精確に爆弾を落とすには?
爆弾というものは、非常に単純な武器である。
中には爆薬が詰められており、信管が衝撃を感知すると爆発する。
だが、これを飛行中の航空機から、しかも精確に落とすとなると難しい。
爆弾には飛行中の速度や高度、または空気の温度・湿度・風速などが複雑に影響するので、これら全てを計算し、命中させるのはとても難しい事だった。
第一次世界大戦後、軍隊で本格的に航空機が使われるようになると、この命中精度を高める研究が盛んに行われるようになった。高度・速度などの要素を取り入れて落着地点を計算できる照準器はもちろんのこと、頭上から襲い掛かって弱点に爆弾を落とす「急降下爆撃」も開発されている。
急降下爆撃機の役割(実践編)
頭上から襲い掛かり、爆弾で精密に攻撃する。
こうした急降下爆撃機の特質「精密攻撃能力」は、爆撃機に新たな分野を開拓した。
ひとつは雷撃機が艦船を攻撃するにあたり、敵艦の対空火器を攻撃する「対空砲火制圧」、
もうひとつが地上部隊の要請に応じて爆撃する(今で言うところの)「近接航空支援」に大別されるだろう。
どちらにしても、急降下爆撃機ならではの精密爆撃能力あっての役割である。
犠牲にしてきたもの
だが、そのために犠牲にしたものもある。
急降下で加速がついた状態で機体を引き起こせば、自重の数倍もの荷重がかかる事は明らかだ。
機体が大きな荷重に耐えられるようにするため、強度を上げる必要がある。
もちろん、重量増加で性能が落ちることを承知の上で。
こうして増えた重量の上、さらに重い爆弾を積み込む余裕などあるわけも無く、搭載する爆弾は九九式艦上爆撃機で250kg、Ju87で500kgが普通だったという。搭載量も大きくなかったのである。
急降下爆撃機の落日
第二次世界大戦終結後、急降下爆撃機は急速に勢力を落としていった。
機体強度の関係で飛行性能を高くとれず、戦闘機に襲われた際など損害が大きかったのだ。
また、技術が発達して艦艇の防御力も上昇、(比較的)小さな爆弾では十分にダメージを与えられなくなっていた。
そこに攻撃機のジェット化に、ロケット弾やミサイルといった射程の長い武器も登場。
わざわざ急降下して「敵に撃たれやすくする」必要も薄れていった。
さらにトドメをさしたのは「スマート爆弾」ことレーザー誘導爆弾(LGB)の成功である。
もはや急降下爆撃機に居場所はなく、(艦載機ならなおさら)A-1以降は急降下爆撃も要求されなくなって現在に至る。
別に急降下しなくても精確に爆弾を落とせるのなら、もはや必要は無かったのである。
爆弾の革新
ベトナム戦争のさなか。急降下爆撃の意義をさらに薄くする事件が起こる。
1972年5月10日、それまで難攻不落と恐れられた重要拠点「ポール・ドゥメール鉄橋」に、第八戦術戦闘航空団のF-4が16機で攻撃をかけた。
大小さまざまな高射砲に加え、ミサイルまで配備された、まさに鉄壁と恐れられた防御である。それまで何度となく空襲が繰り返されたが、いずれも大きな損害を与えるに至らなかった。例え損害を与えても数日、長くとも数週間のうちに復旧してしまうのだ。
そのくせ対空砲火は厳重で、攻撃のたびに何機かの戦闘機・攻撃機が撃墜されていた。そのたびにパイロットは戦死するか捕虜にされ、既に損害は計り知れないほどになっていたのだ。
時を同じくしてスマート爆弾(この場合はレーザー誘導爆弾)の開発が進み、最初の試作品が完成していた。タイ駐留の部隊にも完成品が送られ、この攻撃に投入される事になった。
はたして結果はどうだっただろうか。
その後数日、数度の攻撃の結果、爆撃効果判定は『目標は完全に破壊され、交通は完全に寸断された』と結論を出した。大成功である。
以降、爆撃・空襲という言葉は、完全に意味が変わってしまった。
レーザー誘導爆弾を使うことで精度はなんと15分の1にまで高まり、まさに一撃必中となったのだった。
現在の状況
前述のとおり、急降下爆撃機には設計上さまざまな短所を背負わなくてはならない。
その上通常の爆撃(水平爆撃とも)でさえ精度が上がり、もはや急降下爆撃の意義も無くなってしまった。
現在、急降下爆撃の専門機は開発されていない。
精度の高い爆撃が求められるのなら各種スマート爆弾があるし、何ならミサイルを使ってもいい。
あえて敵前に身をさらす必要はなく、「そんな危険な用事は機械にさせればいい」という事になったのだった。