概要
按察使大納言の姫君は美しくて気高かったが、年頃になっても化粧もせず、またお歯黒もつけず、眉を整えることもしないなど、当時の貴族女子のたしなみにまるで心を寄せない娘だった。花や蝶など、一般に可愛らしいとされているものもそのままでは興味を覚えず、芋虫や毛虫を集めては、それらが成虫に育つまでの過程を観察するのが大好きだった。虫を怖がらない下層階級の男の子たちとも戯れ、彼らに虫を集めさせてはその名前を尋ね、名前のわからない虫には自分で名をつけるようなことをしていたという。いわば虫オタク少女である。
当然ながら彼女は世の人達のみならず侍女たちからも奇人・変人扱いされていた。今風の言い方をすればさしずめ「不思議ちゃん」とか「残念な美少女」というところだろう。
彼女にある種の性格異常を見てとるような読み方もしばしばなされている。
ただその一方、姫の当時の風習や格式、ジェンダーにとらわれない自由な生き方を肯定的に捉えるような読み方も現代では見られるようになっている。また、虫たちの真の姿を緻密な観察を通して見極めようという姿勢は、いってみれば古典文学における理系女子の先駆けとして評価する声も出てきている。
時代を越えて現代的な視点から見てみれば、案外「残念」ではないのかもしれない。
また、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』のヒロイン・ナウシカのイメージ・ソースともなっているという。
さらに、現代の虫好きな少女のイラストにこのタグが付けられていることもある。
価値観にとらわれない聡明な才女として描かれ、本巻のメインヒロインというべき存在感を放っている。
父である堤中納言が彼女の虫好きを直そうと、芦屋道満に蠱毒で生み出した妖蟲を貰って密かに差し向けるも、全く意に介さず世話を続け、安倍晴明の下に話が来た折に晴明によって種明かしとなり、妖蟲は最後は人の顔を持つ妖艶な蝶となった。
なお晴明のいる土御門の邸宅にお忍びで出向いた際には、目立たないよう狩衣で男装してくるという方法を取った。