始めに
初出は漫画『鬼滅の刃』の公式スピンオフ「キメツ学園」。3年蓬組・妓夫太郎の名前(フルネーム)として登場した。
これを便宜に、本稿では人物造形の基となった妓夫太郎が人間であった頃についても解説する。
名前の留意
「謝花妓夫太郎(しゃばな ぎゅうたろう)」は、公式スピンオフ「キメツ学園」に登場する(元は)鬼の妓夫太郎へ与えられた名前。
この人物設定により「謝花妓夫太郎≒鬼の妓夫太郎が人間だった頃の名」という解釈もできる事から、ファンアート・二次創作では人間時代の妓夫太郎へもタグ付けなどが用いられている。
だが公式ファンブック・弐だと、原作上で人間だった頃の名前は「妓夫太郎」とされている。そのため「謝花妓夫太郎」とは、キメツ学園にのみ登場する架空の人間として用いられる名前なのかもしれない。
但し、これといった確かな規制・制限はないので、作品のタグ付けなどで「謝花妓夫太郎」を用いる場合は、上記の経緯があると留意しておくぐらいの認識で用いればよろしいかと思われる。
キメツ学園の妓夫太郎
プロフィール
氏名 | 謝花妓夫太郎(しゃばな・ぎゆうたろう) |
---|---|
性別 | 男性 |
年齢 | 18歳 |
所属 | キメツ学園高等部3年蓬組 |
原作13巻で設定が明かされた。
妹の堕姫こと謝花梅と兄妹揃って高等部の生徒。キメツ学園の世界でも兄妹仲は良好。妹・梅といつもつるんでいる重度のシスコン。
ケンカが強い不良生徒(それも学園随一の問題児)で、ケンカっ早くもめ事を起こすため、炭治郎と衝突することが多い。
が、禰豆子の人気の高さに納得しない梅が、中指を立てて竈門兄妹にケンカを売ったときには「女の子がそんなことするんじゃない」と常識的にたしなめている。
梅と兄妹バンドを組んでおり、クォリティーの高さに人気がある。
ちなみにこのキメツ学園は元々問題児だらけとのことだが、その中でも随一の不良と評されるこの兄妹は普段一体どんなスクールライフを送っているのだろうか……。
しかし普通に通えている辺り、不良ながらも退学処分になるような事まではしていないのだろう。
人間の妓夫太郎
鬼としての妓夫太郎との違いは、髪と目の色。
人間時代は黒髪と青い瞳の持ち主で、瞳の色は妹の梅とお揃いだった。
関連事項(親記事)「妓夫太郎」でも述べてある通り、彼の過去は凄惨の一言に尽きる。
本編から100年以上前に吉原の最下層たる羅生門河岸で生まれた彼は、食い扶持を減らすために生まれる前から親に殺されかけ、そして生まれてからも何度も殺されそうになった。
梅毒の症状が顕著に表れたのもあり、生まれた当時から醜い姿をしており、美貌が重要な遊郭では親を含めて周囲の人間から蔑まれ、酷い扱いの元で暮らしてきた。
妓夫太郎は風呂はおろか行水すらできない(させてもらえない?)のか、いつもフケと垢まみれで、腹が減ればそこらで虫やネズミを捕らえて食べるという、最早人間以下の暮らし。
当然遊び道具なども与えられないので、どこかの客が忘れていった鎌で遊んでいた。
そんな中で、彼の生活を変えたのは妹・梅(うめ)が生まれたことだった。
「梅(うめ)」という名前は死んだ母親の病名から付けられたもので、その事を妓夫太郎は酷いものだと愚痴った。が、それでも年端もいかない頃から周囲をたじろがせるほどの美貌を持って生まれた彼女の存在は、その醜さから忌み嫌われていた彼には自慢となっていた。
だが母親は、美少女にもかかわらず梅の髪や目の色が気味悪いからと赤子のうちから散々に扱っていた。遂には梅の髪を剃刀で切った際に、妓夫太郎が逆上し大暴れした事件をキッカケに、息子に怯えた母親は二人に近づかなくなり、親子の立場も逆転していったという。
その頃には自身の腕っ節が強い事にも気付き、幼いころから使っていた鎌を利用し妓夫として遊郭の掛け金回収の取り立ての仕事を始める事に。誰もが彼を気味悪がった為に仕事は上手く進み、今まで悪い事ばかりだった人生も何とか良い方向に向かい始めたかに見えた。
だがようやく得た平穏な時間は、唐突に終わりを告げる。それは梅が13歳のある日……。
ある日の仕事中、激昂した梅が客の武士の片目を簪で突き、失明させる事件を起こす(激怒した理由は兄の妓夫太郎を侮辱されたため)。その懲罰として梅は縛り上げられた後に生きながら焼き殺されるという凄惨な仕打ちを受けたのである。
妓夫太郎がその場に駆け付けた時、梅は辛うじて生きていたものの、全身が丸焦げになっている状態で息をするのがやっとの有様。最早死を避けられない有様に変わり果てた妹の姿に、堪らず兄は絶叫する。
「わあああああああ!!やめろやめろやめろ!俺から取り立てるな!」
「何も与えなかったくせに取り立てるのか!許さねえ!許さねえ!」
「元に戻せ俺の妹を!でなけりゃ神も仏も皆殺してやる!」
妹を抱きしめながら絶叫する兄の背後から、梅に目を潰された侍が襲い掛かり、遊郭の女将と共に妓夫太郎を殺そうとする。実は客に対してあまりに強引すぎる掛け金回収を行う妓夫太郎を女将は陰で厄介者だと思っており、これを機に客である侍と共謀し厄介払いで兄妹を始末する気だった。
大人二人の邪な姿を見て心の何かが切れた妓夫太郎は、そのまま愛用の鎌に嫉妬と怒りを込めて反撃。その結果として彼らを手にかけることとなった。
結局、人間であった頃の彼を助けてくれる『人間』など、何処にもいなかったのだ。
瀕死の梅を連れ、雪が積もる冬の遊郭を当てども無く歩き回り、やがて妓夫太郎は侍によって負われた怪我も相まって、力尽きて倒れる。
最期まで、幼い兄妹を助けてくれる『人間』はいなかった。
そう、二人を気にする『人間』はいない……
どうしたどうした 可哀想に
俺は優しいから放っておけないぜ その娘 間もなく死ぬだろう
兄妹の前に現れたのは『鬼』。
当時"上弦の陸"として活動していた童磨であった。
命の大切さを説きながら遊女を喰っていた鬼は、死にかけている梅と妓夫太郎へ鬼となる様に誘いをかけ、そしてその誘いに乗るままに、兄妹は鬼となって生き延びた。
今際の際においても、妓夫太郎は自分の人生において鬼となったことへ悔いは無かった。
彼は人の素晴らしさなど一欠片すら見た事がなかったし、そもそもゴミとして扱われ続けた彼が人だった事など産まれてこの方一度としてなかったのだから。
奪われるだけで与えられることの無かった自分が、幸せそうな他人から奪い、取り立てることのできる鬼という存在に成れた。
彼は生まれた時から人に助けられたことなど一度もなかった、全てが彼等から搾取し、結局唯一助けてくれたのは人喰いの鬼のみ、それは何度生まれ変わろうとも鬼になる事を決意させるほどの凄惨な人生であった。
だが妓夫太郎は、鬼となっても捨てきれなかった唯一の心残りがあった。
それは、妹・梅(うめ)の事だった。
「奪われる前に奪え、取り立てろ」
そんな教えで育てたために、梅は客としてやって来た侍を簪で刺し、それにより復讐として焼かれ、自分と同じ鬼になってしまった。
自分が育てた故にそうなってしまったが、素直で染まりやすい性格をした梅ならば、もっといい店にいたなら真っ当な花魁に、普通の親元に生まれていたなら普通の娘に、良家に生まれていたなら上品な娘に、そしてあの時の客の侍に従順にしていればもっと違う道があったのかもしれない。
その思いだけが、彼に残る唯一にして最大の心残りだった。
余談
妓夫太郎の顔や体のあちこちには血の染みのような痣があり、加えて歯はギザギザ。これらの身体的特徴は、先天性梅毒によくみられる症状で、現在ではそれぞれ「梅毒性天疱瘡」、「Hutchinson切歯(ハッチンソン切歯)」と呼ばれている。前述の生い立ちからみて母親から感染したものと思われる。大抵は死産になるが、無事に生まれても障害児になるのだ(ただし物言いがつくのを避けるためか、彼が先天性梅毒の患者とは明言されていない)。