山野星雄
やまのほしお
怪しい新聞勧誘員
新米弁護士・成歩堂龍一が初めて担当した事件の証人である中年男性。紫のスーツと赤ネクタイ、七三分けの黒髪と額の黒子、そしてニヤついた笑みと、常に手を揉んでクネクネする動きが特徴的。会話には相手の様子をうかがう様な胡散臭い敬語を用いる。新聞勧誘員として働いているものの稼ぎが少ないらしく、どんな時も誰が相手であろうと矢鱈と腰を低くしてセールスに結び付けようと図る。怪しさ満点の容姿と挙動の持ち主と言える。
実は髪はカツラで、普段は黒髪のカツラの下に隠している頭は全体的に禿げ上がっていて、担当検事・亜内武文よりも遥かに悲惨な事に毛髪は側頭部に僅かしか残存していない。精神的ショックを受けるとカツラが跳ね上がって、年齢の割には深刻なハゲが進行中の頭髪が垣間見える。GBA版の『1』では36歳の設定だったが、脚本家が「あのハゲ具合で、その年は不自然」と思い直してか『蘇る逆転』からは44歳に変更された。アニメ版に至っては、成歩堂が「異議あり!」と唱える際、巻き起こる突風でカツラが吹き飛ばされた。そして最後には事件当時の悪事を暴かれたショックで、残存していた髪の毛が全て抜け落ちてしまい、とうとう完全なハゲ頭に変わり果ててしまった。
小悪党の窃盗犯
OPムービーから丸解りだが、山野こそが今回のモデル・高日美佳殺害事件の真犯人である。彼は空き巣常習犯でもあり、これまでは被害者に遭遇する事なく円滑に犯行を重ねていた。ところが事件当日、海外旅行から帰宅して来たばかりの美佳と鉢合わせしてしまい「唐突な被害者との初遭遇」に錯乱し、その場に置かれていた『考える人の置き時計』を使って彼女を撲殺してしまった。冒頭のシーンでは美佳殺害当時の経緯が描かれている。事前に美佳の彼氏・矢張政志の存在を知っていた様で、彼に罪を擦り付けようと画策し、仕上げに自らも「目撃者の証人」を装い、証言する事により矢張の容疑を強めようとした。
しかし矢張の親友である新米弁護士・成歩堂によって、あっと言う間に自身が追い詰められ告発されてしまう。化けの皮を剥がされた山野は焦燥と苛立ちの余り、せめてもの抵抗として自らカツラを投げ捨てて、成歩堂の顔面にぶつけるのであった。この仕打ちに成歩堂は無言で静かな怒りを見せ、米噛みには青筋が浮かんでいた。本性を現した山野はチンピラ同然の粗野で口汚い中年男性と化し、破れかぶれになりながらも敵視する相手達への暴言を吐き散らかした。最後には「事件当時その時計が鳴ったとは限らない」と言い逃れしようとするも、それすらも無駄な足掻きに終わり、罪を暴かれたショックで泡を吹いて気絶。そのまま緊急逮捕される結末を迎えた。
名前の由来は「ヤマ」の「ホシ」からで、名前の時点で真犯人である事を示している。「プレイヤーに真犯人だと解り易い様にとの配慮」から付けられた名前だが、警察用語に由来する為か当のプレイヤー達には気付いて貰えず、脚本家は少し落胆したと攻略本のインタビューで明かしていた。額の黒子も「冒頭のムービーシーンでの犯行に及ぶ山野の姿」を印象付ける為に付けられた。
所長のお気に入りの模範囚
『逆転検事2』第2話『獄中の逆転』
に再登場。年齢46歳。
今年で逮捕されてから3年目を迎える囚人として再登場。「真犯人の刑務所生活が明確に描写されての再登場」は『逆転』シリーズでは初となる。『逆転裁判4』の牙琉霧人も「有罪判決後の収監生活」が描写されていたが、彼は完全なる特例優遇措置を受けていたので、一般的な刑務所生活の描写がなされたのは山野が初めてである。美和マリーが所長を務める刑務所に入所しており、動物愛好家の彼女の嗜好に合わせて、出所後の職業にトリマーを選んで日夜修行に励んでいる。同じ刑務所の囚人仲間には元殺し屋の鳳院坊了賢、元ボクサーの折中秀治がいる。この2人とは仲が良い訳でも悪い訳でもなく「只の顔見知りの同僚」に近い間柄。
本作では囚人なので当然、囚人服を着ている。その上から「Bowwow(バウワウ)」という文字と「Thylacinus」という狼の顔と英名がプリントされた紫のエプロンを着用する。トリマー修行に励む為、仕事道具となるハサミやコーム、泥パック用のゴム手袋を装備する様子も見られる。
現在の山野は「常に所長のマリーに取り入る事で、彼女の寵愛を受ける立場になって刑期を短縮化させようとの目論見」が駄々漏れの「薄っぺらい野心と忠誠心の持ち主」と化している。名実共にマリーの腹心を担い、ご機嫌取りを欠かさない日々を3年も重ねた結果、彼女にとっては「刑務所の囚人達の中では一番お気に入りの模範囚」として扱われる様になった。いつでも何らかの利益を求めて、利用出来るものは何でも利用する主義のマリーからは大いに気に入られており、実に浅はかな魂胆を見抜かれた上でそれ故に扱い易い「刑務所内での手駒」として利用されている。山野もマリーに手駒扱いされているのは承知の上で、今日も今日とて「美和所長に媚び諂って特別に優遇される立場を手に入れて、少しでも早く刑期を短縮化させる計画」を地道に進行中である。今となっては3年間にも及ぶ努力が実を結び、ついに「出所を間近に控えた、この刑務所の中では最大の模範囚」という称号まで獲得した。
出所の日を指折り数える日常を送っている一方、トリマー修行にも精力的に取り組んでいる。この刑務所では所長マリーの趣味で『動物達の飼育小屋』が完備されて、囚人1人1人へのアニマルセラピーを目的に、各々の囚人に1匹のペットが与えられて面倒を見る事を義務付けられている。それ故に山野は「刑務所の動物全体にまで媚び続ける日々」に追われる立場にある。泥パックを特技とし、山野曰く「毎日毎日、泥まみれになりながら動物達に泥を塗りたくってやっている」との事。この不躾な物言いからも察しが付くが、山野はマリーの前では彼女からの好感度を稼ぐ為だけに「動物好きの模範囚」を演じているだけで、動物達に対する愛情を微塵も持たず、本心では彼らのご機嫌取りも面倒臭く思っている。泥パックの練習も動物達に八つ当たりも兼ねて無理矢理やっている様子で、職業訓練に精を出している振りをしてのアリバイ作りに近い。トリマーという職業も「動物好きのマリーに好印象を与えた上で、出所後の職業にも利用出来るから」との打算で選んだだけに過ぎない。幾ら時が過ぎようと動物達に何ら愛情を抱かないまま、マリーの忠臣として振る舞い優遇される生活を謳歌する山野と、マリーも彼女の支配下にある刑務所も心底嫌い、頻繁に脱獄を繰り返しては冷遇される身の上にあるが、何だかんだ自分に与えられたペット・シロクマのマークへの愛情は抱いている折中は対照的な存在と言える。
この刑務所での動物関連の制度は表向きには「アニマルセラピー目的」を謳っているが、実際には大の動物愛好家であるマリーが職場を動物天国にするのに加え、囚人達にもペットを愛育する人間になって欲しいと要求する「趣味の押し付け」とも言える側面を持つ。しかも山野を含む動物を好きになれない囚人達にも、嬉々として動物関連の制度を強要するのを止めようともしない。マリーに忠誠を誓う山野ではあるが、この刑務所における動物関連の物事には辟易しており、それも出所を少しでも早めたいと願う一因になっているのかもしれない。
数日前に殺人を犯して入所から数日後、所内にて殺害された内藤馬乃介の遺体の第一発見者となった為、目撃者の証人として登場し、現場にやって来た司法関係者からの取り調べを受ける。今回、山野の尋問を担当するのは何の因果か、成歩堂の親友にしてライバル検事・御剣怜侍であった。
刑務所で犯した罪
実は内藤殺害事件の真犯人・マリーの共犯者に当たり、事件当時は彼女の命令を忠実にこなし、現場工作や目撃者を装っての偽証等の悪事を働いた。マリーの犯行が立証される直前、山野自身の犯行が暴かれてしまい、刑務所内にて再逮捕されるに至った。昔から彼は「マリーの刑務所における裏工作や犯罪行為全般」に加担しており、それらも含めて全ての罪を暴かれてしまった結果「3年間にも及ぶ、美和所長のご機嫌取りで刑期短縮化計画」もご破算となった。同時に「刑務所一の模範囚の地位」も剥奪されて、本来の目的とは裏腹に余計に刑期が延長化される結末を迎えてしまった。自業自得とは言え、踏んだり蹴ったりの状況に堪忍袋の緒が切れた山野は、またしても自分を告発した相手の顔に腹いせとしてカツラを投げ付けた。今回は幼馴染の成歩堂に続いて、御剣が被害を受ける事となった。同じ目に遭わされた2人だが、冷静に怒りを見せていた成歩堂とは正反対に、ただただ御剣は驚愕していた。犯行を暴かれて本性を現すと、動物達への日頃の不満まで爆発させて「何の為に動物共のご機嫌を取って来たと思ってるんだ!」と怒鳴り散らして醜い本心を吐露した。EDでも表面上は何とか取り繕おうとするも、骨折り損となった苛立ちは隠し切れず怒りを露わにしていた。
最初期の敵だけあって「歴代真犯人もとい凶悪犯」の中では「小物の中の小物」と言っても差し支えない山野であるが、彼もマリーと同じく「酷薄、残忍、利己的の三拍子揃った極悪人」なのは間違いない。しかも小心者で目先の利益しか見ていない小悪党だからこそ、保身や欲に目が眩むと即座に罪を犯したり、窮地に立たされると瞬時に激怒して自棄糞になるという暴走癖の持ち主でもある。刑務所では、ちっとも自分の犯罪の反省、被害者達への謝罪や罪悪感を見せず、自分が思い通りに生活する事ばかり考えていたのにも呆れてしまう。最終的には私利私欲の為だけに所長と組んで、刑務所でも数々の悪事を働いて再犯にまで走ったのだから本当に救い様が無い。世の為、人の為にも死刑は難しくとも、出来る限り刑期が延長される事を願いたいものである。
備考
違和感のある短過ぎる刑期
現実では山野の美佳殺害当時の罪状は、刑法では最上位に値する重罪「強盗殺人」に該当する。そもそも世界的に見ても、正当防衛や仇討ちといった情状酌量をせざるを得ない事情が有ったとしても、単純な殺人で1人の被害者を出すだけで、最短で10年前後は刑務所行きとなるのが通例である。「只の殺人が強盗殺人に変貌する」だけでも死刑や終身刑となる危険性が一気に跳ね上がる。これらの現実での法例と照らし合わせると、山野も死刑や終身刑となっても不思議ではない。現行法では無期懲役は事実上の終身刑と化しているので、こちらの判決が下されたとしても可笑しくはない。
それなのに事件及び入所から僅か3年で出所可能となる事は、正直言って違和感の塊である。『逆転検事1&2』が発売された2024年では闇バイトが社会問題化しており、軽い気持ちで強盗殺人に手を染めて犯罪者に身を墜とした挙げ句、残りの人生全てを刑務所で過ごす羽目となる事例も多発している。一部では「闇バイトに手を出す青少年の存在」も話題に上げられている。それだけ強盗殺人は凶悪犯罪なのである。恐らく山野の犯罪は「強盗殺人」と一纏めにはされず、量刑を決める裁判では窃盗と殺人は別々に扱われた可能性がある。お気に入りの模範囚の出所をも容易く決定出来る位、絶大な権力を持つマリーの力添えが刑期短縮化の最大の理由であろう。
メタ的な事を言うと酷薄で利己的な囚人の山野が、他人の共犯者となるとしたら「刑期の短縮化という取り引き条件を持ち掛けるのが最適」だとスタッフが考えての設定だったのかもしれない。