大まかな概要
突然の消失
インドネシアのスラバヤにあるジュアンダ国際空港を飛び立ちシンガポールのチャンギ国際空港に向かった8501便は、進路上にある悪天候を避けるために飛行コースの変更と高度上昇のリクエストを管制に行う。それに対し管制は進路変更は認めるが高度に関してはしばらく先にせよという指示を返すが、8501便は何故か反応を返してこない。しばらくすると同便の高度が急激に上昇してゆき、後発の便に抜かれるほどに速度を失ってゆく。
そして唖然とする管制官の目の前で失速しすぎて揚力を失った同便はレーダーから消失。同日のインドネシア時間の6時55分にエアアジアは8501便が行方不明になったことを発表する。
その日漁に出た地元漁師は海に浮かんでいた残骸を発見するが、当の本人は墜落した飛行機とは露にも思わず翌日まで仕事をして帰宅。するとジャワ海で8501便が行方不明になったニュースが報道されており、気になった彼は警察を通して当局に通報。次の日の12月30日に彼の証言をもとに捜索してみたところ、機体の残骸や遺体が発見された。
ツッコミどころ満載の状況
海の上に墜落したことで衝撃により粉々になって大半が海底に沈んだ上、この時期のジャワ海は時化っていたためため、NTSC主体の調査は難航した。
まずは残骸が集まる前に管制塔のデータをもとに飛行経路と天気図を照らし合わせたが、8501便は悪天候の空域には入っていなかったことが判明。取り敢えず拾い集めた残骸に焦げた跡や衝撃で膨らんだ形跡はなかったので爆弾テロの可能性は除外、更には破片の散乱範囲が比較的狭かったことから空中分解の線も消える。
なんとか送信信号の期限までに回収できたCVRやFRを真水に漬けて塩分を洗い流し、データの取り出しも成功。調査班はCVRから手を付けてコクピットでの出来事に触れ始める。
そして8501便は些か厄介なトラブルに見舞われていたことが判明した。
離陸直後からECAMが度々警報を鳴らし、それを手順に従って警報を解除しては再び鳴らされるというゲンナリするような行動を強いられていた。この手続きに手間取り手順の合間に航路変更のリクエストは出来たものの、それに対する復唱がECAM警報に気を取られて出来ていなかったことが分かる。
そして何度目かのECAM警報が鳴るが・・・
機長「いや、いい方法がある」
機長が何を思ったのか手順とは異なる何らかの行動を実行。それにより、今度はオートパイロットがまるごと解除された。これにより機体が失速したという警報が鳴り、それに対してパイロットは失速防止システムが働かないため手動で何とかしようとするが、混乱して有効な手立てを見出せず落下していった。
FRの方はデータの取り出しにてこずったために一旦機体の整備記録に目を通したところ、警報の原因が判明。事故機はRTLU(Rudder travel limiter Unit方向舵リミッターユニット)の故障を抱えており、一年近く23回(そのうち11回は事故の2~3か月前から)も不具合を起こしていたのである。それに対しインドネシアエアアジアは小手先で警報をリセットして処理するだけで根本的な検査はしていなかった。
そしてデータを見てみたところ破綻した4回目ではコンピューターの電源が丸ごと切れて方向舵が2度左に向き、それに伴い機体が50度以上も左に傾いたのにそれに対応し始めるのに9秒もかかってしまったことが記録されていた。その後副操縦士は操縦桿を右に左に激しく傾けながら引いてしまいピッチ角が45度になり、その後失速していったようだ。
…しかし一体何をやったらこのような不可解な現象が起こるのだろうか…?
迷走の原因
そうやって調査官が事故の状況に首を傾げていると、一通の電話が飛び込んできた。電話の主はどうやらエアアジアの整備士の一人の模様。事故で気をもんでいた彼は数日前の経緯を説明した。
12月25日、警報の頻発に頭を悩ませていた8501便と同じ機長が地上の空港で事故機を待機させているさなかにその整備士に対応を依頼していた。整備士はまず手順通りにECAMの警報解除をおこなうが、再び起動すると再び警報が鳴る。するとその整備士は・・・
整備士「いい手がある」
と言いながらメインコンピューターの回路そのものを遮断。これにより警報を黙らせた。すると機長は何を思ったのか
機長「また鳴ったら、同じようにやればいい?」
整備士「・・・まぁ・・・ECAMに従うことですね」
この手順で対応すればいいのか問いかけてきたのだが、まさか飛行中にやるとは思いもしなかった整備士は素直にECAMの普通の手順で対応することを勧めたそうだ。
だが、8501便で短時間で警報が頻発したのにキレたのか、どうやら整備士に止められてた手順をやらかしてしまったらしい。
試しに調査官がシミュレーターで同じように機長が操縦席を離れて回路を弄り遮断するという手順をやったところ、やはりフライトレコーダーと同じように自動操縦やオートスロットルといった機体を制御するシステムそのものが切れてしまっていた。
更にはそれで数秒間機体が大きく傾いたが、副操縦士は姿勢指示器を見ていなかったのか傾きに気づかない。機長がようやく戻って慌ててそれを指摘し副操縦士に姿勢を戻すよう指示したが、数秒間も斜めに傾いていたため内耳の方向バランスがくるっていた副操縦士は空間識失調を起こしていた。傾いたと誤認して混乱していた副操縦士は機体が降下していると勘違いし、再び操縦桿を激しく動かしながら引いて機体を傾けてしまいその結果飛行機はバランスを崩す。
それに対しする機長の対応も効果はなかった。機長は「引き下げろ!」と絶叫したが、これは操縦桿を引く=機首を上げるなのに対し、機首を下げる=操縦桿を押すなので副操縦士はますます混乱。更には機長はこのままじゃ埒が明かないと操縦しようとしたが操縦桿のボタンを押す時間が足りなかったため操縦桿の権限を握り切れておらず、同時操縦で舵の操作が相殺され失速して墜落。せめて「私が操縦する!」と指示して混乱している副操縦士を操縦から一旦外すべきであった。
そうして8501便の調査が大詰めを迎えたころ、エアバスに送ったRTLUの検査結果が届いた。なんと電子基板のはんだに亀裂が入っており、回路がつながったり切れたりしていたのである。ソフトの問題ではなくハードそのものが壊れているという可能性に頭がいかなかった整備班にも問題があり、生兵法の対処法で事態を悪化させ大惨事を引き起こしてしまっていたのだった。調査官にも「寧ろ外してしまった方がよかったぐらいです」とツッコまれている。
関連タグ
エールフランス447便墜落事故・・・副操縦士が混乱して機首を上げようと操縦桿を引きすぎた結果操縦桿の効果が相殺され、失速して墜落した数年前の航空事故。状況があまりに似てたことから同様の原因が疑われただけでなく、8501便では機長も副操縦士もやらかしたためメーデー民からダブルボナンとか言われてしまっている
フィクションじゃないのかよ!騙された!←用語等はこちらに