T-35
ちじょーるぃいたーんくてーとりーっつぁちぴゃーち
概要
ソ連のハリコフ機関車工場で1933年に制式化された、砲塔5つを有する多砲塔戦車である。
当時、イギリスで開発されたA1E1 インディペンデント重戦車に触発され、世界各国で多砲塔戦車ブームが到来した。しかし通常の戦車よりコストがかかるため、世界恐慌を受けてほとんどの国が開発を断念。だがソ連は計画経済によって世界恐慌の影響を受けておらず、予定通りT-35やT-28のような多砲塔戦車を開発できたのだ。
武装は中央部に主砲の76.2mm榴弾砲、その右前方と左後方に対戦車用の45mm副砲、左前方と右後方に7.62mm機銃塔という配置である。このように武装を山盛りにしたため、全長9.72m、全幅3.20m、全備重量50t〜54tという巨体となった。実戦投入された戦車の中ではマウスに次ぐ巨体である。最大速度は28.9km/hとされている。
その巨体を操る乗員は、
車長 兼 主砲装填手
主砲砲手
通信手 兼 主砲装填補助
副車長 兼 前部45mm砲砲手
前部45mm砲装填手
後部45mm砲砲手
後部45mm砲装填手
操縦手
前部機銃塔射手 兼 副操縦手
後部機銃塔射手
この10名に加え、
操縦手代理 兼 走行装置・トランスミッション整備手
エンジン整備手
……の2名が車外に随伴し、合計12名で運用した(普通の戦車にも車外員が随伴することはあった)。ちなみに副操縦手というのは交代要員のようなもので、操縦席は一つだけである。また車外に随伴する整備担当以外にも、各乗員がエンジンや走行装置などのメンテナンスをそれぞれ分担されているのだが、記事がややこしくなるので省く。
試作車2両を含む63両が完成し、末期には傾斜装甲を取り入れた円錐砲塔型が少数作られた。砲塔を5つ持つ多砲塔戦車で量産されたのはT-35くらいである。
で、強かったのか?
結論から言うと失敗兵器である。
以下は多砲塔戦車共通の欠点ではあるが、
1.武装と乗員が多すぎ、射撃の指揮がしにくい。
2.各砲塔が互いの射角を邪魔するため、最大火力を発揮できない。
3.構造が複雑化し重くなるため故障が多く、整備性が悪い
4.車体が大きくなるため被弾しやすく、しかも重量軽減のため装甲も強化しにくい。
5.コストが高い。
6.一次大戦のような塹壕突破を目的としていたが、二次大戦は機動戦の時代となった。
などによって、まともに使える戦力では無いことが明らかになった。
また塹壕突破が目的と言ったところで、初期の車両を運用した乗員は「わずか17°の傾斜しか超えられない」と報告しており、走破性は劣悪だった。
1の欠点については1935年秋頃に、軍艦に使われる射撃管制システムを応用し、各砲塔の照準を一元管理するという研究が行われた。この奇抜なアイディアは1年かけて研究されたものの、管制装置を操作するために乗員がもう1名必要になることと、装置の信頼性の問題などから中止された。
1940年には「砲塔を取り払って自走砲に改造すべき(実際に152mm榴弾砲を搭載したSU-14という自走砲型が1両のみ作られている)」とか、「見た目は強そうだからパレード用の車両と割り切るべき」とか、様々な議論がなされるようになった。
開発にGOサインを出したスターリンもやがて多砲塔戦車について懐疑的になり、「君たちは何故戦車の中に百貨店を作ろうとするのかね?」と皮肉った話は有名である。
それでも戦わなくてはならない
独ソ戦が始まると、T-35も実戦投入された。中にはドイツ軍と戦火を交えた車両もあるが、ほとんどはその前に故障や擱座によって脱落し、乗員によって処分された。しかし最初に落伍した車両も数百キロは走行していたようで、乗員の努力が窺える。
こうして実戦はさしたる戦果も上げられず、結局そのポテンシャルを最大限に発揮できたのはパレードだけだった。
またウクライナに配備されていた1両をUPA(ウクライナ蜂起軍)が鹵獲し、「ステパーン・バンデーラ(ウクライナ民族解放運動の指導者)に栄光あれ」「ウクライナに栄光あれ」などのスローガンを書かいて使用したという。運用に関しては伝説に過ぎないが、写真が一枚残っているのでUPAが鹵獲したのは事実らしい。またUPAはT-34も鹵獲運用している。
後方に配備されていた1両と、上述のSU-14の試作車1両のみが現存し、クビンカ戦車博物館に展示されている。
ソ連はT-35以降もSMKやT-100といった多砲塔重戦車を開発しているが、いずれも失敗作として扱われている。一方中戦車であるT-28はある程度信頼性や発展余裕があったため、多数が撃破されたもののある程度の戦果は上げられた。
登場作品
- コンバットチョロQシリーズ
(一応)シリーズ皆勤の戦車。
その強そうな見た目から初代PS「コンバットチョロQ」ではなんとラスボスを務める。榴弾を放つ強力な主砲や連射可能の副砲で攻撃するほか、鈍重な多砲塔戦車とは思えない突進攻撃を行うこともある。
しかし中盤に登場するマウスの鬼のような強さの前には霞んでしまう。
バトルアリーナ「ボスクラス」で交戦するT-35は仕様が異なり耐久力が増大し、突進攻撃の頻度も高いこともあってマウスより幾分強い印象になった。ただこっちはこっちで次の相手が3対1というさらにインパクトのある相手だったり、巨大化弾やオールレンジ攻撃などぶっ飛んだ攻撃を繰り出すボスタンクも現れるので総合的に言えば地味な部類ではある。
PS2「新コンバットチョロQ」では直接は登場しないが最終ステージ「Qシュタイン帝国」で前作ラスボスの肖像画が飾られている。
GBA「コンバットチョロQ アドバンス大作戦」では主人公チームの一員「ヴォドカ」として登場。「T型タンク」と「多連砲塔」で再現可能。
こちらは大型の車体に反して装甲は軽戦車レベルと実車の特性を再現している。ただしHPは高いので耐久力はそこそこ。3ヘクスの範囲攻撃が可能で、低確率で敵をスタン(麻痺)・パニック(混乱)状態にする。T型タンクは前述のように装甲こそ軽戦車並だが、雪原に強いという特性がある。
敵タンクとして登場する際には攻撃を3回無効化できるデコイを装備して装甲の低さを補っている。
また敵タンクの中には主砲を強化型の「多重砲X」に換装した架空の改良型「T-X」も登場。本作では敵タンクを捕獲してパーツのひとつを奪うことが可能であり、多重砲Xはこれらの敵タンクからしか入手できない。
攻撃範囲が7ヘクス範囲攻撃に強化され、射程と命中率も強化されている。
「打撃軍」というステージで友軍として登場。こちらは実車同様の紙装甲。作戦終了時点で生存しているとスコアが加算される。
- 超戦車イカヅチ前進せよ!/鋼鉄の雷鳴
珍しいオイ車を主役にした架空戦記。中ボスクラスの強敵として10両が登場。日本海海戦の意趣返しのような丁字戦法で日本軍を苦しめるが、主人公の奇策で撃破される。
模型のみが登場している。