概要
『逆転検事2』第2話『獄中の逆転』に登場。年齢37歳。
大手の刑務所の所長を務める中年女性。元々は『ハッピー・ファミリー・ホーム』という養護施設の経営者で、施設の閉鎖後に現在の職業に転職した。現実でも刑務所の囚人は男女別に収容され、マリーが担当しているのは男性刑務所だが、女性ながら一筋縄では行かない輩も多い囚人達を(極一部を除いて)見事に纏め上げている。彼女の運営する刑務所の主な囚人には、元空き巣・山野星雄、現役の脱獄囚・折中秀治、かつて凄腕の暗殺者として名を馳せた鳳院坊了賢がいる。数日前に新たな囚人には、第1話『逆転の標的』にて上司を殺害して逮捕された内藤馬乃介が加わった。現在マリーは所長の職務を果たすべく、彼の取り調べを積極的に行っている。
刑務所の全てを意のままにしている彼女だが、その環境を最も積極的に阻害する人物・了賢の存在が唯一の悩みの種となっている。数年前「殺しにも飽いた」との理由から逮捕を受け入れて刑務所に入所して以降、定期的に所長の自分を脅迫しては望みを叶えて、専用の独房にて悠々自適な隠居生活を送る了賢を目の敵にしており、彼の「もう再犯しないという主張」も全く信じていない。了賢に対する嫌悪感と不信感は非常に強く、今でも「どこかに彼の部下がいるのではないか」と疑い、警察と協力して該当者を捜索している程である。
奇しくも「シリーズ2作目の第2話で初登場する重要女性キャラ」「冷静な性格と優秀な知能を持ち併せ、独特の敬語を用いて話す熟年女性」という点は『逆転裁判2』第2話『再会、そして逆転』で初登場した、過去の綾里家の実質的な指導者・綾里キミ子と共通している。何の因果か表記こそ異なるものの「一人称があたくし」なのも同じである(マリーは平仮名、キミ子はカタカナ)
色白で化粧の濃さが際立つ顔立ちの熟女で、金髪のウェーブを掛けたセミロングを靡かせる。帽子とスカートは役職上の青い制服を着用し、その上から「明るい茶色と暗い茶色が交互に組み合わさった、特製の毛皮の厚手のコート」を身に纏う。マリーの首には「最愛のペットである生きている白い狐」が巻き付いてマフラーに擬態している。普段の狐は人形にも見える程じっとしているが、時々マリーに合わせて動いたり、彼女からの口付けを受ける場面も見られる。
常にどこか冷めた雰囲気を醸し出して、鷹揚に構えている為、薄情な人物という第一印象を受ける。実際には博愛精神と愛嬌を備えた女性で、会話中には所々で茶目っ気も見せる。「親交を深めたい人物を見つけると、相手にハグとキスを迫る癖」を持つ。作中では仕事で刑務所を訪問した「弁護士・信楽盾之とハグとキスを交わす場面」を披露し、この時に冒頭の台詞を述べた。刑務所を「ホーム」、囚人達を「ファミリー」と呼び、彼らを名実共に家族扱いし自己流の愛情を注いで、各自の刑務所生活を献身的にサポートしている。囚人とは誰とでも1度は所長室に招いて、直接の会話を通じて相互理解を深める努力を欠かさない。職場でも堂々と公言する程、会議が大嫌い。
大の動物愛好家で、数年前には刑務所全体に大規模なアニマルセラピーを導入し、その一環として囚人1人ずつに1匹のペットを与えて飼育させている。但し唯一の例外として、生まれつき盲目で入所前から盲導犬クロの飼い主だった了賢だけは、娑婆から連れて来た飼い犬をそのまま「刑務所のペット」として飼育する事が許可された。マリー本人は動物が好き過ぎる余り、良かれと思って「各囚人に1匹ずつペットを飼育させる制度」を取り入れているが、山野を始め「動物が好きになれない囚人達」にも制度を強要する独善的な一面を見せており、彼らからの反発もお構い無しに嬉々として制度を続行している。ハイレベルな動物達の曲芸を楽しませてくれる『タチミ・サーカス』と猛獣使いミリカの大ファンでもある。この為マリーはサーカスの人々に懇願して、毎月1回は刑務所での慰問公演『動物ショー』を行って貰い、サーカスの動物の一部を拝借、場合によっては譲渡する契約まで成功させた。彼女曰く「『動物ショー』は家族団欒」との事。
刑務所の中には『動物達の飼育小屋』まで完備されていて、ここではDL6号事件の関係者のペットのオウム・サユリさんも飼育されている。この刑務所には、作中では姿を見せない飼い主も収監されているのか、訳あって飼い主と引き離されたサユリさんをマリーが引き取ったのかは定かではない。更に中庭の池ではマリーの白狐に次ぐ、お気に入りペット「ワニのアリー」が飼育されている。こんなにも動物を溺愛する人物が、大量の毛皮を素材とした大型コートを愛用しているのは矛盾している様に思えるが、今回の事件の終盤にてコートに隠された秘密が明らかになると、この矛盾が解消される仕掛けが組み込まれている。
マリーは内藤を「了賢の部下」だと推測し厳しく追求する日々を送る中、信楽に同行し刑務所を訪問した検事・御剣怜侍、上司のミリカの付き添いで刑務所を訪れた『タチミ・サーカス』の新米団員・猿代草太と初対面を果たす。御剣は自分が告発した内藤のその後を、草太は唯一の幼馴染である内藤の行く末を気に掛けていた。内藤は必死に「自分は了賢とは無関係」だと主張していたが、それを証明出来ないまま首を刃物で刺されて殺害されてしまう。殺人現場が刑務所なだけに疑わしい人物は複数、行方不明の凶器という難題を抱えた今回の事件では、最終的な最有力容疑者は草太となった。親友の内藤を殺害された挙げ句、その犯人扱いまでされる草太の惨状を見かねた御剣は、彼の無罪を立証して救済する事を目的に捜査に挑む。マリーも御剣の捜査に協力し、事件に関する重要な情報や証言を提供する。
名前の由来は「見回り」の捩りと思われる。
囚人達との対人関係
元凄腕の殺し屋・鳳院坊了賢
「刑務所の所長という所内での最高権力者」の立場にあるマリーだが、実際の所は了賢から「十数年前に起こした不祥事」を口実に度重なる脅迫を受けては、言いなりの使い走りとなって働かされている。彼が自由気ままに、刑務所の外部に好きな物を注文しては手に入れる「調達屋」のシステムまで作らされた。それ故に「刑務所の影のボスとして了賢が君臨し、彼の要望が何でも叶えられる現状」を許してしまっている。この刑務所の所長にあるまじき屈辱的な惨憺たる日常は、了賢がマリーの刑務所に収監されてから現在に至るまでの数年間にも渡る。
当然ながらマリーは「了賢に対する強烈な嫌悪感や不信感」「彼に屈服せざるを得ない悲惨な現状への激しい不満」を抱えている。しかし同時に「未だに大物凶悪犯として威圧感を示し、自分の最大の弱味を握る脅迫者でもある了賢への恐怖感」も凄まじいもので、基本的にマリーは彼に刃向かう事が出来ずにいる。彼女も影では何としても現状を打破しようと、了賢の部下や協力者を見つけ出して彼らの犯行を暴く事で、反乱分子達に懲罰を与えて一網打尽にしようと画策している。現在は了賢と同じくチェスが趣味で、数日前に入所したばかりの内藤を「了賢の通信チェスの対戦相手も兼ねる、彼の部下の最有力候補者」として扱い、独自調査を進行する只中にある。
元窃盗犯の模範囚・山野星雄
前述の了賢、後述の折中とは険悪な関係にあるマリーだが、山野とは対照的に良好な関係を築いている。2人の関係性は「大物の雰囲気を漂わせる上司に、小物感剥き出しの部下が媚び諂う構図」そのものと言える。一見、山野はマリーの忠実な部下として働いているかの様にも見えるが、本当は彼は「少しでも早く出所を実現させる為だけに、常日頃から美和所長のご機嫌取りを行って、空辣な主従関係に甘んじているのが実情」である。彼女の前では動物好きのトリマー志願者を演じている山野だが、動物への愛情は微塵も無く、トリマーという職業も「マリーに好印象を与えられる上、出所後の生業にも出来るからという打算」で選んだに過ぎない。山野は「マリーが刑務所にて行っている、裏工作全般に加担するという形」で刑務所内においても罪を重ねている。「刑務所でも懲りずに新たなる悪事を犯している」と御剣に暴かれた際、激昂した山野は「何の為に動物共のご機嫌を取って来たと思ってるんだ!」と本音を暴露した。そしてマリーに加担しての悪事全てが露見した山野は失脚。地道な努力の積み重ねで手にした「出所間近の模範囚」という地位も剥奪された挙げ句「美和所長に取り入って寵愛を受ける事で、大幅に刑期を短縮化させる約3年にも及ぶ計画」もご破算となって、余計に刑期が長期化される散々な結果を迎えた。
マリーも「山野の薄っぺらい野心と忠誠心」をも承知の上で、彼を都合良く刑務所における手駒として利用し、唯々諾々と自分に付き従う姿勢を大いに気に入っている。彼女は山野をあからさまな依怙贔屓の対象とし「この刑務所での最大の模範囚という地位」まで与えている。そして彼の頼みを聞き入れたマリーの手回しによって、望み通り刑期を大幅に短縮化された山野は「出所を間近に控える段階」にまで漕ぎ着けた。彼は元々しがない空き巣の常習犯だったのだが、ある日の犯行中に帰宅した被害者・高日美佳と鉢合わせしてしまう。「初の被害者との遭遇」で気が動転した山野は、衝動的に口封じ目的で彼女を殺害してしまった。この時点で「山野の罪状は、刑法では最上級の犯罪に値する強盗殺人」に該当する為、逮捕から僅か3年で出所する事はまず有り得ない。彼の場合は他人に殺人の濡れ衣を着せようと図り、目撃者の証人に成り済ましての偽証まで犯しているので尚更である。山野と折中の扱いの差を見比べるだけでも、マリーの「自分に都合の良い相手は偏愛して、都合の悪い相手は冷遇する姿勢」が透けて見える。
脱獄常習犯・折中秀治
人一倍「マリーと彼女の運営する刑務所」を嫌悪しているが故、未遂も含めて頻繁に脱獄を繰り返している。刑務所の囚人の中ではマリーを最も嫌っており、彼女も折中を「了賢に次ぐ嫌悪対象の囚人」として見ている。折中は了賢とは違い「マリーには手玉に取られる扱い」を受け、山野とは異なり「マリーからは徹底的に冷遇される立場」にある。マリーの刑務所では、彼女に逆らった者や規範を犯した者は『懲罰房』へと送られて、厳しい折檻を受ける罰が与えられるので、折中も脱獄行為が発覚する度に『懲罰房』送りとなっている。ここでの折檻は元ボクサーにして心身共にタフガイである折中ですら「あんな所は、もうごめんだ」と文句を垂れる位、激しい度合いなのが窺える。何度も懲罰を通じて叩きのめしているのに、それでも一向に脱獄を諦めようとしない折中は、マリーにとっては「優位に立てる相手ではあるものの、自分の手を煩わせる厄介者」と認識されている。
この刑務所のアニマルセラピーは「動物好きのマリーによる囚人達への趣味の押し付け」という側面を持つが、折中はそんな環境下でも自分に与えられたペット・シロクマのマークまでは嫌悪しておらず、エンディングでも共に鍛練に励んだりと彼なりに可愛がってはいる様子。どんなに冷たい態度を取っても一途に自分を慕い続け、しょっちゅう胸元に抱き着いて愛情表現を行うマークと一緒にいる内、段々とペットに対しての愛着が芽生えて来た模様。但し何が起きても自分に引っ付くのを止めようとしないマークの存在は、折中の脱獄の邪魔者になっているのは事実であり、現に脱獄時には毎回必ずマークを刑務所に置き去りにしている。折中にしてみれば「マークはマリーに次ぐ脱獄を妨げる存在」なのは間違いない。
大統領の護衛・内藤馬乃介
『民間セキュリティ』で雇用主のボディーガードとして働く青年で、数日前に上司・外城涯を「自分の方がチームリーダーに相応しい」との嫉妬心から殺害して逮捕された。事件当時の雇用主は『西鳳民国』の大統領・王帝君であった。チェスが趣味だと常に豪語する程のチェス愛好家であり、自前のチェスボードも所持している。そのチェスボードに了賢が趣味である「木製の彫像制作に愛用しているノミ」が付属していたのを根拠に、マリーは「内藤こそが捜し求めていた了賢の部下」だと決め付けて掛かる。内藤は了賢の部下という疑惑を全面的に否定し、それ所か「彼とは面識すら無い」と強く主張する。マリーと内藤のいがみ合いを兼ねた彼への取り調べは数日間続くも、唐突に内藤が何者かに殺害された事で調査は不完全燃焼に終わってしまう。
検死の結果、彼は「首を刃物で刺されて殺害された」と判明するも肝心の凶器は紛失していた。当初は「了賢が自身の愛用するノミで殺人を行った」と推測された。しかし内藤は殺人を犯す直前に起きたトラブルで、首を痛めて大きなコルセットを首に装着し、その上から刃物で首を刺されていた。「ノミでコルセットを突き破って、相手の首を刺して殺害する事は不可能」と立証されると「本物の凶器はいずこにあるのか」という問題が浮上する。真犯人は本物の凶器を「自分にしか使えない場所」に隠していた。事件の最終局面に突入後、御剣の推理によって「本物の凶器」はようやく発見されて事件は解決した。
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※この先ネタバレ注意※
熟女所長の裏事情
「悪いのは全部、了賢なのよ!あたくしは何も悪くないの!だから、いいじゃない!あんなヤツの手下くらい!あいつが‥‥あいつさえホームに現れなければ、あたくしが‥‥。あたくしだけが、ずっとハッピーでいられたのに!」
犯罪者に翻弄される刑務所所長(『逆転検事2』第2話『獄中の逆転』)
了賢と内藤という2人の犯罪者に翻弄されていたマリーだったが、彼女こそが内藤殺害事件の真犯人である。動機は至って単純明快で、周囲に隠そうともしなかった「内藤は了賢の部下という思い込み」に起因している。マリーが普段見せる囚人達への博愛精神や愛嬌も、全て他人を意のままに動かす為の演技に過ぎず、彼女の本性は極めて酷薄かつ残忍なエゴイストで、自分に逆らう者には容赦なく暴力を振るう事すら多い。その片鱗が折中への仕打ちにも表れている。囚人達の家族扱いも「自分を子供を支配下に置く母親に見立てて、刑務所を牛耳る為の口実や作戦」でしかない。
マリーは後述の孤児院の院長時代「SS-5号事件と呼ばれる『西鳳民国』大統領・王帝君の誘拐事件」に共犯者として関与しており、運の悪い事に事件当時、現場に居合わせた了賢に真相を知られてしまった。数年後にも不幸は連鎖し、御剣の解決した事件にて逮捕された了賢は、あろう事かマリーの刑務所に収監されてしまい、それ以降は「自分の命令に従わなければ、SS-5号事件の共犯者だと公表する」と脅迫を受けて彼に従属する事を余儀なくされる。了賢の「殺しにも飽いたから、もう再犯はしないという意向」は紛れもない真意だったのだが、マリーは彼を心から憎み恐れる余り疑心暗鬼に陥ってしまい「いつ了賢に秘密を暴露されても、殺害されても不思議じゃない」と恐怖感と不安感に苛まれる日々を送る羽目になった。「了賢という究極の危険因子」が収監されるまでは「刑務所の女王の如き生活」を心ゆくまで堪能していたマリーだったが、その幸福な生活を脅かす了賢を忌々しく思っており、何とかして彼を排除する機会を手にしようと躍起になっていた。前述の犯行を自白した時の台詞には、彼女の思いの全てが詰め込まれていると言えよう。
そんな日々を過ごす中とうとう「マリーから見て、了賢の部下と思しき人物・内藤」が現れた。彼もまたマリーの刑務所に送致された事から彼女と知り合い、内藤の私物からは「紐でノミが括り付けられたチェスボード」が押収された。自分の目の前に「了賢の部下と彼を象徴するノミ」が出揃った状況で、ついに時限爆弾と化していたマリーの恐怖感と不安感は爆発し、内藤を殺害する事で自己保身を図ったのであった。そして彼女は内藤殺害の罪を了賢に着せて、自分の刑務所から追放しようと目論んだ。了賢を刑務所から排除する企みが失敗すると、マリーは今度は草太に自分の罪を擦り付けようとした。この2人を殺人犯に仕立て上げる偽装工作を筆頭に、事件を引き起こしてからのマリーは徐々に「冷酷で狡猾な本性」を垣間見せる様になって行く。「囚人達とは違って、自分の思うがままに出来ない相手だから」との理由で、御剣を始めとする「外部の人間に対する攻撃的、排他的な思考や言動」すら見せ付けて来る有り様である。
「ノミ付きチェスボード」は最初から内藤の所有物だった訳ではなく、元は刑務所送りとなったチェス仲間の幼馴染を気遣った草太の差し入れで、いつの間にかノミが括り付けられていた。最近、了賢が始めた「通信チェスの相手」も草太であり、彼は幼い頃から世話になっている「了賢との交流」を目的に通信チェスの相手となり、サーカス団の仕事に便乗して「恩人の了賢&親友の内藤との再会」を果たそうとしていた。マリーから見れば「身内を殺害された不幸な一般人にして、内藤の唯一無二の幼馴染である草太」にまで平然と罪を着せようとした事にも、彼女の卑劣な悪女ぶりが表出していると言って良い。
持ち前の高い知性と精神力を武器に、天才検事・御剣相手にも巧妙に立ち回るマリーだったが、次第に追い詰められて行き、最後の砦も「内藤を殺害した本物の凶器の隠し場所」を残すのみとなる。「決定的な証拠品・本物の凶器」が見つからないのを良い事に彼女は逃げ切ろうと足掻くが、最後には刑務所の中庭の池を住み処とするペット「ワニのアリーの口の中に本物の凶器であるナイフを隠していた」と見抜かれてしまい、ナイフが回収されると同時に逮捕される結末を迎えたのだった。前回の王帝君の影武者同様、初登場エピソードだけなら「少しは同情の余地のあるコミカルな犯罪者キャラ」にも見えるマリーだが、実は共犯関係にあった影武者と並んで「ストーリーの後半に再登場し、過去から現在に至るまでの悪行三昧が判明すると、嫌悪感が湧く程の極悪人である実態」が暴かれて行き、それに伴い登場人物とゲームユーザーからの印象は悪化の一途を辿る。同時に「彼女を翻弄していた犯罪者には、内藤のチェスボードにノミを付けた3人目がいた事」も明らかとなった。
孤児院の院長時代(『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』)
今から12年前、若かりし頃のマリーは私設孤児院『ハッピー・ファミリー・ホーム』の院長だった。只の一般人のまま生涯を終える可能性も有った筈の彼女の人生は「孤児院の院長時代『ハッピー・ファミリー・ホーム』に集った『検事2』の主要人物達の存在と影響」によって激変する事となる。当時のホーム所属者には、殺人と国外逃亡を犯した実父・風見豊に捨てられて天涯孤独となった少年時代の草太、マリーの部下に当たる職員・相沢アミ、彼女の私生児である赤ん坊時代の相沢詩紋がいた。アミの前職は日本から『西鳳民国』に派遣された外交官で、現地の大統領・王帝君と極秘交際も兼ねた職場恋愛に至った結果、身籠った一人息子が詩紋であった。「一国の大統領と他国の外交官との間に私生児が生まれた事」が公になれば2ヶ国を大きく揺るがす事態になりかねない。それを憂慮したアミは外交官を退職して妊娠したまま日本に帰国後、詩紋を出産して転職した。元々ボランティア活動に強い関心を持っていた彼女は「新たなる生業」として『ハッピー・ファミリー・ホーム』の職員を選んだ。彼女は息子の詩紋もホームの入居者とした上で密かに養育した。内縁関係にあったとは言え「王とアミの夫婦愛」も「2人の唯一人の我が子・詩紋に対する愛情」も紛れもない本物だった。
アミの第二の人生が始まってから1年後、詩紋は1歳の誕生日を迎えようとしていた。かねてより「何とかして息子を父親に会わせてやりたい」と願っていたアミの耳に吉報が届く。「王が仕事により近日中に来日する事が決定した」とニュースで報じられたのだ。アミは密かに王に「私達の息子に会って欲しいという旨のメッセージ」を送り、それを受け取った王は「来日先の職場を単身で抜け出して、妻子と再会し、息子に誕生日プレゼントを贈ろう」と思い立つ。王は「隠し子である詩紋の存在」を徹底的に秘匿にした上で、政治戦略も兼ねて表向きには独身として振る舞っていた。それ故に『西鳳民国』の人間は「王の隠し子が日本にいるという事実」を誰も知らず、当時の大統領護衛チームのリーダーを務めていた狼士龍の父・狼大龍ですら関連情報の一部も知らされていなかった。王は周囲の目を盗んで職場から抜け出し、妻子へのプレゼントを携えて2人の元へと向かう単独行動に及んだ。ところが王が『ハッピー・ファミリー・ホーム』の入口に辿り着くと、目の前に殺し屋時代の了賢が現れて行く手を阻む。
実は王の影武者には「本物の王には日本に住む隠し子がいる秘密」を既に知られていた。前々から「自分が本物の大統領に成り代わりたいという欲望」を抱いていた影武者は、王が「妻子との再会目的で単独行動に走る唯一の機会」に便乗して「協力者と共に本物の王を暗殺して、大統領殺害事件は大統領誘拐事件に偽造する事で、真相を隠蔽して逮捕を免れる計画」を発動させた。彼が「共犯者となれば一生、多岐に渡る莫大な利益を提供するという取り引き」を持ち掛けて集めた共犯者は3人いる。1人目の共犯者は当時の検事局長にして、現在の『検事審査会』会長・一柳万才である。前述の取り引きを受諾した万才は『ハッピー・ファミリー・ホーム』の場所を突き止める等、計画の土台作りとなる作業に当たった。2人目の共犯者はマリーで、万才からの「ホームを大統領暗殺の現場として提供して欲しいという要請」に即座に応じた。3人目の共犯者は殺し屋としての実力を見込まれて、影武者と万才とマリーからの「大統領暗殺の実行犯を担う依頼」を引き受けた了賢であった。彼が事件現場に居合わせて「マリーの大統領暗殺事件の共犯者という最大の秘密=最大の弱味」を知ったのは、偶然ではなく必然だった訳である。了賢は本物の王の「せめて息子に一目会わせて欲しいという最後の願い」も聞き入れず、容赦なく大統領暗殺を遂行した。この暗殺事件は後世にて「通称SS-5号事件」と呼ばれる様になった。
影武者と万才とマリーの間には「暗殺計画の立案時点で、生涯に渡る強固な協力関係」が構築された一方、裏では了賢は殺し屋という職業や剣呑な性格等を理由に3人の信頼は得られず、最初から「暗殺遂行後には口封じ目的で殺害する捨て駒扱い」を受けていた。マリー達は予定通り了賢の命を奪おうとするが、予想外の邪魔者が現れた。ホームの入居者であったが故、偶然にも「大統領暗殺から了賢襲撃までの経緯の唯一の目撃者」となった草太である。草太は父親の風見が仕事仲間・氷堂伊作を諍いの末に殺害する「通称IS-7号事件」を引き起こした際、風見を脅迫して大金を巻き上げようと目論んだ氷堂の陰謀で誘拐されて、彼の自家用車に監禁される仕打ちを受けた。事件当時は大雪の降る真冬で、冷え切った車内で両手を拘束されていた草太は、暖房も付けられず凍死寸前にまで追い込まれた。この時、本当に偶然その場を通り掛かった了賢の手で救出された草太は、この件を切っ掛けに了賢を恩人として慕う様になった。その後、父に捨てられた草太は『ハッピー・ファミリー・ホーム』に引き取られ、大統領暗殺事件を目撃した際「了賢に恩返しする時は今だ」と思い、依頼者達に裏切られて殺されかけた了賢を逃がしてしまう。マリー達の「大統領暗殺事件に関する犯行計画」は概ね大成功したものの、了賢と草太という脅威的存在を生み出してしまい、十数年間も2人への対処に難航する羽目になった。
SS-5号事件の後始末(『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』)
了賢を取り逃がしてしまったマリーは、ひとまずホームに留まっている草太への尋問を開始し、了賢の居場所を含めた必要な情報を聞き出してから草太を始末しようとする。この時まだ12歳だった彼に行われた尋問は、苛烈な肉体的&精神的暴力も交えたもので「児童に対する残酷な虐待や拷問」と言っても差し支えない有り様であった。数日間も続いた過酷な尋問に耐え切れなくなった草太は、ホームから脱走して1人きりの逃亡者生活を始めると行方を眩ました。ここから「約12年間にも及ぶ草太の逃亡劇」もとい「SS-5号事件の元凶トリオと草太の激しい攻防」が繰り広げられる事となる。
万才の指揮下にある「司法機関の所属者達による大規模な捜査網」まで敷かれるが、それでも逃げ延びる為にあらゆる才能を磨き上げ、影では命の恩人・了賢からの支援まで受けていた草太の行方は、情報の断片すらも元凶トリオに知られず終いであった。マリーが捜索していた「娑婆にいる了賢の部下の正体」とは、恩人の通信チェスの相手まで務める青年へと成長した現在の草太であり、内藤の所持していたチェスボードにノミを付けた犯人も草太だった。彼は誤解から恨んでいた内藤を「了賢の部下」だとマリーに思い込ませて殺害させると、わざと自分に内藤を殺害した容疑が掛けられる様に仕向け、現場へとやって来た御剣と仲間達にマリーを真犯人として告発させる事で、自分の無実を証明して逃げ切った。元凶トリオは「草太が天才凶悪犯に成長を遂げた挙げ句、影で自分達への復讐を着々と進行させている事」など最後まで知る由も無かった。
血眼になって草太を見つけ出して息の根を止めようとするマリーだったが、事件現場である『ハッピー・ファミリー・ホーム』の院長である事から「SS-5号事件と何らかの関係があるのではないか」と疑われ、事件の唯一の容疑者として逮捕されてしまう。だが、これは一時的にマリーをスケープゴートにした後、彼女の無罪を立証する事で事件を迷宮入りさせようとした万才の策略に過ぎなかった。検事局長として大いにマリーの裁判に干渉した万才の計画通り、彼女には無罪判決が下された。その後マリーは万才との結び付きをより強化して、もっと多くの利益を得る事を狙い、彼に勧誘されて孤児院の院長を退職し、大手の刑務所の所長に転職した。証拠隠滅の為『ハッピー・ファミリー・ホーム』は取り壊されて、数年後その土地には『検事審査会』の新たなる本拠地『ビッグタワー』が建設された。この時、万才の役職は昇進を重ねた末に『検事審査会』の会長となっていた。
迫り来る黒幕、忍び寄る破滅(『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』)
前述の内藤殺害事件から数日後。いよいよマリーを被告人とする裁判が開廷される。普通なら、被告人として裁判に参加させられるだけで精神的負担になるものだが、マリーは余裕綽々だった。何故ならば「SS-5号事件の裁判と同じく今回もまた、万才の手回しによって難なく無罪判決を得られる」と踏んでいたからだ。裁判長は水鏡秤、弁護士は籠目つばさ、検事は一柳弓彦と全員が万才の息の掛かった面々で固められ、万全の態勢で無罪直行ルートが作り上げられた。「これなら無事に無罪となる」と確信していたマリーと万才だったが、第4話『忘却の逆転』の時点から徐々に万全の態勢は崩れ始めていた。
籠目は恋人の仇を取るべく『検事審査会』に所属し、万才が多数の事件の証拠品、関連品を競売に掛ける『闇オークション』の主催者であると暴こうとした。彼女の動向を察知した万才は口封じ目的で籠目を殺害し、その事件での罪を告発されて逮捕された。籠目の死亡により、弁護士は信楽盾之が代任する事となった。「本来の担当者不在で、代役を立てる事態に陥った」のは検事も同じで、何故か今朝から弓彦は行方不明になっていた。
ブレイクシーン
ブレイクシーンでは「マリーの毛皮のコートに隠された秘密」が明かされる。何と毛皮のコートは「彼女のペットである生きた数十匹の狐」が密集してコートに擬態する事によって形成されていたのだ。マリーは「自分を追い詰めた者達への憎悪と憤怒」「逮捕による失脚が確定した絶望感」が混在した台詞を絶叫し、その大声に怯えたマフラーに擬態した個体も含めた狐達は全員、彼女から離れて逃げ出してしまう。コートの下には「囚人服の様な青と白のボーダーのTシャツ1枚」しか着ていないマリーは、寒気を感じて青ざめた顔に変わると震え出した。分厚い毛皮のコートを身に纏う時の彼女は肥満体型に見えるが、実際には『逆転』シリーズの女性キャラではトップクラスのグラマラスな体型の持ち主であった。しかしマリーはキツイ顔立ちをした極悪熟女なので、彼女のブレイクシーンはサービスシーンにもなっているとは言い難い。
四六時中、飼い主と密着しているだけあって、マフラーに擬態する白狐も含めた「マリーのペット達の主人に対する愛情と忠誠心」は強固なもので、彼らもマリーの心情や行動に連動する形を取って様々なリアクションを披露してくれる。ダメージモーションとブレイクシーンもまた然りである。マリーと同時に敵対者に怒りを向けたり、飼い主が図星を突かれると共に震え上がって体毛を逆立てたりしている。ペットらしく飼い主を守ろうと、敵意を覚えた相手に威嚇する事さえある。時折マリーは「自分で自分のコートに擬態している狐達を抱擁する仕草」をも見せている。彼女がこんなコートを愛用するのは「愛情の対象となる動物達の殺生に繋がる事は良しとしない思想」「動物達を溺愛する余り、常に彼らと密着していたいという願望」に基づいているのかもしれない。
動物愛好家の実態
「マリーの動物達への愛情」は「動物虐待に当たる行為だけは決して犯さない主義思想」等、一定の正常性は含まれていると評価出来る。しかし前述の悪行三昧にも反映されている「残虐非道な彼女の本来の人間性」を鑑みるに「動物は人間よりも知能が低い分、調教すれば従順にし易い上、反抗もされ難い存在である事に付け込んで、偏愛の対象に据えているのが実情」である可能性が高い。作中では描写されていないものの、万が一「動物を見捨てないと逃げ切れない危機的状況」に陥ったならば、恐らく即座に自己保身を優先させて平然と見捨てるであろう。
現にその本質がアリーの扱いからも窺い知れる。アリーはワニなだけに一応、他の動物達よりは危険性が低いとは言え「長時間、動物の口内にナイフを入れて保管する事」を仕出かした時点で最悪の場合、アリーがナイフを誤飲して負傷したり、命を落とす事態になりかねない。アリーを利用しての証拠隠滅は「窮地を迎えての錯乱状態に陥ったからこそ、誤って引き起こしたミスという側面」は少しはあるだろう。だがマリーは余程の事が無い限り、常に冷静沈着を保つ精神力、極めて冷酷にして狡猾な本性の持ち主なので、アリーの口内にナイフを隠した時、完全に平常心を無くしていたとは考え難い。アリーの口内にナイフを隠し入れるという犯行は「未必の故意」である可能性が高いと思われる。