概要
VHS(Video Home System)は、1976年にビクターが開発した家庭用ビデオ規格。
初期はバイクが買えるぐらい高価であったが、次第に安価になり、バブル崩壊後はデフレデッキと呼ばれる1万円前後の簡素型が普及した。
テープの単位はT-〇〇(分数)。T-120は120分、つまり標準で2時間録画できることを表す。
ビデオテープである以上、録画分数が足りないとか番組毎にテープを分けたいなどの理由でテープチェンジという手間が発生してしまう。
この問題は解決方法がいくつか提示されたが、いずれも普及しなかった。
具体的な解決方法
- 2台を1台にまとめたダブルVHSデッキ...シントムが採用。
- テープチェンジャーをデッキに内蔵する...日立や東芝の高級機で採用された。
- 一部製品に対応した外付けテープチェンジャーを設置する...業務用デッキなどで使われた。
3倍モードの影響か画質は悪いと言われているものの、高級機なVHSやS-VHSで標準録画されたテープを再生したものは比較的綺麗ではある。
しかし現代となっては解像度が低く、高解像度に慣れた現代人の目にはより一層ボケボケにしか見えないのが時代の流れである。
D-VHSでは地デジをそのままの解像度で録画出来るので名誉挽回と行きたいどころだが、普及しなかったので知名度も低い。もっともVHSとは思えない画質であるので、現代人に見せると違う意味で驚くだろう。
Vaporwaveなどのレトロ趣味では、わざとVHS風に劣化した風の映像表現を駆使した作品を作ることもある。
ビデオテープの欠点のひとつに再生後に巻き戻しが必要な点があるが、隆盛期以降のほとんどの機種がT-120テープを数十秒で巻き戻す「高速リワインド」機能を備えている。
2000年代半ばになると日本ではDVDレコーダーやHDDレコーダーの普及を前に消えていき、2010年代には既にDVD,BD,HDDレコーダー等に取って代わられ、レガシーとなった。
2016年7月末、最後までVHSデッキを製造していた船井が撤退し、ひとつの時代が終わりを迎えたが、2021年に入り「At IDEA社」が絡まる事故の原因となる嘗てのヘッダを用いない新方式でのVHS再生及びHDD、USBメモリー、DVD-R/RWへのダビングが出来る装置の開発が示唆された。
しかし高画質のデジタルレコーダーが格安に手に入るようになったのはいいが、時代はすでにテレビ離れの世になっており、「VHSがあったころのテレビが一番面白かった…」「もっと早くデジタルレコーダーがあれば…」という人も多いだろう。
家庭用ビデオカメラの記憶媒体としてのVHS
大ぶりのテープであり録画機をカメラとは分離していたが(録画時間を左右するバッテリーも大きくできる)、β陣営が一体型を肩に乗せるサイズを発表したのを受けVHS-C(コンパクト型)を発表した。カセットのみを小型化するという発想で作られたVHS-Cは、カセットデッキではアダプターを使うことでテープ資産の互換が可能になった。だだし代償として録画分数が少なく、SONYから長時間撮影が可能なパスポートサイズの8㎜ビデオが出ることにより劣勢に追い込まれ、生産販売が縮小された(VHS陣営からもカメラのほうは8㎜に移行する所(液晶ビューカム)も)。
愛称 (初期からのVHS陣営)
Victor ビデオカセッター
National マックロード MACLORD
SHARP マイビデオ
MITSUBISHI ファンタス
HITACHI マスタックス MASTACS (初号機はVictorのOEM)
テープ供給
Victor National以外は β、8㎜も供給 初期からのVHS陣営(生産開始時は日本製品)
TDK FUJI→AXIA maxell(当時、日立の樹グループだったがその辺は) Scotch(日本では住友3M 8㎜は生産していない) 当時流行してきた激安カメラ店、家電量販店でオープンやU-maticよりはテープを入手しやすい環境になっていた。
VHS残党
実際のところまだまだ現役で活躍しているデッキは多い。
理由は、
- 過去に市販されたテープや自ら録画したテープを再生するため。
が多くを占めるが、中には
- 日本のB-CASシステムによる重DRMへの反感から来る自主的対抗措置。
- バラエティなど画質を気にしなくてもいい番組ならこれでもいい。
- 自主メンテナンスが困難なデジタル家電に対する拒否感。
を理由に現役で活用する人もいたようだ。
ちなみにVHSからHDDレコーダーへの過渡期にはVHSデッキ内蔵型デジタルレコーダーが存在したが、その殆どはVHSではデジタル放送を録画できないようになっていた。これはVHSはあくまでも内蔵HDDやDVDにダビングするための用途として用意されたからである。
例外はPIONEERのDVR-RT900D/DVR-RT700Dで、DVD/VHS/HDDの相互ダビングが可能であった(ただし生産終了、同社は家庭用映像機器から撤退)。デジタル放送の録画用としては、各社からD-VHSが登場したが、普及せず消えることになる(海外ではD-VHSソフトがわずかに出ている)。
生テープはT-120とT-140あたりは2010年代前半頃まで100円ショップやホームセンターでも扱っていたが現在はもう入手困難である。しかし通販ではまだまだ買えるほか、業務用テープ(いわゆる「茶ブタ」テープ)を扱っていたりするので、Webの普及でかえって一般人が入手しやすくなった。ただし大手メーカーがVHSテープ製造を終了しつつある点には注意。ノーブランドの新品テープを購入するか、市中在庫品や中古品を手に入れる必要がある。
互換性
VHSの初期のデッキで録画されたテープは、傷んでさえなければ末期のデッキでも再生できるような互換性はあった。
ただしオートトラッキング機能を備えていないVHSデッキで録画したテープではオートトラッキングから外れてしまう場合もある。
その為、オートトラック機能を備えつつ手動トラッキング調整機能も搭載したデッキも市販された。
3倍モード(EPとも)
2時間テープT-120で6時間録画可能。Hi-Fi非対応な低価格デッキでも3倍モードには対応しているなど、かなりの機種に搭載されている。
ただし、3倍録画したテープは録画したデッキでの再生のみ保証されており、故障などでデッキを買い替えた際に正しく再生出来ない問題が生じることもあった。
また、画質は標準再生よりかなり劣るものの、テープ代の節約を理由に家庭で多用された事から知名度は高い。VHSと聞いてまずこれを思い浮かべる人も多いはず。
一部メーカーのデッキでは5倍モードも登場したが、そちらは普及せず。
音声多重
音声トラックにステレオ録再するもの。Hi-Fiと違って普及せず廃れた。
対応機種は少ないが、基本的に非対応機でもモノラルとして再生可能。ただし副音声(バイリンガルなど)は実用ではない。(ちなみにモノラル/ステレオ問わず音声トラックはテープ速度が落ちる3倍モードの影響を多く受けやすく、内容が分かればよいレベルの音質だった。)
Nationalだけで採用したdbX-NRは音声互換がない。
(音声トラック幅が狭いこととテープ速度が遅いことで劣化する音声を良化するため打ち出したがステレオ化含め他社は追従してこなかった。まだ音声多重がまだ民放で全国展開していなかった。)
Hi-Fi音声多重
かなり普及し、3倍モードでも音声の劣化が少ないということで、ステレオの普及と共に安いVHSデッキでもHi-Fiが搭載されているデッキが多数市販された。
録音の仕組みが異なる為、非対応デッキではもちろんHi-Fi音声を聞けないが、録画の際に音声トラックにモノラル記録がなされるので無音とはならない。
これもごく初期にNationalだけdbx NRとし非互換になった。(一応Hi-Fi音声として聞くことは可能)
Hi-Fi標準化時にNRは非搭載(dbxライセンスが高くVictor含む他社が難色を示したので、Nationalも3代目からは他社と合わせた)。Hi-Fiでは、NV-800やNV-850HDがdbx対応機。
このデッキの普及でFM-Aircheckが長時間高音質で行えるようになり留守録でのオープンリールテープレコーダの使用にとどめを刺したともいわれる。
ちょっとだけ詳しく
映像の記録エリアにFM変調した音声をまず専用回転ヘッドで記録(音声周波数が映像に比べ極めて低くテープの全層に記録される)、その後映像回転ヘッドがその上からなでるように記録(使用周波数が高いので磁性層の浅い部分しか記録されない)この差を利用し浅部には映像、深部には音声信号がすみ分けられ映像を劣化させず、音声も可聴周波数範囲全体を記録することができた。Hi-FiではないデッキでHi-Fi録音されたテープを再生しても深層の音声信号は映像には影響を与えないので映像劣化はなかった。Hi-Fiデッキでも互換性のためモノラル固定ヘッドは残りここで録音再生されるため互換性は担保された。(回転ヘッドに角度が設けられて記録されるため映像と音声は同期されている)テープ側ではHi-Fi専用をうたい音声用、映像用に適した磁性体を同時塗布したFUJI Hi-Fiビデオテープが重宝された。(カラー写真のフィルムを何層も暗室内で同時に塗布できる技術によりこの手の磁気テープでは他社を先行していた時があった)後年コンピュータ用の高密度テープに垂直記録させることになったがこの礎になった、記録形式、記録媒体ということに。もちろんスタンダード、HGテープでもHi-Fi音声記録再生の恩恵は享受できた。
S-VHS
高画質化を図った規格で、ゲーム機でお馴染みのS端子はここから生まれた。対応デッキと対応テープを組み合わせることでこれまでより高品質な録画が可能になった。
信号そのものには下位互換はない(再生できるが映像劣化が激しい)が、S-VHSデッキの販売開始と共に再生にだけ対応した「SQPB」機能を搭載したVHSデッキが多数ラインナップされた。 S-VHSデッキでは従来VHS機で録画したテープも再生可能。また、S-VHS非対応なVHSテープにも、VHS規格の映像とはなるものの録画や再生が可能。
どうしても録画したい番組だけ高いテープを使い、高画質で残すことが可能になった。
ちなみに、S-VHSテープはVHSデッキにも使用可能。(互換性という意味で) また、HG Hi-Fiグレードのカセットのある部分に穴をあけることでS-VHSテープであると誤認識させてS-VHS記録をさせることも横行した。 このころになると国産テープではS-VHSと誤認識させても映像劣化は一般では見分けがつかないレベルになっていた。(高精細テレビではメーカー差はあったが普通の受像機では見分けがつかなかった。特に地上アナログはそこまでの価値がなくSでの録画プログラムはBSに譲ることに)
VHS-C & S-VHS-C
コンパクトサイズのVHSカセット。アダプターを使うことで普通サイズのVHSテープとして扱える。
互換性の代償で記録分数が短く、(1時間の撮影にすら3倍モードが必須な点が有名)対照的に新規開発で長時間の録画が可能だった8mmビデオに対し劣勢を強いられた。
S-VHS-CはコンパクトサイズなS-VHSカセット。
対応カメラと合わせて使えば3倍モードの画質が向上し実用レベルに達する為、S-VHSデッキより普及したとも言われる。
S-VHS-Cテープも勿論VHSデッキ/VHS-Cカメラに使いまわせる。
W-VHS
アナログハイビジョンに対応した規格。S-VHS同様、専用デッキと専用テープを組み合わせることで高画質な録画再生が可能。
S-VHSテープやVHSテープでの録再は可能だが、W-VHSテープはW-VHSデッキ以外では録画も再生もできない。
アナログハイビジョンそのものが普及しなかった上、後継のD-VHSデッキでW-VHSテープが再生できないなど、互換性に難がある規格である。
D-VHS
デジタルハイビジョンに対応した規格。最大1080iで録再が可能。
デジタル録画されたテープはもちろん従来のデッキでは再生できないが、従来機で録画したテープの再生や、S-VHS/VHSテープで標準録画したテープを他のデッキで再生するのは可能。
VHSの最新規格であり、デジタル録画が売りではあるが、S-VHSテープやVHSテープの録再にも対応している。また、D-VHSテープはS-VHSテープ相当として他機種での録再が可能。
この頃になるとHDD搭載のDVDやブルーレイレコーダーが登場したので、普及しなかった。
コピーガード信号が入った映画などの録画済みテープ
機種により(正規品でも)再生時に画面が明るくなったり暗くなったりする時があった(ほかの信号や帯が入るなどもあるが)。また誤反応がなくとも仕組み上、画質が劣化する。
問題を解決するためにコピーガードを解除し高画質化を謳う画質安定器やノイズキャンセラーがいくつか登場したが、物が物だけに後年法律で販売が禁止された。