ダットサイト/ドットサイトとは
銃用の光学照準器の一つであり、パラボラアンテナ(オフアクシスパラボラアンテナ)の特性を用いてハーフミラー上に投影した光点(もしくは図像)で照準を行う。
近中距離用の照準機器で、スコープと違い等倍のものが一般的。
慣れればアイアンサイトに比べて格段に早い照準動作が可能なので、軍民問わず欠かせないアイテムとして広く普及している。
ダットサイトのハーフミラーは僅かに湾曲しており、投影像が無限遠で結像する仕組みとなっている。
実際にサイトを覗いてみると、あたかも遥か彼方の宙空に、レティクル(多くのものは光点だが、一部のものは丸等の図形型の光が浮かぶ)がポツンと浮かんでいるかのように見える。この光点はどの目からの距離が異なっても同じ大きさで浮かんで見えるため、設置位置を問わずに取り付けが可能となっており、射手の扱いやすい位置への取り付けが可能。
対物側のレンズにはレティクルを見やすくするためのコーティングが施されており、光量次第とはいえ光点はほとんど見えない。このコーティング次第では偏光フィルタなどを通して見たのと同様に肉眼で対象を見るよりも見やすくなる利点が生じるモデルもある。
(初期の物は対物側が塞がれており、片目で光点を見つつもう片目で対象を見ることで映像を合成して照準をしていた。現在でもダットサイトの使い方に慣れるために同様に対物側を塞いで練習する者も居る)
従来のアイアンサイトは、照星(フロントサイト)と照門(リアサイト)とを一直線に目標と結ぶ必要があり、フロントサイトに焦点を合わせつつも目標を見る必要があるために、正確な照準が難しく慣熟に時間がかかっていたが、ダットサイトは光点ひとつを目標に重ねるだけで正確な照準が可能であり、比較的短時間で慣熟することが出来る。
また、薄暮時に暗く霞んでしまうことが無い点でも、通常のアイアンサイトより優れている。
(実際にアメリカのノリッジ大学にて拳銃でダットサイトとアイアンサイトの比較実験を行った結果、射撃経験のないものでも光学サイトを搭載した銃の方が効果的であるという結果が出ている)
弱点としては、大気の状態などから零点規正(ゼロイン)が僅かにズレることがある。
また、銃口からアイアンサイト以上に高い位置に照準装置がある事が多い為、ゼロインに使用した距離と違う距離で射撃した場合は着弾位置にずれが生じる。
遮蔽物を利用しての射撃等で、銃口位置を気にせず使用した場合、サイト上では問題無く視認出来ていても射線は障害物に遮られていた、という事もある。
また、ダットサイトの多くは電源を必要とし、故障の可能性もゼロではないことから、不意に使用不能に陥る危険性がある為、零点規正のズレの対策も兼ねてバックアップサイトとしてアイアンサイトとの併用は重要となっている。
光点により目標が隠れる為、精密射撃分野には適さず、その分野では精密射撃用のピープサイト(アイアンサイト)や等倍のスコープに劣るといえる。
ダットサイトにはオープンタイプとチューブタイプの二種があり、用途や使用状況に応じて使い分けられている。
前者は軽量コンパクトな一方、外力によって破損しやすく、剥き出しの光源部やレンズのハーフミラー側に埃やゴミなどが詰まって使用不能となる場合がある。ガイドとなるチューブがないために光点を見失いやすく、特に拳銃などのストックのない銃では光点を見失いやすい(対策としてアイアンサイトを併用する取り付け方法にする、もしくはダットサイトにリアサイトが一体となっている物を使うと言った方法がある)。
後者は、光源やグラス部分が頑丈なチューブで守られるため外力や汚れに強いが、価格を抑えにくく、重くなりがちである。筒というガイドがある為か、比較的光点を探しやすい。
光源は主にLEDであるが、蛍光物質とトリチウムガスを封入したトリチウム発光チューブ、自然光を取り込んで光源とする集光チューブといったものを使用した電源不要なものも存在する。
「ホログラフィック・ウエポン・サイト」などもダットサイトと同様の効果を発揮する照準機器であるが、レーザーホログラフを利用しているため原理・構造は異なる。
また、軍・法執行機関向けのダットサイトの中には、パッシブ(受光)式のナイトスコープ(暗視装置)と組み合わせ可能な光量を抑えたモードを持つ、上位モデルがある。
今ほどイルミネーションレティクル(何らかの光源を用いて照準線が光る。暗所や黒い目標を狙う際に照準線を見やすくする機能)の搭載されたスコープが普及していなかった頃にはスコープの前に取り付けるといった事も行われていた。
ある程度の大きさがあるものが主流であったため、拳銃ではフレーム側に加工を施してマウントベースと呼ばれる部品を取り付け、それにダットサイトを取り付けるという方法が主に取られていたが、マウント用の部品を含めて大型化してしまう事から対応したホルスターも少なく携行には適さず、競技用としての用途が主となっていた。
チューブタイプであっても軽量化している現在、自動拳銃の稼動部分であるスライドに搭載可能なものも登場しており、加工や部品交換により搭載するスペースを確保する改造が行われており、銃のモデルによっては純正状態でアダプタを介さずに直接搭載可能なものも登場しており、競技用でないホルスターでも直接搭載に対応したものが登場しており、携行も未搭載の拳銃同様に可能となった。
(一例としてはグロック17のスライドへとダットサイトを搭載する場合、スライド上部をフライス加工してネジを切る事で搭載可能とする、リアサイトを取付用マウントへと交換する、社外の搭載可能な加工されたスライドへと交換する、MOSと呼ばれる搭載可能な加工がされたモデルを選ぶ、といった方法がある)
大変便利な道具ではあるが、実際に使ってみるまではその性能が実感しにくく、取り付けると銃器のフォルムを崩してしまうものが多いせいか、日本の作品で登場する頻度は(標準搭載の銃はともかく、そうでない銃では)いまのところ低い。
これに対して、海外、主にハリウッド映画などでは定番のアイテムとなりつつある。
ちなみに、銃火器を用意した担当者がこの手の装備の知識に疎いのか、撮影時には光らせていない為に気づかず前後逆に搭載して撮影された映画等があり、日本のように銃が身近にない地域だけでなく銃大国で撮影されたものであっても同様という事がある。
ダットサイトはその多くが等倍ではあるが、像を拡大するテレスコーピック機能を付加するテレコンバージョンアダプター等と呼ばれるものがあり、主にチューブ型のダットサイトに対応している。
ほぼ機種を問わず使用できるブースターやマグニファイアと呼ばれるスコープ状のものもあり、ナイトビジョンのようにダットサイト後方へとタンデム装着して使用する。
ブースターはフリップ機能もしくはクイックリリース機能が付いたマウントを使用することで必要のないときはどかすことができる。
スコープと併用するために取付可能なマウントリングを使用したり、ACOG等の上部に搭載するいわゆる2階建て、斜め位置にもレールのあるレールシステムやそれ用のマウント等を用いて45度位置に搭載(使う際は銃を傾けて狙う)する場合もある。それぞれ一長一短のある取り付け方法のため、どのように取り付けるかは射手の好みによる。
また、ELCAN社のSPECTER DR(SU-230/PVS)のようにプリズムを用いて4倍と等倍を切り替える事が可能、倍率変更可能なスコープでも等倍に設定する事でダットサイトに近い感覚で使えるものも登場している。
(余談ながらACOGは乱暴に言ってしまえば倍率の付いたダットサイトのように扱える低倍率スコープであり、両目を開けたまま右目で使用することを前提とした設計で、直感的に狙えるようにレティクルの右側がぼやけるようになっている)
射撃競技においては的との距離が決められている事から複数のダットサイトを搭載する射手もいる。例えば中距離用と近距離用にそれぞれゼロインし、的への距離に合わせて照準の修正を行う手間を減らしている。
ちなみにダットサイトの「ダット」とはもちろん「dot(点)」のこと。「ドット」でも構わない筈だが、日本の銃砲・エアソフトガン業界ではより本格的な気分になれる「ダット」とされることが多い。(実際のところ「dot」の発音は「ドット」の方が近いので、正しく呼びたいなら「リフレックスサイト(反射鏡照準器)」が正解)
ダットサイトの製造メーカーはスウェーデンのAimpoint、イスラエルのITL Ltd.、MEPROLIGHT、日本のサイトロンジャパン(旧タスコジャパン)、東京スコープ、カナダのRaytheon ELCAN Optical Technologies、アメリカのRaytheon Company、C-MORE Systems、Bushnell、Trijico.Inc.、ホロサイトを製造しているアメリカのL-3 EoTech、Bushnell等が国内でもよく知られている。
あまり知られていないが、国内のメーカーの製品は輸出されており、海外の有名メーカーに製品を供給している企業もある。供給先のメーカーのロゴが刻印されている事が殆どであり、サイトに製造国が書かれていない場合は日本製とは気づきにくい。