概要
キエフの幽霊とは、2022年のウクライナ侵攻でロシア軍機を6機撃墜したとされるウクライナ空軍パイロットの通称である。
MiG-29戦闘機を愛機にしているとされている。
なお、キエフの幽霊という呼称は、英語の「Ghost of Kyiv」を和訳したものであるため、後述するウクライナ側からの発表があるまでは、「キエフの亡霊」と和訳されることもあった。
戦果
現在、彼の戦果として伝えられているのは、侵攻初日のキエフ攻勢におけるものであり、当然ながら撃墜したのはすべてロシア軍機である。
また、開戦5日目には撃墜数が10機に達したという情報もあるが、撃墜した機種は明かされていない。
その後、ついに撃墜されるも脱出に成功。基地に帰還し、新たな機体に乗ってさらに敵機を撃墜したという情報も出ている。この時すでに撃墜スコアは21機あるという。
似たようなものだと、これまでの戦史には1日で17機撃墜した人や何度撃墜されても基地に戻って出撃した人はいる。
その後の情報だと、キエフの亡霊は49機のロシア軍機を撃墜したと報道されているが、真偽は不明である。
SNS上での反応
彼のことが初めて世に出た後、SNS上で噂が広まり始め、侵攻から3日後にはウクライナ国防省がその存在を喧伝、プロパガンダとして広められた。
ウクライナ前大統領であるペトロ・ポロシェンコはパイロットの写真を公開して「キエフの幽霊」の実在を主張したが、これは2019年にヘルメットの試験風景として撮影されたものの使い回しである。
この一連の流れに対し、航空軍事評論家の関 賢太郎氏は乗りものニュースに『「キエフの幽霊」って何者? ウクライナ空軍に1日で6機撃墜のエースパイロット誕生か』という記事を掲載。
その中で「日本風にいえば「大本営発表」であり、「キエフの幽霊」は文字通り幽霊に過ぎないと思われます。」として個人としての存在を否定しつつも、ロシア空軍がかなりの損害を被っていることに言及し、「見方を変えるならば、ウクライナによる防空戦闘そのものが「キエフの幽霊」であり、その象徴となったともいえます。」と述べている。
そして、記事の最後を「ひょっとしたら我々は、500年後や1000年後に「ロビン・フッド」や「スサノオ」、実在の人物ながら虚実入り混じった「ジャンヌダルク」や「弁慶」などと並び称される、空の英雄伝説の誕生を目撃しているのかもしれません。」という言葉で締めくくった。
悲劇
ウクライナ空軍は2023年8月26日、北西部ジトーミル上空で25日に戦闘任務中のL39練習機2機が空中衝突しパイロットら3人が死亡したとSNSで発表した。
この3人の犠牲者の中には「JUICE」のコールサインで知られたアンドリー・ピルシュチコフ少佐が含まれていた。
ピルシュチコフ少佐は開戦直後のキーウ防衛戦でMiG-29Mを駆り多数の露軍機を撃墜したパイロットの一人としてその名が知られ、BBC等の西側メディアの取材にも応じていたパイロットであった。
彼は取材の中で早くから西側装備の重要性を説き、習熟に時間がかかる事も承知でF-16やAMRAAM、パトリオット等の早期供与を求めており、ウクライナの防空体制全体を見据えていた人物といえる。
折しも各国からF16の供与が表明され、習熟訓練が進む最中だけに、ウクライナ国防省はベテランパイロット達の事故死を「悲劇的な損失だ」とした。
また、ゼレンスキー大統領は定例の動画演説でこの事故について触れ、「ウクライナの自由な空を守った者たちを決して忘れない」と哀悼の意を表した。
同人誌「キエフの幽霊」
松田重工による同人作品。
ハルキウ州の「ラノック出版社」の社長の目に留まり、ウクライナ語での出版が実現。
戦時下のウクライナでベストセラーとなっている。
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