ん廻し
んまわし
若い町衆たちが兄貴分の家で「暑気払いに飲み明かそう」という話になった。
その話に乗った兄貴分は、当初町衆から割り勘を募ろうとしたが皆お金がない。そこで、横丁の豆腐屋が田楽屋を始めたので開店祝いに焼け次第、どんどん持って来いと注文したと言う。すぐに焼けた味噌田楽がどんどん届きだした。
連中の一人が「味噌は『味噌をつける』(失敗する)と縁起が悪いから、運がつくように「ん(運)廻し」というゲームをやろう」と言い出す。このゲームは言葉に使われる「ん」の数が多ければ多いほど多く田楽が貰えるというルールであった。
食い気に染まった仲間たちは必死に頭を絞り、「にんじんとだいこん」「まんきんたんのかんばん」などの回答を連発する。中には「にんじんとだいこん」の流れで「なすびん」「きゅうりん」などと無理やり「ん」をつけて解答し田楽をせしめようとしたものもいたが、当然ルール違反ということでなかなか田楽をほしいだけ食べることはできなかった。
そんな中、ある男が「30枚はもらう」と大見得を切り、
「先年(せんねん)、神泉苑(しんぜんえん)の門前(もんぜん)の薬店(やくてん)、玄関番(げんかんばん)、人間半面半身(にんげんはんめんはんしん)、金看板銀看板(きんかんばんぎんかんばん)、金看板『根本万金丹』(きんかんばんこんぼんまんきんたん)、銀看板『根元反魂丹』(ぎんかんばんこんげんはんごんたん)、瓢箪看板(ひょうたんかんばん)、灸点(きゅうてん)」
と2度言って86枚の田楽をせしめた。別の男が、負けじと「そろばんを用意しろ」と言って次のように言った。
「半鐘があっちでジャンジャンジャンジャン、こっちでジャンジャンジャンジャンジャンジャン、それでもって鐘をカンカンカンカン……」
兄貴分は機嫌を悪くして、「もういい加減にしろ!おい、こいつに生の田楽を食わせてやれ」と言う。男が文句を言うと、
「火事なんだから、これ以上焼けたらあとが大変だろう」とオチがつく。