概要
生涯に渡り懲役が課せられるもの。つまり刑期満了が死ぬまで来ない。「一生刑務所から出られない終身刑とは異なり、具体的な刑期が定められていないだけの刑罰」としばしば誤解されるケースが見受けられるが、それは不定期刑という全く別の刑である。
なお、国内では終身刑の定義は「仮釈放(後述)がなく、一生刑務所にいることが確定しているもの」としばし受け止められることもあるが、国際的には終身刑にも仮釈放があるものが一般的であるため、日本の無期懲役もまた終身刑と受け止められている。
日本における無期懲役
日本の場合は、良く15年程度で実質的には出所出来ると未だに思っている者が多く、死刑制度論議などでそうした誤解を声高に主張する者が少なくない。
実際刑法上は10年で仮釈放を行うことが可能となっている(刑法28条)。また、実際、昭和までは20年ほどで出てくる例も多かった。これは、この時代の有期刑の上限が15年であったためである。
しかし、平成16年(2004)年に、刑法の改正があり、有期刑の上限が20年に引上げられた。この結果、整合性を合わせるため(無期懲役囚が、有期刑の者より早くに出所することは辻褄が合わなくなるため)、仮釈放に必要とされる期間が、伸びて行く様になる。
法務省の平成23年 - 令和2年までの10年間統計に準拠してみると、10年での仮釈放はほぼあり得ない状態となっている。
この統計によると無期懲役受刑者は1800人前後、このうち仮釈放が審理されたのは310件であるが、仮釈放が認められたのは年間10人程度で、認められた者は最も短くても29年服役している。令和に入って以降、30年(有期刑上限)未満で仮釈放になったケースはない。
20年以下で仮釈放の審査の対象になった例自体はあるが、それ自体もほんの僅かである上、実際の釈放にはつながっていない。
ここ10年は仮釈放された者の平均在所期間が30年を割ったことはない。
しかも、これはあくまでも仮釈放された者の服役年数であり、仮釈放されないまま獄死している受刑者の方が多数派である。令和5年時点で、日本には1800人程の無期懲役囚がいるが、このうち仮釈放が許可される者は、1年に10人未満となっており、最早生きて刑務所を出られるのは無期懲役囚全体の4分の1程度となっており、残り4分の3は獄死している。また、残り寿命が少ないため、最後の情けで外に出された場合もあり、釈放されてから僅か1週間後に死亡した事例もある。
仮釈放には下記の非常に困難な条件と、その他の様々な項目を満たした上でその道が開ける。
- 受刑態度が良く、罪を十分に反省しており更生への意欲がある
- 再犯の恐れがない、社会全体が加害者を許容している
- 身元引取り人がいる
- 被害者遺族が加害者を許しているか(被害者や遺族への聞き取りが行われることもある)
- 外での生活の当てがあるか(若くても50歳を過ぎている状態で社会経験もなく就労は難しい)
仮釈放審理に当たっては検察にも意見が求められることが多い。
検察も特に反対しない受刑者のケースもあるが、それでも3分の1は釈放されないし、反対されれば認められる可能性は2割にまで落ち込む。
恩赦はどうなの?という質問に対しても応えておく。1984年に発生した、夕張保険金殺人事件(こちらは死刑)で加害者が計画的に当てとしていたケースもあったが、時世が完全に移り変わっており失敗に終わった。
現在の恩赦は処罰に伴う資格停止や保護観察を解除したり、法律の不備を救済するのに使うことが多く、死刑や無期懲役クラスの重大犯罪が恩赦で救われる可能性はまずない。
例えば30歳で無期刑が確定したとして、審査が始まる30年後頃には親も高齢か死んでいるかで、身元の引き取りなんて親戚も来ないだろうし、事実引取りを拒否されるケースがほとんどであり、前述した3番目の条件は詰んでいるのである。
さらに再審査を受ける羽目になった場合、70歳、80歳になる頃には身内なんて確実にいなくなるだろう。もうその頃にはどのみち再審査すら受けることも出来ず、塀の中の生活の方がましというまでの状況になっている。
また先述の通り、無期懲役とは一生涯に渡り刑が続くものであり、万が一に仮釈放が許されたとしても死ぬまで保護観察下に置かれ、そこから逃げ出したり何らかの罪を犯して罰金刑以上(例として、自動車運転中に一般道30km/hまたは高速道40km/h以上の速度超過などで赤切符を1回切られただけでも該当してしまう)が確定したりすれば仮釈放は直ちに取消されて塀の中の暮らしに逆戻りとなってしまう。これらを踏まえた上で、罪を犯すということがどれだけ厳しいか今1度良く考えて欲しい。
入所してから概ね40 - 50年以上が経過している場合、仮釈放審査には複数回落とされている可能性が高い人物が多い。一方で服役年数トップ50の受刑者現状を見ると、大半が医療刑務所に身柄を移管されていることが多い。
当然身体的にも高齢故にキツくなっているが、これらの長期受刑者は「精神に異常を来たしている」可能性の方が高いとも言われる。ドキュメンタリーなどでは、「自分が何故刑務所にいるのか分からなくなっている(自分が起こした犯罪が何であったのかすら忘れている)無期懲役囚」などが登場している。要するに、超長期に渡る刑務所暮らしはかなり過酷なものであろうと推察される。
日本の無期懲役囚で最長の収監記録を持つものについては明らかにされていないが、過去の仮釈放審査記録などから鹿児島雑貨商一家殺人事件の犯人である元少年の服役年数が63年以上にも渡っていることが判明している。
該当者は戦後直ぐに犯行に及び、少年法改正前に死刑判決を受けたが、犯行当時18歳に満たなかったために法改正時の恩赦で無期懲役に減刑された。故に後述する「マル特無期」として特に審査が厳重となり仮釈放が通っていないか、最初から仮釈放を求めていないと考えられる。
無期無期介護
近年の懲役囚の中には、主に同房の老囚人(余程体調が悪い者の場合医療刑務所に移されるが)の介護を命ぜられる者もいる。この時無期懲役囚であれば、同じ無期懲役囚の介護を行うこととなる。
現代では「刑務所の方がマシ」などといわれがちな介護業であるが、無期囚の場合は同じく無期懲役になるような重罪を犯した老人相手に、望んだ訳でもない介護をしなければならないというのは、ある意味理にかなった懲罰なのかもしれない。
マル特無期
マル特無期についても説明しておく。一言で言えば実質、マル特無期=ほぼ(仮釈放なしの)終身刑。
反省の情が乏しく更生の望みがない、仮釈放後再犯の可能性が高い、被害者遺族の処罰感情が特に厳しいような場合、または公判で検察側から死刑を求刑され、判決で無期懲役に減刑された場合などにこれがつく確率が大きくなる。仮釈放については特別慎重に審査されるため、通常の無期懲役囚と比べても外界に出る可能性はまずない。無期懲役囚のうち400人弱(5分の1近く)がこれに当たるといわれている。
なお、マル特無期は特段法に定められた無期懲役ではなく、法律上は他の無期懲役と変わらない。仮釈放についても、全く審査自体がされないという訳ではない。
一方で、社会全体や審理を行う者達の心象次第でその運用の厳しさが決められるため、最初から仮釈放なしが決定されている終身刑よりさらに厳しい刑罰なのでは?という声も存在する。ただし、マル特無期というシステムそのものがまだ大きく知られていないことにも留意。
未決死刑囚と長期無期懲役受刑者
死刑の判決を受けながら、30年以上に渡って収監されたままの長期未決死刑囚が日本国内には何人か存在する。
ただし、未決死刑囚にとっての刑の執行はあくまで「刑死」、つまり死刑執行により死ぬことだけである。そのため未決死刑囚の身柄は無期囚と異なり拘置所(ただし、死刑執行設備がある札幌などの刑務所に代替されて収監されることもある)に収監され、無期囚の様な懲役(労役)作業は存在しないという違いがある(一応、労役を志願すれば労役をすることは可能)。
あくまで運用にかかる様々な問題から刑執行が先送りされているだけであり、明日刑執行が行われ死亡するかもしれないという状態にいるものとは明確に差があるとの主張もあるが、多くの場合マル特無期受刑者と未決死刑囚の罪状レベルにそれ程の差異がなく、両者共に「事実上の」終身刑のように運用されている。
なお、未決死刑囚の最長収監記録は名張毒ぶどう酒事件であるが、無期懲役の収監者上位は軒並み50年超えが連ねており、ここまで長期に亘る未決死刑囚の存在はあくまで非常に稀なイレギュラーであろう。
実際、名張毒ぶどう酒事件は冤罪の可能性が強く指摘され、下級審では再審開始決定が出たこともある事件であり、万一執行してから冤罪が確定ということになれば、死刑制度存続自体が危うくなりかねないということが影響している。
また、地下鉄サリン事件などで死刑判決を受けたオウム真理教信者達は、彼らを死刑にした場合、裁判が未了の信者について証言を取ることが出来ないことから執行が控えられていたと考えられており、関係者の裁判が全て終結後、死刑が短期間で一斉執行されている。
稀なケース
無期懲役者の中には、特に模範囚の中で1人代表として選ばれて刑務所の墓参り行事に参加することがあるという。その墓とは刑務所で一生を終えた者達のものであるとされ、選ばれた代表の囚人は背広若しくはカッターシャツの正装に着替えて複数の刑務官と同行して赴くという。ただし、墓所の周りは警備の刑務官に囲まれ監視された状態なのはいうまでもない。
関連項目
外部リンク
法務省ウェブページ 無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について
※ここに掲載されているPDFを見れば上記内容の根拠をおおよそ把握可能。