概要
法務局は、人権侵犯の申告や報告を受け、その事実を認めた場合、なんらかの措置を講じなければならない。多くの場合、人権を侵犯したとされる者に、反省を促し善処を求めるために書面又は口頭で、啓発や説示が行われる。
人権侵犯の事実があったかどうかは、各地方の人権擁護機関が判断し認定する。
世間的には、このプロセスにおいて書面を送られた人物に対し、人権侵犯認定されたと表現する事が多い。
認定の基準
どんな理由で人権侵犯認定するかについては主に人権擁護委員が判断するが、その基準は不明確である。事実上、人権侵害を受けたと感じた者の申告、あるいは差別的と思われる振る舞いを目撃、認知した者の報告に応える形で行われる。
特段の重大性・切迫性がない事案の場合、書面での「勧告」や「説示」が行われて終了する。その場合、事実関係の調査がどのように行われたかは不明であり、人権侵犯の疑いをかけられた者には反論の機会も与えられない。
本来の役割
本来、法務省所管の人権擁護機関は、いじめやプライバシー侵害など様々な人権侵犯事案への相談対応が仕事である。
人権侵犯事件調査処理規程に基づき、相談の受付、事実の調査、当事者間の関係調整や被害者の救済など、適切な対応が求められる。
相談を受けた事案が明白な犯罪にあたる場合には刑事告発も行われる。
しかし、特段の重大性・切迫性もないケースにおける人権侵犯認定については、「説示」または「勧告」という名目で、対象人物に書類を送るだけである。
魔除けの御札か、レッテルか
過去においては、法務局から書面を受け取ることにより「もう私は法務局からご指導を受けましたよ」という修了証としての機能も若干期待できた。
だが当該の書面を送られる事自体が不名誉とされるため、現在ではむしろレッテル貼りや叩き棒として利用される。そのため悪質クレーマーや強請たかり、あるいは活動家に対する免罪符にはなりにくい。
人権擁護機関の権能
そもそも犯罪的な人権侵害への対応は警察の領分であるし、被害者が損害賠償を求める場合には民事裁判を提起する必要がある。そのような重大事案について、人権擁護機関が自ら解決に導く事は期待できない。捜査権も裁判権も持たないからである。
当然ながら、人権侵犯認定が出たからといって、それが即ち犯罪等の認定を意味する訳ではない。
また行政処分にもあたらず、法的拘束力も特には無い。
相談窓口の活用
明白な犯罪被害は別として、身近なトラブルにより人権を傷つけられたと感じた時、いきなり弁護士事務所や警察署へ直行することは、様々な観点から見て難がある。そのような場合、法務局の窓口への相談は現実的な選択肢のひとつである。
単なる不快感は法による救済対象にならないという原則があるが、法律に係らなくてもどうしてもやめてほしい事がある場合などに、法務局から相手方への通知がなされると「本気で嫌なのでやめてほしい」という意志表示にはなりうる。事案によっては法務局が間に入って関係調整を図る事もある。
よって身近なトラブルに関して相談したり、とりあえず誰かに話を聞いて欲しい時には、それ相応に有用な窓口といえる。
人を呪わば穴二つ
復讐や嫌がらせの目的で人権擁護機関に申告したり、人権侵犯認定を行わせることは制度の悪用に等しい。
法務局から特定個人へ人権侵犯認定の通知が出されたとする情報を広く世間に公表することは、対象人物の名誉を事実上毀損しうる為、本来あってはならない。意図してそのような事を行った場合、不法行為や犯罪にあたる可能性がある。