「あまりおいたしちゃダメよ?」
「冒険はしなくても良いんじゃないでしょうか?」
「私は、走り続けているあなたが、好きだから」
プロフィール
概要
酒場『豊穣の女主人』で働くヒューマンの少女。
メインキャラクターの中では珍しい一般市民だが、都市最大派閥の一角である【フレイヤ・ファミリア】と何らかの関係がある事が作中で度々示唆されるなど、何かと謎が多い人物。
人物像
容姿
薄鈍色の髪と瞳をした可愛らしい少女。その可憐な容姿もあって客たちからは看板娘として慕われている。基本的に『豊穣の女主人』の制服を着ている事が多いが、仕事の休みの時は白のワンピースを愛用している。
性格
人当たりが良くいつも笑みを浮かべており、誰とでも仲良くなれる社交的な性格。結構ドジな一面もあり、『豊穣の女主人』で働き始めた当初は失敗ばかりして、店主のミアも呆れていたらしい。現在は大抵の作業は卒なくこなせるようになったが、料理だけは未だに不得手で、その味は一口食べただけで気を失って倒れてしまうほど不味く、『豊穣の女主人』の同僚たちも彼女の料理を恐れている。
誰に対しても物怖じせず、したたかで周囲を自分のペースに巻き込むのを得意としており、時に神々ですら手玉に取るその姿から、仲間達には『魔女』と呼ばれている。観察眼も異常に鋭く、相手の心の内を完全に見抜いてしまう事から「嘘を見抜ける神を相手にしている様」と称されるほど。変身魔法で姿を変えたリリの正体も一目で看破しており、あまりの得体の知れなさから彼女には恐怖を抱かれていた。
このように曲者とも言える人物だが心根は善良で、目の前で苦しんでいる者には手を差し伸べる優しさを持つ。また、「誰かのために、美しく在れる人が好き」という考えを持っている事もあってか、優しく正義感の強い性格をしているベルとリューのことは出会って間もない頃から好感を抱いており、作中で2人が思い悩んでいた時は親身になって支えた。
本人曰く、貧民街育ちの孤児との事。そのような境遇もあってか、よくダイダロス街にある孤児院の子供たちの面倒を見ているが、彼らからは姉の様に慕われている(ベルと孤児院絡みの話『街娘の秘密』は、大人の都合でアニメではカットされているが、アプリゲーム『メモリア・フレーゼ』で補完される)。
謎の多さ
概要にもあるように【フレイヤ・ファミリア】と何らかの関係がある事が度々示唆されており、主神のフレイヤからは『娘』と呼ばれ、外出の際は幹部の誰かが必ず護衛に付き、団員たちからは「シル様」と呼ばれるなど丁重に扱われている。
『メモリア・フレーゼ』の三周年イベント『アストレア・レコード』でも登場するが、当時11歳であるはずが現在と容姿が全く変わっていないなど、新たな謎が浮上する。また、この際偶然出会ったアリーゼからは「あなた、本当に人間?」と問われている。
ちなみにベルと出会ってから半年以上経っても、ベルの主神であるヘスティアとは顔を合わせる機会がなく、ヘスティアも全然縁がないと不思議に思っていた。まるでシルがヘスティアに顔を見られるのを拒んでいるかのように…。
ベルとの関係
本編序盤に冒険者として駆け出しだった頃のベルと出会い、以降彼との交流が始まる。何かと無茶しがちなベルのことを常に気にかけており、一刻も早くアイズに追いつきたいという想いから気負いがちだった彼に「冒険はしなくても良いんじゃないでしょうか?」と身を案ずる言葉をかけたこともある。
ベルと出会ってからはお弁当を作って彼に渡すのが日課となっているのだが、上述にもある通り料理下手なので、とうてい人が食べれるような代物ではない。しかし、人の好意を無下にはできないベルは「日に日に凶化されていくこのお弁当が怖い」と嘆きつつも、彼女のお弁当を残すことなく完食している。どうやら気合を入れれば入れるほど不味くなっていくようで、ベルの為にと気合を入れて作る前の方がまだ食べれる出来だったらしい。
また、作中では偶然手に入れた貴重なアイテムをベルに渡す機会がやたらと多く、彼女から渡された『魔導書(グリモア)』の効果でベルは魔法を発現し、お守りにと受け取った『身代わりの首飾り』のおかげで【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』に勝利するなど、ベルの成長と活躍に大きく貢献している。
出会った当初から真っ直ぐに走り続けていくベルの姿に好感を抱いており、何時如何なる時も彼のことを見守り支え続けてきた。そんなシルのことをベルも大切に思っており、もし彼女の身に何かが起きた時は必ず駆けつけることを約束している。
人間関係
同僚の中でも特に親しい人物。命の恩人である事もあって、彼女からは敬愛や崇拝に近い念を抱かれている。また、リューにとってシルは自分の手を握ることが出来た二人目の人物でもある。
店の問題児である彼女たちとも親しい仲だが、時折賭けで金銭を巻き上げたりするので、彼女たちからは恐れられていたりもする。
彼女のことは母親の様に慕っており「ミアお母さん」と呼んでいる。但し、他の店のメンバー同様頭は全然上がらない。
作中の動向
ベル達が深層からの帰還後、リューのベルへの感情の変化を感じ取り、それがきっかけでオラリオの二大祭と呼ばれる『女神祭』にて、ベルにデートしてほしいとヘルンに手紙を託す形で申し込む。
デート中は、ヘディンの改造レベルの特訓によって女性との逢引き技術を上げたベルに自分のペースを狂わされつつも、孤児院の子供達との交流や動向を監視していた【フレイヤ・ファミリア】からの逃走劇では心から楽しみ、今までにないほどの笑顔をベルに向けていた。そして、『聖フルランド大聖堂』にて騎士と精霊が描かれた番のアクセサリーを購入してもらい、精霊の方をベルから貰い受ける。
その後、水上レストランでディナーを楽しんでいたが、二人を見つけ出した【フレイヤ・ファミリア】の団員達がレストランを襲撃。その場は二人のデートが気になって後をつけてきたリュー達『豊穣の女主人』の店員やアイズに妨害してもらい、水路に飛び込み再び逃走に成功。
そして、身を隠す必要とずぶ濡れの状態をどうにかするために人気のない裏路地の宿に逃げ込み、そこで一夜を明かすことをベルに提案するのだった。状況が状況なだけに最早余裕の無いベルに迫ろうとするが、自分を受け入れる事に躊躇するベルに対し、薄鈍色の瞳を『銀の光』に輝かせながら、まるで魔女が相手を惑わすような雰囲気を纏い言葉を放つ。
——「拒まないで」
——「受け入れて」
しかし、ベルに自分の名前を呼ばれたことで何かを思い出したように引き下がり、ベルが寝てる間に一人宿を後にするのだった。
——「だめ、ちがう……こんなの、私(シル)じゃない」
——「明日、また会えたら……その時は……」
翌日になりベルと再会するが、どういうわけか今まで護衛を付けてまで特別に扱われていた【フレイヤ・ファミリア】の幹部であるヘグニやガリバー兄弟に命を狙われることになる。
駆け付けた『豊穣の女主人』のメンバーや偶然出くわしたアイズ達に時間を稼いでもらい、逃走している間に再び自分を受け入れてほしいと語るが、実はそのシルはある魔法を使い、シルに変身していた別人であり、前日に渡された騎士と精霊のアクセサリーを利用したベルに看破されてしまう。
本物のシルは、かつて異端児(ゼノス)の事件で憔悴していたベルに初めて『好き』という言葉を贈った場所で佇んでおり、再会したベルに自分の心からの想いを真剣に告白するが、追い求める憧憬を持つ彼に振られることになるが…。
関連タグ
ミア・グランド アーニャ・フローメル ルノア・ファウスト クロエ・ロロ
重大なネタバレ注意
ベルに振られた後、雨が降り始めた街をうつむきながら歩いているシルは今までの少女の声音ではない女神の声音でオッタルを呼び出し、何かが吹っ切れたようにそれまでの雰囲気を一変させ言葉を発するのだった。
———「娘(シル)の時間はもう終わり……最初から、こうすればよかった」
少女は死に、彼女は笑った。
———「遊びはここまでね」
唇が吊り上がる
魔女のように、絶対の支配者のように
前髪をかき上げ、結わられていた長髪も解き、背に流す
たちまち体から押さえつけられていた『神威』が立ち昇り、唯一の存在が産声を上げる
薄鈍色の髪は『銀の髪』に変わり
薄鈍色の瞳は『銀の輝き』を纏い直して
瞳の奥に飼っていた——瞳の奥に隠していた『神実』をあらわにし、『女神』は笑った
———「誰にも渡さない。ベル、貴方は女神(わたし)のモノにする」
シルの正体は神威を抑え人間に扮していたフレイヤ本人だった事が判明する。
『episodeフレイヤ』にて、フレイヤが『シル』という名の孤児の少女に救いの手を差し伸べている描写があるが、この少女の正体は現在『女神の付き人』と呼ばれている【フレイヤ・ファミリア】の女性団員・ヘルンである。
実はヘルンの元々の名前こそが『シル』だったのだが、フレイヤは彼女を助ける際に『ヘルン』という新たな名を与える代わりに、自分は彼女の真名である『シル』を貰い受ける。また、フレイヤへの憧れから『女神』になりたいという強烈な願望を抱いたヘルンに『変神魔法』という『神の力(アルカナム)』を使えない事を除けばフレイヤの全てを模倣できる魔法が発現する。
同時にこの魔法にはフレイヤが天界時代に使っていた『娘(シル)』の貌に変わる事が出来るという副作用があったが、ヘルンと『真名』の交換をしたフレイヤにもこの魔法の恩恵が授かり、『神の力』を使用しなくでもシルの姿へと変わる事が出来るようになる。作中でシルとフレイヤが別々の場所に存在している描写があったのは、この『変神魔法』の力でヘルンがフレイヤの姿に、そしてフレイヤがシルの姿になっていたためである。
神の視点で見たシルは『女神』を彷彿させる存在として映るらしく、女神祭でヘスティアがシルを初めて目にした際は愕然を隠せなかった。シルと関わりのある神々も彼女の正体には薄々感づいていたが、下手に正体を暴こうとせず、彼女との時間を楽しみつつも同時に怯えていたらしい。天界からの付き合いであるロキだけは、シルの詳細を完全に把握しており、「ミアよりシルの方を警戒したほうがいい」と団員達に忠告していた。
そして、シルとして振られても尚ベルの事を諦められなかったフレイヤは『娘』の貌を捨てることを決断。ベルを手に入れる為に『女神』として暴走する事になる。
ここから先の彼女の顛末、そして本当の『望み』については「フレイヤ」の項目を参照。
余談
- 正体のヒント
本編16・17巻にて正体と謎が判明したシルだが、作中を振り返ってみると
・ベルとの出会いは例の無遠慮な視線を感じた直後にシルが話し掛けてくると言うもの(実は、話し掛ける口実として隠し持って魔石を咄嗟に落としたと嘘を吐いた。ベルも魔石をすべて換金した後だったため、不思議がっていた)。
・最初から特に理由もなくベルに対して好意的(アーニャや他の同僚からも疑問に思われていた)。
・神々と同じで、嘘を見抜く事が出来る。
・【フレイヤ・ファミリア】の護衛が常に付けられている。
・入手困難な貴族専用のカジノ券を、どこからともなく手に入れる。
・女将のミアが【フレイヤ・ファミリア】の元団長であり、『豊穣の女主人』自体がフレイヤの息が掛かった場所であること
・原作8巻のエピソード『街娘の秘密』
など、初期の頃から伏線を張られており、たびたび読者の間でも話題になっていた。
- 名前について
北欧神話においてフレイヤは、行方不明の夫であるオーズを探す間に様々な異名を名乗ったが、その中の一つにSýr(シル)という名前がある。名前の元ネタからもフレイヤとシルが同一人物であることは、最初から示唆されていたことになる。
- 当初のプロット
実は本編17巻の後書きによると『モンスターフィリア』の際、シルバーバックからベルと共に逃げる相手はヘスティアではなく、彼女の予定だったらしい。結局、編集からちゃんとヘスティアをメインに据えようと言われ修正することになったが、もし当初のプロット通りだったのなら、どういう展開になっていたか気になる所である。
- 『メモリア・フレーゼ』と『バトル・クロニクル』において
『メモリア・フレーゼ』と『バトル・クロニクル』では、よくギャグパートでシルの殺人料理が活躍している。原作よりも詳しく彼女の料理の凄まじさが描写されており、周囲からはその味を「深層よりも危険」「まさに厄災」とまで評されている。ちなみに、料理の材料に蛙なども使っているらしい。