注:本記事は『ギルティクラウン』15話以降の重大なネタバレを含みます。
「ねぇ、集。“やさしいおうさま”って絵本、読んだことある?」
概要
第15話「告白:sacrifece」にて、窮地に陥った天王州第一高校の新たな管理体制として提案されたヴォイドランク制。
提案した寒川谷尋は「区別」とは言うものの、ヴォイドの性能によって生徒を格付けするこれを「差別」として否定した生徒会長の桜満集だったが、些細な行き違いから魂館颯太を含む一部に廃棄した資料が流出、ランク制が実施されると誤解されてしまう。
自らが最低ランクに分類されていることに反発し、自己の有用性を証明するため独断で物資の補給に向かう颯太たち。が、集と校条祭が慌てて駆けつけたところでGHQの襲撃を受け、パニックに陥った颯太は逃走のため、ヴォイドで付近の壊れた車を修復させるために祭を連れ出した。そこが敵の目の前だと気づかずに。
当然それを見逃さなかったGHQによって車は爆破され、咄嗟に祭を庇った集は重度の火傷を負い、祭自身も重傷。だが祭は迷わず集の治療を開始した。
ねぇ、集、“やさしいおうさま”って絵本、読んだことある?
その王様は、とっても優しくてね、みんなにお金をあげたり、土地を譲ったりしていたら、とうとう国がなくなってしまったの……
王様はみんなに怒られちゃうんだけど、でも私は、そんな王様が大好きだった……
たぶん……私の初恋
集はその王様に似てるの。優しくて、損しちゃうところが……
私ね、集はきっといい王様になると思うなぁ
だから……
もう少しで集の治療が叶う。が、そこでGHQのヘリが祭を発見し、彼女へ機銃を放った。その弾丸が祭本人に命中することはなく、治療も完了するものの、運悪くヴォイドが破損してしまう。
祭は集へと手を伸ばすが、それが届くことはなく。
集……よかった……
集に……あげる。私の……
意識を取り戻した集が目にしたのは、つい先ほど自分に告白してくれたばかりの祭が結晶化し、自らの手の中で砕け散る光景だった。
集の異様な雰囲気を感じ取って嫌がるいのりから強引にヴォイドを取り出した集は、GHQの部隊を一掃。そして、祭の死を知って謝罪のため駆け寄った颯太を繰り返し殴りつける。
だから言っただろうが!!
生き返らせろ!!お前が!!生き返らせろぉ!!!!
僕が間違っていた……
優しさになんか、なんの意味もない。クズは「区別」しなくちゃならない
臆病ではあるが優しく、常に誰かのために戦ってきた集の行動に困惑する一同。
その前で、集は光を失った目で宣言した。
僕は、王になる
この一件が残した影響
もともと集は自分が生徒会長になることに積極的ではなく、それでも就任したのは単に自分に力があって、それを行使することが周囲のためになり、周囲からもそれを求められているから、という消極的な理由だった。
それでも「みんなのために」と周囲を気遣いながら業務にあたる集を称した祭の言葉が「(優しい)王様」であり、祭を失った集は彼女が、周囲が自分に望んだとおり「王」になることを決める。
この流れで重要なのは、祭が“やさしいおうさま”、そして集に惹かれたのは、その優しさ故であること。
そして祭が“やさしい”王であることを望んでいたことを集は知らない、という点だろう。
上記の一連の台詞はモノローグであり、そうでなくともその間気を失っていたので、集がそれを知る由はない。そこに「自分が管理よりも情を優先したからこんなことが起きた」という自己批判が合わさり、その結果集は「自分は優しさを捨てて皆を支配し導く王にならなければならない」と思い込んでしまったのだ。祭が集に望んでいたのは王になることではなく、優しく在り続けてくれることだったのに。
そうして「王」になった集のその後の顛末はあえてここには記さないが、それで祭の想いやこの言葉の価値が損なわれることはなく、彼女のこの言葉は変わらず多くの視聴者の心に感動を刻み続けている。長い彼女の独白から「やさしいおうさま」という1ワードが切り取られてタグとして引用されるようになったのがその証左だろう。
「王」としての集の行動や人間性には数多の賛否はあるだろうが、誤解してしまったとは言え、それは集が彼なりに祭の想いに応えようとした結果であることだけは確かである。