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概要

マーガレット・ヒルダ・サッチャー(英語:Margaret Hilda Thatcher、爵位:男爵、1925年10月13日 - 2013年4月8日)は、イギリスの政治家。第71代イギリス首相。首相としての11年と半年の在任期間は、1812年6月に就任したロバート・ジェンキンソン元首相以来長期に渡った。総選挙で3回連続で保守党を勝利に導いて地滑り的に2回勝利したサッチャーは、勝利した党に投じられた票の点で、イギリス史上最も人気のある党首の1人にランクされている。

経歴

政治家になるまで

1925年10月13日にイングランドのリンカンシャー州グランサムで、食品雑貨商の家庭に誕生した。1943年10月にオックスフォード大学に入学して化学を専攻し、1947年6月にその学位を取得して卒業した後は企業研究員としてアイスクリームを研究した。一方で経済学に関心を抱き、フリードリヒ・ハイエクの唱える「新自由主義」に傾倒した。1950年2月に保守党から23歳の若さで庶民院議員選挙に立候補するも落選し、その後は1954年6月に弁護士の資格を取得する。

1959年10月に2度目で保守党所属の庶民院(下院)議員に当選し、党内では右派に属して新自由主義政策を世界で初めて導入したチリの独裁者のアウグスト・ピノチェトに心酔する。1975年2月に保守党党首となり、1990年11月まで同職にあった。

首相

1979年5月に首相に就任し、初の女性首相が誕生した。「ゆりかごから墓場まで」をスローガンとする高福祉政策・産業の国有化によって国民の労働意欲が減退し、「イギリス病」と揶揄されるまでになったインフレと高い失業率に苦しむイギリス経済を新自由主義政策によって再建し、「小さな政府」を目指した。冷戦に対しては、アメリカと共にソ連共産主義に対して反共姿勢を構えた。

1982年3月にアルゼンチンフォークランド諸島を巡り、フォークランド紛争が勃発した。任期最大の危機に直ちにイギリス軍を出動させ、2ヵ月後にイギリスの勝利によって終結させた。これによって支持率が急回復し、大胆な改革の推進が可能となる。「小さな政府」を掲げて新自由主義のもとに急進的で大胆な改革を繰り広げた訳だが、この改革は例えるなら小泉政権時代の構造改革を過激化したようなものである。

サッチャーの新自由主義による改革(サッチャリズム)でインフレの抑制・規制緩和・労働組合の弱体化などには成功するも、失業者が激増した事から不人気となり、任期の後期は新自由主義政策を断念してリフレ政策に転じる。これで支持が持ち直して3期に渡って首相を務めたが、人頭税の導入が反発を受けた事から、1990年11月に首相を退任した。「イギリス病」は1997年5月に保守党から政権を奪回し、サッチャリズムを継承した「第3の道」を掲げる労働党のトニー・ブレア政権で是正されていった。

退任後

1992年6月に貴族院議員となり、1998年10月にロナルド・レーガン自由賞を受賞した。2000年頃から認知症を発症し、2008年8月に娘である作家のキャロルが母の認知症を公表した。2003年6月に夫に先立たれて更に症状が悪化し、夫が既にこの世にいない事も忘れてしまい、家族をいたく悲しませたという。

2013年4月8日にウェストミンスターにて、脳卒中によって87歳で死去した。イギリスでは「サッチャーの手によってたった今地獄が民営化された。」と皮肉り、国葬とサッチャーの死を祝賀するデモが同時に開催され、サッチャリズムがイギリス社会にもたらした亀裂を露呈した。

鉄の女

異名として知られる「鉄の女」は本来ソ連国防省の機関紙がサッチャーを非難する目的で使用したものだが、皮肉にもサッチャー自身が気に入ったので広く使用される事となった。

後にサッチャーの功績を称えてブロンズ像が設置された際に、「鉄も良いけどブロンズも悪くないわね。」とジョークを飛ばしたほどであった。

上記のブロンズ像発言の他にも首相として参加した最後の党大会のスピーチでは、モンティ・パイソンの「死んだオウム」を使用して自由民主党を批判して会場を大爆笑させるなど(シンボルマークはオウム)、イギリスの政治家らしくジョークに富んだエピソードが多い。

家族

1951年12月にデニス・サッチャーと結婚し、1953年8月に双子の子女が誕生した。仕事には厳しく、短気で激高しやすかったと言われ、世間では夫を尻に敷いているようなイメージが喧伝されていた。これはサッチャー自らそのように演出していた面もあるが、家庭では良妻賢母型であり、政治に当たっても夫の助言をよく聞いていたという。

映画

2011年12月に『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(原題:Iron Lady)が公開され、メリル・ストリープがサッチャーの役を演じた。