概要
何らかの音声を消してしまう装置。
銃火器の発射音を軽減したり二輪車や四輪車の排気音を消音する筒状の装置やエレキギターのノイズを防ぐための装置のこと。
本稿ではpixivでの主な用法、銃火器のマズルアタッチメントについて説明する。
二輪車や四輪車のサイレンサーについては→マフラー
解説
元々は発砲時の隠密性を高めるために開発された装置。
現在は隠遁性やご近所さんの配慮のために使用される。
ちなみに配慮というのは冗談ではなく、フランス等一部の国の射撃場では装着が推奨されている。
ちなみに一般人の所持規制は国や地域によりまちまちで、アメリカでも州によっては犯罪暦がなければいくつかの資格を習得し、相応の税金を支払う事で所持が可能である。
一部の国では射撃場のような限られた場所意外に、狩猟の際に用いられている。
スナイパーが対物ライフルなどの大口径狙撃銃を用いる際、発射ガスや発射音が隣に居るスポッターの邪魔をしてしまう事から反動が強くなることを承知でマズルブレーキを外してこれを取り付ける場合もある。
両立を目的として先端にマズルブレーキが付いたものが開発されており、特に大口径セミオートマチック対物ライフルでは大型のものが取り付けられている。
いくつかの軍事研究施設では実験施設の周囲にある住宅への迷惑を避ける為に戦車等の大型砲用のものが開発されているが、中でもドイツのラインメタル社とIfL社により開発されたものはその外見が特徴的なことで有名である。
構造
現在主流のものは基本的に長い円筒の中にバッフルと呼ばれる仕切り状の構造物によっていくつもの空気室を設けることで、発射音を小分けにして静粛性を高める構造となっている。
またスチールウールや石綿、グラスウールなどの難燃性の繊維や、パンチングメタルなどを用いたもの、両方を併用したものもある。
ショットガン用は一発弾のスラグ以外で用いた場合、単純なバッフル構造では散弾やサボットがバッフルに接触して破壊してしまうため、銃身の延長となる穴あきパイプやそれに相当する部品からガスが空気室へと漏れ、バッフルや消音材によって音を抑える仕組みとなっているものが多い。
全般的な問題点としてはこの装置のみでは銃口から発せられる火薬燃焼ガスによる発砲音しか抑えられないことが上げられる。
基本的に発射ガスなどにより磨耗すると共にカーボン等の燃焼滓が蓄積していき、気密性の低下や構造の形状が変わると減音効果を失っていく消耗品である。
連続して射撃を行った場合では熱により減音効果は低下していく。
そのため、クイックデチャッタブル機構を備えたマズル(フラッシュサプレッサー、ハイダー、マズルブレーキ等)と組み合わせることで工具不要で簡単にすばやく取り外すことができる製品も登場している。
また、熱対策として内部に水を注入する事ができる製品も登場している。
スターリングSMG、MP5SDなどのように銃自体に固定されたインテグラルタイプ、銃口に取り付ける取り外し可能なマズルタイプがある。
インテグラルタイプは銃自体に固定されており、銃身に穴を開けるなどで銃身と一体となった減圧室へと発射ガスが漏れる構造となっている。
現在のものは技術の向上や使用目的に変遷等によってインテグラルタイプ同様に扱える長寿命のマズルタイプが登場しており、状況に関わらず装着したままの戦闘が行えるようになっている。
(寿命はAAC社のものでおよそ3,000発、連続でフルオート射撃を続ける等で酷使した場合は1,000発程度まで縮まる)
ハニーバジャーPDWのように取り付けたまま使用することを前提とした銃も登場している。
なお、民間型のモデルだと取り外し可能なQD機構を備えたマズルタイプであっても税金対策としてQD機構を使用できなくしてインテグラルタイプとした製品もある。
マズルタイプの取り付け方法は主に銃身先端外周に切られたネジを介して接続するが、一部の製品は専用のマズルパーツ(フラッシュハイダーやマズルブレーキ等)やM16やMINIMI等に備えられている汎用的なハイダーを介して取り付けるものもある。
MP5やTMP等のように取り付け用のアタッチメントが最初から銃身や銃本体に備えられているものもある。
特にQD(クイック・デチャッタブル)タイプと呼ばれるものはねじ込む際に一回転以下で済んだり、差し込むだけであったりと取り外しが容易となっており、従来の取り付け方法と違って短時間での脱着が可能である
映画など(特にスパイもの)ではスライドから飛び出した銃身にネジが切られているといった所謂タクティカルモデル的な外見にしないために銃身内にネジが彫られているが、当たり前であるが実銃でこれを行った場合は発射した銃弾が接触して銃が破損してしまう。
ちなみに日本において、エアソフトガンなど遊戯銃に用いられるサイレンサーは、円筒内に消音材(スポンジ等)がみっちり詰まっているものが主流である。
(消音剤だけでなく仕切りがあればさらに消音効果が増すが、そこまでコストが掛けれないのかほとんどの製品では仕切りは設けられていない。厚紙程度で十分なので、分解さえ出来れば追加加工は容易である)
バッフル構造を再現したものもあるにはあるが、元の発射音が小さいエアガンでは、サイバイバルゲームなどで実用される場合は消音材が必須で、より高い効果を求めた場合にバッフルやパンチングメタルなどと併用する。
(余談ながら、内部のバッフルの向きを変えることで発射音を増幅する事ができる物もある)
発火式モデルガンの場合は殆どの物がパンチングパイプまたは穴もあいていないパイプ等があるだけで仕切りも消音材も無いただの筒である。
消音材としてスチールウールを入れたものやバッフル構造を再現したものもあるが、商品としてはごく少数であり、殆どがユーザーによるカスタム品である。
効果
現在のものは減音と副次的なものとして発射炎を減らす効果と銃身の放熱がある。
音は特に高音域を減らすことが出来る。
スポーツシューティングにおけるご近所さんにかける迷惑の軽減から、一般人には発砲音と思えない音に変化させることで発砲の事実を秘匿したり、また銃口=射手から音を絞ることで射手の位置の割り出しを困難にさせる働きもある。
また、射撃音を消すよりもイヤマフや耳栓といった保護具無しでも射撃音により射手の耳を傷めない(耳に痛みを感じない130dB程度に抑える)ことを目的としたものある。
しかしあくまでも銃口から発せられる音に効果を発揮するものであり、リボルバーのシリンダーギャップ(弾倉と銃身の隙間)からもれるガスや、自動火器が動作する際に薬室からわずかに漏れたガスなどには作用しない。
特にシリンダーギャップから漏れるガスは、射手が火傷を負うことがしばしば問題になるほどであり、リボルバーに対するサイレンサーの効果は銃自体に改造を施したりそれを目的として設計された銃でない限りは殆ど意味を成さない程に低い。
一般的な自動火器であればガスが漏れるといっても、騒音対策程度の効果は十二分に有しており、民間人のサイレンサーつき銃の所持使用が認められている国や地域ではよく用いられている。
(スライドやボルトが動く音を気にする者も居るが、余程の物でない限りは案外射手だけにうるさく聞こえるものだったりする。)
だが、銃口以外からガスが漏れる問題よりも、銃弾が音速を超えるとその衝撃波によって弾自体から甲高い風切り音がしてしまう現象の方が問題だったりする。
そこで.22LR弾のような小口径拳銃弾や.45ACP弾のような低速弾、装薬の量を減らした減装弾(弱装弾)、弾頭重量を重くしたサブソニック弾等を用いるか、減圧機構を搭載する(64式微声手鎗)等により銃口初速を亜音速まで弾速を落とせばサイレンサーの効果のみで高い静粛性が期待でき、
さらにこれに加えて自動装填機構を持たない銃を使用する(M700、トンプソン・コンテンダーなど)、自動装填機構を強制閉鎖する(Mk22、64式微声手鎗など)か、排莢口を可能な限り小さくするなどのいくつかの配慮を施す(VSS、スタームルガーMk2など)ことで、ほぼ無音の火器が出来上がる。
MAC10シリーズ等の一部の小型サブマシンガンはサイレンサー自体をハンドガードとして使用する事も想定しており、連続射撃時に熱を持つ筒から手を保護するためのカバーが存在している。
先述のように長寿命のものが登場したことで状況を問わずつけたまま戦闘を行えるようになったことがあり、アサルトライフルのような連続射撃を繰り返さない銃であっても過熱時の発光や火傷対策、陽炎や雨天時の視界悪化を防ぐためにカバーが取り付けられる事もある。
ガス膨脹室としても働くため、装薬量や銃の構造によっては発射速度を高める等の銃の性能を高める役割も果たすが、銃口から発射ガスが逆流することとなり、排莢口や機関部の隙間から燃焼ガスが大量に噴き出す事となり、装薬の種類によっては燃焼で生じた刺激性のガスが大量に射手の顔へと吹き付けることとなる。
また、ガス圧を利用する作動機構を持つ銃では動作不良を招いてしまう事もある。
例えばガス直噴式のM4カービンの場合、想定より高い圧のガスがガスチューブを通して機関部内へと吹き付けることによる動作不良、ガスに押されてチャージングハンドルが(射手の顔面に向かい)飛び出す等のトラブルが生じる。
極端な例として示したがM4=AR15系の作動機構を始めとした諸々の設計が「お上品過ぎる」せいでもある
ちなみに、ガスブロック(銃身の穴からガス圧を導くための部品)をレギュレーター(調整弁)有の物に交換して過剰にガスが流入することを防いだり、溝や穴を掘ることでガスの逃げる先を作っているチャージングハンドルやボルトフォアードアシストといった対策部品もちゃんと存在している。
殆どの自動拳銃や一部のサブマシンガンでは銃身が稼動するショートリコイル方式を採用しており、この機構では銃身に重石を付ける事になるので動作不良を引き起こしやすくなる(発射ガスや反動が通常より少ない減装弾を使えばさらに動作不良を引き起こしやすくなる)銃もある。
銃身とは別にマズルカバーを設置してそちらにサイレンサーを固定する構造にしたり、動作を補佐するブースターとして働くよう専用設計されたサイレンサーもあり、それであれば問題は起き辛い。
名称
最近は国内や例の銃大国、ヨーロッパ等の各地で「サプレッサー」という名称が普及してきている。
サイレンサーはその名の通り無音を目指して開発されたものの、諸々の原因により先端装置に留まった構造では完全に音を消してしまうには至らず、制音器(サウンド・サプレッサー)でしかないからである。
最近では(銃大国は訴訟大国でもあるため「看板に偽りあり」と訴訟されるのを嫌ってなのか)メーカーも積極的に「サウンド・サプレッサー」という名称を使う傾向にある。(車両用のサイレンサーと混同を避けるため、という説もあるがこちらは怪しい説である)
もっとも、銃火器関係の会社なのだから省略してもどのような機能であるか通じるという前提なのか「(銃の機種名)・サプレッサー」という名称が使用されている場合もある。
断っておくが「正しくはサプレッサー」と言うのも間違いである。(発射炎を抑える「フラッシュ・サプレッサー(フラッシュ・ハイダー)」と言うのもある。
また「サイレンサー」の多くは結果的に発射音と発射炎の両方を抑えるため「フラッシュ・アンド・サウンド・サプレッサー」と呼ぶこともある)
「supresser」とは本来「supress(抑圧・鎮圧)」する「er(名詞形:モノ)」と言う意味でありついでに言うと医学・生物学用語である。
つまり単に「サプレッサー」と言っても「抑える?何を?」というわけである。
効果の程度に則して正確に称したいのであれば「サウンド・サプレッサー」などのように略さずに呼ぶべきである。
「サプレッサー」がまかり通るなら、「静かにする」という機能を端的に示す「サイレンサー(無音化器)」も間違いではないと言える。
なお、アメリカの米国連邦銃器法の条文など公的な文書では「サイレンサー」の表記がされている。
このような場合「銃声の消音を目的としたもの」であり実際どの程度効果があるのかは関係ないからである。また意味は大して変わらないのに今更変える必要などないからでもある。
他の英語圏の国も似たりよったりである。
ちなみに日本の「消音器」は「音を消す装置(=発生する音の全てとは限らない)」なのであえて「制音器」に言い直す必要は無い。ただ「サイレンサー」と「サウンド・サプレッサー」をそれぞれ直訳しているだけである。同様に非英語圏の国も当てられた言葉によってまちまちである。
(さらに言うと日本ではどれも俗語、「銃の静粛性を高める装置」とでも呼ぶべきか)