開発経緯
1980年代、当時のソ連は冷戦の真っ最中でアフガニスタンやチェチェンなど多数の戦場を抱えており特殊部隊の隠密潜入作戦やゲリラ作戦用消音銃の開発は急務であった。
当初はAKMやAK-74、AKS-74Uにサウンドサプレッサーを取り付けて使用したが、初速が音速を超えることで衝撃波を発生させる小口径高初速の5.45x39mm弾ではサウンドサプレッサーの効果は薄く、無理に装薬量を減らせば射撃精度が著しく不安定になってしまうことが判明。
そこでソ連軍は銃そのものを消音化するだけでなく、専用の弾薬も含めた狙撃システムの開発に着手した。
ソ連は当時の西側諸国のように既存のライフルの精度を高めつつ消音加工を施すことに限界を感じてまったく異なるアプローチを開始したのである。
開発にはヴォログダ州キリロフ地区の特殊研究所デジニトクマッシ(中央科学精密機械建造研究所)のペテロ・セルジェコフとバルディミール・クラスコフが設計を担当し、AS-VALとほぼ同時期の1987年に完成、テューラ工場が製造している。
使用弾薬
VSSの最大の特徴は使用する弾薬にある。
VSSで使用される9×39mm弾は、ライフル弾でありながら銃口初速が音速を超えず、衝撃波が発生しないためソニックブームによる断続的な音波が生じない。
この弾薬と消音器を組み合わせることによって驚異的な消音効果が発揮され、排莢口の真横に立っていない限りはボルトが動作して弾薬を排莢する際の金属音しか聞こえなくなる。
これまでは、最初から初速が音速を超えない.45ACPや.22LRといった拳銃弾か、音速を超える弾薬から装薬量を減らすなどして亜音速に変えたものを使うしかなかった。
そこでソ連は、一定の威力を維持した亜音速弾を作るため、大口径の弾丸を従来型のライフルカートリッジで撃ち出すという方法を考え付いた。
9x39mm弾は、5.45x39mm弾をベースとしてボトルネックではない(実際にはボトルネックはほんの僅かに残されている)ケースに、全長はそのままに口径が9mmまで大型化、重量は二倍に増した弾頭を装着している。
装薬量(とそこから生じる発砲時の運動エネルギー)はライフル弾に匹敵するが弾頭重量が大幅に増加しており、銃口初速が音速を超えないように調節されている。
カタログ上の有効射程は400mとなっているものの、通常のライフル弾を使った狙撃以上にその弾道は遠方に行くほど落ち込む(弾道低落量の大きい)軌道を描くことになる。
同時にその運動エネルギーが一定値まで維持出来る間に限り、風などの影響を受けにくくなっている。
また、弾頭が重い上に口径も大きいため、標的に命中すれば通常のライフル弾以上のダメージを与えられる。
こうして、「初速は遅いが射程内なら一定以上の威力を維持出来る亜音速弾薬」が完成した。
ただ、VSSは動作音がうるさく、この弾薬を活かしきれていなかった。
専用弾となった為に少数生産で高コストとなっている9x39mm弾の製造数増加によるコスト減少の為にデジニトクマッシ設計局により9A-91アサルトカービンが、KBPトゥーラ器械製造設計局によりA-91ブルバップアサルトライフルが開発されている。
9A-91をベースに廉価版VSSといえる消音狙撃銃VSK-94も開発されている。
類似弾薬
9x39mm弾と同様の設計の銃弾は後にアメリカでも開発されており、サウンドサプレッサーメーカーとしても有名なAdvanced Armament Corporationとレミントン・ディフェンスにより.300 AAC Blackout(7.62mmx35)弾が開発されている。
ネックアップした5.56mmNATO弾のケースに7.62mmNATO弾の弾頭を収めたような構造となっており、
弾頭重量を200グレインまで増やしたサブソニック弾であれば、サウンドサプレッサーと組み合わせることでVSS同様に高い消音効果を持つ銃となる。
弾頭部まで含めた全長が5.56mmNATO弾と同寸法である為、銃身やボルトといった最低限の部品の交換のみでマガジンを含めた既存の銃を対応させる事が可能となる。
また、銃弾部は既存の7.62mmNATO弾と同様のため、完全新規設計の銃弾と比べて信頼性が高くなっている。
性能
全長 | 894mm |
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銃身長 | 200mm |
本体重量 | 2,600g |
使用弾薬 | 9×39mm |
装弾数 | 10/20発 |
発射形式 | セミオート/フルオート |
撃発装置 | ストライカー式 |
AKなどと違いセーフティとセレクターは別になっており、トリガー後部にセレクターが備え付けられている。
隠密潜入作戦時の使用の際には分解することでアタッシュケースに収める事もできる。