概要
『逆転裁判』第3話『逆転のトノサマン』に初登場。『逆転』シリーズ作中において、数十年前から実写映画や特撮作品を制作し、数多くの名作を世に輩出して来た大手の映画配給会社。代表作には『大江戸戦士トノサマン』シリーズ、『大怪獣ボルモス』シリーズが挙げられる。名前や業務形態、制作作品の傾向から、恐らく『東映』がモデルと思われる。
関係者・俳優陣
荷星三郎(画像・右から2番目)
『大江戸戦士トノサマン』及び『小江戸剣士ヒメサマン』で主演を務めた男性俳優。彼の主演作品は、前者が『トノサマン』シリーズ初代、後者が2代目になっている。大柄で鍛え上げられた肉体、高い身体能力を有する為、着ぐるみシーン並びにスタントシーンは全て自ら担当している。この営業姿勢は事務所の方針なのか、同業者に当たる他のアクション俳優全員の共通事項である。老け顔の強面の巨漢という外見に反して、誰に対しても腰が低い温厚篤実な好青年である(『1』の時点で23歳)。骨付きステーキ、フライドチキン等の肉料理が好物。
前述の二大代表作の放送当時は一定の人気を博していた。しかし番組終了後は「子供番組の兎の着ぐるみを着た体操のお兄さん」というパッとしない立ち位置にいる。いずれの番組においても着ぐるみ姿で出演していて、荷星本人は「ファンのイメージを壊しては、いけないから」と謙遜とファンへの気遣いが過ぎる余り、表舞台には姿を見せない姿勢を取っている。彼が自信や積極性に欠けるのも、表舞台には出ようとしない一因であり、それ故に演じた作品の知名度に反して、世間には素顔が知られていない。前述の出世作ではヒーロー役を担当したが、後に『大怪獣ボルモスVSヒョッシー』では怪獣のボルモス役を担当した。
衣袋武志(画像・右端)
『大江戸戦士トノサマン』で悪役・アクダイカーンを担当する30代後半のベテラン俳優。10年前は天下無敵の大スターであり、当時は端正な容姿を売りにし、代表作『ダイナマイト侍』で一世を風靡していた。しかし5年前に不慮の事故を起こしてしまい、事務所が揉み消してくれたものの、イメージダウンは免れず失脚。今では『トノサマン』しか出演作がない惨憺たる現状にある。荷星は名優時代の衣袋に憧れて同業者となり、落ちぶれた今も尚「尊敬する大先輩」として慕っているが、ついつい「後輩の躍進と自分の転落」を比較してしまう彼の心境は複雑な様だ。
『逆転裁判』第3話『逆転のトノサマン』での殺人事件の被害者となり、アクダイカーンの着ぐるみを着た遺体として発見され、マスクを取ると衣袋本人だと確認された。トノサマンの武器トノサマン・スピアーで刺殺されたと見られ、本来の使用者である荷星が容疑者として逮捕された。そして彼は『成歩堂法律事務所』の設立後、初の依頼者となった。
王都楼真悟(画像・左から2番目)
『トノサマン』シリーズ3代目『大江戸戦士トノサマン・丙!』で主演を務めた若手人気俳優。彼の担当したトノサマン・丙は、キャラとしては2代目トノサマンに当たる。厳つい顔のマッチョマンで暑苦しさも漂う荷星とは正反対に、長身痩躯のモデル体型の爽やかな美青年。「春風のようにサワヤカなアイツ」がキャッチフレーズ。女受けの良い容姿と立ち居振る舞いのおかげで、女性を中心に高い人気を集めている。『トノサマン』シリーズでの起用で、ようやく日の目を見た荷星とは対照的に、シリーズ出演以前から人気だったが、それを爆発的に上昇させたのが『トノサマン・丙!』である。王都楼自身も役への思い入れは強く、自宅の居間には関連グッズ数点を飾っている。
『英都プロダクション』のライバル事務所『光映プロダクション』の所属俳優・藤見野イサオ(画像・左端)とは険悪なライバル関係にあり、何かにつけて張り合っている。『逆転裁判2』第4話『さらば、逆転』では、特撮俳優として最高の名誉となる『全日本ヒーロー・オブ・ヒーロー』のグランプリを授賞する。しかし喜びも束の間、同大会の参加者でもあった藤見野の殺害容疑で逮捕されてしまい、先代トノサマンの荷星に続いて、成歩堂の依頼人になる事となった。
相沢詩紋
『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』で初登場。大人の俳優が主体の『英都プロダクションで』は珍しい、子役を務める中学生の少年。実年齢に反して小学生に見える位、小柄なのを気にしており「少しでも背を伸ばそう」と常に大量の牛乳を持ち運びしては愛飲している。少しだけ生意気な所もあるが、役者としてのプロ意識は高く、本心では嫌がっていたが「実年齢より年下の役」を演じ切った。こうした苦労を乗り越えて『大怪獣ボルモスVSヒョッシー』では主演を務めた。
関係者・制作陣
姫神サクラ
子供向け特撮番組である『トノサマン』シリーズのプロデューサー。役職に反して女優を彷彿とさせる、蝶の刺繍が入ったセクシーなドレスを身に纏った妖艶な美女。性格も誰に対しても冷めた態度を取る、冷静で寡黙な知性派という、手掛けている作品のイメージとは乖離した女性。『英都撮影所』が倒産寸前だった頃に現れ、数々のヒット作を生み出し、経営を立て直した事から「この『英都撮影所』にとっては神様の様な人」と称賛する人々までいる。
宇在拓也
『トノサマン』シリーズの監督。以前は「売れないB級映画」ばかり制作していた無名の監督だったが、彼の秘められた才能を見抜いた姫神によって『トノサマン』シリーズの監督に抜擢されて大出世を遂げた。外見も内面も典型的なオタクの男性で、口調も語尾に(笑)等を付ける事で感情表現するので、ネットスラングを乱用するオタクそのものである。姫神とは強固な主従関係にあり、美貌、知性、冷淡な性格を兼ね備えた彼女に惚れ込んでいる。姫神に酷使されたり、叱咤や折檻を受けても、歓喜している重度のマゾヒスト。『逆転のトノサマン』での事件を成歩堂龍一と捜査する為に『英都撮影所』を訪れていた綾里真宵と出会うと「和装の健康的な美少女」である彼女を見た瞬間、早くも次回作『小江戸剣士ヒメサマン』の構想を練り上げた奇才。
間宮由美子
『英都撮影所』のアルバイトで『トノサマン』シリーズでは、大小合わせた道具係を担当している。おっとりとした素朴な人柄の女性で、不器用ながらも熱心に仕事に取り組む。勤務態度や良心的な人間性を評価されてか「道具を修理すると、より酷い状態にしてしまう悪癖」がありながら、何らかの処分を受ける様子は無く、むしろスタッフとして重宝されている模様。彼女自身も『トノサマン』シリーズの大ファンで、トレーディングカードの収集に熱中している。後に『大怪獣ボルモスVSヒョッシー』の制作にも道具係として携わる。
大場カオル
『英都撮影所』の警備員。通称オバチャン。役職が警備員なので、上記関係者達とは異なり、作品の制作には関与していない唯一の人物。今も昔も衣袋の大ファンで、それが理由らしく長年に渡って勤務している。最近は勤務先に潜入してはトノサマンの姿を隠し撮りするのを趣味とする、トノサマンファン過激派・大滝九太への対処が悩みの種。古参の関係者の1人なので『英都撮影所』の裏事情にも精通している。『逆転のトノサマン』で起きた事件では貴重な情報源になってくれるが、会話自体が大好きな性分故に、事件とは無関係の話題も喋りまくる。超高速の早口で繰り出される私情に基づいた長話は、作中や関連書籍では「マシンガントーク」と呼ばれる。
諸事情あって事件解決後は『英都撮影所』を解雇されてしまい、勤務先を転々とするが「警備員という職業」は一貫している。衣袋の死後は藤見野の大ファンとなり、彼の宿泊先となった『ホテル・バンドー・インペリアル』の警備員に就職するが、その矢先に藤見野まで殺害される憂き目を見た。しかし、あくまで彼女の本命は「職場で起きた殺人事件を通じて知り合った、検事・御剣怜侍」なので、お気に入り俳優2人の死も難なく乗り越えて、今日も今日とて逞しく生きている。何の因果か『逆転検事』第5話『燃え上がる逆転』では副業として、領事館で開催されたヒーローショーでの「ヒメサマンのスーツアクター」を担当した。
マスコットキャラクター
サルマゲどん
『英都プロダクション』の撮影スタジオ『英都撮影所』のマスコットキャラクター。丁髷(ちょんまげ)を生やした茶色のテングザル。その姿は「丁髷頭の動物マスコットキャラ」という点では同類である『日光江戸村』のマスコット・ニャンまげを若干彷彿とさせる。初代『逆転裁判』が発売されたのは2001年で、ニャンまげが制作されたのは1990年代末期なので、もしかしたらサルマゲどんはニャンまげを参考にして制作されたのかもしれない。名前の由来は猿+髷(まげ)+名前の最後に付ける愛称「どん」の融合、もしくはキリスト教用語で「世界の終末」を意味するハルマゲドンの捩りと思われる。両方の意味で名付けられたダブルミーニングの可能性も有り得る。
「おいでませ」と書かれたスタジオ前のゲートの奥では「案内板を持ったサルマゲどんの巨大な像」が建っている。『逆転のトノサマン』の事件の数日前、台風が原因で「サルマゲどんの首」が落ちてしまい、一部の道路を塞いで通行止めになってしまった。撮影所の主な移動経路が使用不可能となった上、出入口が不気味な場所と化す不便な状況にありながら、何故かスタッフからは修理を後回しにされている。原作では「サルマゲどんの首」は複数の破片と共に斜めに転がっていたが、アニメ版では破片は撤去されて、正面を向く形で道路に置かれた首は生首を連想させる、原作以上に不気味な様相を呈していた。
事件当時も放置されたままだった「サルマゲどんの首」は、弁護側にも検察側にも「事件当時における、関係者一同の行動を把握する為の重要な証拠品」として扱われる事となった。裁判では白熱する論争中、担当検事・御剣がサルマゲどんの名前を「サルマゲくん」と間違えて叫ぶという失態を演じてしまった。この件を皮切りに彼は「各事件の関連品に対して、幾つもの言い間違いを犯す場面」を披露して行く(例「サイコ・ロック」→「サイコロ錠」)
『逆転裁判3』の最終話『華麗なる逆転』にて、サルマゲどんは思いがけない形で再登場を果たす。何と画家に転職した矢張政志(PN天流斎マシス)の作業着であるスモックに描かれたキャラとなったのだ。このピンクのスモックは全体に絵の具の跡が点在していて、スモックの胸部中央にある「サルマゲどんの頭の左上」にも黄緑色の絵の具が付着している。「前述のトノサマン事件では、サルマゲどんの像が生首状態と化していた事」に引っ掛けているのか、スモックのサルマゲどんは顔しか描かれていない。これが「公式グッズ」なのか、それとも「手先が器用な矢張の自作品」なのかは定かではない。
サルマゲどんのデザインは『逆転』シリーズのメインキャラデザイナー・岩元辰郎が手掛けたのだが、彼によるGBA版の開発当時のブログでは、脚本家の巧舟とは「サルマゲどんは可愛いか否か」で賛否が別れて一悶着が起きたと明かされた。ブログには揉め事の最中に睨み合い、お互いの胸倉を掴んだ2人が「可愛いじゃないですか!(岩元)」「可愛くねーよ!(巧)」という応酬を繰り広げる様子のイラストも描かれていた。
『英都撮影所』
『英都プロダクション』の撮影スタジオで、休日には一般公開を行っている。スタッフエリアにある自動販売機では、多種多様な飲料が販売されている。お茶、味噌汁、お汁粉、くず湯、おでんの他『トノサマン汁』なる謎の飲料まで用意されている。成歩堂と捜査を目的として現地を訪れていた真宵は、何故か彼に『トノサマン汁』を飲ませようと固執していたが、名称から味に不信感を抱いた成歩堂は頑なに拒否した。
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以下ネタバレ注意
プロダクションの深層
トノサマン、アクダイカーンを殺害(『逆転裁判』第3話『逆転のトノサマン』)
創設以来『英都プロダクション』は栄光の歴史を歩み続けて来た。途中で低迷期に陥るも、当時は新参プロデューサーであった姫神サクラが救世主となって経営を建て直し、看板役者・衣袋武志が大ブレイクを果たした事で彼と共に絶頂期を迎えた。しかし最盛期の只中にあった5年前、完成直後だった『英都撮影所・第2スタジオ』にて衣袋が映画撮影中、誤って共演者の男性タクミを転落死させる事故が起きてしまい、これが切っ掛けでプロダクションの経営には影が差す様になって行く。姫神はタクミと親しい間柄だった為、彼の死を招いた衣袋を恨む様になり、事務所の存続の為にも事故を揉み消して、雇用を続行するのと引き換えに、多方面から彼を冷遇して大スターから末端の役者へと貶めた。
衣袋の転落人生が始まってから5年後。『英都プロダクション』の看板作品となる『トノサマン』シリーズが始動し、初代である『大江戸戦士トノサマン』が放送開始直後、社会現象となってプロダクションは再び絶頂期を迎えた。プロデューサーの姫神の意向により、メインキャストには衣袋も加えられたが「子供向け特撮番組の悪役で、着ぐるみ姿でしか出演出来ない役所」だったので、彼の失地回復の役に立たず、それ所か『トノサマン』しか出演作品が残っていない、屈辱と窮状を更に浮き彫りにする一方だった。その最中、衣袋が共演していた若手俳優・荷星三郎に殺害されたと見られる事件が発生。この殺人事件は容疑者と被害者の役柄に因んで「正義のヒーロー・トノサマンが、悪のボス・アクダイカーンを殺害した」と大々的に報道されて国中の話題の的となった。不幸中の幸いにも、荷星の弁護を担当した弁護士の成歩堂龍一と助手の綾里真宵の手によって、彼の無罪が立証されたものの、同時に暴かれた事件の真相は「今まで秘匿にされて来た『トノサマン』スタッフとキャストによる、ドロドロとした制作現場の内情」という、質の悪い大人の事情を赤裸々に物語る内容であった。
衣袋殺害事件は、被害者となった彼の暴走と失態によって引き起こされた。姫神によって作り出された、転落人生に我慢の限界を迎えた衣袋は「荷星をステーキに仕込んだ睡眠薬で眠らせた隙に、トノサマンの着ぐるみを盗み出し、それを着た上で姫神を殺害し、自分とは真逆に出世街道を歩んでいる、嫉妬の対象・荷星にその罪を着せる計画」を実行した。しかし会議後コテージに1人でいた姫神に激しく抵抗された衣袋は、かつてのタクミと同じく今度は自分が誤って階段から転落してしまい、花壇の鉄柵に胸を刺されて絶命する最期を迎えた。
この事件での姫神の殺人は正当防衛に該当するが、それ以外にも彼女は複数の罪を犯している。姫神もまた荷星に殺人の罪を着せようと画策し、自分に隷属する『トノサマン』の監督・宇在拓也を共犯者に加えて、衣袋の遺体をライトバンで運ぶ事に始まる現場工作を行った。遺体で発見された衣袋の胸にトノサマン・スピアーが突き刺さっていたのも、その一環である。しかも彼女は事件以前から暴力団と繋がっており、不祥事の揉み消しや反乱分子となり得る人物への脅迫等に団員を使役して来た。現に決定的な証拠を手にした成歩堂と真宵に、暴力団をけしかけて証拠を強奪しようとするも失敗に終わっている。荷星が被告人となった裁判では、姫神と宇在は共謀して偽証にも及ぶが、突如として実現した担当検事・御剣怜侍と成歩堂の共同戦線によって、罪を暴かれた2人は逮捕された。無罪判決を得た荷星は、かねてより先輩俳優であり、憧れの存在として慕っていた衣袋が「子供に大人気のトノサマン役である自分に嫉妬を向けていた」という真実を知り「一言言ってくれれば、いつでも代わってあげましたのに‥‥」と成歩堂に本音を吐露していた。
大好評放送中だった『トノサマン』はメインキャストの衣袋の死亡、プロデューサーの姫神が殺人罪で逮捕されたが故、打ち切りを余儀なくされた。事件当初は『英都プロダクション』も『トノサマン』シリーズの終了ひいては「子供向け番組の制作を打ち切る方針」を立てていたが、事件の真相が明らかになると方針転換し、シリーズ存続の方向へと舵を切った。そうした事情もあってか、姫神の共犯者として逮捕された宇在は異例の早さで出所し、シリーズ続編『小江戸剣士ヒメサマン』の制作と放送を開始する。埋め合わせに制作された急造の新作だった為、新たなキャストの人材獲得に難航したのか「ヒメサマンはヒロインなのに、スーツアクターは荷星担当」となり、彼を復帰させる役目も果たした。殺人の濡れ衣を着せられた犠牲者・荷星に対する、スタッフの温情故の人選なのだろうか。新番組『ヒメサマン』は『トノサマン』の打ち切りを嘆く日本中のファンを歓喜させ、またしても社会現象を巻き起こす。
トノサマン・丙、忍者ナンジャを殺害(『逆転裁判2』第4話『さらば、逆転』)
『ヒメサマン』の放送の無事終了後。今度はシリーズ3作目となる『大江戸戦士トノサマン・丙!』の放送が開始された。今回は初代での悪評の完全なる払拭も見越して、制作以前から人気イケメン俳優として有名だった、王都楼真悟を新たなる主人公に据えて、作風の大幅な方針転換が行われた。初代は「子供向けの勧善懲悪を主軸とする王道ヒーロー番組」だったが、2代目となる『トノサマン・丙!』は大人、特に女性ファンの大量獲得を目指して制作が進行された。元から女性人気の高かった王都楼の起用に始まり、トノサマン三兄弟の甲・乙・丙を登場させ、悪の組織のボスの娘にしてヒロインのサヨを巡る、3人の恋の鞘当てを描いたラブストーリーが主軸に据えられた。制作陣の計画は大成功を収め、ライバル企業『光映プロダクション』制作の裏番組『忍者ナンジャ』を筆頭に、並み居る他作品の特撮ヒーロー達を押し退け、第3回『全日本ヒーロー・オブ・ヒーロー』でグランプリを授賞する栄光までも手にした。
ところが同時開催された授賞記念パーティーの最中、開催地の『ホテル・バンドー・インペリアル』にて、王都楼のライバルにして忍者ナンジャ役・藤見野イサオが何者かに殺害される事件が発生してしまう。前々から被害者とは険悪な敵対関係にあった事で有名な上、殺害と現場工作に及んだ数々の物的証拠が発見されたのが原因で、王都楼が殺害容疑で逮捕される事態へと発展した。
今回の殺人事件の真相は、前回とは異なり「トノサマン役の俳優は本物の凶悪殺人犯」であった。それと言うのも、この事件は「もしも『ヒーロー・オブ・ヒーロー』でグランプリを逃したら、王都楼の恋愛スキャンダルを公表して、失脚させようと目論んでいた藤見野の排除」を目的として、王都楼が凄腕の殺し屋・虎狼死家左々右エ門に藤見野の殺害を依頼した為に引き起こされた。それは『ヒーロー・オブ・ヒーロー』授賞式の直後に予定されていた『トノサマンによる記者会見』の直前の出来事だった。虎狼死家自身は普段通り、依頼者に極力、嫌疑が掛からない様に立ち回ったが、王都楼に恨みを持つ彼のマネージャー華宮霧緒が「王都楼が何者かに藤見野の殺害を代行させた真相」を悟り、王都楼を逮捕へと導くべく幾つもの現場工作を施した事で、彼は逮捕される羽目になったのだ。『トノサマン・丙』の王都楼と『忍者ナンジャ』の藤見野による番組を越えて繰り広げられた白熱の戦いも「忍者ナンジャの殺害」という最悪の形で決着が付いてしまった。
霧緒は王都楼の恋愛スキャンダルの犠牲者であり、彼と藤見野に弄ばれ捨てられた挙げ句、自殺へと追いやられた尊敬する先輩・天野由利恵(アニメ版では実姉の華宮由利恵)の仇を取ろうと、この2人の最低の男達に復讐する機会をうかがっていた。藤見野の遺体の第一発見者となった際「今がその時」だと思い、彼女は現場工作を働いたのだった。先の『トノサマンによる記者会見』と言うのも「表向きにはトノサマン・丙が何かを告白する場」とされていたが、実際には「告白」どころか「トノサマン・丙の着ぐるみを着た藤見野が王都楼に成り済ました上で、彼について何かを「告発」するというもの」だった。告発されるのは当然「由利恵を恋愛スキャンダルの犠牲者にした挙げ句、自殺にまで追いやった罪」であり、彼女が遺したとされる遺書の内容を暴露する事で、王都楼を失脚させようとしていた。
この『記者会見』は霧緒と藤見野の共謀による、王都楼を失脚させるのを目的とした復讐計画だったのだ。『記者会見』の準備が終わると、霧緒は藤見野の控え室に向かい彼を呼び出そうとしたが、そこで藤見野の遺体の第一発見者となった。「王都楼が何者かに藤見野暗殺を代行させて『記者会見』による復讐は妨害された」と悟った彼女は新たなる復讐方法を思い付き、それが現場工作であった。更には藤見野の遺体の第一発見者となったのを良い事に、裁判では証人として出廷し偽証まで行う事で、王都楼に有罪判決が下る様に誘導しようとした。
「依頼者との義理人情・信頼関係を重んじる」を信条に掲げ、依頼者に対する過剰なまでの奉仕精神を見せて、徹底的に擁護して逮捕を防ぐ事により、稼業を成し遂げて来た虎狼死家は、この不測の事態を見かねて独断で凶行に走る。荷星との親交から授賞記念パーティーに招待されていた、成歩堂のパートナー真宵を誘拐し、彼に「王都楼の弁護士を担当し、無罪判決を勝ち取らなければ、真宵の命を奪う」と脅迫したのだ。かつてない緊急事態を前に、密かに御剣や警察も真宵救出を目的に、成歩堂と一致団結して捜査と裁判に挑むが、状況の打破に難航してしまう。苦肉の策として、現場工作をしただけの霧緒に「殺し屋に依頼した真犯人」の濡れ衣を着せて時間を稼ぐ傍ら、捜査を進めた成歩堂は「王都楼の醜悪な本性、彼こそが真犯人である真相」へと辿り着く。成歩堂は弁護士として究極の決断を迫られる。「真宵の救出を諦めて、霧緒の容疑を撤回し、王都楼を有罪にするか」「真宵の命を守る為、霧緒を真犯人に仕立て上げて、王都楼を無罪にするか」この二択のどちらかを選ばなければならない極限状態のまま、最終日の法廷が開廷する。
成歩堂と協力者達は八方手を尽くすが、警察は真宵の救助に失敗してしまい、担当検事・御剣の奇策により「真宵を連れて逃亡中の虎狼死家に、無線機を通じて法廷で証言させ、自分の依頼者が誰なのかを聞き出す事」で裁判を長期化させる。だが虎狼死家が「私の依頼者は華宮霧緒」と証言した事によって事態は更に混迷を極めて行く。裁判が最終局面を迎えた頃、虎狼死家に狙撃されて負傷し、今回の担当検事から除外された狩魔冥が突然、彼の遺留品3点を持ち込んで出廷する。彼女の持って来た遺留品の中には「王都楼が虎狼死家の弱味を握る為、彼が藤見野を殺害する様子を盗撮した映像が記録されたビデオテープ(アニメ版ではディスク)」が存在した。これを見た成歩堂は昨日、留置所での王都楼との会話から知った「王都楼は虎狼死家を全く信用していない所か、犯行の盗撮という裏切り行為まで犯していた事実を、虎狼死家に暴露して依頼者との契約を解除させる展開」となる様に仕向ける。そうすれば人質から真宵が解放されると同時に、何の気兼ねも無く王都楼に有罪判決を下せると考えたのだ。「依頼者・王都楼から最悪の裏切り行為を受けていた事」を知った虎狼死家は彼への怒りに燃えて、新たに王都楼を次の標的に定め、やっと用済みとなった真宵は解放されて警察に保護された。
「最悪の場合、凄腕の殺し屋に惨殺される未来が待ち受けている」と察した王都楼は恐怖に震え出す。そして成歩堂と御剣に冷酷に引導を渡された王都楼は観念し、刑務所に匿って貰うのを目当てに自身の有罪を求刑した。恐怖心と絶望感によって発狂して悲鳴を上げ、俳優にとっては命とも言える自分の顔を引っ掻き傷付ける彼から、その言葉を聞き届けた裁判長は有罪判決を下した。こうして霧緒の殺人に関しての無罪も立証され、ついに2代目トノサマンが犯した殺人事件は無事解決に至ったのだった。
前回と違い「今回のトノサマン殺人事件に対しての事後処理」は明確に描写されていない。エンディング恒例の『登場人物達の後日談』でも、関係者による言及も見られなかった。後続作品や関連書籍、アニメ版等の『逆転』シリーズの派生作品でも、どういった後始末が為されたのかは触れられてもいない。一から十まで具体的な説明をすると短時間では済まされない位、事後処理の道程は長く困難だったのかもしれない。恐らく特撮ヒーロー番組の主演でありながら正真正銘の極悪人であり、女性向けのドラマに出演していながら「女の敵」と呼べる、鬼畜の所業に及んでいた王都楼の代表作だったばかりに『トノサマン・丙!』は即刻、打ち切られると同時に「封印作品」として扱われる様になったと思われる。『英都プロダクション』にとっては、初代の事件による悪印象の希薄化を進行すべく、鋭意制作されたのが2代目だというのに、よりによって「史上最悪の黒歴史を刻む結果」に陥ってしまった。芸能界の関係者達が事件に関する物事を口にしないのも「彼らにとっても『トノサマン・丙!』は黒歴史扱い」とされている暗示にも見える。
一方の『忍者ナンジャ』もまた報道機関によって「主演俳優の悪辣な人間性、凶悪事件まで引き起こした程の悪事」が全て世間に公表されてしまい、深刻なイメージダウンを被ったと思われる。事件以降、制作元の『光映プロダクション』は『忍者ナンジャ』以外、特撮作品の発表が全くもって見られない現状に陥っている。『光映プロダクション』は「特撮番組の制作会社としては再起不能に近い状態」もしくは「特撮制作からは手を引いた状態」と化したとしても不思議ではない。但し下記の事件では『忍者ナンジャ』は驚くべき事に『トノサマン』シリーズと同時に同じ形式で復活劇を披露するに至った。
帰って来たトノサマン(『逆転検事』第5話『燃え上がる逆転』)
瞬く間に栄光の頂点から屈辱の最底辺へと転落した『トノサマン・丙!』が残した爪痕は大きかった様で、シリーズは大掛かりな仕切り直しを迫られた。その安全策として「ダブル主人公として安定した人気を維持しているトノサマンとヒメサマンを表舞台に復活させて、2人は結婚してワカサマンという一人息子を授かり、一家揃って悪と戦う新世代ヒーローチームへと生まれ変わったという、世間の度肝を抜く新たなる設定追加」の下、新作『大江戸戦士トノサマン・OTTO』の制作が開始された。今回はシリーズ史上初となる舞台公演だったが、番外編ではなく初代『トノサマン』&『ヒメサマン』の正当な続編にして完全新作でもあり「前述の驚天動地の新設定と新作ストーリー」は公演前からの宣伝だけでも話題沸騰となった。この時点でスタッフの見込み通りトノサマン一家は高い人気を博し、とうとう諸外国からも「日本を代表する特撮ヒーローキャラ達」として認知される栄誉をも得た。
同時期に日本と親交の深い『アレバスト王国』と『ババル共和国』の和解が成立し、長らく諸問題が原因で分裂していた両国は統一されて『コードピア公国』という本来の姿を取り戻した。和睦の時代を迎えた『アレバスト王国』と『ババル共和国』を日本政府も祝福し、彼らの粋な計らいで両国の『日本大使館』にて大規模な祝祭が開催される運びとなった。この祝祭は『アレバスト王国VSババル共和国・国際親善イベント』と名付けられ、その演目の一部として両国の『日本大使館』の連結箇所にある『永世中立劇場』を舞台に、2つの国の大使に指名された「高い人気を誇る日本の特撮ヒーローによる舞台公演」も行われると決定した。こうして『アレバスト王国』の大使カーネイジ・オンレッドが指名したのがトノサマン一家、『ババル共和国』の大使ダミアン・ヒンジが指名したのが忍者ナンジャであった。
「日本と親交の深い2ヶ国によって開催された歴史的イベント」なのに、失礼な事に誰の差し金なのか、何故か「TVで本家トノサマン一家を演じる俳優陣・役者やスーツアクターを本職とする人々」は起用されず、何と『アレバスト王国』の日本大使館の警備員をしていた一般人の男女がトノサマン&ヒメサマンのスーツアクターに起用された。ワカサマンに至っては人形となっていた。この警備員の男女とは御剣の親友・矢張政志、御剣の追っかけ・大場カオルだった。『トノサマン』シリーズの隠れファンである御剣は矢張とオバチャンという「自分を悩ませるトラブルメーカー2人が、愛着ある二大ヒーロー役を担当する、正しく悪夢の共演」にトラウマを抱えてしまった。本家トノサマン達を演じる俳優陣は国民的ヒーロー番組に出演しているだけに、多忙が原因で雇用する時間的余裕が無かったのだろうか。本家の俳優陣が正式雇用されていれば、トノサマン愛好家の御剣には良い思い出が増えただろうに不憫である。
大怪獣と少年(『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』)
度重なる『トノサマン』シリーズ関連の不祥事の対応に追われて疲弊したのか、それともネタ切れを起こしてか、とうとう『英都プロダクション』も新機軸を打ち立てる行動に出る。十数年前に制作した『大怪獣ボルモス』シリーズを復活させ、3年前に一部で騒がれた未確認生物・ヒョッシーを新登場させて、二大怪獣のボルモスとヒョッシーの戦いを描いた新作映画『大怪獣ボルモスVSヒョッシー』の制作に取り掛かる。その映画の主人公となる少年役には、新進気鋭の子役・相沢詩紋が抜擢された。
制作中、撮影現場で他殺体が発見される事件が起きるものの、発生時期が制作期間中で、真犯人も被害者も影で暗躍していた人物達も、芸能界とは無関係の人間であった為、幸いにして作品もスタッフもキャストも、イメージダウンから逃れられた。御剣が推理の末に事件を解決した後、無事に『大怪獣ボルモスVSヒョッシー』は上映されて大ヒットする成果を上げた。