「‥‥人は見かけによらない、
と申しますよ」
声:横島亘(アニメ版)
演:ムーディ勝山(舞台『逆転のパラレルワールド』)
概要
『逆転裁判2』第4話『さらば、逆転』で初登場。『逆転検事2』で再登場し、複数エピソードに跨がって暗躍する。年齢不詳。身長184cm。
依頼者の目的や人間性を問わず、依頼されれば如何なる人物であろうと、情け容赦なく確実に殺害する凄腕の殺し屋。殺し屋は約100年以上前の先祖より代々伝わる家業であり、彼は3代目に当たる。極度の完璧主義者にして合理主義の持ち主で、時と場所と場合を問わず冷静かつ冷徹な立ち回りを見せる。『特別捜査課』が何年にも渡って、追跡している凶悪殺人鬼だが、その有能ぶりから足取りは一向に掴めずにいる。この様な背景から「虎狼死家の存在」は警察や検察庁の上層部に所属する一部の人間にしか知らず、その中には天才検事・御剣怜侍も含まれている。彼の親友に当たる弁護士・成歩堂龍一は、御剣からの説明を受けて「凄腕の殺し屋である危険人物・虎狼死家の存在」を初めて知るに至った。『逆転裁判ファンブック』では「謎が謎呼ぶ謎の殺し屋」と紹介された通り、未だに多くの謎に包まれている人物の1人として描かれている。
恐るべき職業に反して、虎狼死家の外見や態度や言動はいずれも「柔和温順」を彷彿とさせるものである。細目で温和な表情を浮かべる顔の中心部には、額から顎にかけて縦一文字の縫い目が走っている。左目には銀のチェーン付きのモノクルを掛けている。ショートヘアの前髪の中心部には白髪が混じり、黒い口髭を生やしている。老人らしからぬ、長身痩躯で引き締まった体の持ち主で「歴代の依頼の数々を経て、屈強な肉体へと転じて行った事」が窺える。
常に穏やかで紳士的な態度を保ち、礼儀正しさや丁寧な言葉遣いを心がけている。いつ如何なる時でも、相手が誰であろうとも必ず敬語で話す。物の名前を短縮して呼ぶのを嫌い、どんなに長くとも正式名称で呼ぶ事を好んでいる。例えば「パソコン」なら「パーソナルコンピューター」と言い換えている。一定の怪しさが漂うものの、外見だけなら落ち着いた好々爺にしか見えないが「殺し屋に相応しい冷酷さ、狡猾さ、卑劣さ」を兼ね備え、それを作中の関係者やプレイヤーに、まざまざと見せ付ける。真犯人と共犯者を総合した、歴代犯罪者の中ではトップクラスの強敵として君臨し、主要人物達の前に立ちはだかる。
虎狼死家本人は「依頼者との信頼関係、義理人情を重んじる」と強調して語るが、あくまで「彼にとって都合の良い、自分なりの流儀」に過ぎず、真っ当な人間の考えるものとは乖離している。作中では御剣から「虎狼死家は義理人情を何よりも重んじる」と説明された、成歩堂が「殺し屋に義理も人情もあるかよ‥‥」と胸中でツッコミを入れていたのに頷いたプレイヤーも多いだろう。
何が起きようと、虎狼死家自身は四六時中ポーカーフェイスを保っているが、その心境は彼の私物が代弁している。『逆転裁判2』では無線機が、『逆転検事2』ではアイスクリームが持ち主の心境を感情豊かに表現している。どちらも「虎狼死家本人の顔を彷彿とさせるデザイン」に仕上がっている。無線機ごしの会話中では「声だけで姿が見られない分、大した恥をかく事は無い」と見ているのか、矛盾を暴かれたり、図星を突かれたりすると、普段の寡黙で冷徹な姿からは想像も出来ない、老人らしい素っ頓狂な悲鳴を上げる時もある。他のプロの犯罪者である証人達にも言える事だが、流石に法廷で証人となる状況には慣れていないからか、時として証言中に失言する場面も見られる。
英語版での名前は「Shelly・De・Killer(シェリー・デ・キラー)」。直訳すると「貝殻の殺し屋」となる。英語の「殺し屋」を意味する「killer(キラー)」の綴りも同じである。和風で若干コミカルな印象を受ける日本版の名前と違って、洋風でシリアス一色の名前となっている。偽名の田中太郎は「John・Doe(ジョン・ドゥ)」に変更された。「ジョン・ドゥ」とはアメリカにおける「名無しの権兵衛」に当たり、本名不明の人物の仮名に用いられる。
服装
主にターゲットの周辺を探る目的で各地に潜伏しており、多種多様な職業の人物に変装を用いて成り済ましている。偽名は常に「田中太郎」を使用する。個性的な外見の持ち主なのに「何故か時と場所と場合を問わず周囲に溶け込める擬態能力」を有する。その上、不思議と出会った人々には「妙に印象の薄い人物」として記憶される傾向にある。プレイヤーの視点からは「どう見ても怪しい」としか思えないのだが。多芸多才の優秀な人物であるだけに、周囲に違和感を持たせずに潜伏先に紛れ込む演技力も有しているのだろう。
『裁判2』ではホテルのボーイと黒いスーツの執事を装い、表舞台に姿を現した。この話でのターゲット暗殺の回想シーンでは「アクション映画のエージェントの様な黒い特製スーツとグローブを身に着けている姿」が一瞬映った。第1期アニメ版の終盤の逃走劇では「執事を演じた時と同じ黒スーツ姿」だったので、これが普段着と見られる。『検事2』では「サザエのマーク付きのピンクの法被」を羽織ったアイスクリーム売りを装っている。法被の下にはメイン画像の通り、白いシャツを着て黒いネクタイを締めている。この法被の「サザエのマーク」は彼のシンボルでもあり、後述のカードにも描かれている。ターゲットのSPの反撃で負傷した為、左腕に三角巾を着用している。職業柄、満足な治療が出来ていないのか、たまに腕からは血が滲み出る。焦ると傷が開く傾向にある様だ。
戦闘力
自他共に認める凄腕の殺し屋で、単独の戦闘力は作中でもトップクラスに入る。『逆転』シリーズ全作を通じて「互角に戦えると断言出来る人物」も僅か3人しかいない。1人目はかつての同業者ライバルで、現在は牢獄で隠居生活を送る鳳院坊了賢。2人目はターゲットとなった『西鳳民国』の大統領・王帝君のボディーガードを務める外城涯。『検事2』での怪我は彼に負わされたもので、外城は「虎狼死家を返り討ちにして、負傷させた上で撤退に追い込み、大統領を無傷のまま守り抜く」という大金星を上げている。虎狼死家自身、外城に関しては「この名前は生涯、忘れない」と実力を非常に高く評価していた。そして3人目は『西鳳民国』出身の国際捜査官・狼士龍である。彼だけは作中における戦闘描写は無いものの、スタッフからは「虎狼死家に並ぶ『逆転』シリーズ最強候補」と称されている。
どんな武器も自由自在に使いこなすが、中でも射撃の腕は突出している。狩魔冥を標的とした狙撃に使用したのは拳銃(形状からしてルガーP08)であり、遠距離から彼女の右肩を1発で撃ち抜くという「殺し屋としての高い技量」を見せつけた。冥の父・狩魔豪は過去の事件で、右肩に1発の弾丸を撃ち込まれて怪我を負い、休職する羽目になった事がある。冥を父親と同じ目に遭わせてトラウマを植え付ける事で、担当検事としての事件への関与を妨害するという「虎狼死家の冷酷さ、狡猾さ、卑劣さが如実に表れた犯行の1つ」と言える。この犯行を彼本人は非情にも「あなたを勝訴させる為の私からのプレゼント」と成歩堂に語っている。これ程の射撃能力の持ち主でありながら、虎狼死家本人は銃について「品も知性も機能美も無い」と語っており、職業柄やむを得ない場合に限って渋々、使用している模様。
ターゲットを殺害した実感や成功感が強く得られる分、接近戦の方が好みかつ得意なのかもしれない。現に大統領暗殺未遂の際、上司の外城と共に応戦した護衛チームの一員・内藤馬乃介の首を片腕でいとも簡単に折っている。この件で首を負傷した内藤は、治療用のコルセットまで装着する羽目になった。ちなみに虎狼死家は前述の通り、外城の戦闘力は高評価していた反面、内藤の戦闘力は低評価を下した。
正式にターゲットとされた藤見野イサオの殺害でも、彼の人間離れした殺し屋としての力量が発揮されている。何とこの事件では事前に用意していた武器は用いず、俳優であるターゲットが「舞台衣裳として身に着けていたマフラー」をロープの代用品にして絞殺している。藤見野は老け顔なので解り難いが21歳と若く、身長は179cmと大柄で鍛え上げた肉体を持ち、職業もアクション俳優なので身体能力は一般人よりも遥かに高い。そんな彼に一切の抵抗もさせずに、出会ってから数分で息の根を止めている。更に「現場に残した証拠品」は前述の「被害者のマフラー」、後述の『サザエのカード』の2点のみである。
この事件では依頼者である真犯人が逮捕されるが、虎狼死家には逮捕に関しての瑕疵は無い。何故なら真犯人を恨んでいた人物が相手を殺人犯としての逮捕に導く為、数多くの現場工作を施し、大量の証拠品の偽造まで行ったからこそ「依頼者がターゲットを直接、殺害した真犯人として逮捕されるという不測の事態」が発生したのだ。こういった危機的状況が引き起こされたのは「数十年にも渡る殺し屋人生において初めての事だった」と語っている。
殺し屋稼業
殺害現場には「サザエモン」という名前に因んで『ピンクのサザエのマークが描かれたカード』を必ず置いて立ち去る。このカードは「殺人は殺し屋である自身の犯行」と明かす事で、依頼者に嫌疑が掛かるのを阻止する目的で置いている。カードの右下には「自分の苗字が縦書きされた判子」が押されている。証拠隠滅に関しても抜け目が無く、基本的に現場に残された証拠品は『サザエのカード』1点に限られる。それ故に依頼者からは「自分の殺人容疑を防いでくれる」と絶大な信頼を寄せられ、警察からは「手掛かりの1つも残してくれない厄介な強敵」として警戒されている。
今までは3代にも渡って「一子相伝」で殺し屋家業を継承して来たが、現在は後継者捜しに難航しており、素質があれば血縁者でなくとも後継ぎに迎え入れようと思案している。『裁判2』の法廷では無線機を通じて証言を行う途中、何故か矢鱈と成歩堂に自分に依頼する様に勧めて来るが、大慌てで断固拒否された。おまけに「第二の人生の職業として、殺し屋に転職しないか」と勧誘までしていた。
この勧誘は流石に本気ではないと思われるので、恐らく裁判の話題を逸らす事で依頼者の容疑を薄めようとして、成歩堂に「職業柄もしくは立場上、恨みを持つ相手がいるのでしょう?」と誘惑し揺さぶりを掛けようと一計を案じた可能性が高い。それでも一連の話を真に受けた裁判長が「成歩堂は私の命を狙っているのか」と疑念に駆られるという、ちょっとした騒ぎが起きた。また上記の前座として、殺し屋を証人として扱う事に抵抗を示す裁判長を「今、発言した方。‥‥失礼ですが、死にたいですか?」と脅し、大いに震え上がらせた。
基本的には、信頼に足る人物のみ依頼を請け負うため「一度は直接対面して、ある程度の話し合いを経てから依頼遂行に向かう方針」を取っている。だが最近は仕事数が減少傾向にある為、インターネットを経由しての依頼も引き受けているとの事。一般人への擬態も兼ねて「アイスクリーム屋、綿飴屋等の副業」もこなす事で収入を得ている。
自己流の義理人情
「依頼者との信頼関係・義理人情を何よりも重んじる」「裏切り者を何よりも憎む」この2つを主な信条として掲げ、己の悪の美学としても扱う。虎狼死家自身は「自己流の信念、仁義を貫いている」と意識していて、自分の生き方を誇りにも思っている。しかし『さらば、逆転』での自分の依頼者が正真正銘の極悪人だと知りながら「出来る事なら何でもしてあげたい」と言わんばかりに、徹底的な奉仕と擁護の対象ともしていた。一方「依頼者の邪魔者となる相手達」には情け容赦なく攻撃したり、卑怯にも無関係の人間をも誘拐や脅迫によって巻き込んで、依頼者の庇護目的で利用する等の蛮行に走っている。この3点だけでも「虎狼死家の義理人情は、自分に利益をもたらす人間のみが対象とされ、それ以外の人間に対しては冷酷非情になる事も辞さない実態」が明確化されている。
凄腕の殺し屋に依頼可能な人物は「莫大な依頼料を支払える者」に限られるので、殺し屋という生業に多額の報酬を与えてくれる依頼者に対しては「必要以上の奉仕精神」を見せている。その構図はまるで依頼者を主君、自分を相手の忠臣に見立てて徹底的な忠義を尽くすかの様にも見える。標的の殺害以外でも依頼者から頼まれれば、状況に合わせて自分の可能範囲内で、どんな望みでも叶えてやろうと様々な行動に出る。虎狼死家の思想や職業上、独断行動に出る場合も多く、その際は非道で暴力的な手段を選びがちな傾向にある。彼はこうした自分なりの奉仕活動を「大切なお客様へのサービス」と述べていて、実際その「過剰とすら言える程のサービス活動」が幸いして「他の殺し屋とは一線を画す、特別な職業上の魅力・利点」を生み、評判の上昇や多くの依頼を集める現状に結び付いている。『さらば、逆転』での真犯人も「虎狼死家は依頼人との義理人情を大義名分として、標的の殺害以外の自分の望みも、自発的に実行した上で全て叶えてくれる」と見越した上で依頼している。実際に真犯人の期待通り、彼は行動して成果を上げている。
信念と流儀
冷酷な策士ではあるが「必要以上の殺傷に走るのは、自分にとっても依頼人にとっても保身に悪影響となる」と熟知しているので、無闇な殺人は犯さない様にしている。「やろうと思えばその場の人間達を皆殺しにして、証拠隠滅までも可能とする戦闘能力」を持ちながらも、基本的には「殺害対象はターゲット、自分の信条に反する者」に限られる。ターゲットや攻撃対象の人選からも仕事に対する徹底ぶりは尋常ではない。自分を追跡していた警官隊を撃退すべく発砲し、その中の3人に怪我を負わせた時には「彼らには申し訳ない事をした」と語っていて、不本意な行動であったと認識しているのが窺える。なるべく犠牲者の数は必要最小限に留めたり、事情によっては敵対者にも融通の利く対応を示す等、他の凶悪犯罪者キャラと比較すると「ある程度の対話さえすれば、話の解る相手にはなってくれる人物」ではある。そうした面が『検事2』では、旧知の仲にある了賢とのやり取りで描かれている。
虎狼死家としては「殺し屋という職業は依頼人との信頼関係が重要であり、それを侵害する裏切り者は断固として許さない」という価値観を持っている。裏切り者に対する憎悪は異常とも言える程で、作中では「裏切り者を最も憎む。裏切り者は自身の名にかけて、命に代えても仕留めてみせる」と力説する。但し彼の許さない裏切りは「主にあくまで自分に対してのもの」であり、卑怯な事に普段での自分の言葉や信念を棚に上げて、味方側とされる他人を裏切る場面すら見られた。また自己防衛、守秘義務も兼ねての行動でもあるが、多額の報酬を支払ってくれた恩人とも言える、自分の依頼者が何らかの裏切り行為を見せた場合は、速攻で自ら契約を打ち切り、依頼者を次なるターゲットとして狙いを定める。おまけに裏切り者への報復を最優先事項とし、始末が終わるまでは他の仕事は引き受けようとはしない。この狂気すら垣間見える執念深さからして、過去に何者かの裏切りが原因で痛手を受けた経験でもあるのだろうか。なお『さらば、逆転』の終盤にて「依頼者に裏切られたのは今回が初めてだった」と述べているので、裏切り行為による被害者とされたのは、自分自身ではなく身内であったのかもしれない。
問題点
虎狼死家自身は常日頃から極力、慎重な思考と行動を心懸けている訳だが幾つか問題点もある。ここで述べる問題点とは「殺し屋として活動する上で、自身の活動をし難くなってしまう要素という意味」であって、道徳的な問題点という意味ではない。しかも問題行動の数も種類も膨大な為、下記の一覧表さえ作成出来てしまう位である。依頼者に完全な忠誠を誓う反面「自分と依頼者を危険に晒しかねない行為を犯す」「自分、依頼者、他人のいずれかに二次被害が及ぶ事態を招き寄せる」といった失態も演じている。これらの行動が災いして依頼者も巻き添えを喰らって、苦難に陥る事すら何度か有ったものの、虎狼死家本人は「全ての行動は良かれと思ってやっているだけ」なのもあり、彼の行動方針が変わる気配は一向に見受けられない。身も蓋も無い事を言えば「アニメや漫画の悪役は登場人物のみの力で倒せるが、ゲームの悪役はプレイヤーが操作キャラを通じて自らの力で倒さなくてはならないので、ある程度の隙を見せて貰わないと倒せない事情あっての事」なので仕方ない面もある。
- 事故か自殺に見せかければ、警察の犯人逮捕を目的とした捜査すら起きないというのに、殺人バレバレのやり方で警察の捜査を促し、依頼人が逮捕されない様に対処していない。プロとしては「依頼人と自分の安全」を最大限、配慮していないという点で失格と言える行為である(例え、依頼人が殺人のやり方に対して口出しをして来たとしても、自殺にしない理由は無いので、虎狼死家の方が止めさせるべき。ターゲットの藤見野には「グランプリを逃す」という自殺の理由として使える事情もあった)
- 単独犯であれば、普通は警察は実行犯のみを探す筈なのに、カードを残して依頼殺人である事を明らかにして、依頼人に疑いが向く様にしている。これが無ければ、御剣が虎狼死家の存在を認識する事すら出来なかった(虎狼死家の全ての殺人にカードを置く必要はない)
- 性別すら把握せずに霧緒に罪を擦り付けようとする(案の定、成歩堂にすぐ指摘された)
- 誘拐した女性を依頼人の家で監禁する(バレたら依頼人は有罪になる危険性のある、最悪の行為でもある)
- 金の受け渡しを犯行現場で直接行い、他人に目撃される(この点は成歩堂にすら呆れられていた)
- 重要な証拠品である『クマのアクセサリー』を依頼人の家に残しておく。
- 依頼人の許可なしに真宵誘拐、冥狙撃等の数々の犯罪行為を犯す(もしも依頼人だけ逮捕されて、その罪が依頼人に及んだら、どう対処するつもりなのか?また真宵はパーティの参加者でもあるので、依頼人の友人である可能性すらあった)
- 誘拐するとしても、最終的な判決を下すのは裁判長なので、成歩堂より裁判長の身内を拐った方が効果的(事実『検事2』では、手下に裁判長の息子を誘拐して、自分に有利な判決を出す様に仕向けた悪人がいた。こちらはこちらで違う人物を人質に取るというミスを犯したが)
- 逮捕されてしまった依頼人との連絡手段を確保しておかない(成歩堂に頼めば、殺人を隠した上での伝言位は出来る筈)
※以下、ネタバレ注意。※
殺し屋の暗躍の軌跡
人気俳優・殺害依頼(『逆転裁判2』第4話『さらば、逆転』)
依頼者・王都楼真悟から「自分を失脚させようと企む藤見野イサオの口封じ、彼が失脚を招く為に保管していた物を回収して欲しい」と依頼される。依頼人こと大切なお客様の仰せのままに、藤見野を彼の巻いていたマフラーで絞殺し、その後は「目当ての品」を自身の楽屋にいた王都楼に手渡した。ところが、かねてより王都楼に私怨を抱いていた、彼のマネージャー華宮霧緒が「王都楼が誰かに藤見野殺害を代行させた真相」を悟った上で、彼が殺人犯として逮捕される様に現場工作を仕組んだせいで予想外の事態へと発展する。霧緒の計画通り、王都楼は藤見野殺害容疑で逮捕されてしまい、彼女の偽造した証拠品の数々により、窮地へと追いやられてしまう。この非常事態への対応を迫られた虎狼死家は、ここからは依頼者を守る為だけに、ありとあらゆる卑劣な犯行に及んだ。
綾里真宵誘拐事件
まず初めに綾里真宵を誘拐して、彼女のパートナー成歩堂龍一を「今回の担当弁護士となって、王都楼の無罪判決を獲得しなければ真宵を殺害する」と脅迫した。この際ホテルのボーイに扮装して、パーティーの参加者の1人・荷星三郎を仲介して成歩堂に専用のトランシーバーを送った。このトランシーバーは「成歩堂に対する連絡・監視・命令・脅迫の4つの手段を取る道具」として頻繁に有効活用し、その行動は事件が解決するまで続いた。翌日は天才と名高い、本来の担当検事・狩魔冥を狙撃して出廷不可能にし、弁護側が有利になる様に裁判を進行させようとした。但し虎狼死家の思惑とは裏腹に、冥を越える実力者・御剣怜侍が代理として検事を担当した為、かえって不利な状況を招く一因ともなった。しかも成歩堂が「真宵の救出目的」で普段は敵対している御剣や冥、糸鋸圭介を始め警察庁の人々と協力関係を結び、一致団結した彼らに追われる身になってしまった。
王都楼邸の執事
それでも「犯罪者としては歴戦の強者」である虎狼死家は、この状況を物ともせず、終始一貫して冷静かつ狡猾な立ち回りを見せた。当初は無許可で王都楼の自宅をアジトとして利用し、ワイン倉庫に真宵を監禁していた。中盤では手掛かりを求めて王都楼邸を訪問して来た、成歩堂と協力者達と鉢合わせするも「王都楼邸の執事・田中太郎」に成り済ます事で難なくやり過ごした。巧妙に有能な執事を演じる虎狼死家に、すっかり騙された成歩堂は「流石、執事さんですね」と感心する。その言葉を聞いた虎狼死家は彼への警告と皮肉を交えてか、冒頭の台詞「‥‥人は見かけによらない、と申しますよ」を口にした。それからも余計な発言や行動は一切見せず、穏便に成歩堂達を帰路に着かせて危機を脱した。その直後、再び彼に連絡を入れる虎狼死家だったが、トランシーバーから王都楼のペットの猫シュウの鳴き声を聞かれてしまい、ついに彼らに「潜伏先は王都楼の屋敷」と気付かれてしまう。この時をもって「虎狼死家による人質の真宵を連れ回しての逃走劇」と同時に「警察による人質救出を優先とした犯人追走劇」が開幕し、派遣された警官隊との熾烈なカーチェイスや銃撃戦が繰り広げられた。
逃亡と証言の同時進行
虎狼死家の妨害工作によって、警官隊は真宵救出に2回も失敗してしまい、彼は焦る事なく悠々と逃走を続行する。法廷では成歩堂と御剣が「真宵を救出して、虎狼死家の弁護依頼を打ち切る」「王都楼の犯行を立証する、決定的な証拠品の到着」この2つのどちらかが実現するまで只管、時間稼ぎに徹していた。2人はその一環として不本意ながら「藤見野にも私怨を持っていた、霧緒が殺人を依頼した真犯人」との主張まで展開した。進退窮まった状況下で御剣は奇策を講じる。無線機ごしに虎狼死家を証人として出廷させて「自分の依頼者は誰なのか」を証言させたのだ。誰もが驚天動地の状態に陥る中、彼は悠然と御剣の要請にも応じ、検察側の証人として出廷し「泰然自若」の姿勢で裁判に挑む。しかし虎狼死家は御剣を裏切り、打ち合わせに反して「私の依頼者は華宮霧緒」と言い出し、それを主旨とした上で強調する証言に終始した。状況を打破する目的で呼び寄せた人物が、更なる事態の混迷を招く現状に、弁護側も検察側も困惑を深める一方であった。ちなみに無線機は、原作では携帯ラジオ位のサイズで、立ち絵では遠近法で大きく見えていたが、アニメ版では据置型ポータブルラジオ位のサイズであり、係官が両手で抱えていた。
裏切り者の依頼者
「真宵を救出する」「霧緒の殺人容疑を撤回する」「王都楼を有罪にする」この3つの目的から究極の取捨選択をしなくてはならない、極限状態に成歩堂は絶望感すら覚えて激しく苦悩する。未だに人質の真宵も含めた、成歩堂と仲間達の誰も彼もが疲弊する中で、いよいよ裁判は最終局面へと突入する。その時、奇跡が起きた。病院での治療を終えた冥が警官隊を通じて入手した、王都楼の邸宅に残されていた「虎狼死家の遺留品3点」を携えて出廷したのだ。彼女が提出した遺留品は全て正式な証拠品として受理されて、弁護側と検察側の双方が利用可能とされた。その中には「王都楼が虎狼死家の弱味を握る為、彼が藤見野を殺害する様子を盗撮して記録したビデオテープ(アニメ版ではディスク)」が存在した。このビデオテープを見た成歩堂は昨晩の留置所で、問い詰めた王都楼が明かした「虎狼死家の逆鱗に触れる事実を彼に暴露する事」で状況を打開しようと思い付く。
成歩堂は無線機を通じて「王都楼は虎狼死家を全く信用しておらず、それ所か“後々に自身が依頼を口実に脅迫された時の保険”として、自分が先回りして弱味を握るべく、藤見野の殺害経緯を盗撮していた」と暴露した。この話を聞かされた虎狼死家は冷静な言動と態度は維持しつつも「私は最初から裏切られていた」と激しい怒りに震え出す。なお証言中では「依頼者が逮捕されたのも、依頼者に裏切られたのも、王都楼が初めてだった」と語っている。「虎狼死家にとって史上最悪の依頼者は王都楼」であったに違いない。こうして虎狼死家は今まで徹底的に庇護対象として来た、王都楼との契約を即座に解除すると「次は裏切り者をターゲットとする」と元依頼者となった彼への復讐殺人を宣言する。そして「もう不必要となった王都楼への奉仕活動も終了したので、用済みとなった人質は解放する」と成歩堂に告げると、虎狼死家は逃走ルートの途中で真宵を置き去りにして余裕綽々で逃げ延びて行った。その後やっと駆け付けた警官隊によって真宵は保護された。
「最強にして最高の味方」が「最強にして最悪の敵」に逆転してしまった現状を前に、王都楼は究極の恐怖感と絶望感を味わった事で発狂。苦渋の決断から妥協案として「有罪判決と重度の刑罰を受け入れて、刑務所に匿って貰う目的」から、自身に対する有罪求刑を絶叫しながら「俳優の命である顔」を無茶苦茶に引っ掻き回した。そして引っ掻き傷まみれの顔になった彼にはお望み通り、有罪判決が下されるに至った。冥の法廷到着の直前、成歩堂は助手を担った綾里千尋から「状況の打開策は2つある。1つ目は王都楼が心の底から有罪判決を望む事。2つ目は虎狼死家が一方的に王都楼との契約を終了する事」と助言を受けていた。この発言時点では、成歩堂は「両方無理」だと思っていたが、最終的には両方が同時に実現される結果となった。
殺し屋の後日談(『逆転裁判2』エンディング)
エンディング恒例の『登場人物達の後日談』では、無線機越しに彼も登場。普段の穏和な態度と口調で「暫く国外逃亡する為、依頼はHPからも受け付けているとの宣伝」を終えると「お互いに長生きしたいものですね」と本気なのか冗談なのか解り難いメッセージを言い残し、最後の役目を終えた無線機は完全に自壊した。法廷での論争中に焦る度に故障を繰り返していた、無線機はついに寿命を迎えたのだった。不要となったら時と場所を選ばずに自壊させられる様、事前にプログラムされていたのかもしれないが。基本的にはエンディングでの登場人物は、各事件の真犯人を始め「主人公である成歩堂とは、敵対関係にある犯罪者は除外される傾向」なので、この人選は異例である。
大統領・暗殺依頼(『逆転検事2』第1話『逆転の標的』)
『逆転裁判2』から1年後。新たなる依頼者・猿代草太から「復讐殺人と自己保身」を目的として『西鳳民国』の大統領・王帝君暗殺の依頼を受ける。有名な国家の大統領の暗殺なだけに、恐らく虎狼死家にとっては「史上最大の大仕事」であったと思われる。用意周到に準備を完了させると、来日目的でプライベートジェットに搭乗していた大統領のSPに扮して潜入し、機内にて隙を見計らって彼の射殺を図る。しかし大統領のSPのリーダーにして規格外の戦闘力を誇る、外城涯に返り討ちにされて任務に失敗。彼に左腕を折られて負傷し、ターゲットは無傷のまま撤退を余儀なくされる。なおSPのサブリーダー・内藤馬乃介は虎狼死家には歯が立たず、呆気なく首を捻られて戦闘不能とされた。この事件直後、治療を受けた内藤は首に白いコルセットを巻く様になった。
それでも虎狼死家は大統領の暗殺を諦めず、今度は演説会場の『ひょうたん湖公園』にて「アイスクリーム売りの田中太郎」を装い、執念深く暗殺の機会を窺う作戦を遂行する。暗殺失敗から2日後。大統領のSP間による内部抗争の末、内藤が外城を殺害する事件が起きる。この事件の捜査を目的として『ひょうたん湖公園』を訪れた御剣と偶然にも再会。昨年の事件で対決した因縁の相手ではあるが、御剣は無線機ごしに会話しただけなので、虎狼死家の姿までは知らなかった為、当初は「単なる事件の目撃者にして証人の1人」として扱われる事となる。御剣とは彼による尋問を通じて、高度の心理戦を展開するが奮戦空しく、犯行と正体を暴かれてしまう。これ以上、現場に留まる事は不可能とされた虎狼死家は最後の抵抗として、一時的に内藤を人質に取って作り出した隙を突いて、大統領の暗殺を決行すると同時に逃走を図る。
事件の捜査中「暗殺対象とされた大統領は影武者で、本物の大統領・王帝君は十数年前から行方不明となっている衝撃の事実」が判明したが、この時まで虎狼死家も大統領が影武者だったとは知らず驚愕していた。「正体が誰であろうと、依頼者から暗殺を依頼されたターゲットには変わりない」として、大統領暗殺は続行し逃亡の間際に仕留めようとするが、この場に居合わせた多くの人々から妨害を受けてしまい、負傷が原因で本領発揮も、影武者に一撃を加える事も叶わず、無念の撤退へと追い込まれる。
新たなる標的(『逆転検事2』第2話『獄中の逆転』~第4話『忘却の逆転』)
『ひょうたん湖公園』での事件の結果から、虎狼死家は「完全に大統領暗殺から手を引く決断」を下すが、これは任務遂行が不可能となった事だけが理由ではない。もう1つの理由は「大統領が影武者であると知りながら、その事を自分に伝えずに暗殺依頼した、草太を裏切り者と見なして次なるターゲットに選んだから」である。著名人だった王都楼とは正反対に「日陰者である草太の正体や居場所」を突き止める事は容易ではなかったが、復讐心に基づく執念から虎狼死家は独自に草太の追跡を開始し、彼に纏わる真相に迫って行く展開となる。その過程で影に身を潜めながら、御剣を始めとした各事件の関係者を利用する狡猾さを見せた。自身の目的達成が動機ではあるものの、御剣には必要とされる情報を提供する事を主体とした「ある意味、捜査協力とも言える発言や行動」も定期的に見せた。ちなみに現在は刑務所にて隠居生活を送る、かつての商売敵・鳳院坊了賢とは、しばしば彼の刑務所に侵入する形で面会しているとの事。昔は敵対関係にあったが「闇の世界で生きる者同士にしか出来ない相互理解」あっての行動だろうか。
殺し屋が見せた人情(『逆転検事2』第5話『大いなる逆転』)
第1話以降は表舞台から姿を消し、御剣に携帯電話を通じて情報提供したり、刑務所にいる知人である了賢といった「関係者の話」から断片的に動向が窺える状況に留まっていたが、第5話にして最終話となる『大いなる逆転』に満を持して再登場。一連の事件の調査を経て、とうとう虎狼死家も草太の正体と居場所を探り当て、彼が団員となって潜伏先としていた『タチミ・サーカス』へと潜入し「草太の殺害」を実行しようとする。最終決戦の舞台となったサーカスのテント内では、御剣と彼に黒幕であった事を暴かれて本性を現した、草太の熾烈な頭脳戦が繰り広げられていた。激闘の末に勝利を掴んだ御剣に、引導を渡された草太は警察に連行される様にと促されるが、敗北のショックで疲労していた彼を殺害しようと虎狼死家が襲い掛かる。「裏切り者は必ず殺す信条」に執着する虎狼死家だったが、草太を救う為に脱獄までして、サーカスにやって来た了賢が「待った」を掛ける。草太の悲惨な境遇に同情し、影ながら彼を支援して来た了賢は「草太には刑務所生活で贖罪をさせるのが最適な罰となる」と虎狼死家を諭す。かつての宿敵の意見に感化された虎狼死家は、草太への復讐殺人を断念して、テントから脱走し行方を眩ました。
それ以降の彼の動向は杳として知れない。だが『裁判2』及び『検事2』の時点で初老だった上、人間離れした身体能力からして、諸事情により表舞台に姿を見せる事が無くなっただけで、シリーズ後期に当たる時代でも「凄腕の殺し屋としての暗躍」は続いている可能性は高い。虎狼死家一族にとって家業は生業でもあるので、どんな風に時代が推移しようと辞める訳には行かないだろう。案外、後継者捜しに奔走しているのかもしれない。
余談
裏切り者の末路
ちなみに『検事2』で虎狼死家が見せた動向から「彼に王都楼は始末されてしまった事」が示唆されている。本作での虎狼死家は、刑務所や大統領のプライベートジェット等の難所にも易々と侵入しており、裏切り者として激しく憎んでいた、王都楼を気にする素振りは一片も見せず、新しい仕事に取り組む新生活を自由気ままに送っている。「裏切り者は必ず殺す。その任務を達成するまで依頼は引き受けない」という『裁判2』での言葉を有言実行しているならば、王都楼は『裁判2』での結末から『検事2』の本編が開始されるまでの約1年の間に仕留められたと思われる。「王都楼と草太に向けた、尋常ではない憤怒と憎悪と復讐への執念」からも、復讐のターゲットとして狙う相手の殺害を諦念する可能性は0に近い。運良く草太は了賢の手引きで、特例となれただけである。
関連タグ
キルシュ・ワイミー:漫画『DEATHNOTE』の登場人物。通称ワタリ。虎狼死家とは対極の職業・世界一の名探偵Lの助手をこなす人物だが共通点が多い。「①黒スーツを着て口髭を生やした好々爺の外見」「②紳士的で礼儀正しい性格と口調」「③常に冷静沈着でポーカーフェイス」「④高い知性と多々ある才能を発揮する優秀な高齢男性」「⑤老人とは思えぬ程ずば抜けた射撃能力を持つ」等が挙げられる。
但し「凄腕の殺し屋という職業」「作中最強とすら言われる戦闘力」「未だに若さを保つ屈強な肉体」の3つを兼ね備えている事からして、間違いなく戦闘力は虎狼死家の方が格上だろう。彼は年齢不詳だが顔立ちと若々しい体型からして、作中では70歳であるワタリよりは年下と思われる。ちなみに『逆転裁判』と『DEATHNOTE』には『日本テレビ』のサスペンス作品として、アニメ版と実写映画版が制作されたという共通点がある。
リモート:「無線機を通じて証言」という行為は、ある意味これに該当する。