ビッカース・ヴァリアント、アブロ・バルカンと合わせ、「3Vボマー」と呼ばれる。
3Vボマーの中で最後発の機体で性能面も優れており、緩降下中にマッハ1を突破したこともある。「高高度からの核兵器投下」を前提に開発されたが、イギリスの核抑止力が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に移り、空中給油機に転用された。
現在はすべて退役している。
開発
ヴィクターは第二次世界大戦後に出された新型爆撃機に関する「作戦要求230号」に対しハンドレページ社(現・BAEシステムズ)が提出したプラン「H.P.80」を元とする。
作戦要求230号の内容は、
- 爆弾を10,000ポンド(4,500kg)以上搭載可能であること
- 高度は50,000フィート(15,000m)を巡航可能なこと
- 巡航速度は575マイル(925km/h)以上とすること
- 行動半径2,000マイル(3,700km)以上とすること
- 防御用の機銃は非搭載とすること(高速飛行で敵戦闘機を振り切る)
である。
「1万ポンド(以上)の搭載量」は、核兵器搭載可能な機体を暗に示していた。
H.P.80プランでは主翼が先端に行くほど後退角が浅くなる「三日月翼」という形状で、これは高速飛行時の空気抵抗を軽減するためである。
試作機は墜落事故で失われたが、飛行性能は良好であり、「ハンドレページ・ヴィクター」として採用に至った。
機体の特徴
高翼式でT字尾翼。
左右主翼の付け根部分にターボ・ジェット・エンジンを片側2発ずつ配置。初期モデルはアームストロング・シドレー・サファイア、その後はロールス・ロイス・コンウェイ、ロールス・ロイス・オリンパス(コンコルドのエンジンと同系列)を使用した。
大型の爆弾倉を持ち、マーク5核爆弾(アメリカ製)の他、第二次大戦中に開発されたグランドスラム×1発やトールボーイ×2発、スカイボルトなどの空中発射型巡航ミサイルも搭載可能である。
座席は操縦士のみ前向き、機関士・電子機器担当・通信士は後ろ向きに着座する。操縦士の脱出装置は通常の射出座席だが、残りの乗員は二酸化炭素の瓶を爆破することにより作動する脱出補助装置という、実に紳士的(英国面)な方法。成功例はないらしいが。
当初、キャノピーは外れるようになっていたが、1950年に航空省の命令で廃止された。
フォークランド紛争
SLBMの導入で戦略核攻撃の任務を外されたヴィクターは、その搭載量を活かして空中給油機に改造された。
1982年、フォークランド紛争が勃発すると、ヴィクター給油機はアルゼンチン軍の補給基地となっているポート・スタンレー航空基地を攻撃する「ブラック・バック作戦」に投入された。
攻撃には運動性に優れるアブロ・バルカンが使用されるが、フォークランド諸島はイギリス領アセンション島の基地からも6,000km以上離れており、一定間隔でヴィクター給油機を飛ばし、給油機同士で空中給油を繰り返しながら距離を稼ぐ事になった。さながらトーナメント表である。
RAFは2機のバルカンのために11機のヴィクターを動員し、当時として史上最長の爆撃行を成功させた。
この方法ならばアルゼンチン本土への直接攻撃も可能であり、アルゼンチン軍はミラージュ3を本土防衛に割かざるを得なくなった。