カタログスペック
頭頂高 | 14.8m |
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本体重量 | 8.9t |
全備重量 | 21.2t |
ジェネレーター出力 | 5,120kw |
装甲材質 | チタン合金ネオセラミック複合材 |
スラスター総推力 | 39,040kg |
概要
型式番号ZM-S08G。
ベスパが地球侵攻を開始するにあたってゾロアットを基に開発し、初めて量産に成功したモビルスーツ。
スペースノイドのみで構成された帝国が設計したため、各部に実験的な試みが見受けられる。
最大の特徴は、量産・信頼性の高いビームローター(後述)を搭載したことにあり、これによってMS単独・無補給による行動半径を大幅に拡大することに成功している。
これは、地上拠点の確保が困難な帝国にとっては極めて重要な意味を持っており、地上侵攻に踏み切ったのは当機の量産化に成功した事が最大の理由であると言われるほどである。
しかしながら、初の量産機であるがゆえにMS形態の性能は特別な長所を持たない(とは言え、宇宙世紀150年代に地球連邦軍が主戦力として稼働させていたジェムズガンを大きく上回る)。
加えて、本来は重力下での行動半径を更に拡大するために採用した変形機構では、上半身と下半身の分離方式を採用してしまったため、特にビームローターおよびコクピットを有さない下半身(ボトム・リム)は従来通りスラスター推力で飛行せねばならない必然からむしろ運用可能距離が狭まってしまい、簡易的な無線制御システムであるミノフスキー・コントロールの精度の問題により、被撃墜率も低くはないものとなってしまった。このため、戦領域が広域に及ぶ際や対地掃討の任務には上半身を変形させたヘリコプター型のトップ・ターミナルのみで運用される事も少なくなかった。
よって、地上運用データ収集も目的とした実戦部隊イエロージャケットが収集した各種データを基に、物語開始時点(宇宙世紀0153年4月5日)ではサイド2のザンスカール帝国の生産ラインは既に次期主力生産機トムリアットに切り替わっていた(つまり、劇中では『在庫のみ』となった機体が運用されていた。)
以上のように多くの問題点を抱えていた本機ではあるが、現場からの要請に応えて開発した多種のオプション武装の運用テストや、推進剤等の積載スペースを確保するためのパーツ小型化などの点で、その後の帝国製MSの開発に貴重な数多くのノウハウを提供した。
また、分離・変形機構を採用している機体としては構造が単純であったため、戦地スタッフによる改善・改修も容易であり、ラゲーンのマチス・ワーカー大尉の使用した改型など、数多くのバリエーションが存在している。
ビームローター
ザンスカール帝国の技術陣(旧サイド2駐留サナリィ)がビームシールドを発展させる形で開発した、重力下における最新空中航行システム。
ミノフスキークラフトと比較して到達可能高度は更に低空となっているが、ビームシールドを運用するだけのジェネレーター出力さえあれば稼働させられる――すなわち当該世代のあらゆる機体に装備できるほど簡素かつ小型であり、さらはに非常に低速ではあるがプロペラントを消費せずに推進力を得ることが可能という画期的な特徴を有している。
帝国の技術陣がビームシールドの改良・発展を研究する中で、シールドを展開したまま基部を回転させると、ビーム周辺にIフィールドよりも更に立方格子形成指向の強い、斥力を持った力場を形成できることが判明した。ミノフスキー粒子は静止状態では質量がゼロに近いながらも物質を透過しない特性を有している事から、当然ながらこの立方格子型力場も陸地とMSというそれぞれの物質を透過することなく、結果として斥力場で機体が空中を浮遊する事になる。
ここまでは、かつてより存在していたミノフスキー・クラフトとほぼ同原理であるが(それでも、モジュールサイズ、力場の強度で大きく勝る)、技術陣は更にこの力場の発生方向を一方向に偏向すると、力場の密度が若干ながらも変化するのを発見した。これを利用して、ビームローターは機体前方斜め方向に基部を傾ける事によって、前後方向のミノフスキー粒子力場に密度差を作り、小さいながらも推進効果を得ているのである。(例えるなら、陸地から組み上げた見えない滑り台を前方に滑り落ちつつ、同時に後方から持ち上げる事で、高度を変化させずに永遠と不可視の滑り台を滑り続けている状態である。)
ミノフスキー・イヨネスコ型熱核融合路は従来より、反応元素であるヘリウム3によって半永久的に稼働し、加えて宇宙世紀0120年代以降のMSは小型化(省エネルギー化)・高出力化によって自機でのミノフスキー粒子の縮退が可能となっている事から、ビームローター装備機は機構上、大気圏内において無限に空中航行を継続できるのである。
重ねて更に、大気圏内でビームローターを使用して空中移動を行うと、ある程度の整流効果がある事もわかった。つまり、MS形態という空力特性の圧倒的に不利な形状であっても、空気抵抗を減免する事で上述で得た推進力をほぼそのまま利用できるのである。
以上の原理により、戦地移動を主とするトップ・ターミナル形態時はプロペラントを消費しない低速航行で運用し、戦闘機動が必要となるMS形態時はローター傾斜角を任意方向かつ急角度としつつ、熱核スラスターと併用する事で機敏な空中戦を実現させ、中央ヨーロッパ地区を防衛していた旧来のスラスターによる飛行しかできないジェムズガンを、瞬く間に駆逐していったのである。
トップ・ターミナル
前述の通り、コクピットとジェネレーター、およびビームローターを有する本機のメインメカニック部である。
ビームローターを採用した事もあり、その形状は旧世紀のヘリコプターに極めて酷似しており、コクピットは強化透明素材製のキャノピーが採用されている。このキャノピーは、MS形態時に座席を90度回転させて簡易的な全天周モニターとするため、天井部に至るまで非常に広い透明部を有しているが、この構造がイエロージャケットに選抜され地球降下を許されたパイロットたちに、地球の雄大な自然を観測させる事を許し、士気高揚の一翼を担った。
……というのは、ザンスカール帝国側の建前であり、事実は地球市街地の空爆や、ヘリの機首に装備された機銃による掃討によって、これまで特権階級にしがみついてきたアースノイド達を“駆る(ハンティング)”する様を『生の視覚』で捉えさせた事こそが、パイロットたちを熱狂させたのであった。
かつてのアースノイドがスペースノイドを「宇宙人ども」と蔑んだのと同様、150年と言う月日をスペースコロニーの中だけで世代交代させられてきた宇宙戦国時代のスペースノイドにとっては、アースノイドは既に『別種』であり、“駆り”の光景は凄惨極まるものとなった。
そしてこのような行為が、ギロチンが用いられる事のほとんどなかった地球においても、抵抗運動が急速に広がる原動力となるという、どこまでも虚しいな負の連鎖となっていった。