ゾロ(MS)
ぞろ
型式番号ZM-S08G。
アニメ『機動戦士Vガンダム』に序盤から登場する敵量産機。物語が地球から始まるため、運用を想定した環境の違いからベース機のゾロアットに先んじて第1話から登場している。
ベスパが地球侵攻を開始するにあたって宇宙用MSであったゾロアットを基に開発し、初めて量産に成功した地上戦用モビルスーツ。スペースノイドのみで構成された帝国が設計したため、各部に実験的な試みが見受けられる。最大の特徴は、量産・信頼性の高いビームローター(後述)を搭載したことにあり、これによってMS単独・無補給による行動半径を大幅に拡大することに成功している。これは、地上拠点の確保が困難な帝国にとっては極めて重要な意味を持っており、地上侵攻に踏み切ったのは当機の量産化に成功した事が最大の理由であると言われるほどである。
しかしながら、初期の量産機であるがゆえにMS形態の性能は特別な長所を持たない(とは言え、宇宙世紀150年代に地球連邦軍が主戦力として稼働させていたジェムズガンを大きく上回る)。加えて、本来は重力下での行動半径を更に拡大するために採用した変形機構では、上半身と下半身の分離方式を採用してしまったため、特にビームローターおよびコクピットを有さない下半身(ボトム・ターミナル)はスラスターに頼って航行せねばならない必然からむしろ運用可能距離が狭まってしまい、簡易的な無線制御システムであるミノフスキー・コントロールの精度の問題により、被撃墜率も低くはないものとなってしまった。このため、戦闘領域が広域に及ぶ際や対地掃討の任務には上半身を変形させたトップ・ヘリのみで運用される事も少なくなかった。
よって、地上運用データ収集も目的とした実戦部隊イエロージャケットの運用から得られた各種データを基に、物語開始時点の宇宙世紀0153年4月5日ではサイド2の本国の生産ラインは既に次期主力量産機トムリアットに切り替わっていた(つまり、劇中では「在庫のみ」となった機体が運用されていた事になる)。
以上のように多くの問題点を抱えていた本機ではあるが、現場からの要請に応えて開発した多種のオプション武装の運用テストや、推進剤等の積載スペースを確保するためのパーツ小型化などの点で、その後の帝国製MSの開発に貴重な数多くのノウハウを提供した。また、分離・変形機構を採用している機体としては構造が単純であったため、戦地スタッフによる改善・改修も容易であり、ラゲーンのマチス・ワーカー大尉の使用した改型など、数多くのバリエーションが存在している。
トップ・ヘリ
前述の通り上半身を形成し、コクピットとジェネレーター、およびビームローターを有する本機のメインメカニック部である。ビームローターを採用した事もあり、その形状は旧世紀のヘリコプターに酷似しており、コクピットは強化透明素材製のキャノピーが採用されている。このキャノピーは、MS形態時に座席を90度回転させて簡易的な全天周モニターとするため、天井部に至るまで非常に広い透明部を有している(ヘリの天蓋部がMS形態における背面モニターとなり、被撃墜時には機首全体が脱出ポットにもなる)。この構造がイエロージャケットに選抜され地球降下を許されたパイロットたちに、地球の雄大な自然を観測させる事を許し、士気高揚の一翼を担った。
……というのは、ザンスカール帝国側の建前であり、事実は地球市街地の空爆や、ヘリの機首に装備されたガトリング砲による掃討によって、これまで特権階級にしがみついてきたアースノイド達を“狩る(ハンティング)”する様を『生の視覚』で捉えさせた事こそが、パイロットたちを熱狂させたのである。
かつてのアースノイドがスペースノイドを「宇宙人ども」と蔑んだのと同様、150年という月日をスペースコロニーの中だけで世代交代させられてきた宇宙戦国時代のスペースノイドにとっては、アースノイドは既に「別種」であり、“狩り”の光景は多くの場合において、凄惨極まるものが形成された。そしてこのような行為が、ギロチンが用いられる事のほとんどなかった地球においても、抵抗運動が急速に広がる原動力となるという、どこまでも虚しい負の連鎖となったのだった。
なお、操縦系統はヘリ形態のものをデフォルトとして設定したためか、MS形態でもレバー操作は脚の間に配されたスティック1本で行う珍しいタイプを採用している。(基本的にMSのレバーは両側の肘掛け先端に配されている)
ボトム・ターミナル
トップ・ヘリから簡易無線コントロールによって運用される、下半身部の巡行形態。
リガ・ミリティアの運用するVタイプ同様に、ミノフスキー・フライトによって浮遊し、スラスターから推進力を得る事で飛行する(ミノフスキー・フライトの技術が帝国側でも使用されているのは、双方の勢力にサナリィが関わっているためである)。しかしながら、帝国のミノフスキー・フライトは技術的完成度が低い事もあり、既述の通り長距離侵攻などの任務では、むしろ「邪魔」となってしまうほどであった。加えて、合体の際には数秒間の致命的な隙を晒してしまうため、イエロージャケットは小隊で行動し、変形・合体時にはフォーメーションを組んで僚機の隙をガードしながら順次MS形態へ移行する事で、この弱点をなんとかカバーしていた。これらの理由により、後継機であるトムリアットでは分離機構が廃されている。
ミノフスキー・コントロールの精度も良好ではないが、トップ・ヘリ1機から複数機のボトム・ターミナルの操作を可能とするため、ラゲーンに駐留していたマチス・ワーカー大尉は、基地に残されていた全ての残存パーツを質量弾兼撹乱幕としてV2ガンダムに特攻をかけた。
ビームライフル
宇宙世紀0120年代以降は一般的となった、ジェネレーター直結・Eパック併用型のビームライフル。既述の通り、ビームを自機のジェネレーターで縮退・生成できるため、Eパックはフェイルセーフのためにセットされている。ゾロのジェネレーター出力はVタイプ(4,970kW)よりも高いが、発振・収束率に劣るのか、ビームのゲインはリガ・ミリティアの標準装備よりも低い。
変形時においても、トップ・ヘリの左前腕ハードポイント(MS形態ではビームローター基部が接続される個所)にセットされ、武装として使用できる。
ビームサーベル
一般的なビームサーベル。宇宙世紀0150年代のサーベルは収束率が非常に高いため、全勢力ともあたかも“糸”のような細さとなっている。トップ・ターミナル形態時は、ウィング下部に配置されたビームガンとして運用される。
ビームバズーカ
大口径のビーム砲。肩に担いで保持、射撃する。威力、射程、取り回しの全てのバランスが良く、トムリアットの主兵装として採用された。ロングバレルだが、非使用時は中央部から折り畳んで懸架する。
ビームローター
航行システムであると同時に、ビームシールドとしての役割も果たす。MS形態では左前腕に装着され、巡行時はこれを頭上に掲げる事で『力場に乗る』が、敵機からの攻撃を防御する際にはシールドのように機体前面に向ける。この間の飛行用浮力は、オートで熱核スラスターに切り替わる(カタログスペックの通り、パワー・ウェイト・レシオは2倍を超えているため、スラスターのみでも問題なく自由飛行が可能)。
クロノクル・アシャー専用機
ザンスカール帝国女王マリア・ピア・アーモニアの実弟である、クロノクル・アシャー中尉のために用意された専用機(配属先のラゲーン基地司令ファラ・グリフォン中佐が、「姉上様によろしく願います」という意味合いを込めて用意させたと思われる)。スポンサーの申し分程度にカラーリングが赤系統に変更されているが、性能的には一般機との差異は無い。
1話冒頭から登場しているが、時系列的には4話からの登場。ウッソがニュータイプ能力により死者の怨念を感じ取って動揺している隙にシャッコーを撃墜し取り戻すも、次の出撃でVガンダムに頭部を蹴り吹っ飛ばされてしまったため撤退。修復不可能だったためか以後の登場はなく、9話で通常色に乗り換えている。
MS in POCKETシリーズにてラインナップ。仕様はノーマルタイプで、劇中で使用した武装が同梱するが変形ギミックはオミットされている。※現在、入手困難
食玩「Vガンダムモデル」にてラインナップ。仕様はクロノクル専用機で、こちらは「トップターミナル」(トップ・ヘリの当時の呼称)と「ボトムターミナル」で各々購入することで完成するタイプとなっている。一部差し替えでMS形態⇔ヘリコプター形態への変形が可能。 装備は、ビームライフルが同梱する。※現在、入手困難
序盤の敵量産機にもかかわらずガンプラ化は一切されていないが、これはクロノクルが異常なペースで搭乗機を乗り換えていった(特に物語前半)ため出すタイミングを見失ってしまったからである。上述の通り物語開始時点では生産ラインがトムリアットに切り替わるタイミングだったため、マチス機などの特例を除きトムリアット登場以降は劇中にすら投入されなかったのも大きい。
主役機デザインコンペ
本機は、大河原邦男氏が『機動戦士Vガンダム』の主役機デザインコンペに提出したデザインが原型になっている。このため、コンペ課題であった「変形・合体する事」の名残をとどめている。なお、カトキハジメ氏の「徹底的に機能性を追求したコア・ファイター」という案に対して、大河原氏は「今までになかった、ヘリコプター型の変形にすれば、オモチャとして面白くなりそう」というアプローチであった。
ザンスカール帝国から「可変機」と認められなかった機体
ベスパ機の型式番号の法則に沿うと、可変機構を持つゾロ系統は本来アビゴル同様Dに振り分けられるはずだが、モビルスーツのSが付けられている。
これはヘリコプター形態時の推進となるビームローター自体はスピードが遅く、長距離移動には向いていても対MS戦の攻撃には向いておらずお世辞にも戦闘機と呼べるほどの戦闘力は持っていなかったためである。実際、ゾロやトムリアットよりも格段に性能向上したドムットリアですら高速移動のためにツインラッドで出撃している。
ザンスカールにおける「可変機」の定義とはモビルスーツ時もモビルアーマー時も高い機動性と攻撃性を持った機体を指すのである。
ミノフスキー・エフェクトによる飛行
第39話において、V2の「光の翼」の両翼間を通り抜けた多数のトップ・ターミナル、ボトム・リムが突如墜落し、その光景を見たマチス大尉は、「メガ粒子が通っているのか!?」と驚愕したが、全く異なる理由によるものである。
V2ガンダムの「光の翼」の項に詳細が記載されているが、ミノフスキー・ドライブは原理上、周囲のIフィールド(立方格子状の力場)を爆発的に乱すため、ビームローター、ミノフスキー・フライトで飛行/浮遊していた各機は『突如足場を叩き壊された』に等しく、このため墜落したのである。