騎士道(英:Chivalry)とは、
解説
中世ヨーロッパで成立した、騎士階級の者が従うべきとされた行動・道徳規範である。
ヨーロッパでは軍人の多くが騎士階級や貴族の出で、第二次世界大戦までの間はまだ騎士道精神が生きており、フランスやドイツでは軍人は騎士の扱いだった。
騎士の十戒
騎士には、守り倣うべき戒律である「騎士の十戒」が存在し、以下はその代表的な美徳である。
PROWESS | 優れた戦闘能力(fighting skills) |
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COURAGE | 勇気 |
HONESTY | 正直さ 高潔さ(no weaseling) |
LOYALTY | 誠実“忠誠心”(true to your leaders and your friends) |
GENEROSITY | 寛大さ(open handedness) |
FAITH | 信念(commitment to ideals) |
COURTESY | 礼儀正しさ、親切心(dignified and mannerly behavior) |
FRANCHISE | 崇高な行い、統率力(noble behavior and leadership) |
これら以外にも『清貧』『気前の良さ』『信心』『弱者の保護』などが存在する。
また、フランスでは騎士道文学の研究者であるレオン・ゴーティエの掲げた『十戒』が存在し、以下はその徳目である。
レオン・ゴーティエの十戒
- 不動の信仰と教会の教えへの服従。
- 社会正義の精神的支柱であるべき“腐敗無き”教会擁護の気構え。
- 社会的、経済的弱者への敬意と慈愛。また、彼らと共に生き、彼らを手助けし、擁護する気構え。
- 自らの生活の場、糧である故国への愛国心。
- 共同体の皆と共に生き、苦楽を分かち合うため、敵前からの退却の拒否。
- 我らの信仰心と良心を抑圧・滅失しようとする異教徒に対する不屈の戦い。
- 封主に対する厳格な服従。ただし、封主に対して負う義務が神に対する義務と争わない限り。
- 真実と誓言に忠実であること。
- 惜しみなく与えること。
- 悪の力に対抗して、いついかなる時も、どんな場所でも、正義を守ること。
軍事的な栄光と勇気は結果であって、それ自体が問題ではなく、価値のある目的のために発揮されてこそ意味のあるものであり、そうでないものは悪であり蛮勇であるとされる。
しかし、決して現実の騎士の行動が常に騎士道に適っていたわけではなく、むしろ兵器や鎧を独占する荘園領主などの支配層は、しばしば逆の行動である『裏切り』『貪欲』『略奪』『強姦』『残虐行為』などを行うことを常としていた。
だからこそ、彼らの暴走を抑止するため、倫理規範とされる『無私の勇気』『優しさ』『慈悲の心』といったものを「騎士道精神」という形で生み出したとも言える。
だが、そういった建前であっても、これらを遵守するのは難しく、騎士道に従って行動する騎士は周囲から賞賛され、騎士もそれを栄誉としていた。
武士道との対比
主な違いとして、武士道の場合は名誉を、騎士道の場合は正しさを重んじる傾向があり、戦争において武士道では敵への降伏を拒否し自決する行為があるが、騎士道では代わりに死ぬまで抗戦することとなる。これはキリスト教において自殺が禁じられているためである。
騎士道の誓いの中には弱者の保護があり、「派手に振舞え」というものもあるが、これは財産を蓄えればそれを守るという欲が出るためで「蓄財をするな」ということであり、貧しい人に身を削って富を分け与えよという意味もある。
ただ、これは契約上「しなくてはならない」という強制であり、武士道の場合は行動基準とされる五常(仁・義・礼・智・信)などはあくまでも思想であり、重んじられているが強制ではない。
また、上述の通り騎士道は元々支配層の暴走を抑止するために生まれたものだが、武士道は日本古来の文化的経緯や思想から、自然な形で発生し徐々に形作られていったものであり、誕生の経緯にも違いがある。
だがそれぞれ傾向に違いがあるものの、双方とも重んじる美徳に通ずるものがあり、日本とヨーロッパ、武士と騎士には共感するものがあるようである。