概要
奏音69による楽曲。Royal_Scandalの一曲。
動画
巡音ルカ×奏音69 「ビーストインザビューティ」
「ビーストインザビューティ」歌ってみた❄︎奏音69
ビーストインザビューティ / luz
「ビーストインザビューティ」feat. SERRA
関連タグ
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ストーリー
ネタバレ注意MV視聴後推奨
Youtubeより
むかしむかし、あるところに、オリヴィアという貴族の娘がおりました。
由緒あるヴィルヌーヴ家の末娘として生まれたオリヴィアは、怒りっぽい姉たちとは違い、いつも穏やかな"イイコ"でした。
ですから、オリヴィアのお父さまも、彼女をたいそう可愛がって育てたのです。
「いいかい。女は口答えせず、お淑やかに、黙って男に従いなさい。女はそうやって生きていくものだ。絶対に、あんな暴力的な姉たちのようになってはならん。わかったね、オリヴィア」
はい、お父さま。オリヴィアの返事は、いつもこれだけ。なぜなら、本当にお父さまが大好きだったからです。
しかし、あまりにもお父さまが大切に育てるので、オリヴィアは怒ることも、疑うことも、悲しむことも、そして恋すらも知らないまま、25歳を迎えてしまったのです。
そんなオリヴィアにも、ついに恋人ができました。初めてのことでした。
彼女は行きつけのBarマスカレイドに向かうと、馴染みのバーテンダー ルイスに恋人のことを語りました。
「これが恋なのですね。ああ……本当に美しい感情ですわ」
「オリヴィア様、お幸せそうで何よりです。どうかぜひ、恋を楽しんで。ところで、どのようなお方なのですか?」
恋人の名はアラム。南の国でビジネスを成功させ、莫大な権力を築いた商人です。
そのうえ優しく、美しい顔立ちですから、オリヴィアのお父さまもたいそう気に入り、フィアンセとして喜んで認めてくれたのです。
アラムの夢は、この西の国への事業進出です。しかし、それには資金が足りません。
そこでオリヴィアは、貴重な宝石をすべて売り払い、彼を援助することにしました。
ついには彼女の大切なドレスさえも手放してしまいますが……すべては彼の夢のためです。
アラムが笑顔でいてくれるなら、それだけでオリヴィアは幸せでした。
女はそうやって生きていくもの。それでいいのです。オリヴィアはお父さまの言いつけ通り、黙ってアラムに付き従うことにしました。
ところが、オリヴィアに不幸な報せが届きます。
彼女の大切なお父さまが、狩猟の最中に銃を誤射し、死んでしまったのです。
オリヴィアは深く悲しみました。初めてのことでした。
葬儀が終わった夜、オリヴィアは使用人たちを集めて、今後について話し合いました。しかしお父さま亡き後、世間知らずのオリヴィアひとりではどうすることも出来ません。
そこで皆の視線を集めたのが、アラムでした。
「そういうことなら仕方がない……わかった。お父さんの意思を、僕が継ぐよ」
反対する者は誰もいませんでした。なぜなら、ヴィルヌーヴ家には男子がおらず、奥方はずいぶん前に家を出て帰らず、姉たちに至っては嫁いだきり便りの一つも寄越しません。
そんな没落寸前の一家を支えられるのは、優秀な商人であるアラムしかいない……誰もがそう思ったからです。
「ああ、アラム……頼れるのは、もう貴方しかおりませんわ」
こうしてオリヴィアとヴィルヌーヴ家は、その財産、邸宅、そして権力の一切を、アラムに譲ることになりました。
それからオリヴィアは毎晩のように悪夢にうなされ、眠れない夜が続きました。
こんな夜は、Barマスカレイドで素敵な夢を観たい。オリヴィアは期待と不安を抱いて、店へ向かいました。
しかし彼女は、悪夢よりも恐ろしい光景を見てしまいます。アラムが、何人もの娘と楽しげに酒を飲み交わしているのです。
しかもその娘たちは、オリヴィアよりも若く美しく、オリヴィアよりも家柄の良い令嬢たち。そして彼女らが身につけているのは、オリヴィアがアラムへ差し出した、大切な宝石たち……。
「ねぇアラム。ヴィルヌーヴのオジサマが死んだのって、もしかして貴方のしわざ?」
「いいや、あれは事故だよ。そう、事故。ほんのちょっと、銃を持った爺さんの手が"狂って"しまっただけさ」
そこにいる男は、オリヴィアが愛するアラムとは似ても似つかない、悪魔そのものでした。
「どうして、アラム……ねぇ、嘘だと言って!」
オリヴィアはアラムに詰め寄りました。誰かを疑ったのは、初めてのことでした。
彼は驚きましたが、すぐ笑顔に戻ります。ただし、オリヴィアの知らない笑顔です。
アラムはオリヴィアを突き飛ばすと、あっけなく真実を語り始めました。
「今さら気付いたのかよ……ああ、そうだ。すべてはヴィルヌーヴ家を手に入れるためだ。そうでなきゃ、俺がこんな箱入り娘に言い寄る訳ねぇだろ!」
カネの無くなった女に、もう用はない。それは、あまりにも残酷なアラムの"仮面の裏"でした。
雨の中にひとり投げ出されたオリヴィアは、大雨よりもたくさん泣きました。
家族も、お父さまも、恋人も、オリヴィアにはもう、誰もいませんでした。
オリヴィアは独り、森の中を彷徨いました。
もうこのまま消えてしまおう……わたしなんて、何の価値も無い女なのだから。
呆然とするオリヴィアに声をかけたのは、どこから現れたのか、兎の仮面をつけた男でした。
男はオリヴィアから事の顛末を聞くと、一緒に悲しんでくれました。
「なんて酷い男だ。そんな最低なクズ野郎には……復讐をしてやらないとな」
そう言って男が差し出したのは、多額の現金が詰まったトランクと、一丁の拳銃でした……。
午前0時。オリヴィアは、今やアラムのものとなったヴィルヌーヴ邸を訪れました。
何だ君か、とドアを閉じようとするアラムの眼前で、オリヴィアはトランクを開きました。
するとアラムは、すぐに笑顔に戻ります。あぁ、それはオリヴィアが大好きだった笑顔です。
アラムは彼女を部屋へ通すと、さっと抱き寄せました。愛などまるで感じない、形だけの抱擁でした。
オリヴィアは小さな声で、アラムに問いました。
「……これからも貴方のイイコでいれば、わたくしを愛してくださいますか?」
「もちろんだよオリヴィア。君は黙って、ただ僕に尽くせばいいんだ」
「……口答えせず、お淑やかに。それだけが女の生き方ですか?」
「そうだよオリヴィア。女は権力のある男に従う、それが常識。お父さんもそう言ってただろ?」
そうやって、ふたりで夢をみよう。アラムがおざなりに唇を寄せた、その時です。
「バカにしないで」
オリヴィアが、アラムの腹部に銃弾を撃ち込みました。
まあ……わたくしったら、ふふ。いけませんわ暴力なんて。
決して怒ることなく、清く正しく麗しく。
ちゃあんと女らしく振る舞わないと、怒られちゃいますわね。
ふふ……お父さま、オリヴィアはイイコですわ。イイコですわ。イイコですわ。
わたくしはほら、美女そのものですわ。
わたくしの中に、野獣なんておりませんわ。
だから、お母さまみたいに扱わないで。
だから、お姉さまみたいに嫌わないで。
女は口答えせず。
女はお淑やかに。
女は従いなさい。
女は黙っていなさい。
女はわきまえなさい。
女は女らしくしていなさい。
女は、女は、女は、女は、女は、女は、女は、女は、女は、女は、女は!!!!
「ウオオオアアアアアアアアアア!!!!」
オリヴィアは激しく怒りました。初めてのことでした。
オリヴィアは、驚くアラムを床へ叩きつけると、銃で殴りました。
「初恋を……返せ!」
オリヴィアは、銃で殴りました。
「お父さまを……返せ!」
オリヴィアは、銃で殴りました。
「わたしを………………返せッ!!!」
オリヴィアは、何度も何度も、銃で殴りました。
そして、彼の美しい顔面に銃口を突きつけ、小さく何か囁いたあと、静かに引き金を引きました。
……アラムは、動かなくなってしまいました。
オリヴィアはハッと驚き、腰を突いて壁際に後ずさりました。
「い、いや……そんな、わたし、ちがっ……助けて、助けに来てアラム……どこにいるの、アラム!」
オリヴィアは錯乱し、愛する恋人を探し求めて、闇夜へ走り去っていきました……。
――静まり返るヴィルヌーヴ邸を訪れたのは、兎の仮面をつけた男でした。
男は亡骸の手を掴み、強引に"指輪"を抜き取ると、それを懐にしまいました。
「よう。ずいぶん楽しんだみたいだな、ポデル王」