CV:能登麻美子(『ベクター・ケースファイル』ドラマCD)、井上麻里奈(『巨蟲列島』)
経歴
初登場は『サイカチ―真夏の昆虫格闘記―』(原作:藤見泰崇、漫画:カミムラ晋作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載)。主人公・小笠原真夏に昆虫相撲を指導する師匠という立ち位置だったが、昆虫知識が異様に豊富な変人メカクレよれよれ白衣ドジっ娘巨乳女子高生という属性てんこ盛り加減が2ちゃんスレ等に棲息するチャンピオン変態紳士の琴線に触れてしまい、正直ただの小学生のガキンチョにすぎない真夏を遙かに凌ぐ人気を獲得する。その結果、単行本第1巻の表紙はクワガタを腕に乗せた稲穂になり、主人公は裏表紙に追いやられた。しかしこれが全然売れず、秋田書店名物・単行本打ち切りをくらってしまう。
連載は単行本4冊分ほどで終了したが、稲穂のキャラクター人気は高かったため、『チャンピオンRED』にて稲穂を主人公としたスピンオフ『ベクター・ケースファイル―稲穂の昆虫記―』の連載に至る。こちらは連載期間約4年、単行本全10巻と好評を博した。
『ベクター』連載終了後しばらくして、『サイカチ』の電子書籍版全4巻が配信されることになるが、サブタイトルは「白衣の少女と秘蜜のクワガタ」とまるで稲穂が主人公であるかのように変更されていた。いや真夏はちゃんと少年漫画の主人公してるんですけどね……いかんせん掲載誌がチャンピオンでね……
後に村田真哉原作の『キャタピラー』(スクウェア・エニックス『ヤングガンガン』掲載)に原作者公認でゲスト出演。さらに藤見原作の『巨蟲列島』・『大巨蟲列島』では主人公・織部睦美の師匠役として登場し、そのスピンオフ作品『巨蟲山脈』にもメインキャラとして出演している。
人物
『サイカチ』
たまたま主人公の真夏と知り合い、昆虫知識と闘虫技術を伝授していく師匠役。
初登場時は高校2年生、作中で1年経過しているので終了時には3年生になる。父は大学教授で若くしてアジア昆虫学の権威、自宅が市立動植物昆虫博物館で母がその館長というなかなかレアな家庭環境で育つ。身だしなみには全く気を遣わず、常時よれよれの白衣を着ており、前髪はぼさぼさで目が隠れている。人を名前でなく一般名詞で呼ぶなど対人スキルは低く、字が汚く整理整頓も苦手。しかし昆虫に関する知識や飼育者としての力量は高校生のレベルを遙かに超えており、昆虫相撲の技量も作中最高峰と言って差し支えない。
小学生の頃から父の研究室に出入りしており、そこで昆虫知識を吸収したり、親しくなった研究員の名前を自分の飼育しているクワガタに名付けたりしていた。当時は人見知りもなく目も隠れておらず、屈託の無い笑顔を見せている。しかしタイの山岳部へと生態調査に赴いた父の研究班が現地ゲリラに襲われ生死不明となり、ショックを受けた稲穂は心を閉ざし引きこもってしまい、さらに飼育していたクワガタが次々死んでいく様を見て、自分が名前を呼んだ相手は消えてしまうと思い込むようになっていく。研究班唯一の生存者である宮古島治郎(みやこ・とうじろう)にブリード技術を教えられ、クワガタが増えるたびに明るさを取り戻していったが、名前のトラウマが消えることはなかった。
真夏に会うまで自分自身のことで精一杯だった稲穂は、真夏の師匠として振る舞うことで、人を信じ人と向き合う勇気を獲得し、真夏たちと闘虫の本場タイとの交流戦日本代表の座を目指すことを決意した所で、連載を終える。
なお単行本1巻掲載の裏話(電子書籍版未収録)によると、企画段階では強気で有言実行、頭脳明晰スポーツ万能で前髪も短かったが、秋田の担当伊藤氏と作画のカミムラ氏との打合せを重ねるうちに連載時の姿へと変わっていったという。大正解と言うほかない。
『ベクター・ケースファイル』
急激な都市化が進み生態系のバランスが狂ってしまっているJR慈音町駅周辺地域では、未知の害虫被害が多発していた。市立動植物博物館の娘で昆虫博士の異名をとる榎稲穂が、その昆虫知識を活かして難事件を解決していく。
華桜女子高等学校2年3組。身長174㎝、体重57㎏、B92/W62/H88。基本的に『サイカチ』の世界設定を引き継いでいるが、父のキャラクターが全く違う、母が植物学の大学教授を兼任、高2の時点で既に闘虫日本代表となり世界戦を制している等、全く同じというわけでもない。
幼稚園時代は昆虫を怖がっていて、人魂の呪いの噂に怯えるなど人並みなところもあったが、父に怖いのは知らないだけであることを諭され、父の理想とする人と植物と昆虫が共存できる社会の実現を手助けしようとして、昆虫学にのめり込んでいく。しかし父がタイで行方不明となってしまったショックから、小学・中学と引きこもり生活を送ることになり、学校が苦手になる。華桜女子入学後も世話焼きなクラスメイト・里美あずさ以外に友達のいない状態が続いていたが、昆虫の関わる事件を解決するごとに友人が増えていき、いつのまにか学校が好きになっていた。学業の方は英・国・物理・生物は満点に近いが、数学は興味が無いので赤点さえ取らなければいいから35点など極端な成績。「何にでも酢をかけて食べる」という性癖があり、世界選手権銀賞のケーキタルトにすら酢をかけたため友人たちに「味覚の破壊者」と怒られたりもしている。
卒業後はタイの密林へと赴き父を探すと決めており、フィールドワークを重ねてサバイバル技術を磨いている。おかげでお化けや呪いは怖くない、野生動物の方がよほど怖いから、というだいぶ世間とはズレた度胸が備わってしまい、作中ではヤクザやマフィア相手にも全く物怖じしないが、ゴキブリの人間観察能力の高さに怖れを抱き震えていたりした。一方名前のトラウマは健在で、あずさのことも「あずき」とわざと間違えて呼んでおり、その他の登場人物に対しても勝手に付けたあだ名呼びか、「翁」「御婦人」「アイドル」「兄貴」といった一般名詞を用いる。ただし作中での精神的成長から、単行本最終巻のカラー扉ではとうとう「あずさ」と名前を呼んで感謝を伝えられるまでになった。なお最終巻の表紙では、大学以降の姿とおぼしきメガネをかけた稲穂が描かれている。
闘虫世界大会優勝チームの指導者であることから、一部業界では畏敬の念を込めて「闘虫女帝(スタグ・エンブレス)」と呼ばれている。使用するクワガタは少女時代から累代育成している「トージロー」。
『キャタピラー』
城彩大学客員教授の肩書きで2度にわたり出演。『ベクター』最終巻表紙をベースにした容姿で画風もカミムラのものに寄せているが、メガネは着用していない。本筋とは絡まない虫蘊蓄要員であり、大学の講義中にキノハダカマキリおよびCarnivorus Caterpillarについて語っている。
なお講義中、「ゴキブリが進化に進化を重ねた結果巨大化して暴れまくるなんてことは…」との質問に「100%無い」と断言するシーンがある。出演時には既に藤見原作の巨大昆虫パニックホラー『巨蟲列島』が連載されており一見ディスっているかのようだが、これについては『巨蟲』内で「ゴキブリは臆病で、小さく素早く進化してきたから、巨大化する方向にはいかない」と説明されている。
『巨蟲列島』・『大巨蟲列島』
『巨蟲列島』では、主人公・織部睦美の師匠役として、最終回の回想シーンおよび特別編に登場。なお第1話の時点で名字だけ言及されてはいた。続編『大巨蟲列島』でも回想シーンにのみ登場し、今のところ本筋には絡んでいない。
カマキリに怯える小学生時代の睦美の前に現れ、蟲が怖いのは知らないからだと諭し、睦美が昆虫にのめり込んでいくきっかけを与え、そのまま師匠として睦美を導くに至った。睦美からは「榎先生」と呼ばれている。旧作に比べ頭身が上がり、髪は相変わらずぼさぼさだが前髪はあまりメカクレしない程度になり、後ろ髪は腰近くまで伸びた。人を拘束する手際がやたらと良くなっており、タイのジャングルで何らかの対人訓練を積んだことが推察される。
『巨蟲山脈』
謎多き昆虫学専門の生物学者。G大客員教授、24歳。大型のリュックを背負ったまま巨大昆虫と戦い走り回って息切れしない、対峙した人間の身体的弱点を即座に見抜くなど、相当過酷な実践をくぐり抜けてきた様子がうかがえる。作劇的にあまりに強くしすぎたためか早々に肋骨負傷のハンデを負わされ、主人公の神宮司剛に的確な指示を与えて窮地を乗り切る指揮官ポジションへと原点回帰した。
客員とはいえ日本の大学で24歳教授というのはまずあり得ない話なので、何か海外で相当な偉業をやらかしてきたものと思われる。今後の連載でそのへんも明らかになることを期待したい。