概要
日本でも馴染み深い民間旅客機ボーイング737をベースに開発されている。
前任のP-3はアップデートを繰り返して長く現役を保ってきたが、それも限界が近づいてきていたため、1980年代から後継機の研究が始まっていた。当初はP-3のエンジンなどを改良したP-7が開発されていたが、開発遅延と予算超過により開発中止となってしまった。
2000年から再度、P-3後継機の競争を行う事になり、ボーイングとロッキード・マーティン、BAEシステムズが応募した。ロッキード・マーティンはP-3をアップデートした「オライオン21」、BAEはニムロッドの新バージョン、ボーイングは737の改修型である「737MMA(多用途海上航空機)」を提案し、結果ボーイング案が採用を勝ち取った。
試作機の初飛行は2009年4月25日。その後開発は難航したものの、2012年になって量産機の配備が開始、沖縄にも配備された。以降、南沙諸島における「航行の自由」作戦や墜落したマレーシア航空370便の捜索任務などで着実に実績を重ねている。
アメリカ以外でもインド、オーストラリアに輸出された他、イギリスやニュージーランドにも輸出される事が既に決まっている。
同時期に同じ目的で開発されたP-1とは、何かとよく比較される。
仕様
機体は当時の最新モデルのひとつ、737-800型がベースになっている。
P-3と同様に機体下部にソノブイ発射口や爆弾槽を備え、対潜爆弾や魚雷などの兵装を搭載できる。ソノブイはP-3Cより発射口の数こそ減ったが単純な搭載量は増加しており、全て機内から装填する事が可能である。
各種電子機器の新世代化・自動化に伴い、搭乗員の数も減り省力化されている。
しかし、ジェット旅客機をベースにした事は、本機にひとつの問題を生み出している。
それは、低空飛行に向かないという点である。
哨戒機は、「海をじっくり監視し、敵潜水艦を見つけ次第魚雷を落として攻撃する」という任務の性質上、時に高度100mもの低空で長時間飛行する能力が要求される。
しかしジェット旅客機は、高高度飛行での経済性・快適性を最優先する。つまり、哨戒機のベースとするにはそもそも相性が悪いのである。
このため、低空での小型船舶に対する監視飛行には不向きとされている。
航続距離自体はP-3より優れているとはいえ、ジェットエンジン故にP-3で行っていたエンジンを1、2発止めて燃料を節約しながら飛行する「ロイター飛行」ができないという問題点もある。
プロペラピッチをフルフェザー(プロペラブレードの角度を機体と平行にする)にして抵抗を減らせるプロペラエンジンと異なり、停止したエンジンの空気抵抗を減らすことができないため、そのままどでかい空気抵抗の塊になりかえって燃費が悪化してしまう。ましてや双発機でやれば4発機よりもさらにバランスが崩れやすくなり、ますます燃費の悪化につながる。
このため、ジェット機の速度で現場に素早く駆け付ける事はできるものの、実質的な哨戒時間はP-3より落ちてしまう可能性がある。
一応、紅茶の国にニムロッドという前例はあるが、あちらは4発エンジンを主翼の根元に装備するという特異な設計のおかげでロイター飛行のリスクが少なかったという、むしろ異例な部類に入る。
とはいえ、冷戦が終結して潜水艦の脅威が減少した現在の哨戒機は、潜水艦撃滅よりも海上を行き交う船を監視する「海洋監視機」としての運用に重点が置かれており、そこまで低く飛ばなくても問題はあまりなかったりする(実際、ビジネスジェット機をベースにした海洋監視機は、アメリカ沿岸警備隊や海上保安庁も使っている)。
現在の対潜任務は艦載ヘリコプターで行うものに比重が置かれているのも、見逃せない点だろう。
ロイター飛行で飛行時間を稼げない問題についてはP-1も同じである他、冷戦終結により哨戒機が潜水艦を追いかけまわして半日近く飛行する事がほとんどなくなった事で、そもそもロイター飛行をやる意味自体があまりなかったりする(実際、海上自衛隊のP-3Cでは冷戦後休憩スペースの簡易ベッドをほとんど使用しなくなり単なる荷物棚と化した。このためP-1の該当部分は最初から荷物棚として設計された)。
この関係で低空での哨戒飛行を想定していないため(アメリカ海軍は高度600m以下での運用は想定していないとされている。この高度なら不審船が小火器を撃ってきたとしても届かない。当たらなければどうということはないのである)、P-8の哨戒機材は高高度運用に特化されており、それまでの哨戒機の基本装備ともいえるMAD(磁気探知機)ブームを備えていない(装備自体は可能で、インドに輸出されたモデルには装備されている)。
また、P-8はP-3では試験のみに留まった空中給油に対応したほか、RQ-4グローバルホークをベースにしたUAV・MQ-4Cトライトンを相方として用意。
「普段の監視飛行はMQ-4Cに任せ、何か発見したらP-8を出撃させよう」という『哨戒機兼UAV指令室』的な運用を想定しているのだ。
もっとも、空中給油装置は空軍規格のフライングブーム方式(海軍の機体が空軍規格のフライングブーム方式を採用するのは実はこれが最初ではなく、E-6マーキュリーという前例がある)であり、MQ-4Cに至ってはまだ試験段階で配備はもう少し先の事になる。
P-8単体でも高額なためP-8のみを購入する軍もあり、単独で全く何もできないという訳でもないのだが。
余談
実は、P-8が配備される30年も前からボーイング737を哨戒機として使っている国がある。
インドネシアである。
インドネシア空軍は、初期型のボーイング737を哨戒機に改造した「サーベイラー」と呼ばれる機体を現在に至るまで使用し続けている。
こちらはあくまでも海洋監視機であり対潜能力は有していないが、ある意味このサーベイラーこそがP-8の遠いご先祖様と言えるのかもしれない。