概要
演:小日向文世(実写映画版)
声:蓮岳大(アニメ版)
「逆転裁判」第4話『逆転、そしてサヨナラ』に登場。年齢37歳。身長173cm。
15年前に発生したDL6号事件の容疑者。上記の年齢は事件当時のものである。職業は『地方裁判所』の法廷係官だった。
裁判では生倉雪夫の弁護によって無罪判決を受けたが、心神喪失を主張して無理矢理、勝ち取ったものである。事件に関連する様々な不祥事や、情報に踊らされた世間から、裁判後は「精神異常者」として扱われる様になり、皮肉にも極秘捜査で「灰根が犯人」だと主張した綾里舞子と同様、激しい誹謗中傷を受けて、社会的に抹殺されてしまった。事件直後、彼が殺人犯として逮捕されたショックで、婚約者の松下サユリが自殺している。職業や社会的地位も含めて、文字通り全てを失ってしまい、現在は行方不明となっている。
DL6号事件
2001年12月28日に『地方裁判所』のエレベーターで発生した御剣信弁護士殺害事件。「DL6号事件」とは通称であり、名前の由来は「警察の事件ファイルの番号」である。この事件を筆頭に、シリーズでは一貫して「主要人物達の因縁に深く関わる事件」の多くは、ファイルナンバーに由来した通称で呼ばれている。
当時、法廷係官だった灰根高太郎は偶然、御剣信とその息子の御剣怜侍と共にエレベーターに乗り合わせたのだが、地震に伴う停電で停止したエレベーターに5時間以上、閉じ込められてしまう。その際「酸素が薄れて行く事への恐怖」で錯乱した灰根が、信に襲い掛かり取っ組み合いを始めてしまった。この時2人の争いを止めようと、怜侍が「灰根の所持品で、揉み合いの中で床に落ちた拳銃」を彼らに向かって投げつけてしまう。拳銃が暴発して銃声を轟かせた直後、酸欠で3人は意識を失った。この為に3人は誰が誰を撃ったのかは目撃していない。
その後、エレベーターからは酸欠で気絶している怜侍と灰根、そして心臓を拳銃で撃ち抜かれて死亡した信が発見され、警察は拳銃の持ち主だった灰根を容疑者として逮捕した。「灰根が事件当時、拳銃を持っていた理由」は本編で語られていないが、職業からして恐らく「何らかの裁判の証拠品を運んでいる途中」だったと思われる。
だが「灰根が信を殺害した事を裏付ける、決定的な証拠」は無く、捜査に行き詰まった警察は『倉院流霊媒道』の家元・綾里舞子に極秘で捜査協力を依頼し「被害者を霊媒して貰い、犯人の名前を聞き出す前代未聞の手段」を取った。霊媒の結果、信は舞子の口を通して灰根を告発し、検察は起訴に踏み切った。
生倉殺害事件での捜査中、成歩堂の協力者となった星影は「実は信は怜侍の投げた拳銃の暴発で落命しており、息子を庇う為に灰根に罪を着せた説」を可能性の1つとして提唱した。だが事件の真相や『検事2』の過去編で「優秀な頭脳と高潔な精神を合わせ持つ、偉大な弁護士と明確化された信の人物像」からして、単に彼は状況が原因で勘違いしただけであろう。信の証言を聞いた真犯人も「被害者をも完璧に欺いてやった」と豪語しているのも、その証左と言える。
警察に逮捕された後、灰根は自分の弁護を担当する事になった生倉に無実を訴えるが、生倉は灰根の主張を聞き入れようとはせず「被害者の殺害を認めた上で、灰根の刑事責任能力を疑問視する方針」を取った。そして灰根には「酸欠で脳にダメージを受けた芝居をしろ」と心神喪失の演技を強要した結果、裁判では彼に無罪判決が下された。しかし灰根の完全な無実が証明された訳ではなく、彼は裁判後に全てを失ってしまい、その後は行方を眩ました。
唯一にして最大の容疑者である、灰根が無罪となった事で事件は迷宮入り。15年の月日が流れ、第4話で時効を迎えようとしていた(初代ゲーム版が発売された2001年当時、殺人事件には15年の時効が存在した)
なお2012年に公開された実写映画版では、事件が発生した年が放映の15年前に当たる1997年に、現場が『裁判所』のエレベーターから地下の『証拠品保管庫』に変更されている。現場の変更について巧舟は「エレベーターで窒息死する筈が無いという指摘を受けた」とDVDのオーディオ・コメンタリーで語っている。この映画での灰根は、閉所恐怖症である事が窺える。
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この先、重大なネタバレがあります!
芝居を続けた男
「‥‥もう、いいですよ‥‥。私は目的を果たした。‥‥それで十分です」
第4話で生倉雪夫を殺害した真犯人であり、その正体は『ひょうたん湖公園』にある『貸しボート小屋』の管理人である。
(イラスト左側の初老の男性)
DL6号事件から15年後、灰根は『ひょうたん湖公園』にある『貸しボート小屋』の管理人になっており、自殺した婚約者・松下サユリと同じ名前を付けた、オウムのサユリさんと共にひっそりと暮らしていた。現在の年齢は52歳。
DL6号事件が時効を迎えようとしていた2016年の年末。ある日、彼の元に1通の手紙と1丁の拳銃が届く。その手紙には「自分を破滅に追いやった2人の男への復讐を唆す内容、2人を破滅に導く為の犯行計画」が書かれていた。この「犯行指南書」の文面は以下の通りである。
「御剣怜侍に復讐せよ。これが最後のチャンスだ。お前の人生を破滅させた2人の男に、今こそ復讐するのだ。ここに、その鉄槌を下す為の武器を同封すると共に、お前の復讐を達成させる完璧な手順を記す。只これに従えば良い」
このメッセージの下には、細部まで練り上げられた殺人計画が記述されていた。これに感化された灰根は「自分を見捨てた弁護士・生倉雪夫、DL6号事件のもう1人の容疑者・御剣怜侍への復讐」を決意する。何らかの思惑があったのか、この「犯行指南書」は彼の自宅の金庫に保管されていた。
灰根は「犯行指南書」に書かれていた計画に従って、生倉を『貸しボート小屋』に呼び出して拳銃で射殺し、その罪を御剣に着せようとする。捜査にやって来た警察や成歩堂龍一の前では「記憶障害者の男性」を装い、事件の目撃者の証人にも加わり、御剣が有罪になる様に画策し虚偽の証言を行う。
そして事件の真相を突き止めた、成歩堂に法廷で正体を暴露されると、自身が灰根本人だと明かした上で生倉の殺害を認めた。15年間にも及ぶ心神喪失の芝居から解放され、本来の姿を取り戻した彼は、今まで演じていた、とぼけた老人の姿から激変。生真面目で毅然とした態度を取る、法廷係官という職務に相応しい威厳ある姿を見せつけた。
その後DL6号事件の真犯人にして、灰根に復讐を決意させた黒幕の正体が明らかとなり、DL6号事件は時効寸前で解決に至った。最後の最後で潔さを見せた黒幕とは違い、灰根は正体を暴かれて即座に自分の罪を認め、償いの覚悟があると示した。ただし彼の立場からして、最も憎悪していたと思われる相手・生倉に対する復讐殺人に関しては「後悔はしていない」と語っていた。御剣に対しての思いは「私の口から言う事ではない」と語り、胸に秘めたまま警察に連行されて行った。
実写映画版ではサユリと結婚しており、事件も証拠保管室に変わった事から、証拠に疑問を持った御剣信が、人知れず侵入して漁っていた場面に遭遇し、取り押さえるべく乱闘した内容となり、留置所での生倉との面会の様子や「事件発生から現在に至るまで、灰根の身に起きた悲劇」の詳細が描かれている。結果として原作に比べて、彼の落ち度が薄まった事も相まって同情が強まった。またDL6号事件の解決後、成歩堂が灰根の弁護を行う事を決意している。原作よりも悲惨な状況に置かれてしまったが、それに見合うだけの救済措置が与えられたので、救いのある幕引きとなっている。
正体や犯行を暴かれると、発狂して醜態を晒したり、悪辣な本性を露わにする犯人が多い中、灰根は本性の方が真っ当であり、真犯人と立証されても冷静に事実を受け止めていた、稀少な人物である。
名前の由来は、詩人として有名なハインリヒ・ハイネと高村光太郎。高村も映画版の灰根と同じく、妻の智恵子とは悲劇的な死別を体験している。元々、病弱だった彼女は実家の破産を始め、多くの不幸を背負った事で統合失調症を発症し、高村は妻の介護に追われる生活を長年送った。ちなみに智恵子は睡眠薬の大量摂取で自殺を図ったが、未遂に終わっている。精神疾患の発症から9年後。彼女は肺結核に罹患し、高村は妻に先立たれる事となった。もしかしたら脚本家は「不幸な形で婚約関係にあった女性を亡くす共通点」からも、高村の名前を漢字を変更して灰根に転用したのかもしれない。
初期設定では「詩人の様に、詩を詠みながら話すという設定」だったが、脚本家が台詞作りに難航してしまい、名前だけに詩人設定が残る結果となった。