概要
AMD(Advanced Micro Devices, Inc. / アドバンスト・マイクロ・デバイセズ ) とは、アメリカ合衆国の半導体製造メーカー。x86互換CPUのメーカーとして有名になった。
かつて、世界市場の90%以上を寡占したIntelと技術面でガチで殴り合い、自作PC市場でIntelに唯一対抗できる半導体メーカーである。
なお誤解されがちだが、現在のx64(AMD64、x86-64)はAMD64の名の通りAMDの方がオリジナルでIntelの方が互換メーカーである。
これはIntelがx86上位互換からの脱却を目指して開発を進めていたIA-64に固執していたが、32bitエミュレーションの動作の遅さをはじめとするさまざまな問題から遅々として採用が進まず、その間にAMDがx86-64を開発し、そうこうしているうちにMicrosoftがIA-64での開発を打ち切ってx86-64に乗り換えた為。
歴史
かつてはAthlon(K7前半期)でPentium Ⅲと競合し、駆動クロック周波数1GHz突破を一般PC用CPUで真っ先に果たし、「ギガヘルツ神話」を築いたが、高発熱と大消費電力が問題となり(無印Athlonの最終モデルであるThunderbirdは「焼き鳥」と揶揄された)、AthlonXP以降はクロックあたりの性能を向上する路線に転換した。
そして2005年に投入されたK8(Opteron、Athlon64)ではIPC(単位クロックあたりの平均命令実行数)を大幅に向上し、高性能・低クロック・低消費電力を果たして、再び業界に一大センセーションを呼び起こし、自ら「ギガヘルツ神話」に幕を下ろした。
しかし、Coreシリーズで本気を出したIntelに性能・価格等のあらゆる面で完全に水を開けられてしまう。その後PhenomやFXなどでシェア奪還を図るも、Coreiには勝てなかった。
この為、AMDは(創業者であるジェリー・サンダースの『ファブ(工場)を持ってこそ漢』という言葉に反する形で)2008年に製造部門を全て切り離し、自前の工場を持たず製造は外部に委託する、所謂ファブレスメーカーへと移行した(なお、分社後も最近までは元自社工場であるGlobalFoundries(GF)で製造していた)。
…………と、書くとAMDの低迷期のように聞こえるが、実は逆。そもそも、Athlon64 (K8 ClawHummer) 登場の時点では小規模コンピューター向けマイクロプロセッサの世界シェアはIntelが95%以上の寡占で、K8の時代はAMDが神がかっていたように見えてようやく5%削った程度だった。
ついでに言うと、AMDはK7の途中まで自社でチップセットを作っていなかった。
後述するATiのGPU技術と開発能力の合流により、高性能グラフィックス統合型チップセットが自社開発できるようになり、この時期というのは典型的ガリバー寡占(特定の1社乃至2社が強すぎて、他社はどうしようもないという構造。他の例だとかつての銀塩写真フィルム)だったIntelのシェアを90%を割るところまで削ったのはこの時期なのである。
なぜそうなったのかと言うとK8の時にIntelのロードマップを完全に粉砕しておいたためではある。Core i の登場はIntelが息を吹き返したかのように見えるが、それもこれもIntelとしては本来傍流にするはずだった Pentium M / Celeron M (技術面ではP6(Pentium PRO ~ Pentium III)の正統進化系)が存在していたおかげでデッドエンドを免れたようなものだったのである。
しかもこの経緯でIntelはMicrosoftをカンカンに怒らせていた(未だにx64向けWeb頒布用のディレクトリ名がamd64になっている始末)こともあって、AMDのロードマップをうかがいながら舵取りをしていたというのが実態だった。
そんな状況なもので、この間も初代Phenomが不調だったものの、低消費電力・統合型としては高性能なグラフィックのAシリーズでじわじわとIntelの牙城に侵食しつつ、ハイエンドでも Phenom II のスマッシュヒットがあったりする。
下記「Zen」が出るまでは、主に自作PCユーザーに愛用されているほか、家庭用ゲーム機のプレイステーション4とXboxOne向けのチップを供給している。初期のpixivのサーバ機にも使われていたこともある。
またこれとは別に低消費電力のARMコアを組み込んだサーバ向けプロセッサも手掛けていたが、こちらは下記「Zen」が万一コケたときのセカンドプランだったようで、事実上終息している。
2017年3月には、新アーキテクチャ「Zen」を用いたCPU「Ryzen」シリーズが新ソケットAM4で発売された。これまでのAMDの安さはそのままに、シングルスレッドの大幅な性能向上を実現。最大8コア16スレッドと高いマルチコア性能とシングルスレッド性能の両立に成功。Intelが10nmの製造に苦戦していたタイミングでもあったため、Intelと対等に渡り合うことになった。Athlon以来である。
2019年に誕生したZen2は製造元をGFからTSMCに切り替え、プロセスルールもGF12nm→TSMC7nmへと大幅進化。それまで勝てなかったIntel系CPUのシングルスレッドに追いつき、コア数は最大16コア32スレッドとサーバー並みのマルチスレッド性能へと突入。また第一世代のZenの頃に販売されたマザーボードにもBIOSアップデートで対応可能と驚異の拡張性を示す(BIOSアップデートには旧式のCPUが必要になることもあるので、購入の際にはきちんと調べること)。
また帯域が飽和していたSSD用のPCI-Eも4.0にバージョンアップ。B550もしくはX570チップセットのマザーボードと対応SSDでないと恩恵が無いとはいえ速度が頭打ちだった状況をブレイクスルー、Intel系CPUの供給量が少なかったのもあるが2020年時点で市場シェアの7割を簒奪するという大快挙を成し遂げた。
ちなみにプレイステーション5とXboxSeriesXに採用されるモデルはZen2カスタムである。
2020年には基本構造を刷新したZen3を販売。ソケットは引き続きAM4。現在X470・B450・X570・B550と初代用マザーボード以外に対応予定(メーカー次第だが)、注意事項として400系チップセットマザーはBIOSROMの容量不足からBIOSアップデート後は旧来のCPUには対応しなくなる。また、コア性能の強化もあり相応の電源回路を必要とする。
2022年前半にはモバイル向けにはZen3+、デスクトップ向けにはZen3Dが導入された。
更に2022年後半にはZen3以来となるアーキテクチャ更新となるZen4が販売される予定。Zen4では長らく続いたAM4ソケットから変更され、AM5というLGAソケットに変更される。また、IntelがAlderLakeで採用したDDR5メモリ・PCI-E5.0にも対応する予定。ちなみにAMDの公式発表によると、Zen3からシングルスレッド性能が15%ほど向上しているらしい。
商品
サーバー、ワークステーション
コンシューマー
その他
合併した旧ATIの製品であるGPU及びAMD64用統合チップセット「Radeon」シリーズでも有名。dGPUとそれを活かしたAPU(GPU内蔵CPUのAMDでの呼称)メーカーとしても一定の存在感がある。