概要
アメリカフロリダ州を発祥とするモータースポーツであり、その組織の団体の名称でもある。
大小多くのレースが存在するが、その全国大会とも言えるのが「三大シリーズ(カップ、エクスフィニティ、トラック)」で、その中でも「カップシリーズ」が頂点に位置する。一般的に"NASCAR"というとこのカップシリーズを指す。
同国で最も人気があるモータースポーツで、アメリカ6大スポーツの一つにも数えられるほどである。
2月~11月まで36戦あるため、ほぼ毎週末アメリカの何処かで必ずレースが行われており、
そのハードスケジュールぶりゆえドライバーも非常にタフ。中には同じ週末にNASCAR3大シリーズのレース全てに参加し、3つ全て勝ってしまうというバケモノもいる。
しかも僅かな例外を除いて、殆どが楕円形のオーバルトラックで競われるのが最大の特徴で、何百周も直進と左折を繰り返すだけという過酷なレースである。
と、こう書くと単調な耐久レースにしか見えないが、オーバルトラックには特有の駆け引きが多数存在しているためレース展開はとても目まぐるしくて見ていて楽しいのが人気の秘訣である。
レースによっては、オープニングセレモニーにアメリカ空軍のアクロバットチーム『サンダーバーズ』が飛来する。
発祥
アメリカのアマチュアレースがルーツと言われている。一説には、禁酒法時代に密造酒を運ぶ為にパトカーの追跡を振り切るべくチューニングを重ねた車を、仲間同士で競い合ったのが発祥とか…
マシン・レギュレーション
元々がアマチュアレースである為にマシンは市販車の改造車によって行われていた。
現在は、鋼鉄製のパイプフレームの上に市販車の形を真似たボディを被せたもの(ヘッドライトなどの灯火器類はそれらを模したステッカーである)が使用される。
また、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スカンジウムやカーボンといった先進的な素材は禁止、燃料の供給はキャブレター(〜2011)、エンジンはV8のOHVでホイールもスチール製でセンターロックではなく5穴、車検時には「テンプレート」をあてがい、空力のチェックをするという他にはない独特なルールが存在する。
これは、ルーツがアマチュアレースということ、かつてエアロウォリアーと呼ばれた車種の開発競争によりコストが高騰した反省から、技術競争の激化や開発費の高騰を抑制するためとされている。 ところがOHVのくせに10000rpmまで回るエンジンや、アルミニウム製と同等か更に軽いスチール製ホイールを開発してしまっているところを考えると効果のほどは…
つまるところ、枯れた技術でも特化すれはF1並みかそれ以上の技術力が要求されるのである。
2022年シーズンから車両規定が変更され、これまでの"Gen6"から"NextGen"と呼ばれる新世代となった。新規定では、リアが独立懸架に、トランスミッションが4速Hパターンから5速シーケンシャルに、ステアリング機構がラックアンドピニオン式に変更となるなど、エンジン以外の機構面で多くの変更が行われた。
だが外見の変化はそれ以上に大きなものとなった。ボディ形状の変更に加え、伝統の5穴スチール製、15インチのホイールは、F1と同じくBBSが供給する18インチのセンターロック式アルミ鍛造ホイールに変更され、リアからはディフューザーが覗いている。内側も外側も現代のトレンドを取り入れたことで、欧州のGTカーのような風格を備えた全く新しいストックカーとなった。
2023年のル・マン24時間では開催100周年を記念して"NextGen"車両をベースとしたハイブリッド改造型カマロZL1が招待枠「ガレージ56」から参戦した。
NASCARの規則によって3450ポンド (≒1560kg)もあった車体は徹底した軽量化で200kgの贅肉が削がれたがGT部門のLM-GTE車両より100kgほど重く、高速コースに合わせ大量に装着されたカナードと夜間走行用のヘッドライトなど、NASCARともGTEカーとも言えぬ"マッチョなGTカー"に仕上がった同車だったが、LM-GTE最速だったフェラーリをぶっちぎるどころか一部のプロトタイプカーすら上回るタイムを記録した。
更にレースウィークに行われたタイヤ交換の素早さを競う「ピットストップチャレンジ」では、エアジャッキを採用するマシンしか居ない中で唯一となる人力ジャッキ採用マシンながら総合5位、GTカー部門では文句なしの1位を記録するなど、屈強なNASCARはマシンもピットクルーもツワモノ揃いだった。
日本からは、2007年から最高峰のカップシリーズにトヨタ自動車がカムリで参戦中。
2019年からは一つ下のエクスフィニティシリーズにGRスープラを投入している。
用語など
同じ状況・同じ意味を持つ言葉でも、世界各地を転戦するFIA管轄のレースとアメリカ独自の競技であるNASCARでは言い回しが異なる場合があるが、全てを網羅するのは非現実的なので一部割愛。
本稿では、NASCAR独自の用語を解説する。
コーション
コース上が危険な状況になった場合に出される。ほかのレースで言う「イエローフラッグ」(追い越し禁止、フルコースコーション)に該当する。ペースカー(セーフティーカー)が入り、1位のクルマの前に入り先導する。ピットインは基本的にこの時行われ、チームの戦略を見る上でも見逃せない場面である。
基本的にはクラッシュが発生した場合に出されるが、レース展開が単調になった時には変化を出すために観客が落とした些細なゴミでも発動される。
ラッキードッグパス
周回遅れのクルマに対して発動される救済措置。コーションが発動された際に、周回遅れの中でトップのクルマがペースカーを追い抜き、1周多く回りその遅れを取り戻させるという措置。
たとえ周回遅れにされても逆転できるチャンスであり、レース展開をさらに盛り上げる要素でもある(下位でもこれを巡る争いが起こる)。
ドラフティング
ほかのレースカテゴリーでよく言われる「スリップストリーム」のこと。
オーバルトラックで争われるNASCARではとても重要な要素であり、特にスーパースピードウェイと呼ばれるアクセル常時ベタ踏みトラックでは、ドラフティング中に繰り広げられる駆け引きがキモとなる。これに乗れなければどんどん引き離されてゆく。
バンプ
クルマを相手にぶつけること。普通のレースなら危険な行為だが、NASCARでは悪質でなけれは無問題。というか、後ろからバンプして相手の姿勢を崩して抜くテクニックが駆け引きにおいてよく使われる。
ビッグ・ワン
レース中に起こる多重クラッシュのこと。大抵の場合はフルコースコーションとなるが、ひどい場合はレッドフラッグ(赤旗中断)になったり、終盤で起こった場合にはその時点での順位で決定される場合もある。
NASCARオーバータイム
グリーンホワイトチェッカー(GWCと表記される)というレース終盤の延長ルールを整理し、2016年に導入された。
残り2周でリスタート後、緑旗状態のまま先頭車両がコースに設置されているオーバータイムラインを通過するとGWCが成立し、ファイナルラップに白旗が振られてレースは残り1周で終了。ラインを通過する前にコーションが出されると再びリスタートを行い、GWCが成立するまで際限なくリスタートを行う。ライン通過後にコーションが出された場合は、イエローチェッカーまたはレッドチェッカーでそのままレースが終了する。
プレーオフ
シーズン終盤の10戦に渡り、レギュラーシーズンでのランキング上位16人のドライバーがシーズンチャンピオンを争うもの。2004年に導入され、米通信大手のスプリントが冠スポンサーを務めていた2016年までは「チェイス・フォー・ザ・スプリントカップ」(略してチェイス)と呼ばれていた。
2014年シーズンからノックアウト方式に変更。3戦ごとにポイント下位4人のドライバーが脱落していき、最後に残った4人の中で最終戦を最上位でフィニッシュしたドライバーにシーズン王者の称号が与えられる。
3ステージ制
プレーオフ同様、NASCARの人気低下を食い止めるために近年導入された方式。1レースを3つの"ステージ"に分け、それぞれのステージでの勝者にボーナスポイントが課せられる。
1ステージが終わると通常のコーションと同じようにペースカーが導入されてピットインが始まり、終わると次のステージへグリーンフラッグが振られる。
外部リンク
公式サイト(英語)