「さあ、ブライスロードをやり直そう」
「この俺は欧州全土にカバラを広め、魔術の洋の東西を切り分け、たかだか身内の粛清に『蝿の王(ベルゼビュート)』まで持ち出したクソ野郎だぞ？」
人物
世界最大の魔術結社『黄金夜明』創始者の一人。妻はミナ=メイザース。
スコットランド風の軍服(キルト)に分厚い魔女風外套を羽織り、古ぼけたとんがり魔女帽子とマフラーを付けた、髭の生えた渋いおっさん。
全体的にカラフルで、ミナに「配色がガチャガチャしていて目が疲れます」と言われる程。
彼もまた偉大な魔術師であり、後世の魔術業界に絶大な影響を与えた事で知られる。
フランス軍用書の翻訳の他、『ヴェールを脱いだカバラ』『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』『ソロモンの大いなる鍵』など魔道書の原典を一般人でも読めるように注釈し、欧州全域にカバラ神秘思想を広めている。
スコットランドに憧れを抱き、ハイランダーの末裔「グランストラエ伯爵」を自称。これも史実通りではあるのだが、真実はどうであれ何の根拠もない。周囲からはスコットランド馬鹿、自称ハイランダー様と呆れられている。
この事実は100年くらい後の近代西洋魔術師達にも浸透しており、現在の黄金系最大結社首領の金髪ロリ少女はスコットランド方面、メイザースと言う言葉を聞いて「あの趣味が丸出しになっているのか。まさかのグランストラエ伯爵かあ…」と察している。
『黄金』の例に漏れず、良くも悪くも伝説を持つ人物だった。
しかし輝かしい経歴とは正反対に俗世では基本的に「無職」で、その日の生活費の工面にも苦労し、パンの一つを買うことすら困難らしい。同僚の魔術師アニー=エリザベス=フレデリカ=ホーニマンが親友のミナを気遣って資金援助していたのだが、その金は彼の魔術研究や酒(あと恐らく賭事)に消費されていた。
このように、彼は魔術師としては優秀でも一皮剥けば典型的なダメ男であった。ミナは「今にしてみれば奇妙なカリスマ性を持っていた」と振り返っているが、ぶっちゃけ女性はダメ男に甘いという例の性質にしか…。
かのアレイスター=クロウリーの師でもある。後に世界最高の魔術師と成るクロウリーを『黄金』に勧誘したのは、何を隠そうこの人。
もっとも、クロウリー本人は紆余曲折あってメイザースと袂を分かち、アラン=ベネットを絶対にして唯一の師と崇めている。
クロウリーの入団は、当時壊れかけていた『黄金』にとどめを刺してしまった。ある意味でクロウリーの存在がメイザース最大の「功罪」だったのかもしれない。
主な使用魔術
象徴武器
四大元素を意味する四つの象徴武器を周囲に浮かせ、
「○にして○」(例：乾にして温,寒にして湿など)
という言葉と共に四大属性魔術が放たれる。
基本にして真髄。しかし扱う者の力量次第で世界全てを制御し得る。
火は杖、水は杯、風は剣、土は盤。爆発、大洪水、暴風、砂嵐…。
彼らの魔術で火/風/水/土が飛び交う様は、まさに「魔術戦かくあるべし」。
その破壊力の高さは勿論、防御に用いた際には液状被覆超電磁砲も効かなかった。
メイザースに対して超常で挑むのは、「太陽に懐中電灯を向ける行為」に等しいとのこと。
蝿の王(ベルゼビュート)
『蝿の王(ベルゼビュート)』の性質を有効に使った召喚魔術。
水の杯と土の盤を使用した豆を辺りに撒き、その豆が黒く変色すると糸を吐いて互いに連結して対象の名前を描く。
続いて対象と大いなる負の力を持つ魔王を繋ぎ合わせ、かの不浄(日本的に言うなら穢れの概念)を以て相手を内側から汚染していく。
相手を即死たらしめるのではなく、徐々に力を奪っていくえげつない魔術。
メイザースはこの魔術をブライスロードの戦いで、身内の裏切りに対する粛清のために持ち出した。「あれだけは喰らいたくない」と思った黄金の魔術師達が、誰が戦いを始めたのかと責任を追求し始め、自然に空中分解した伝説を持つ。
ちなみに現実では、使用者はむしろ禁書でやられたクロウリーの方だったりする。クロウリー自身は「メイザースが自分に向けて何らかのアブラメリン魔術を行使していたのではないか」と推測していたが、はっきり分かっているのはクロウリーが「自己防衛」のためにベルゼブブを召喚したという事実だけ。
一連の出来事はクロウリーの手記で完結している。史実上の彼の妻モイナ・メイザースが黒猫を使ってダイアン・フォーチュンを攻撃したという話と同様、風評被害の可能性すらある。
四大天使
忌み嫌う聖書を手に取ったクロウリーに対応する為、敢えての同系魔術を使った。
その内の一つが四種大天使の召喚。
剣を持つ者、百合の花を携える者、冒険者を守護する者、地獄の門を守る者。
単体で世界を終わらせる力を持つ高次生命体。かつてその内の一体が不完全な状態で召喚されただけでも絶望的な状況だった。それを四体も、なおかつ超高純度で召喚する彼の技術・実力の高さが伺える。
作中の活躍
新約12巻が名前だけ登場。魔術業界でも屈指の人物だったらしい。
新約18巻、ミナ=メイザースと上条当麻の過去幻視シーンで本人が登場。『黄金夜明』の創始者であるメイザースの人となりが描かれた。
「ブライスロードの戦い」の終局、「運命」に反旗を翻したアレイスター=クロウリーに敗北する。一応「死亡」扱いされているが、この時点の情報では生死不明。
新約20巻終章、あとがき後のストーリーで『黄金夜明』の他のメンバーと再登場。クロウリーにブライスロードの戦いを宣言する。
新約21巻で復活したメイザースの正体が、かつて自身が召喚した大悪魔コロンゾンによって、防衛装置としてタロットカードで再現された存在と判明。再現されたメイザース達は、作中ではクロウリー達と戦闘しつつ「コロンゾンの支配から脱する」為に動いていた。
最終的に自身の深層を見つめ直し魔術嫌いを乗り越えたクロウリーと対峙。互いに「世界」を滅亡に追い込める程の力を繰り広げる。
近代西洋魔術を作った男(少女)と近代西洋魔術のスタンダードになれなかった男。
誰よりも欲した家族を失った者と家族を手にしながら先立った者。
両者の戦いの末にクロウリーに地脈・龍脈からの供給を断ち切られ、メイザースという設定を付与された存在は消滅した。
結局、この時代の彼はメイザースという人物のロールプレイに過ぎない。
しかしクロウリーに「愛する者の名前」を聞かれた彼は「ミナ=メイザース。それが？」と即座に答えている。
そしてメイザースの消滅の間際、同じように再現された妻は何かを感じ取り、
一言「あな、た…？」と呟いた。
例えそれが設定上の関係だとしても、親愛の情は確かに存在したのだろう。
