奪われた願いを、取り戻せ
概要
2023年公開のディズニーの映画作品。本国アメリカでは11月22日に公開、日本では12月15日に公開された。
ディズニー100周年記念作品であり、短編映画である『ワンス・アポン・ア・スタジオ』と同時上映された。
あらすじ
ロサス王国では、民が王に願いを捧げ、いつか願いが叶うと信じて暮らしていた。ある日、アーシャは、王が民の願いを閉じこめて支配していることを知ってしまう。みんなの願いを取り戻すために、アーシャは空から降りてきた願い星“スター”と、王に立ち向かう。
登場人物
主人公。友人曰く「優しすぎる」性格。祖父の願いを叶えてもらうために王の弟子になろうとしたことがきっかけで王国の秘密を知る。
アーシャが飼っているヤギ。スターの魔法で喋れるようになった。
空から降ってきた星の妖精。
ロサス王国の王。今作のヴィラン。
- アマヤ王妃
マグニフィコ王の妻。マグニフィコと共にロサス王国を建国した。常に国民の幸せを願っており、アーシャのよき理解者でもある。
- サビーノ(サヴァ)
今年100歳になるアーシャの祖父。「自分の音楽で人々の心を動かしたい」という願いを王に預けた。
- ティーンズ
アーシャの友人であるダリア・ガーボ・ハル・サイモン・サフィ・ダリオ・バジーマの七人。白雪姫に登場する7人の小人たちが元となっている。
小ネタ
監督であるクリス・バック氏によるとディズニー作品のオマージュが100個以上あるらしい。
そのうち公式が答えた4つのオマージュがこちら。
全体的なストーリーは白雪姫をモチーフとしている。
興行収入と評価、その他背景
本作は、多角的に見てかなり難しい評価の下された作品である。少なくとも100周年記念作品として手放しで誉められる作品とは言えない。
シナリオコンセプト自体は極めてシンプルな勧善懲悪ものと言えるのだが、そのストーリー全体の流れに関しても評論家以外の一般客層の間ではかなり物議を呼んでいる。
特に本作のヴィランであるマグニフィコ王に関して公開前の宣伝では「シリーズ最恐のヴィラン」と謳われながらも、本編だと国民全てが平和に暮らせるような至って真っ当な治世を行っており、捧げられた願いの選別という行為もそれなりに筋の通った考えの下に取り決めたものとして描かれているにも係わらず、アーシャら主人公側の感情的な不満だけでクーデターを起こされて自身のこれまでの全てを否定されるという、他のディズニー作品のヴィランと比較してもかなり理不尽な扱いを受けており、多くの観客からはむしろ「哀しき悪役」として同情されるキャラクターとして認識されるようになってしまった。
ヴィラン側に人気が出る事自体は最近のディズニーシリーズでも別に珍しい話ではないのだが、本作の場合そのせいで本来の主人公であるはずのアーシャの行動の正当性が見当たらないと言う作劇上の問題が発生しており、結果としてアーシャは(一部製作陣の発言を引用して)“活動家”と言うディズニーの主人公とは程遠い蔑称で揶揄され、作品に対する評価も「真の主人公は優しすぎるマグニフィコ王」、「アーシャこそが最恐のヴィラン」「特定の人間による感情的な理由に基づくクーデターを肯定あるいは推奨している作品」などと皮肉られる事もあるなど、制作側の意図と視聴者側の反応が一致していないようなどこか歪な作品となってしまっている。
これに関しては制作側にも思う所があったのか、日本国内では当初本国と同様のスタンスで宣伝を行っていたが、後に開き直ったかの如く方針転換を行いマグニフィコ王の魅力をクローズアップしたCMが製作されている。
加えて、本作は「全てのディズニー映画よりも昔のファンタジー世界が舞台」という設定でプロモーションされているが、これにも指摘が相次いでいる。
これに関しては、過去のディズニー作品には白亜紀後期やギリシャ神話等の、単純な時代設定で言えば13世紀の地中海が舞台とされる本作より遥かに昔の時代が題材のものも存在しているため。
結果「ウィッシュの後に一度人類が滅びて世界がリセットされる」という珍説まで生まれる羽目になった。
さらにいうと、本作の舞台とされる13世紀の欧州・地中海世界では各地で侵略戦争(パレスチナでの十字軍や、スペインのレコンキスタ、モンゴル帝国の東欧・中東侵攻など)が繰り広げられている文字通りの戦国時代であり、しかもこのロサスがある地方もそこに含まれているにも係わらず、本編のロサスは軍備を持たないながらも他国からの侵略も干渉も一切受けない完全中立国家として成立、存続しているというこの時代背景を考えると奇跡としか言いようがない所として描かれている。
この辺もむしろマグニフィコ王の統治の正当性を証明する根拠扱いされていたりする。
そのマグニフィコを失ったロサスの今後がどうなるかは……。
製作背景
ディズニー元社員の告発によると既に一部のアニメーターはディズニーを去っており、代わりに雇われたばかりで経験の浅い若手アニメーターが重要な部分の制作にまで関与するというこの上ない地獄絵図が形成されているとの事。実際本作においては馬が走るシーンには騎手のアップが多用されているが、これは馬をまともに描けるアニメーターがいなかったためと言われている。
また、初期案ではアマヤ王妃もヴィランであり、参謀役かつマグニフィコ王を誘導する真の黒幕であったとされている。マグニフィコが上等な仕立てながらも飾り気のない恰好をしているのに対し、アマヤはティアラや宝飾品で着飾っているという、デザイン面での対比もその名残かも知れない。
だがその設定は本編ではなくなり、劇中のアマヤ王妃はアーシャの後援者となっているのだが、設定変更の混乱からかキャラクターの描写が一貫しておらず、「長年夫の苦労する姿を見ていた筈なのに簡単に掌を返した」「夫を捨てて保身と権力に走った悪女」などと言われる事になってしまった。
なお、この設定変更も「女性を悪役にすべきではない」と言うポリコレ配慮の影響とする説が一般的だが、明言はされていない。他にも「尺の都合」「アマヤ王妃までヴィランだとアーシャ側に勝ち目がない」と言った説も少数ながら存在する。
なお、極端な物として「一部のポリコレ団体に恩を売るため僅か4ヶ月で製作された」と言う信じ難い噂まで流れたが、あくまで「近年のディズニーのポリコレに対する姿勢」を根拠とする噂でしかない点には注意が必要。
……と言うか「経験の浅い若手アニメーターが中心となって、(シナリオの質は度外視しても)さしたる作画崩壊もない95分の劇場アニメを4ヶ月で作る」などと言う事が出来たら、それはむしろ手抜きどころか偉業の類である。これに関しては流石に、批判するつもりで批判になっていないお粗末な噂としか言えないだろう。
本作の出来がお世辞にも褒められたものではないのは事実だが、だからといって「駄作ならどんな理不尽な批判もぶつけていい」と言う話はないので、語るにしても冷静さを失わないようにしたい。
余談
日本語吹き替え版には、脇役として伊藤かりんや濱家隆一(かまいたち)が出演しており、アーシャの吹き替えを務める生田絵梨花とは前者はかつて同じアイドルグループに在籍、後者は音楽番組でMCとして共演と何かと縁のあるキャスティングとなった。
当作品にも近年のディズニー作品に見られるポリコレ要素が点在しており、勧善懲悪というシンプルなシナリオコンセプトも「褐色肌の女主人公が白人風の男ヴィランを倒す」という内容になっている。
しかもその詳細が「努力の果てに作られた至って真っ当な治世の国が、不思議な力を偶然得た主人公によって壊れていく」というものであり、それをあたかも正しい事であるかのように物語が進んでいくという歪さ極まりない内容に批判が集まるのも当然なのかもしれない。
「全てのディズニー映画よりも昔のファンタジー世界が舞台」という他作品を無差別に巻き込む設定付けは、シンデレラや白雪姫など人々に称賛されてきた作品の印象まで歪みかねない。
同時上映作の事を考えればこのような初歩的失念はあり得ない筈なのだが、批判や指摘を気にせず様々な面でポリコレ配慮を押し進めてきた近年のディズニーの事を考えると、そもそもそのような懸念すら考えていなかった可能性がある(近年のディズニー関連の映画作品の中には、ポリコレ配慮ばかりし過ぎて不評だった作品もある)。
興行収入
制作費2億ドルとのころ、興行収入は2億3,360万ドルだった。
これだけ見ると黒字に思えるが、映画の興行収入は配給会社と映画館が折半し、そこからさらに配給会社の取り分(制作費に含まれない宣伝費なども込み)を引いた額が制作会社の利益になるので、一般的には制作費の3〜4倍売上げないと黒字にならない。
なので結論を言うと本作は大赤字である。
だが日本ではこれは世界第2位となる30億円を超える売上を出しており、日本市場の重要性が再認識された。
また観客満足度に関しても、実は世界的に見てもそれなりに高く、一定の評価はされている。
とは言えお世辞にも絶賛や大ヒットの域に届いているとは言えず、ディズニーは実写版リトル・マーメイド、マーベルズ、そしてこのウィッシュで累計9億ドルの損失の叩き出し、マリオ、オッペンハイマーを大ヒットさせたユニバーサルに年間売上を抜かれる事になったのは事実。
一部マスコミによるとCEOに復帰したボブ・アイガーは「憔悴しきっている」と報道されている。
評価
アメリカの映画レビューサイトであるrotten tomatoesでは評論家48%、観客81%。
映画の完成度で言うと、上記の通り評論家たちのストーリーの完成度に関しては評価が低く、この点に関しては非常に否定的な意見が多い。
理由としては評論家は斬新さや真新しさを最重要視していることがあり、100年記念作としてのファンサービスのために過去作への懐古や懐かしさを演出している本作とは相性は最悪だったといえる。
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