「ホネまで愛してくれますか?」
概要
19世紀のヨーロッパを舞台に、親の都合で政略結婚を強いられた若者と、彼を自分の花婿と思い込んで死者の国に引きずり込んでしまったコープスブライド(死体の花嫁)を巡る切ないラブ・ロマンスを描くファンタジーホラー。
本作は『チャーリーとチョコレート工場』と並行的に制作が進められ、10数秒の映像に約12時間、完成まで約10年という長い歳月をかけて作り上げられた。リアルな舞台セット、巧みな感情表現を実現したパペット技術、それらに圧倒的な説得力とリアリティを与える優れたアニメーション技術が合わさって作り上げられた幻想的な映像美によって切なくも悲しいラブロマンスをスクリーンに描き出している。
ストーリー
時は19世紀、舞台はヨーロッパのとある村。
魚の商売業で成り上がった品格のない成金ヴァン・ドート夫妻は、上流階級入りを夢見て一人息子のヴィクターを、破産寸前の没落貴族であるエヴァーグロット夫妻は救貧院入りを回避するため一人娘のヴィクトリアを、それぞれの思惑の元に結婚させようと目論んでいた。
親の都合で決められた顔も知らない相手との結婚を不安がる2人だが、初めて顔を合わせた式のリハーサルの日にお互いに惹かれ合い、結婚に前向きになっていく。しかし、小心者のヴィクターはリハーサルでドジをやらかし続け、怒った神父から式の延期を言い渡されてしまう。
焦ったヴィクターは真夜中の森で独り式の練習を続け、練習のつもりで何気なく地面から突き出た枝の先に結婚指輪をはめた。だが、それは枝ではなく、かつて結婚詐欺にあって殺されこの森に埋められた悲劇の花嫁、コープスブライドの手だったのだ!
彼に愛の誓いを立てられたと思い込んだコープスブライド―エミリーは彼が自分の花婿であると思い込み、ヴィクターを地中深くにある死者の国へと連れ去ってしまう。
どんよりと暗い地上とは裏腹な明るくエネルギッシュなパワーに満ち溢れた死者の国に、次第に魅せられていくヴィクター。一方でなんとか地上へ戻ろうと画策するも、生きている婚約者がいることを知られ、エミリーを傷つけてしまう。
ただ一途に愛情を追い求め続ける彼女の悲しい心に触れたヴィクターは、ヴィクトリアがほかの男と結ばれることになったと知ったのを機に、エミリーの愛を受け入れるためにある決心をするのだが……。
登場人物
主人公。内気の反面繊細で優しい青年。犬が好きでピアノが上手い。金はあるが品格が無い魚屋の夫婦の間に生まれるが、日々の生活に息苦しさを感じ、階級違いの結婚に不安を抱いていたが、結婚式のリハーサル直前に対面したヴィクトリアに惹かれ結婚に前向きになる。しかし、肝心のリハーサルで失敗を繰り返してしまい、真夜中の森で式の練習をした際に誤って死体の花嫁エミリーと婚姻関係を結んでしまう。そのまま死者の世界へ連れていかれるが、何とか地上へと戻ろうと画策する。初めは、不幸な境遇に同情はするものの、死体であるエミリーを敬遠していたが、次第に彼女の健気さや一途な心を好ましく思うようになる。
品格はあるが金は無い没落貴族の娘で、ヴィクターの本来のフィアンセ。両親が勝手に決めた財産目当ての結婚に少し不安を感じていたが、相手のヴィクターと顔を合わせたその日に彼と心通わせ、彼と同様に心から結ばれたいと望むようになる。物静かでおしとやかな性格で、自分の気持ちとは裏腹に強引に決められた結婚に不満を抱きつつ諦めを覚えていたが、一目惚れしたヴィクターがエミリーに連れ去られたことで、内に秘めていた芯の強さと行動力を発揮していくようになる。
しかし、きわめて厳格かつ高圧的な態度の完璧主義者な両親の態度には逆らえず、音沙汰のないヴィクターとの婚約を一方的に破棄された上、バーキスと結婚させられることになってしまう。
CV:ヘレナ・ボナム=カーター/吹き替え:山像かおり
本名:エミリー。本作のヒロインである、「死体の花嫁」。所々体が腐敗しており、骨が露出したり目玉が外れたりする。
数年前に一文無しの恋人との結婚を父親に反対され駆け落ちを計画した。決行の夜、母親のウェディングドレスで身を包み、ほんの少しの金と宝石を持って森で待ち合わせていたが、駆け落ちするはずだった恋人に殺害され、金と宝石を奪われてしまった。以後、彼女はウェディングドレス姿のまま死者の世界をさまよい、運命の人が現れるのを待っていた。そこへ現れたヴィクターからプロポーズされたと勘違いし、ヴィクターとの関係を深めようとするも生きている婚約者がいることを知って深く傷つき、生者と死者という壁ゆえに報われぬヴィクターへの想いに苦悩する。
当初は結婚への憧れからヴィクターと結ばれることに躍起になっており強引な面も目立っていたが、本来は心優しい性格であり、婚約のお祝いにヴィクターの死んだペットを見つけてプレゼントしてくれたりと美しい心の持ち主であるが、逃げ出したヴィクターがヴィクトリアと一緒にいるところを見て、彼女が怒りを露にするシーンは結構怖い。
ヴィクターと結婚するには彼に「死者の世界の葡萄酒」を飲ませ、死者として地下の世界に閉じ込めるしかないというグートネクト長老の言葉に悩む。その後、結婚を決意したヴィクターと地上で正式に結婚式を挙げることになるが、そこでヴィクトリアの姿を見て「結婚の夢を奪われた自分が、今度は別の誰かからその夢を奪おうとしている」と気付き身を引く。
そして自分の命を奪った仇・バーキスに怒りを叩きつけ、彼が死者の世界へ引きずり込まれてゆくのを見届けた。積年の恨みが晴れたにもかかわらず、その顔にはどこか複雑そうな表情が浮かんでいた。
全てが終わった後は「失恋」という形で結婚への未練に区切りがついたのか、エミリーはヴィクターたちに青いバラをプレゼントし、二人の門出を祝うように静かに微笑んだ。その直後、彼女の体は無数の蝶へと変化し、青く輝く月めがけて羽ばたいていった。
地上の世界
ウィリアム・ヴァン・ドート
CV:ポール・ホワイトハウス/吹き替え:鈴木勝美
ヴィクターの父親。魚の行商で財を成した成金であり、とぼけた性格で品格もない。妻のネルはお世辞で相手を持ち上げようとするが、それに対してウィリアムの方はちょっとしたケチを付けるような物言いをする。自分の魚店の商売を成功させ、大きな財を築く。妻のネルとともに上流階級への仲間入りを夢見ている。
妻とともに馬車に乗ってヴィクターの捜索に出たが、御者のメイヒューが呼吸器不全で死んでしまったことに気付かず、そのまま何処かに行ってしまう(その後の顛末は不明)。
ネル・ヴァン・ドート
CV:トレイシー・ウルマン/吹き替え:さとうあい
ヴィクターの母親。肥満した体に高価な服や毛皮、帽子に扇子を身につけた成金婦人。夫と共に上流階級への仲間入りを夢見ている。ヴィクターが姿を消した夜、その夢のために必死に彼を捜索する。
捜索中、御者のメイヒューが呼吸器不全で死んでしまったことに気付かず、そのまま夫とともに何処かに行ってしまう(その後の顛末は不明)。
フィニス・エヴァーグロット
CV:アルバート・フィニー/吹き替え:土師孝也
ヴィクトリアの父親。没落貴族で路頭に迷うことを恐れ、娘を成金と結婚させようと計画する。いらつきやすい。マスケット銃を用いようとすることが多い。
ヴィクトリアとバーキスの挙式後、闇の中から現れた死者たちに恐れ慄いて逃げ出し、その後の顛末は不明。
モーデリン・エヴァーグロット
CV:ジョアンナ・ラムレイ/吹き替え:宮寺智子
ヴィクトリアの母親。夫とは愛し合っていないと断言し、結婚に愛は必要ないと言う。音楽は情熱的過ぎるとしてピアノを弾くことを禁じている。
夫と同様、地上に現れた死者たちに恐れ慄いて逃げ出してしまい、その後の顛末は不明。
メイヒュー
CV:ポール・ホワイトハウス/吹き替え:宮澤正
ヴァン・ドート魚店の従業員で馬車の御者。呼吸器が悪いのか、しょっちゅう咳をしており、物語の途中で呼吸器不全で死亡、死者の世界でヴィクターと再会する。
死後は呼吸が楽になったことを喜んでいた。そこにいたヴィクターに、ヴィクトリアが他の男と結婚させられることを知らせる。ヴィクターとエミリーの結婚式で地上に現れた際は自分と同じヴァン・ドート魚店の従業員の男と再会した。
ヒルデガート
CV:トレイシー・ウルマン/吹き替え:定岡小百合
通称「ヒルデ」。エヴァーグロット家に仕えるメイドの老女。ヴィクトリアの世話役も務める良き理解者。ヴィクトリアがバーキスとの望まない結婚に絶望している様子を見て、一人泣いていた。
エミール
CV:スティーブン・バランタイン/吹き替え:岩崎ひろし
エヴァーグロット家に仕える執事。エヴァーグロット邸に死者が大勢侵入した際、主人たちを見捨てて逃げ出した。
CV:リチャード・E・グラント/吹き替え:山野井仁
結婚リハーサルにいきなりやってきた謎の男。見た目も言動もかなり胡散臭い。森から帰ってこないヴィクターが行方不明になったことをいいことに、エヴァーグロット夫妻に取り入ってヴィクトリアと結婚しようと目論む。
地上に死者たちが現れてパニックになった際は、テーブルの下に隠れて怯えるという醜態を晒した。
数年前に婚約者を事故で亡くしてしまったらしいが……実は彼の正体は結婚詐欺師であり、エミリーを殺害した張本人であった。勿論エヴァーグロッド家に近づいたのも金のためでしかなく、結婚した暁にはエミリー同様にヴィクトリアを殺害して財産を持ち逃げする算段だったと思われる。……もっともエヴァーグロッド家が没落貴族である事までは知らず、ヴィクトリアから無一文だと聞かされて「この結婚に失望してるって意味では私達お似合いみたいね」と盛大に皮肉られてしまう。最終的に、誤って毒入りのワインを飲み死者の世界へと引きずりこまれることとなる。
ゴールズウェルズ牧師
CV:クリストファー・リー/吹き替え:家弓家正
非常に頭が固く、意地悪な牧師。ちょっとしたことで怒鳴り、ヴィクターを杖で叩く。
ヴィクターがコープスブライド(エミリー)に攫われたことをヴィクトリアから訴えられても一向に信じず、逆に彼女を屋敷に連れ戻してしまった。
終盤、教会に入り込もうとした大勢の死者達を追い返そうとするも、教会で大声を出すというマナー違反を指摘されて茫然自失、為す術もなく押し入られてしまう。
ガートルート
CV:不明/吹き替え:不明
勝気な性格をした老女。地上に現れた死者たちに対しても臆することなく高圧的な態度をとっていたが、亡くなった夫のアルフレッドと再会する。
少年(本名不明)
CV:不明/吹き替え:不明
おもちゃの船を持ち歩いている男の子。初めは地上に現れた死者たちに怯えていたが、その死者の一人が亡くなった祖父であると気づき、死者たちが地上世界の家族や友人であると気づかせるきっかけを作った。
また、一緒にいる愛犬もかつてはスクラップスと仲が良く、地上での再会を喜んでいた。
八百屋(本名不明)
CV:不明/吹き替え:不明
妻のエセルは既に亡くなっているが、ヴィクターとエミリーの結婚式の際に地上に現れた妻と再会を喜び合った。
町の触れ役
CV:不明/吹き替え:不明
ベルを鳴らし、大声で町のニュースを叫んで知らせる。ヴィクターの結婚リハーサルの失敗や、エミリーとの逢引きや姿の晦ましなど、情報を掴むのはかなり早い。
死者の世界
一般的に生者が死後に向かう天国や地獄とは異なる世界で、物語の舞台となる街の住人が死後に向かう場所。無数の棺桶や歪んだ建物が立ち並ぶ不気味な様相とは裏腹に、そこに住む死者たちは地上のしがらみから解き放たれた反動で活力に溢れている。キャラクターの肌の色や周りの景色などが全体的にくすんでいる地上と対比する形で、全体の色調が鮮やかに描かれている。
マゴット(画面右下)
エミリーの頭蓋骨の中に住み着いている蛆。エミリーの頭の中で冷やかしの言葉をかけたりもするが、ヴィクターとの結婚式の為に新しいドレスに身を包んだエミリーを見て号泣するほどの良き理解者。蛆は人の頭に住み奇想や妄想をもたらすという海外の伝承がモチーフ。
クロゴケグモ(画面右上)
CV:ジェーン・ホロックス/吹き替え:まるたまり
自称「後家さん(英語名のBlack Widow Spider のwidowにも、後家の意味がある)」。マゴットとはいいコンビで、ヴィクターの本来の婚約者の存在に悩むエミリーを共に励ましたりもした。
ヴィクターとエミリーの結婚式が決まった際は、仲間の蜘蛛とともにヴィクターの服を縫った。
ボーンジャングルズ(画面左)
パブの人気バンドで、メンバーは全員骸骨。帽子を被った下あごの大きいメインボーカルは片目の眼球があり、肉のある女に目がないらしい。
他のバンドメンバーは自身の一部を楽器にしつつ、バックダンスと演奏をこなす。ピアノ担当はサングラスを着用。
スクラップス(画面左)
CV:なし/吹き替え:なし
ヴィクターが子供の頃に飼っていた犬(物語冒頭に登場するヴィクターの幼少期の写真で生前の姿が確認できる)。亡くなって久しく、死者の国ですでに白骨化していたが、エミリーによって結婚の贈り物としてヴィクターに返された。死んでいるため、生前は得意技だった「死んだフリ」ができなくなっている。
ヴィクターとエミリーの結婚式で地上に現れた際は仲の良かった犬と再会を喜び、バーキスがヴィクトリアを人質に取った際はその右足に噛みついて隙を作った。
グートネクト長老
死者の世界の頼れる長である、骸骨の老人。彼の部屋は埃の積もった本で溢れ返っている。定期的に薬を飲むのが習慣になっており、頭蓋骨のてっぺんが割れて開いている。エミリーの結婚に、知恵を貸す形で尽力する。
ヴィクターとエミリーの結婚式の際は、神父役も務めた。
ポール・ヘッド・ウェイター
CV:ポール・ホワイトハウス/吹き替え:いずみ尚
生首だけの姿をした死者で、曰く「パブの“ウェイター頭”」。新たな死人が死者の世界にやってくるとすぐ急行し、自己紹介する。たくさんのゴキブリに首を持ち上げてもらって移動する。
ミセス・プラム
CV:ジェーン・ホロックス/吹き替え:磯辺万沙子
パブの女将さん。パブの料理やウェディングケーキを作っているが、男に目がない。
常に側にいる旦那らしき料理人は全身に包丁が刺さっており、左目がなく、もう片方の目と鼻はちょっとした衝撃で外れてしまうほど脆い。
ヴィクターとバーキスの決闘の際、ヴィクターにナイフを投げ渡そうとして、誤ってフォークを渡してしまった。
ちび将軍/ドワーフ将軍
大きなサーベルが身体に突き刺さっている小柄な将軍。サーベルの向きはその時々によって変わる。
相方の長身将軍とは日々杯を交わしている。
バーキスが結婚式に乱入した際、胸のサーベルを引き抜かれてしまう。
長身将軍/ウェリントン将軍
CV:不明/吹き替え:不明
腹部に大砲であいた大きな穴がある。ちび将軍の相方。
特典映像の中では「大砲(キャノンボール)将軍」とテロップがあった。
アルフレッド
CV:不明/吹き替え:不明
いつもタバコを吸っている骸骨。妻のガートルートはまだ存命で、ヴィクターの結婚式の為に地上に出た際に再会する。地上の教会に現れたバーキスがエミリーを殺した張本人と知った際は、驚きのあまり顎が外れた(文字通り)。
エセル
CV:不明/吹き替え:不明
貴婦人の姿をした死者。“上の階(地上の世界)”の存在を知らなかった。夫は存命で、アルフレッドと同じく地上にて再会する。
スケルトンボーイ&ガール
CV:不明/吹き替え:不明
おもちゃのボートを持って水兵の格好をした骸骨の男の子と、金髪ツインテールでピンクのワンピースを着た骸骨の女の子。子供らしい無邪気な性格で、スクラップスとも仲良し。
ヴィクターとエミリーの結婚式の際は、エミリーが入場する際のフラワーボーイ・フラワーガールを務めた。
ハーフマン
CV:不明/吹き替え:不明
体が正面から真っ二つに切れている紳士。パブでもお酒を半分しか頼まない。
ヴィクターとバーキスの決闘の際は、使用している武器が違いすぎることに文句を言った。
老人の死者(名称不明)
CV:不明/吹き替え:不明
初老の男性の死者。地上にて存命中の家族と再会し、幼い孫と抱き合った。
これにより、地上世界の住民は死者たちがかつての家族や友人であることに気づく。
エヴァーグロット家の先祖(名称不明)
CV:不明/吹き替え:不明
エヴァーグロット家の祖先。生前の写真が屋敷の額縁に飾られている。
他の死者同様、ヴィクターとエミリーの結婚式の際に地上に現れ、フィニスに酒を求めた。
※上記の他にも、様々な死者が数多く登場する。
余談
- 序盤ヴィクターがピアノを弾く場面があるが、それに刻まれたメーカー名は「ハリーハウゼン」。由来は伝説のストップモーションアニメーターで、「特撮の神様」と呼ばれるレイ・ハリーハウゼンからきている。実際本作の製作中、バートンとデップ、ヘレナは彼の自宅を訪問するという機会に恵まれている。さらにその後、レイ自身が本作のセットを訪ねるという、嬉しい出来事も。誰もが憧れる巨匠に認められたわけで、本作に携わった人々にとってはまさにクリエイター冥利に尽きると言っていいレベルの喜びだっただろう。
- 死者の世界のパブの歌手、ボーンジャングルズの声を担当したのは、バートン作品の音楽でおなじみダニー・エルフマンである。元々はボーンジャングルズの歌を作曲し、他の歌手に歌ってもらおうと考えていたが、イメージに合う歌手が見つからずに結局エルフマンが歌うことになった。しかし、独特のしゃがれた声のため、声の収録時彼の声はいつも枯れてしまっていたという。
- 本作に登場する毒入りワインのエピソードは、ハムレットが由来である。さらにクライマックスで死んだ夫と再会した妻ガートルードも、ハムレットの母親が元ネタとなっている。