに差し掛かったあたりで既に他馬は馬なりのフライトラインに付いていくことすらできない。直線に入ってなお差は開く一方。最後は100m以上流す余裕を見せつけて19.1/4馬身という圧倒的かつ絶対的な着差を付けてゴール板を駆け抜けた。走破タイム1:59.28はトラックレコードまで0.17秒という最後流しておきながら出したとは思えないタイムである。
この勝利によりLWBRRでは139というシガーの135を上回る米国史上最高にして世界を見渡してもフランケルに次ぐ史上2位を得ており、タイムフォームレーティングにおいても143という米国馬としてはそれまでの最高であるアロゲートの139を上回る単独トップ。また、レーシングポストレーティングにおいては140を獲得。ドバイミレニアムの139を超え、フランケルの143に次ぐ全世界史上2位の評価を得ている。ベイヤー指数においても、126という数値を叩き出し、ゴーストザッパーの128に次ぐ史上4位タイとなっている。
BCクラシックを前にFlightlineの所有権の2.5%をオークションにかけることが発表された。
ブリーダーズカップクラシック
パシフィッククラシックSの後はBCクラシックに直行。
主な対抗馬としてはトラヴァーズSを勝利し2022年連対率100%を誇る3歳馬エピセンター、前年のBCダートマイル勝ち馬にしてこの年にペガサスWC、ホイットニーS、ウッドワードSとGIを3勝しているライフイズグッド、この年にGI2勝を挙げている3歳馬テイバなど。それ以外も出走全8頭全てがGI馬という豪華なメンバーであったが、それらを押しのけ圧倒的な1番人気に推される。
スタートは五分に決めライフイズグッドが先陣を切るところをぴったりと2番手に付ける。そのまま1マイルの通過タイムが同日に開催されたBCマイル勝ちタイムより速い超ハイペースで逃げるライフイズグッドを付かず離れず2番手で楽々と追走し後続を2頭で大きく離していく。このハイペースを刻んだライフイズグッドは直線で失速。しかしフライトラインは全く苦にしない。懸命にステッキが入るライフイズグッドを尻目に初めて圧倒的な伸び脚で見る見るうちに突き放していく。なおも余裕を十分に残したまま後続を8.1/4馬身千切り捨て、世界最強馬はゴール板を駆け抜けていった。
最終的な単勝オッズは1.44倍。BCクラシック史上最も低い単勝オッズでの勝利であった(なお、2着圏内の複勝が1.46倍と単勝よりも高い事態が発生した。)。
また、2着に付けた着差8.1/4馬身はフライトラインにしては2番目に着差が小さいレースだが、BCクラシック史上最も大きいものだった。
この勝利によるレーティングはベイヤー指数が121、タイムフォームで136、レーシングポストで138とパシフィッククラシックSに比べて伸び悩んだ(とは言えこれに比肩できるレーティングを2022年に得た馬はバーイードしかいない)。この原因としては、これらのレーティングは全体走破タイムを基に算出しているため、あまりにも極端な前傾ラップによって全体走破タイムが悪化してしまった事が挙げられるだろう。
LWBRRのレーティングは不明。ただし、11月10日付の更新において139のままだったため、139以下であることは確実で、フランケルの140を更新することはできなかった。こちらは走破タイムに関係なくプレレーティングと着差、斤量によってのみ決定されるため、着差がフライトラインとしては小さかったのが原因とみられる。
2023年次も現役続行のプランもあったが、元々脚部不安を抱えながらの現役であったため、種牡馬としての価値とリスク、現役を続行した場合の利益などを天秤にかけた結果、BCクラシックを勝利した翌日の11月6日に現役引退が発表された。引退後はケンタッキー州・レキシントンのレーンズエンドファームで種牡馬として繋養される。初年度の種付け料は20万ドル。
デビュー前も、4歳の頭にも故障を発生し、クラシックに出走することもできず、決して順調なキャリアではなかった。しかしその中でも6戦すべてを大圧勝、7fから10fでGIを計4勝し、2着に付けた着差の合計は僅か6戦で71馬身にのぼる。現役最強候補のほぼ全てをその圧倒的な走りで撃破し、全く底を見せることなく最強のまま現役を退いたフライトラインは、アメリカのみならず全世界の競馬史に永劫刻まれる最強馬の一頭として語り継がれていくことだろう。
引退発表の翌日11月7日、予告通り所有権の2.5%がオークションにかけられた。フライトライン自身が出場できないことや昨今の情勢、また海外からのオークション参入などを目的としバーチャル空間でセリを行うという珍しい光景となった。肝心のオークションは100万ドルという高値から始まったにもかからわず、開始直後から激しい競り合いが続き、落札価格は驚異の460万ドルにのぼった。当日のドル円レート(1ドル=146.55円)に照らし合わせると6億2813万円になる。しかもこれは2.5%の落札価格でありフライトライン全体の価値は1億8400万ドル、日本円にして269億6250万円という想像を絶するものになり、円安とアメリカのインフレが働いているとはいえなんと過去最高売上を計上した同年のセレクトセール上場馬全ての落札価格の合計257億6250万円よりも高かった。
種牡馬成績
種付け年 | 種付け料 | 種付け数 | 代表産駒 |
---|---|---|---|
2023 | 20万ドル |
レーティング
特筆すべき評価を得たものを記載。
マリブS
レーティング | 数値 | 備考 |
---|---|---|
ベイヤー指数 | 118 | 2021年アメリカ競馬最高値 |
LWBRR | 124 | 2021年ダートスプリント最高値 |
メトロポリタンH
レーティング | 数値 | 備考 |
---|---|---|
ベイヤー指数 | 112 | 2022年ダートマイル暫定最高値 |
LWBRR | 127 | 2022年ダートマイル暫定最高値 |
パシフィッククラシックS
レーティング | 数値 | 備考 |
---|---|---|
ベイヤー指数 | 126 | 2022年暫定最高値アメリカ競馬史上4位タイ |
LWBRR | 139 | 2022年暫定世界最高値、米国馬史上最高値、世界史上第2位 |
タイムフォーム | 143 | 2022年暫定世界最高値、米国馬史上最高値、世界史上第5位 |
レーシングポスト | 140 | 2022年暫定世界最高値、米国馬史上最高値、世界史上第2位 |
BCクラシック
レーティング | 数値 | 備考 |
---|---|---|
ベイヤー指数 | 121 | |
LWBRR | 不明(139以下) | |
タイムフォーム | 136 | |
レーシングポスト | 138 |
特徴・エピソードなど
もちろんその桁違いの能力も特筆点なのだが、非常に大きな馬体の持ち主でもある。その恵まれた体躯と素晴らしい柔軟性、そして他を寄せ付けない強靭かつ巨大に発達したトモの筋肉が繰り出す躍動感に溢れる走行フォーム、そしてそのフォームから繰り出される圧倒的なストライド長は8mを超えると見られる。だが、その圧倒的な脚力が脚部不安の原因のひとつになっている可能性もある。サドラー調教師は彼が不調のときはレースに出走しない方針を出しており、これがキャリアの少なさにも絡んでいる。なお、アメリカ競馬に馬体重測定の文化はないので正確な馬体重は分からない。右の臀部に大きな傷跡がある。
特徴としては目の上のくぼみが非常に深く、またレースでは青いシャドーロールを着用していた。
圧倒的な競走能力ゆえ、彼にムチが入ったことは1度もなく、BCクラシックも含め、6戦すべてで最後は流している。そのため、ここまでの圧勝劇を演じながら、どのレースも彼は本気を出していなかった。ベイヤー指数は全体走破タイムと距離、トラックバイアスの3要素から算出されるため、彼はここまでの高い数値を出しておきながら、さらに高い数値を出せていたとも考えられる。
圧勝に次ぐ圧勝で能力の違いをまざまざと他馬に見せつけてきたフライトラインだが、1度もレコードタイムを叩き出したことはない。とはいえ、異常な前傾ラップになったBCクラシックと出遅れたうえ2番手に控えて前半が割合スローになったメトロポリタンHを除いた4戦においては、びっしりと追っていればレコードタイムを出しても全くおかしくない。特にパシフィッククラシックSでは前述の通り100m以上流したうえでトラックレコードまで0.17秒というタイムで走破しているため、いくらでもレコードの出しようはあっただろう。似たような事例は日本にも存在する。
フライトラインが他馬に比べ最も抜きんでているところは、「巡行力」と言えるだろう。分かりやすく言えば「無理なく刻めるペースのレンジの広さ」だ。最も分かりやすいのがBCクラシック。どちらも異常なまでのハイペースなのだが、逃げるライフイズグッドとそれを付かず離れず追走するフライトラインでは最後の伸び脚がまるで違う。もちろん心肺能力や距離適性も関係してくることだが(ライフイズグッドは10f戦で勝利したことがない)、これほど大きな差が付くには巡行力の差が出ていると見るのが自然である。タピットの産駒は、巡行力が高い反面一瞬の切れ味では一枚劣るような馬が多いが、フライトラインはまさにその典型例と言えるだろう。もっとも、一瞬の切れ味での面でも圧倒的である可能性は十二分にある。
フライトラインが2022年7月30日にデルマー競馬場6fで併走追い切りを行った際、一流のスプリンターを軽々とぶっちぎる彼の併せ調教という無茶苦茶な使命を負ったこの時の併走馬の名前は"Impossible Task"(不可能な仕事)であった。
関連タグ
シンザン:ビッグタイトルをいくつも獲り、常にずば抜けた成績だったが、1度もレコードを出したことがなかった。「レコードを出す気ならなんぼでも出せる」という主戦・栗田勝の名言も有名である。