プロフィール
演者:ユージン・クラーク
本名:不明
性別:男性
人種:アフリカ系アメリカ人
種族:ゾンビ
生前の職業:スタンドマン
概要
この映画の真の主人公。
謎の力によって動く死人「ゾンビ」と成り果てた一人。大柄な体躯でスキンヘッド。瞳は黄色でサークル型の黒髭を生やし、額には抉れた様な小さな傷がある。
制服である青いツナギを着ており、胸に「ビッグ・ダディのガソリンスタンド」のロゴが刺繍されたワッペンが付けられており、これが呼び名の由来。
他のゾンビ同様、脳を破壊されない限り死なない・痛覚が無い・猛獣並の怪力・走れない・喋れないといった非人間的な特徴を持つ反面、明確な自我や感情、高い知能を有し、物事や失敗から学習したり他のゾンビへの共感・同情ができる等の人間性も併せ持っている。
ペンシルベニア州ユニオンタウンに棲息するゾンビ達によって形成されたコミュニティのリーダー的存在で、普段はかつての職場である「ビッグ・ダディのガソリンスタンド」の事務所を住処としている。人間時代の記憶から、ベルが鳴ると給油場に現れ給油ノズルを手に車を探す仕草をする。
リーダーとしての統率能力は高く、咆哮や唸り声を言語の様に用いて他のゾンビに指示を出せる。
ロメロ監督の描くゾンビは一貫して「悪意を持たないもの」であるため、それが自我を持った存在であるビッグ・ダディの性格は作中に登場する人間達よりも遥かに高潔で、非常に仲間想いかつ勇敢。仲間の無残な末路を悲しみ、悪意を持つ人間達に怒りを露にする他、自分の身を危険に晒してでも仲間を守ろうとし、強大な敵(武装した兵士達)にも果敢に立ち向かう等、かなりヒロイックなキャラクターとして描写されている。
また、ゾンビでありながらカニバリズム(人肉食)を行う描写が一度も無い。前作『死霊のえじき』に登場した知性を持つゾンビ・バブが人肉を定期的に与えられたことで食人欲が満たされ理性を取り戻したことを考慮すると、人間の活動圏外で自然に自我を身に付けたビッグ・ダディは人肉への欲求がそもそも存在しない可能性が高い。即ち、ヒトとの共存の可能性を秘めた「進化したゾンビ」と言える。
仲間と共に様々な困難を乗り越え、無垢なゾンビ達に叡知を授けて自我に芽生えさせ、ゾンビの弱点である流水や火を克服し、最後には悪を滅ぼすなど映画の進行に伴いゾンビの救世主・革命家と化していく。
因みに屈強そうな外見通り通常のゾンビよりも怪力で、兵士を小銃で殴り殺したり電源の入っていない掘削機で強化ガラスの扉を破壊できる。また、射撃が得意で作中では自動小銃「ステアーAUG」を片手で連射し、標的に全弾命中させている。
作中の活躍
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にて世界が死者は例外無くゾンビ化するように変貌してから三年後。
アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグ市ダウンタウンでは様々な人種・国籍の生存者達が集まり生活していた。北と南をアレゲニー川とモノンガヒラ川に挟まれ、西が二つの川の合流地点になっているこの場所は大きな流水が苦手なゾンビが入ってこれない理想的な立地であり、唯一陸続きになっている東側に電気柵を張ることで完全にゾンビを隔離していた。しかし、一握りの富裕層が高層タワー「フィドラーズグリーン」で優雅に暮らす一方で、大多数の平民達はスラム街での過酷な生活を強いられていた。
自我に目覚めたゾンビであるビッグ・ダディはピッツバーグの近くにある街ユニオンタウンで、他のゾンビと共に人間時代の行動を模倣しながら平和に暮らしていた。他のゾンビ達と違い、この時点では下手に干渉しなければ無害な集団であった。
しかし、このゾンビ達の平和は、ピッツバーグからやって来た物資調達部隊によって理不尽に破壊されることになる。
偵察として身を隠しながらゾンビ達を観察していた調達部隊隊長ライリー・デンボと新米隊員マイクの存在を察知したビッグ・ダディは、速やかに近くを徘徊していたカップルのゾンビ(デッド・ティーネイジ・ボーイ&ガール)に二人を追い払うよう命令する。
その後、ライリー達と合流した調達部隊は夜空に花火を打ち上げる。大きな音や光に集まる習性をもつゾンビ達は、花火に意識が集中しカカシ同然の棒立ち状態になってしまうのだ。
この花火が罠であると悟ったビッグ・ダディは他のゾンビ達に必死に呼び掛けるも、巨大な改造装甲車「デッドレコニング号」を筆頭とする圧倒的な武力を持つ調達部隊によって目の前で大勢の仲間を虐殺される。急いで自分の身も顧みずに仲間を物陰に突飛ばし銃撃から守ろうとするも、一人は守りきれず生首状態になってしまう。そんな状態でも死ねずに苦しむ仲間に止めを刺し(生首を踏み潰した)てやると、天を仰ぎ悲しみの咆哮をあげるのだった。
結局、調達部隊は暴虐の限りを尽くしてから撤退していった。ビッグ・ダディ達は大勢の仲間を虐殺された一方、調達部隊が受けた損失は新人のマイク一人だけであった。
ビッグ・ダディは調達部隊が去っていった方角に建つフィドラーズグリーンが「敵」の本拠地であると確信し、怒りの咆哮をあげて人類への反逆を決意。兵士から奪った小銃「ステアーAUG」を携え大勢の仲間と共にフィドラーズグリーンを目指し行軍を開始する。
こうしてゾンビのリーダーは革命家となった。
一晩中歩き続け、明け方にようやくピッツバーグ・ダウンタウンの対岸に設けられた基地にたどり着く。基地は高い防壁で囲まれていたが、ビッグ・ダディは壁を叩いて脆い箇所を直ぐに発見。仲間の肉屋ゾンビ(通称:ブッチャー)に「ここを、それ(豚切り包丁)で、壊せ」とジェスチャーで指示、壁を破壊させる。生前に愛用していたものを「ただ握っているだけ」だったゾンビが初めて道具を道具として利用したのである。
壊した壁を覗くと、そこは射的場でゾンビ達が生きたまま逆さに吊るされて的にされているのを目の当たりにする。同胞達への酷い仕打ちにビッグ・ダディは更に人類への怒りを募らせる。なおこの時、いきなり視界に入ってきた逆さ吊りゾンビに対してあからさまにビビるという、中々にコミカルなワンシーンもあった。
その日の夜、射撃の訓練をしていた兵士二人を不意討ちで殺害し、人類との本格的な戦いが幕を上げる。
基地の司令官ブルーベイカー率いる兵士達が慌てて迎撃するが、ビッグ・ダディ達は犠牲を出しながらも基地の最後の防壁であるフェンスを数の暴力で強引に押し倒し雪崩れ込む。
この戦闘のどさくさに紛れ、調達部隊の副隊長チョロ・デモーラはダウンタウンの独裁者ポール・カウフマンへの個人的な恨みから仲間と共に謀反を起こし、デッドレコニング号を強奪する暴挙に出る。
そんな人間達の事情など知らないビッグ・ダディは仲間を大勢殺した怪物の様な装甲車が動き出したことに興奮し、意図せずに銃の引き金を引き発砲。偶然にも「銃を撃つ方法」を発見すると、怒りの雄叫びと共にデッド号を銃撃するがダメージは与えられず逃げられてしまう。
戦力の要であるデッド号の援護を受けられなかったことが決定打となり、基地は陥落。ブルーベイカーら兵士達は皆ゾンビもしくは肉片と化した。
勝利の宴の如く人肉を貪るゾンビ達だったが、ビッグ・ダディの咆哮一つで即座に食事を中断し行軍を再開する。共通の目的意識がゾンビ唯一の欲望を上回った瞬間である。
遂にダウンタウンへ通じる橋の入り口にたどり着くが、跳ね橋はチョロにより開橋されており立ち往生する羽目に。ゾンビ達は大きく深い流水を本能的に恐れる習性があるのだ。
ビッグ・ダディは水面に映るフィドラーズグリーンを睨むと、恐る恐る身をのりだし川に飛び込む。
この彼の行動には自我が芽生えつつあった他のゾンビ達も驚愕の表情を浮かべる。
‥‥‥ビッグ・ダディは沈んだまま浮かんでこない。溺れてしまったのだろうか?
―――まもなく、ダウンタウンの川岸からビッグ・ダディが姿を現す。ゾンビは呼吸が不要なため溺れずにモーゼの如く川底を歩いてきたのだ。
そして彼に次いで大勢のゾンビ達も川の水面から現れる。自分達の指導者ビッグ・ダディを信じてついてきたのだ。
かくして、ビッグ・ダディ達はダウンタウンへの上陸を果たした。
「ゾンビに川は渡れまい」と油断しきっていた警備兵達は奇襲を受ける形となった。
道具を手にしていたゾンビ達は、以前は「ただ握っているだけ」だった道具を武器として用いて兵士達と戦い、野球バットを手にした女ゾンビ(ナンバー9)もその一人だったが、ビッグ・ダディは彼女からバットを取り上げると小銃を渡し使い方を教える。
警備隊は瞬く間に壊滅し、ゾンビに侵入されたスラム街は大パニックとなった。
生き残っていた兵士と一部の住民はゾンビを迎撃するが、死を恐れず共通の目的のために一致団結するビッグ・ダディ達に敵うはずもなく蹂躙される。
最後まで抵抗していた作業着の男は、可燃性の液体が入った火をつけた缶を投げ続けていた。火はゾンビの弱点の一つであるためビッグ・ダディは急いで男を銃で撲殺するが、既に投げられていた缶に引火した一人のゾンビは火だるまになってしまう。彼を救う手段が無いことを悟ったビッグ・ダディは苦しむ同胞に止めを刺してやるのだった(銃殺した)。
気付けばフィドラーズグリーンの目と鼻の先に来ていた。道端に放置されていたコンクリートハンマーを新たな武器として拾ったビッグ・ダディの姿を見て、他のゾンビ達も斧やパイプレンチといった労働者の道具で武装しだす。
遂にフィドラーズグリーンにたどり着いたビッグ・ダディ達。頑丈な強化ガラスの扉に阻まれていたが、コンクリートハンマーでこれを破壊。労働者達の暴動の如くタワー内に雪崩れ込み、スラムの住人達とゾンビ達の犠牲の上で贅沢三昧していた富裕層の人々に襲い掛かる。
タワー内では住民達を見捨てて逃げようとしていたダウンタウンの独裁者カウフマンと遭遇。自分の城であったタワーの無残な光景に「貴様ら、ここへ入れた分際か!!」と激昂したカウフマンはビッグ・ダディを銃撃するが、今まで安全地帯でふんぞり返りゾンビとまともに戦ってこなかったのが仇となりヘッドショットできず、仕留め損なってしまう。
一方のビッグ・ダディは自分を撃ったこの男こそ、自分達を虐げる人間達のボスであると勘づいたのか、召し使いのニップと共にそそくさと逃げるカウフマンを追跡する。
その後、地下駐車場でニップに出口のシャッターを開けさせ、隠し持っていた自家用車内で待機していたカウフマンを再び襲撃。仲間を簡単に見捨てるため人望が全くなかったのが仇となり、ビッグ・ダディの姿を見たニップはカウフマンを見捨て車のキーを所持したまま逃走。
ビッグ・ダディは人間時代の記憶、即ちガソリンスタンドの店員だった経験を活かし、備え付けてあった給油ノズルを手にすると、フロントガラスに突き刺しガソリンを流し込み、そして‥‥‥‥突然興味を失ったように去っていく。
見逃されたと思い車外に出るカウフマンだったが、今度はチョロに汚れ仕事を散々させた上で恨みを買ったのが仇となり、ゾンビに噛まれた状態ながらも復讐のためにやって来たチョロに襲われる。
カウフマンはスピアーガンを撃つチョロを返り討ちにして射殺するが、油断した隙にゾンビ化したチョロに襲われる。
そしてチョロとカウフマンが取っ組み合いをしているところで、ビッグ・ダディは火をつけた缶をガソリンにまみれた車に転がし引火させ、二人を爆殺。火が武器になることを学習していたのである。
こうして復讐は完遂され、全ての元凶たるカウフマンは滅びた。
「ただの動き回る死体」とゾンビを見下していた男に相応しい皮肉な末路である。
復讐を終えた後、ビッグ・ダディは知性の無い通常のゾンビ達と生き残っていたスラムの住人達を放って自分と同じく知性を持つ仲間と共に行き場を求めて去っていった。
もはや彼らは「人喰いの動く死体」ではなく、「ゾンビという名の新たな種族」であった。
作中の役割
上記の「作中の活躍」を読めばわかる通り、本作の真の主人公といえる扱いである。
また、格差社会におけるヒエラルキーの最底辺の象徴としても描かれており、終盤の下克上な展開はカタルシスがある。
一方で「『死霊のえじき』のバブが更に進化したらどうなるのか」を体現したキャラクターでもある。
賢く強い黒人男性
ロメロ監督のゾンビ映画では、「賢く強い黒人男性」という他のゾンビ映画なら存在自体が死亡フラグなキャラクターが、主人公であるか否かを問わずに作中で一番活躍し最後まで生き延びるというお約束がある。
しかし、過去作の「賢く強い黒人男性」であるベン、ピーター、ジョンはいずれも人間であるため、ゾンビがこの役割を担ったのは初である。