概要
初代『バイオハザード』の物語の舞台となる「洋館」で、科学実験によって産み出された怪物の管理、飼育に従事していたスタッフのひとりが書いた日誌。日常の出来事から、研究所で起こった事故を期に心身に異変が生じ、理性を失って怪物化してゆくまでが生々しく記されている。
ファンの間では『かゆうま日誌』とも呼ばれている。
日誌の内容
May 9, 1998
夜、警備員のスコットとエリアス、研究員のスティーブとポーカーをやった。
スティーブの奴、やたらついてやがったが、きっといかさまにちがいねェ。
俺たちをばかにしやがって。
May 10, 1998
今日、研究員のおえら方から新しい化け物の世話を頼まれた。
皮をひんむいたゴリラのような奴だ。
生きたえさがいいってんで、豚を投げこんだら、奴ら、足をもぎ取ったり、内臓を引き出したり遊んだあげく、やっと食いやがる。
May 11, 1998
今朝5時頃、宇宙服みてえな防護衣を着たスコットに突然たたき起こされて、俺も宇宙服を
着せられた。
なんでも、研究所で事故があったらしい。
研究員の連中ときたら、夜も寝ないで実験ばかりやってるからこんな事になるんだ。
May 12, 1998
昨日からこのいまいましい宇宙服をつけたままなんで、背中がむれちまって妙にかゆい。
いらいらするんで、腹いせにあの犬どもの飯を抜きにしてやった。
いい気味だ。
May 13, 1998
あまりに背中がかゆいんで医務室にいったら、背中にでっけえバンソウコウを貼られた。
それから、もう俺は宇宙服を着なくていいと医者がいった。
おかげで今夜はよく眠れそうだぜ。
May 14, 1998
朝起きたら、背中だけでなく足にも腫物ができてやがった。
犬どものオリがやけに静かなんで、足引きずって見に行ったら数が全然たりねえ。
めしを三日抜いたくらいで逃げやがって。
おえら方に見つかったら大変だ。
May 15, 1998(※英語版のみ)
相変わらず気分が悪いが、ナンシーに会いに行くことにした。
この屋敷にきてようやくの休みだ。
ところが、玄関のところで警備の連中が俺を止めやがった。
連中がいうには、屋敷から人っ子一人外に出すなとの、本社からきついお達しだと。
電話すらかけられねえときた。
一体こいつはなんの冗談だ?!
May 16, 1998
昨日、この屋しきから逃げ出そとした研究いんが一人、射さつされた、て 話しだ。
夜、からだ中あついかゆい。
腕のはれ物 かきむし たら 肉がくさり落ちやがた。
いったいおれ どうな て
May 19, 1998
やと ねつ ひいた も とてもかゆい
今日 はらへったの、いぬ のエサ くう
May 21, 1998
(※英語版ではMay 19の後半)
かゆい かゆい スコットー きた
ひどいかおなんで ころし
うまかっ です。
4
かゆい
うま
(本項は基本的に常用漢字を用いて記しているが、オリジナルは一部がひらがなになっている)
説明
全10ページで構成された日誌。
日誌の書き手である飼育係が心身に異常をきたし奇行に走ってゆく様子が、まともに漢字で書けていない単語と乱れた文節で表現されており、多彩な表現が特徴の日本語ならではの強烈なインパクトがある。
英語版でも次第に文体を成さず単語の羅列になる、といった形で表現されている(かゆい うま→Itchy Tasty)。
バイオハザード作品の恐怖と世界観を文章で表現したものとして非常に有名で、以降もこれに類似したファイルを続編で見ることができる。
また、スタッフのブログでもたまにネタになる。
以下、特筆点の説明。
「皮をひんむいたゴリラのような奴」
描写から、前傾気味の姿勢で皮膚が鱗に包まれた生物兵器ハンターと思われる。
「研究所で事故があったらしい」
ゲームタイトル回収。
日付と記述から、災害発生時刻は5月11日未明と判明。
この日初めて、世に呪われたウイルスが撒き散らされた。
事故だと思われているが、実際は……
「背中がむれちまって妙にかゆい」
身体のかゆみはウイルスに感染した人間の初期症状。
「もう俺は宇宙服を着なくていい」
よって医師は手遅れと判断した。
「数が全然たりねえ」
生物兵器開発用に飼育されていた犬(ドーベルマン)もまたウイルスに感染し、怪物ケルベロスと化して檻から脱走。ラクーンシティ近郊で猟奇殺人事件を引き起こした。
「本社からきついお達し」
上層部の事故の隠蔽工作。
「射さつされた」
状況に気づいた他の者たちが脱走しようとして特務警備隊に射殺されたり、あるいは絶望して自殺したり発狂状態に陥っている。
中には最後まで研究者として生物兵器の観察を続ける者や、愛する者に正義を託そうとする者もいたが……
そして飼育係はいよいよ症状が深刻になり、脳組織(主に大脳)が侵食されて意識が混濁。同時に身体か壊死し始め、引っ掻いただけではがれ落ちるほど皮膚が脆くなっている。
「ひどいかおなんで ころし」
完全に正気を失い、人肉を食すようになってしまった飼育係。
酷い顔という記述から、おそらくスコットも同様の状態になっていたと思われる。
リメイク版では他にも小太りの中年男性が床に倒れているが、彼がスコットだろうか?
「かゆい うま」
日誌はここで途切れる。
もはや筆を取ることもできず、愛も喜びも恐れもジョークも知人の記憶も失い、ただ飢えを満たすために人間の生肉を求めさ迷う怪物と成り果ててしまった。
書きかけの日付が「24日」を指すのなら、悪魔のウイルスに感染してからこの状態になるまで2週間かかったことになる。文章かおかしくなり始めてからは「よく今まで日誌書けたな」と内心ツッコミを入れた人も多いであろう。
一応、生活習慣として定着していた記憶や行動は後々まで残るらしい……
この最後の言葉がこの日誌を象徴するものとして、語感を良くするために“い”が抜かれ、「かゆうま日誌」と呼ばれるようになった。
なお、日誌が置かれた机の後ろの収納にゾンビが潜んでおり、日誌を読む、あるいは読んだ後に通りかかるとバーン!と現れる。いかにもホラーっぽい演出。
彼が飼育係かどうかは不明だが、このゾンビは不意打ちのために自ら収納に潜んだのだろうか? それとも裏切者が罠として無理やり押し込んだのだろうか? だとすると黒幕の工作員たちの現場の苦労が偲ばれる……